膵内分泌腫瘍(pNETs)・インスリノーマ・グルカゴノーマ|しもやま内科 船橋市

「先生、健康診断の腹部エコーで膵に何かあると言われて……」——先日、60代の男性患者さんが、青ざめた顔で相談されました。MRIで詳しく調べると、膵の尾部に1cm弱の腫瘍があるそうです。実は、膵の腫瘍はすべて「膵がん」ではなく、「膵内分泌腫瘍(pNETs)」という比較的良性のものもあり、適切な評価で性質を判別できます。

まずはセルフチェック:こんな症状はありませんか?

以下の症状が1つでも当てはまる場合、膵内分泌腫瘍(インスリノーマ・グルカゴノーマなど)の可能性があります。

  • 低血糖発作(空腹時や夜間に起こる冷汗・動悸・意識障害)
  • 特徴的な皮膚症状(壊死性遊走性紅斑:NME、赤い斑が移動する)
  • 原因不明の糖尿病(血糖値が急に上昇し、治療が難しい)
  • 体重減少(食事量が変わらないのに体重が減る)
  • 「膵に腫瘍がある」と言われた(健診のエコーで指摘された)

※1つでも当てはまる場合は、一度当院へご相談ください。

膵臓には、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを分泌する内分泌細胞(ランゲルハンス島)があり、これらが腫瘍化すると膵内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumors: pNETs、またはPNET)と呼ばれます。pNETsは膵臓腫瘍全体の1–2%を占める稀な腫瘍ですが、近年画像診断の進歩により発見頻度が増加しており、米国SEERデータでは1975年から2021年にかけて発生率が約7.75倍に上昇したと報告されています(主に偶発発見の増加によるものと考えられます)。機能性pNETsでは、過剰ホルモン分泌により特徴的な症候群が生じ、インスリノーマによる低血糖発作やグルカゴノーマによる壊死性遊走性紅斑(NME)などが代表的です。

膵内分泌腫瘍の主な種類

インスリノーマ

最も頻度の高い機能性pNETs(機能性pNETsの35–40%)で、インスリン過剰分泌により反復性の低血糖(Whippleの三徴:低血糖症状、低血糖値、ブドウ糖投与で症状改善)が起こります。神経低血糖症状(意識障害、けいれん、混乱など)が90%にみられ、自律神経症状(発汗、動悸など)が60–70%にみられます。診断のゴールドスタンダードは72時間絶食試験で、ほぼ98%が72時間以内に低血糖を発症します(Endocrine Societyガイドライン)。良性率が高く(90%以上)、悪性は10%程度です。

グルカゴノーマ

グルカゴン過剰により壊死性遊走性紅斑(NME: 67–90%)、糖尿病(38–87%)、体重減少(66–96%)などのグルカゴノーマ症候群を呈します。NMEは特徴的な皮膚症状で診断の手がかりとなり、血中グルカゴン値>1,000 pg/mLでほぼ確定します。悪性率が高く(約75%)、診断時には転移を伴うことが多いです。

複合内分泌腫瘍症候群(MEN)

複数の内分泌臓器に腫瘍が発生する遺伝的疾患で、MEN1ではpNETs(特に非機能性やインスリノーマ、ガストリノーマ)が80%以上の患者に生涯で発生します(MEN1の有病率1/20,000–40,000)。MEN2A/2Bでは主に甲状腺髄症状癌が中心ですが、MEN1でpNETsのリスクが顕著に高まります。

当院での診療内容

当院では、エビデンスに基づいた診断・評価を進めています。

  • 血液検査:血糖、インスリン、グルカゴン、Cペプチド、クロモグラニンA(CgA)など(CgAは多くのpNETsで上昇)
  • 画像検査の紹介:腹部エコー・CT・MRI、オクトレオタイドシンチグラフィー(ソマトスタチン受容体イメージング)
  • 72時間絶食試験:インスリノーマ疑いの低血糖原因評価(感度ほぼ100%)
  • 専門医療機関との連携:手術や分子標的薬(エベロリムス、スニチニブ)、ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)が必要な場合に迅速紹介

よくある質問

インスリノーマとはどんな病気ですか?
インスリノーマは、膵臓のβ細胞から発生する腫瘍で、インスリンを過剰に分泌し、血糖値を下げすぎてしまう病気です。空腹時や夜間に低血糖発作を繰り返すのが特徴で、72時間絶食試験で診断します。良性のものが90%以上ですが、腫瘍の摘出が必要です。
低血糖とインスリノーマの関係は?
インスリノーマは「低血糖の原因となる腫瘍」の代表です。健常人では血糖値が下がりすぎるとインスリン分泌が抑制されますが、インスリノーマでは腫瘍が勝手にインスリンを分泌し続けるため、低血糖が持続します。低血糖発作を繰り返す場合は、インスリノーマを疑います。
グルカゴノーマの皮膚症状(NME)とは?
NME(壊死性遊走性紅斑)は、グルカゴノーマに特徴的な皮膚症状です。赤い斑が体幹や四肢を移動しながら現れ、かゆみや痛みを伴うことがあります。NMEがみられた場合、血中グルカゴン値の測定をおすすめします。
健診で「膵に腫瘍がある」と言われました。すぐに手術が必要ですか?
腫瘍の性質(良性・悪性、機能性・非機能性)をまず評価する必要があります。血液検査(インスリン、グルカゴン、CgA)や画像検査(CT・MRI・シンチグラフィー)で性質を判別し、経過観察でよい場合もあります。

院長の論文

当院院長 下山立志は、甲状腺・副腎疾患を中心に臨床研究を行い、専門誌に多数の論文を発表しています。
特に複合内分泌腫瘍症候群(MEN)に関連する報告として、以下の論文があります。

家族性両側褐色細胞腫の1例 — 右側副腎全摘および左側腫瘍核出術を施行した —
2004年発表
著者 下山立志, 齋藤 淳, 伊藤 譲, 祖山暁子, 伊藤浩子, 西川哲, 角田幸雄, 永田真樹, 山口邦雄, 飯塚 孝
雑誌 日本内科学会雑誌 93(11): 2416-2418, 2004
論文
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最終更新日:2026-07-01

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

08/03/2026

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