🔊 このページの要点
- HbA1cは「平均値」の指標で、低血糖や血糖変動(乱高下)を十分に評価できません。
- 強化療法でHbA1cを下げても、重症低血糖が増え、死亡率が増加した試験もあります(ACCORD 2008)。
- 治療目標は「HbA1cを下げる」だけでなく、低血糖を減らし、血糖変動を小さくする方向へ変化しています(beyond HbA1c)。
- 高齢者では下限目標が設定され、薬剤によっては「下げすぎ」が危険です。
- 血糖変動の把握にはCGM(持続血糖測定)が有用で、食後高血糖や深夜低血糖の見逃しを防ぎます。
糖尿病の治療では、血糖コントロール指標としてHbA1cが広く用いられています。
一般に「合併症予防のためにはHbA1c 7%未満」が目安として知られています。
ただし、HbA1cは過去1〜2か月の血糖の“平均値”であり、
低血糖や血糖の乱高下(血糖変動)を十分に評価できません。
HbA1cを下げることだけを追求すると、かえって危険が増える場合があります。
こうしたHbA1cでは捉えにくい領域は、“Beyond HbA1c(beyond HbA1c)”として注目されています。

目次
HbA1cは低ければ低いほど良い?

「今月は運動を頑張ったのでHbA1cが下がった」「会食が増えてHbA1cが上がった」など、
HbA1cは多くの方にとって重要な目標です。
では、HbA1cを下げれば下げるほど、糖尿病の予後(健康で長生きできるか)は改善するのでしょうか?
残念ながら、必ずしもそうではありません。
HbA1cだけを追求してはいけない理由
HbA1cを6.0%未満など「厳格」に下げる強化療法が、本当に大血管症(心筋梗塞・脳梗塞など)を減らすかを検証するため、
大規模臨床試験が行われました。
その結果、厳しく下げても大血管症を抑制できず、さらに重症低血糖が増え、
死亡率が増加した試験結果さえ報告されました。
ここがポイント
- HbA1cは平均値なので、低血糖が増えると“見かけ上”良くなることがあります。
- 目標は「低いHbA1c」ではなく、低血糖を減らし、血糖変動を抑えた“質の良いコントロール”です。
時代を変えたのは、ACCORD試験(2008年)
大規模試験のひとつに、2008年に大きな注目を集めたACCORD試験があります1。
心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病患者を対象に、強化療法(目標HbA1c<6.0%)と、
通常療法(目標HbA1c 7.0~7.9%)で心血管イベントを比較しました。
結果として、死亡は強化療法群で多く、死亡リスクが増加するという衝撃的な報告となりました(HR 1.22)1。
なぜこのような結果になったのか最終結論は一つではありませんが、HbA1cだけでは評価できない部分があることが、
“beyond HbA1c” として注目される背景になっています2,3。
低血糖をどう評価するのか
HbA1cだけで治療の良し悪しを判断しにくい大きな理由の一つが、低血糖を評価できないことです。
HbA1cは平均値なので、低血糖が起こると低く出やすくなります。
HbA1cと重症低血糖リスクの関連を検討した研究では、HbA1cが低いほど低血糖が増える傾向が報告されています4。
また、重症低血糖は心血管イベントや死亡のリスクと関連することも報告されています5。
そのため、低血糖をできるだけ減らしながら、安全にコントロールを整えることが重要です。
▶︎ 低血糖の解説:https://shimoyama-naika.com/diabetes/hypoglycemia/
/ https://shimoyama-naika.com/diabetes/hypoglycemia-2/
高齢者では「下げすぎ」に下限がある
高齢者では重症低血糖を起こしやすく、現役世代と同じ目標をそのまま適用するのは危険です。
2016年に日本糖尿病学会と日本老年医学会から、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標が示されました6。

下げ過ぎに注意:薬剤によっては「下限」があります
インスリン、SU薬、グリニドなど低血糖が心配される薬を使用している場合に限り、
目標の下限も設定されます。これより低い値では低血糖リスクが高まると考えられます。
- (例)65〜75歳で認知症なく自立している方:HbA1c 7.5%以下が目安でも、6.5%を下回らないようにする
- (例)75歳以上で認知症なく自立している方:HbA1c 8%未満が目安でも、7%を下回らないようにする
CGMが役立つ理由(beyond HbA1cの実践)
HbA1cでは見えにくい「食後高血糖」や「深夜・早朝の低血糖」を把握するのに役立つのがCGM(持続血糖測定)です。
日々の波を可視化することで、安全性を保ちながら目標に近づけるヒントが得られます。
▶︎ CGMの解説:https://shimoyama-naika.com/diabetes/cgm/
関連ページ
- 糖尿病性腎症(DKD):https://shimoyama-naika.com/diabetes/dkd/
- DKD “4つの柱”:https://shimoyama-naika.com/dm/dkd-4pillars/
- 減塩(腎・血管にも重要):https://shimoyama-naika.com/diabetes/salt/
- 脂肪肝(MASLD/MASH):https://shimoyama-naika.com/dm/mash-masld/
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よくある質問(FAQ)
Q. HbA1cが6%台なら安心ですか?
Q. HbA1cを下げるために薬を増やすのは良いことですか?
Q. 高齢者でHbA1cを下げすぎると何が問題ですか?
Q. beyond HbA1cを実践するには何を見ればいいですか?
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。
参考文献
- Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group. Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008;358:2545-2559.
- Riddle MC, Gerstein HC, Cefalu WT. Maturation of CGM and Glycemic Measurements Beyond HbA1c. Diabetes Care. 2017;40:1611-1613.
- Agiostratidou G, et al. Standardizing Clinically Meaningful Outcome Measures Beyond HbA1c for Type 1 Diabetes. Diabetes Care. 2017;40:1622-1630.
- Lipska KJ, et al. HbA1c and risk of severe hypoglycemia in type 2 diabetes. Diabetes Care. 2013;36:3535-3542.
- Zoungas S, et al. Severe hypoglycemia and risks of vascular events and death. N Engl J Med. 2010;363:1410-1418.
- 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について|日本糖尿病学会(重要なお知らせ)
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