妊活中の甲状腺自己抗体陽性(抗TPO/抗Tg)|TSH目標とLT4(レボチロキシン)適応の整理|しもやま内科

妊活中の「甲状腺自己抗体(抗TPO/抗Tg)陽性」は、まずTSH(甲状腺機能)を整えることが重要です。このページでは、TSH目標とレボチロキシン(LT4)導入の考え方、妊娠成立後のフォローを、産婦人科の先生方向けに実務的に整理します。

「抗体が陽性=治療必須」とは限りません。一方で、妊娠前後は甲状腺機能が変動しやすく、TSH管理が不十分だと流産・早産などの周産期リスクや、妊娠初期の甲状腺機能低下を見逃すリスクが高まります。ガイドラインの推奨と、RCTの結果を踏まえ、“誰にLT4を開始し、どの頻度で再評価するか”が迷わないようにまとめます。

このページの前提(用語)
  • 甲状腺自己抗体:抗TPO抗体/抗Tg抗体など(甲状腺自己免疫の指標)
  • 甲状腺機能:TSH、FT4(必要に応じFT3)で評価
  • LT4:レボチロキシン(チラーヂンS®など)
  • ART:体外受精等の生殖補助医療

① まず押さえる:抗体陽性で何が問題になるか

  • 抗TPO/抗Tg陽性は、将来的に甲状腺機能低下症へ移行しやすく、妊娠を契機にTSHが上がることがあります[1]。
  • 妊娠初期は胎児の甲状腺機能が未熟で、母体の甲状腺ホルモン供給が重要な時期です。したがって妊娠前〜妊娠初期のTSH管理が実務上の核心になります[1]。
  • 一方、抗体陽性の“全例LT4”で出生率が上がるとは言いにくいというRCT結果があり、適応の切り分けが必要です[2][3]。

(実際の外来診療では)「抗体が陽性と聞いて不安」という方が多い一方で、TSHが良好なら治療不要のことも少なくありません。“いま治療が要るのか、フォローでよいのか”をTSHで具体的に判断します。

② 妊活中のTSH目標:まず“狙う範囲”を共有

妊娠を計画している場合、ガイドラインは妊娠前からTSHを適正域に整えることを重視しています[1]。ただし、施設・検査系・患者背景で目標は調整されます。

実務の目安(例)
  • TSHが明らかに高い/FT4低下:原則LT4治療を検討(顕性低下症として対応)[1]。
  • TSHが境界〜軽度高値:抗体陽性、症状、既往、ART予定の有無などを踏まえて、LT4導入 or 短期再検を選択[1][4]。
  • TSHが良好:治療開始よりも、妊娠成立や治療フェーズに合わせた再評価計画を明確化[1]。

※「具体的な数値目標」は検査系・施設方針で幅が出ます。ページ内の“導入判断(次項)”は、ガイドラインの考え方に沿って運用してください。

③ LT4(レボチロキシン)導入の考え方:誰に始めるか

妊活中の抗体陽性に対するLT4は、「TSHが高い(=甲状腺機能低下の要素がある)」場合に中心的な適応になります[1]。抗体陽性のみでの routinely 投与は、RCTで利益が明確でない結果もあり、慎重に切り分けます[2][3]。

  • TSH高値を伴う抗体陽性:LT4導入を検討(妊娠成立前から安定化を狙う)[1]。
  • ART予定(特に胚移植が近い等):TSH・既往・抗体の状況から、短期に整える目的でLT4を検討する提案があります[4]。
  • TSHが良好な抗体陽性:まずは“治療よりフォロー設計”。妊娠成立後は必要に応じて早期再検で拾う[1]。

採血・フォローの頻度(実務)

  • 妊活中:方針変更(治療開始・増量・ART工程変更)時に4〜6週程度で再評価を目安[1]。
  • 妊娠成立後:妊娠初期は変動が大きく、早めの再検と用量調整を検討[1]。

④ 妊娠成立後:用量調整と産後フォロー

  • 妊娠成立後は甲状腺ホルモン需要が増え、LT4内服中の方は増量が必要になることがあるため、早期のTSH/FT4確認が推奨されます[1]。
  • 抗体陽性は産後に甲状腺機能が乱れやすいことがあり、産後甲状腺炎の鑑別も視野に入れたフォローが有用です[1]。

⑤ 内科紹介の目安(産婦人科→内分泌)

  • TSHが高い、またはFT4低下を伴う(顕性〜潜在性の機能低下が疑わしい)[1]
  • 抗体陽性で、TSHが境界〜軽度高値、かつ短期での最適化が必要(ART直前など)[4]
  • LT4開始後の用量調整が必要、もしくは妊娠成立後の早期フォローが必要[1]

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📚 参考文献(一次情報)

  1. American Thyroid Association (ATA). 2017 Guidelines for the Diagnosis and Management of Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum.
    PubMed
  2. TABLET Trial: Levothyroxine in euthyroid women with thyroid peroxidase antibodies (randomized trial).
    PubMed
  3. T4LIFE Trial: Levothyroxine in euthyroid women with thyroid antibodies and recurrent pregnancy loss (randomized trial).
    PubMed
  4. European Thyroid Association (ETA). Guideline on thyroid disorders prior to and during assisted reproduction.
    PMC

※ 本ページは医療機関向けの連携案内です。個々の症例では週数・既往・合併症・検査系(基準範囲)により判断が変わります。

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04/02/2026