糖尿病内科

糖尿病教室⑥ 糖尿病治療のまとめ(食事・運動・薬物療法/インスリン・GLP-1)|しもやま内科

14/05/2019

🔊 このページの要点(糖尿病教室⑥)

糖尿病治療は「食事・運動」が土台で、必要に応じて内服薬や注射(インスリン・GLP-1など)を組み合わせます。
目標はHbA1cだけでなく、低血糖や血糖変動、腎機能・心血管リスクも含めて安全に決めます。
続けやすい方法を一緒に探して、合併症を防ぐことが大切です。

糖尿病治療の実際についてまとめます。

「糖尿病治療は何をすればいい?」「食事療法運動療法だけで足りる?」「はいつから必要?」「HbA1cや血糖値の目標は?」――治療の全体像が分かると、不安が減り、続けやすくなります。
このページでは、糖尿病治療の基本である食事・運動を土台に、必要に応じて内服薬注射(インスリン・GLP-1など)を組み合わせて、低血糖を避けながら安全に管理する考え方をまとめます。

糖尿病治療(食事・運動・薬物療法)を医師が解説するイメージ
糖尿病治療は「食事・運動」を土台に、必要に応じて薬を組み合わせて安全に続けることが大切です。

食事・運動両方が主、薬物療法は従です。

2型糖尿病では、食事療法や運動療法が基本となり、食事療法や運動療法を行っても、血糖コントロールがうまくいかないときに、薬物療法を追加して治療するというのが基本です。食事摂取量が多いまま(特にインスリン分泌を促す)薬剤を使うと、過剰な栄養が体に取り込まれて太ってしまいます。そうなると、インスリン抵抗性が増大してまた血糖が上昇して、また薬が増えて・・・という悪循環に嵌ってしまいます。なんとしても避けたいところです。
食事療法について詳しくは食事療法について。をご覧ください。

📝 食事療法の第一歩:間食を「見える化」

  • まずは「間食が週に何回・何を・どれくらい」を把握します
  • 飲み物(甘い飲料・カフェラテ・ジュース)も間食に含めて考えます
  • どうしても食べたくなる時間帯があれば、対策(先にたんぱく質・食物繊維、量の固定など)を立てます

食事療法の基本:1日3食(欠食しない)+清涼飲料水は飲まない

✅ 1日3食を「できるだけ同じリズム」で

  • 1日1〜2食(欠食)は、次の食事で血糖が上がりやすくなったり、食べ過ぎのきっかけになりやすいです。
  • 特に朝食を抜く習慣は、2型糖尿病リスク上昇と関連することが報告されています(観察研究のメタ解析)。
  • 薬(特にインスリンやSU剤)を使っている方は、欠食が低血糖の原因になることもあるため、食事リズムの安定が安全面でも重要です。

✅ 清涼飲料水(砂糖入り飲料)は「飲まない」が基本

  • 砂糖入りの清涼飲料水は、短時間で多量の糖を摂りやすく、食後高血糖や体重増加につながりやすいです。
  • 砂糖入り飲料の習慣的摂取は、2型糖尿病の発症リスク上昇と関連することが、複数の研究で示されています。
  • 日常の水分は、水/お茶/無糖コーヒーを基本にするのがおすすめです。

食べる順番のコツ
食後高血糖を抑えやすく、満腹感も得やすくなります

おすすめの順番 野菜 → 海藻/きのこ → 汁物 → 肉/魚/卵/大豆製品 → ご飯(主食)
ポイント 「会席の流れ」に近い順序は理にかなっています。最初に食物繊維やたんぱく質を入れるのがコツです。

運動療法(安全に続けるコツ)

運動は、血糖を下げるだけでなく、インスリン抵抗性の改善、体重管理、血圧や脂質などのリスク低下にも役立ちます。大切なのは「無理なく続けられる形」にすることです。

運動の基本(目安)
「有酸素+筋トレ」を組み合わせると効果が出やすいです

有酸素運動 歩行・自転車など。まずは1回10分×1日2〜3回からでもOK。可能なら週150分を目安に。
筋トレ 週2〜3回。椅子スクワット、かかと上げ、軽い腕立て(壁)など、全身を少しずつ。
続けるコツ 「食後10〜15分歩く」「通勤で1駅歩く」「歯磨きしながらかかと上げ」など、生活に埋め込みます。

⚠️ 安全面のポイント

  • インスリンやSU剤を使っている方は、運動で低血糖が起こることがあります(自己測定/CGMを参考に調整)。
  • 足のしびれ・足病変がある場合は、靴ずれ・傷に注意し、運動後に足をチェックします。
  • 胸の痛み、強い息切れ、めまいがあれば中止して相談してください。

糖尿病の薬物療法

糖尿病の薬物療法は大きく2つに分けることができます。

内服薬(飲み薬)と注射剤(インスリン、GLP-1受容体作動薬)です。このうち、内服薬は インスリンの分泌を促すもの、インスリンの効果を高めるもの、ブドウ糖の吸収を抑えたり排泄を促進させるものの3種類に分類できます。

糖尿病の経口薬は、患者さんひとりひとりの病態に合わせて選んでいきます。以下に、経口糖尿病薬の分類を示します。

2025年時点:主な経口糖尿病薬の種類(一覧)

※薬の選択は、体重・腎機能(eGFR)・低血糖リスク・合併症(DKD/心不全など)で変わります。
分類 作用の特徴(要点) 代表薬(例) 注意点(例)
ビグアナイド 肝での糖新生を抑え、インスリン抵抗性を改善 メトホルミン 腎機能・脱水・体調不良時は注意(医師の指示で調整)
DPP-4阻害薬 食後高血糖を抑えやすく、低血糖や体重増加が少なめ シタグリプチン、リナグリプチン など 併用薬(SU/インスリン等)で低血糖に注意
SGLT2阻害薬 尿へ糖を排泄し血糖を下げる。体重・血圧にも好影響が出ることがある エンパグリフロジン、ダパグリフロジン など 脱水・尿路/性器感染、体調不良時の一時中断(シックデイ)に注意
イメグリミン インスリン分泌と抵抗性の両面に働くとされる(新しめの選択肢) ツイミーグ 1日2回内服。胃腸症状などは個人差
SU剤 インスリン分泌を強く促進 グリメピリド など 低血糖・体重増加に注意(特に高齢者)
グリニド 食直前に短時間だけ分泌を促進(食後高血糖に) ナテグリニド、ミチグリニド など 食事を抜くと低血糖に注意
α-グルコシダーゼ阻害薬 糖の吸収を遅らせ、食後高血糖を抑える アカルボース、ボグリボース など 腹部症状(お腹の張り等)が出ることがある
チアゾリジン インスリン抵抗性を改善 ピオグリタゾン 浮腫・体重増加など(心不全がある場合は要注意)
経口GLP-1受容体作動薬 食後高血糖・体重に好影響が出ることがある(内服タイプ) セマグルチド(リベルサス) 吐き気など消化器症状。服用方法のルールがある
配合錠 1錠に2成分。飲み忘れを減らせる場合がある DPP-4+メトホルミン、DPP-4+SGLT2 など 各成分の注意点をそのまま引き継ぐ

※ここでは「分類と考え方」を示しています。実際の薬の選択は、腎機能(eGFR)・低血糖リスク・合併症(DKD/心不全など)を踏まえて個別に調整します。

インスリンによる治療

通常のインスリン治療(ペン型のインスリンを使用して、1日1回から4回まで、お腹に打つ方法)が一般的です。詳しくは、インスリン療法のページをご覧下さい。

1型糖尿病でより安定した血糖コントロールをお求めの患者さん、妊娠希望・妊娠中の患者さん、小児の患者さんにはインスリンポンプ療法(CSII)もお勧めです。詳しくは、インスリンポンプ療法のページをご覧下さい。

GLP-1受容体作動薬による治療

体重を落として血糖コントロールを改善します。毎日注射するタイプと週一回注射するタイプがあります。体重が多い、間食してしまうといった患者さんに向いています。詳しくは、GLP-1受容体作動薬のページをご覧下さい。

インスリン治療を怖がらないで下さい。

✅ よくある誤解

  • 「インスリン=最後の手段」ではありません
  • 「一度始めたらやめられない」と決まっているわけではありません
  • 適切な使い方で、体(特に膵臓)を休ませる目的になることがあります

インスリン療法は、高血糖で弱った体を休めるためには最良の治療法です。

インスリンを使うことで疲弊した膵臓を休ませることができます。膵臓は2型糖尿病歴が長いほど疲弊しています(=死んでしまっていて、インスリンが分泌されなくなってきています)。

逆説的に聞こえるかもしれませんが、早期の糖尿病の患者さんほど早期にインスリンを使用するのが理想的です。なぜなら、膵臓が死んでしまう前に一度休息を取らせることで膵臓が復活することが少なくないからです。インスリンを早期に離脱できるだけでなく、飲み薬さえも不要になることも珍しくありません。

10年、20年と2型糖尿病の罹病期間が長くなるほど、膵臓は疲弊していきます。最初は飲み薬が効いたけど、だんだん増えていって、今では何種類も飲み薬を飲んでいるけれども血糖コントロールできなくなってしまった・・・そんな経過になっていきます。残念ですが、そのような場合は膵臓からインスリンが分泌されなくなってしまった可能性があります。そのような場合は、インスリンを補充していく治療が不可欠になっていきます。

糖尿病治療は「初めが肝心」と言われますが、本当にそうです。
まずは、日常生活(食事・運動・睡眠・体重)を、できる範囲から見つめ直すことから始めてみませんか。

まとめ

糖尿病教室を最後までご覧下さり、ありがとうございました。

糖尿病は自覚症状がなく気付きにくい病気ですが、音も無く忍び寄り、さまざまな合併症を引き起こします。合併症を起こさないために、できることから始めてみませんか。

❓ よくある質問(糖尿病教室⑥)

Q. 運動は毎日しないと意味がありませんか?

毎日でなくても大丈夫です。まずは「続けられる頻度」から始めることが大切です。食後に10〜15分歩く、週2〜3回の筋トレを足すなど、少しずつ積み上げるのが効果的です。

Q. インスリンやSU剤を使っているとき、運動しても良いですか?

運動は有効ですが、低血糖のリスクがあるため注意が必要です。自己測定(またはCGM)を参考に、運動のタイミングや補食、薬の調整を医師と相談してください。

Q. 薬は「一度始めたら一生」でしょうか?

状況によります。体重や生活習慣が改善し、血糖が安定すれば減薬できる場合もあります。一方で、罹病期間が長い場合などは治療の継続が必要になることもあります。安全に調整していきます。

Q. 体調が悪いとき(発熱・食欲低下)はどうすれば?

脱水や低血糖・高血糖が起こりやすくなります。薬の一時中断が必要な場合もあるため、シックデイ時の対応を確認し、早めに相談してください。

Q. 一番大事なことを1つだけ挙げるなら?

「続けられる形で、食事と運動を土台にする」ことです。そこに必要な薬を組み合わせ、低血糖を避けながら安全に管理するのが基本です。

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