🔊 このページのポイント
- 甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気
- 主症状:動悸・手の震え・体重減少・多汗・イライラ
- 最も多い原因はバセドウ病(自己免疫疾患)
- 検査はTSH低下・FT3/FT4高値で診断、TRAb抗体でバセドウ病を鑑別
- 治療第1選択は抗甲状腺薬(メルカゾール・チウラジール)、約半数が2〜3年で寛解
- 甲状腺クリーゼ(高熱・頻脈・意識障害)は救急疾患
「最近、手が震えて、汗をかきやすくなったんです。体重も3kg減ったんですが……」——先日、30代の女性患者さんが、そう訴えて来院されました。実際に甲状腺ホルモンを測定したら、かなり高値でした。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)は、女性に多い病気で、早期治療で症状を改善できます。
このページでは、甲状腺機能亢進症の症状・原因・検査・治療について、バセドウ病・無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎の違いを中心に、甲状腺専門医がわかりやすく解説します。
甲状腺機能亢進症の主な症状
甲状腺ホルモンが過剰になると、全身の代謝が亢進します。以下のような症状が複数ある場合は、甲状腺機能亢進症を疑う必要があります。
循環器症状
- 動悸:安静時でも心拍数が90回以上になることが多い
- 頻脈:脈が速い
- 息切れ:少し動いただけで息が切れる
- 期外収縮感:脈が飛ぶ感じ
- 血圧収縮期高め:上の血圧が高い
代謝・腸管症状
- 体重減少:食欲があるのに体重が減る
- 食欲元進:たくさん食べる
- 下痢傾向:便の回数が増える
- 耐熱不良:暑がりになる
- 発汗過多:汗をたくさんかく
神経・筋症状
- 手指振戦:手が細かく震える
- 神経過敏:イライラしやすい
- 不眠:眠りが浅い
- 筋力低下:力が入りにくい
女性特有の症状
- 月経不順:生理が不規則になる
- 妊娠中の管理難易度上昇:適切な管理が必要
眼症状(主にバセドウ病)
- 眼球突出:目が飛び出る
- 複視:ものが二重に見える
- 羞明:光がまぶしい
甲状腺機能亢進症の原因
甲状腺機能亢進症には、いくつかの原因があります。最も多いのはバセドウ病ですが、他の原因も重要です。
1) バセドウ病(Graves病)
最も多い原因で、甲状腺機能亢進症の約80%を占めます。自己抗体(TRAb)により甲状腺が刺激され、ホルモンを過剰に産生します。
- 特徴:眼症合併に注意
- 検査:TRAb陽性、甲状腺シンチで取り込み↑
- 治療:抗甲状腺薬(メルカゾール・チウラジール)
▶ 詳細:バセドウ病の詳しい解説
2) 無痛性(産後)甲状腺炎
一過性にホルモンが漏れ出るタイプです。中毒期→低下期→回復の推移が典型です。産後は再発・移行に留意が必要です。
- 特徴:一過性、抗甲状腺薬は不要
- 検査:TRAb陰性、甲状腺シンチで取り込み↓
- 治療:β遮断薬で症状緩和が中心
▶ 総論:甲状腺炎(総論)
3) 亜急性甲状腺炎
ウイルス感染後に発症することが多い炎症性疾患です。頸部痛・発熱を伴うのが特徴です。
- 特徴:頸部痛・発熱、一過性
- 検査:炎症反応(CRP)上昇、甲状腺シンチで取り込み↓
- 治療:NSAIDs(消炎鎮痛薬)、重症例はステロイド
▶ 総論:亜急性甲状腺炎(総論)
4) 薬剤性(ヨウ素・アミオダロン・免疫療法など)
薬剤やヨウ素負荷で亢進/低下を来します。アミオダロン誘発甲状腺症はType1/2で対応が異なります。
- 特徴:薬剤歴が重要
- 検査:薬剤歴、甲状腺シンチで取り込み↓(Type2)
- 治療:原因薬剤の中止、Type1は抗甲状腺薬、Type2はステロイド
▶ まとめ:薬剤性甲状腺機能異常
甲状腺中毒症とは
「甲状腺中毒症(thyrotoxicosis)」とは、血中の甲状腺ホルモン(FT3/FT4)が過剰になり、全身の代謝が異常に亢進した状態を指します。症状自体は甲状腺機能亢進症とほぼ同じ(動悸・発汗・体重減少・振戦など)ですが、原因によって大きく2つに分けられます。
- 甲状腺機能亢進症(産生過剰型):甲状腺が積極的にホルモンを過剰に作り続ける状態。
代表:バセドウ病(TRAb陽性、甲状腺シンチで取り込み↑)。治療は抗甲状腺薬などで合成を抑える。 - 破壊性甲状腺中毒症(漏出型):甲状腺の炎症などで貯蔵されていたホルモンが一気に血液中に漏れ出す状態。
代表:無痛性甲状腺炎(産後を含む)、亜急性甲状腺炎、薬剤性の一部。シンチで取り込み↓。多くは一過性で、抗甲状腺薬は不要(β遮断薬で症状緩和が中心)。
鑑別が重要です。TRAb陰性+シンチ取り込み低下なら破壊性(漏出型)の可能性が高く、治療方針が大きく変わります。重症化すると甲状腺クリーゼ(高熱・頻脈・意識障害など命に関わる状態)へ移行するリスクもあるため、早期の原因特定が鍵です。
甲状腺機能亢進症の検査
1. 血液検査
- TSH(甲状腺刺激ホルモン):低下(0.1 mIU/L未満)
- FT4(フリーT4):高値
- FT3(フリーT3):高値
- TRAb(TSH受容体抗体):陽性(バセドウ病の確定診断に重要)
- TPO抗体・Tg抗体:背景評価
- 肝機能・白血球数:治療開始前のベースライン確認
2. 甲状腺超音波検査(エコー)
甲状腺の大きさ・形・血流を確認します。バセドウ病では甲状腺がびまん性に腫大し、血流が豊富になる特徴があります。
3. 甲状腺シンチグラフィ(必要に応じて)
放射性ヨウ素を用いて、甲状腺の機能を確認します。バセドウ病では取り込みが亢進し、破壊性甲状腺炎では取り込みが低下します。
甲状腺機能亢進症の治療
治療は原因によって異なります。バセドウ病が原因の場合は、以下の3つの治療法があります。
1. 薬物療法(抗甲状腺薬)
最も多く選択される治療法です。甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を服用します。
主な薬剤
- メルカゾール(一般名:チアマゾール):第一選択薬。効果が強く、副作用も比較的少ない
- チウラジール(一般名:プロピルチオウラシル):妊娠初期やメルカゾールで副作用が出た場合に使用
用量と期間
- 初期用量:メルカゾール 15〜30 mg/日(症状の重さによる)
- 維持用量:5〜10 mg/日(症状が安定した後)
- 治療期間:2〜3年(約半数の方が寛解)
副作用と注意点
メルカゾールの主な副作用は以下の通りです。
- 無顆粒球症:最も重篤な副作用。発熱・咽頭痛がある場合は、直ちに内服中止し、受診(血算チェック)
- 肝機能障害:倦怠感・黄疸・褐色尿で受診
- 皮疹・関節痛:薬剤アレルギーの可能性
2. 放射性ヨード治療
放射性ヨウ素(ヨウ素131)をカプセルで服用し、甲状腺細胞を破壊する治療法です。
- 適応:薬でコントロールしにくい場合、再発を繰り返す場合、高齢の方
- 効果:甲状腺機能が低下し、甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)の服用が必要になることが多い
- 注意点:妊娠中・授乳中は実施不可。治療後6ヶ月は妊娠を避ける
3. 手術(甲状腺亜全摘出術)
甲状腺の一部または全部を切除する手術です。
- 適応:大きな甲状腺腫がある場合、妊娠希望ですぐに改善したい場合、薬で副作用が出る場合
- 効果:即効性があり、再発リスクが低い
- 注意点:術後は甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)の终身服用が必要
妊娠中・授乳中の扱い
妊娠中は甲状腺機能亢進症の管理が特に重要です。適切な治療で、母体・胎児ともに安全に出産できます。
- 妊娠計画時:コントロールが安定した時期に妊娠へ。薬剤選択を個別化。
- 妊娠初期:プロピルチオウラシルの検討(肝障害リスクとのバランス)。中期以降はチアマゾールへ戻す選択肢。
- TSH/FT4目標:妊娠週数に応じて適正域を維持(産婦人科と連携)。
- 授乳:少量の抗甲状腺薬は通常許容可。個別説明を実施。
📄 よくあるご質問(FAQ)
甲状腺機能亢進症とは?どんな病気ですか?
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺から甲状腺ホルモン(T3・T4)が必要以上に過剰に分泌される状態です。甲状腺ホルモンは全身の代謝を促進する作用があるため、過剰になると全身の代謝が異常に亢進します。主な原因疾患:(1)バセドウ病(最も多い、約60〜80%)(2)無痛性甲状腺炎(産後・ウイルス性)(3)亜急性甲状腺炎(強い痛みを伴う)(4)中毒性多結節性甲状腺腫(5)薬剤性。血液検査でTSH・FT3・FT4を測定し、原因疾患を特定するためにTRAb抗体・甲状腺エコーなどを組み合わせて診断します。
甲状腺機能亢進症の初期症状は?セルフチェックできますか?
甲状腺機能亢進症の初期症状は以下の通りです:(1)動悸・息切れ・脈が速い(安静時でも90〜120以上)(2)手の細かい震え(指を伸ばすとプルプル震える)(3)異常な発汗・暑がり(4)体重減少(食欲はあるのに痩せる)(5)イライラ・不安・落ち着かない(6)不眠・疲労感(7)便の回数が増えた・下痢気味(8)月経不順・量が減る。セルフチェックの目安:「最近やけにイライラする」「食べてるのに痩せる」「暑くないのに汗をかく」—これらが続くようであれば、甲状腺機能亢進症の可能性があります。
FT3、FT4が高いとはどういう意味ですか?
FT3(遊離T3)とFT4(遊離T4)は血液中の甲状腺ホルモンの濃度を表します。高い場合→甲状腺機能亢進状態を示します。基準値(当院):FT4 0.9〜1.7 ng/dL、FT3 2.3〜4.3 pg/mL。数値の組み合わせで診断:(1)FT4高+FT3高+TSH低→顕性甲状腺機能亢進症(治療必要)(2)FT4正常+FT3高+TSH低→T3優位型バセドウ病の可能性(3)FT4正常+FT3正常+TSH低→潜在性甲状腺機能亢進症。FT3だけが高い場合は「T3型甲状腺機能亢進症」またはヨウ素不足でFT4が優先的にT3に変換されている可能性もあります。
甲状腺機能亢進症の原因を教えてください(バセドウ病以外)
甲状腺機能亢進症の原因はバセドウ病だけではありません:(1)無痛性甲状腺炎:ウイルス性または産後、一過性で多くの場合自然改善(2)亜急性甲状腺炎(de Quervain病):強い甲状腺痛・発熱を伴う、ウイルス感染後、一過性(3)中毒性多結節性甲状腺腫(Plummer病):高齢者に多い、しこりからホルモンを過剰分泌(4)ヨウ素誘発性甲状腺機能亢進症(Jod-Basedow現象):造影剤・アミオダロンなどの薬剤が原因(5)TSH産生下垂体腫瘍:稀だがTSHが高値になる。原因により治療法が異なるため、正確な診断が極めて重要です。
甲状腺機能亢進症とストレスの関係は?
ストレスは甲状腺機能亢進症(特にバセドウ病)の発症・再発の引き金になることが知られています。仕組み:(1)強いストレスで免疫バランスが崩れる(2)自己抗体(TRAb)の産生が促進される(3)甲状腺が持続的に刺激されてホルモンが過剰に。実際、バセドウ病患者さんの約30〜50%が「発症前に大きなストレスがあった」と報告しています。また、バセドウ病の治療中でもストレスがかかると再発リスクが上昇するため、適切なストレス管理(睡眠・リラクゼーション・適度な運動)は治療の一環として重要です。
甲状腺機能亢進症の治療法は?(薬・手術・RAI)
甲状腺機能亢進症の治療には3つの選択肢があります:(1)薬物治療(第一選択):メルカゾール(チアマゾール)またはプロパジール(PTU)を内服。1〜2年治療後に寛解率約50%。(2)放射性ヨウ素内用療法(RAI):アイソトープカプセルを1回服用し、甲状腺を放射線で治療。確実だが、後に甲状腺機能低下症になりチラーヂン補充が必要。(3)手術(甲状腺亜全摘/全摘):大きな甲状腺腫・薬の副作用・妊娠希望の方に。どの治療法を選択するかは、患者さんの年齢・妊娠希望・甲状腺腫の大きさ・重症度によって決定します。それぞれのメリット・デメリットを医師と相談して決めましょう。
甲状腺機能亢進症で心拍数が上がるのはなぜ?
甲状腺ホルモンは心臓の細胞に直接作用して心拍数を上昇させます。具体的なメカニズム:(1)心筋のβアドレナリン受容体の感受性が高まる(2)心臓の洞結節(ペースメーカー)の自動能が亢進する(3)心筋の収縮力が増加する(4)全身の酸素需要が増えるため心拍出量が増加。その結果、安静時の心拍数が90〜120以上になることが多く、心房細動(不整脈)のリスクも上昇します(特に高齢者や基礎心疾患がある方)。治療(メルカゾール・β遮断薬)で甲状腺機能を正常化すると、心拍数も正常に戻ります。
甲状腺機能亢進症の数値が高い時の食事や生活で気をつけることは?
甲状腺機能亢進症の治療中(ホルモン値が高い時期)の注意点:(1)カフェイン制限:コーヒー・紅茶・エナジードリンクは動悸・不眠を悪化させる(2)ヨウ素制限:昆布・わかめなどの海藻の過剰摂取を避ける(3)十分な栄養補給:代謝が亢進しているため、体重減少を防ぐためにカロリー・タンパク質はしっかり摂る(4)安静と十分な睡眠:身体の負担を減らすため無理をしない(5)激しい運動は控える:心臓への負担軽減のため、軽いウォーキング程度に(6)禁煙:喫煙はバセドウ病の経過を悪化させる。甲状腺機能が正常化すれば、徐々に制限を緩められます。
甲状腺機能亢進症は何科を受診すればいいですか?
甲状腺機能亢進症の診療は「内科」または「甲状腺専門医」が適しています。日本では以下の診療科で対応可能です:(1)甲状腺専門医(内分泌内科)→最も専門的 (2)循環器内科→動悸症状が強い場合に適切 (3)糖尿病内科(内分泌代謝内科)→多くの内分泌専門医がこちら (4)一般内科→初診の入り口として。医療機関選びのポイント:(1)甲状腺エコーが院内で可能か(2)TRAb抗体検査を迅速に依頼できるか(3)メルカゾールの副作用(無顆粒球症)への対応が可能か。しもやま内科では甲状腺専門医・循環器専門医が同日に検査・診断・治療開始まで対応可能です。
甲状腺クリーゼ(緊急性の判断)
甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症が急激に悪化した救急疾患です。死亡率が高いので、早期発見・早期治療が重要です。
甲状腺クリーゼの症状
- 高熱(39℃以上)
- 頻脈(1分間に140回以上)
- 意識障害(もうろうとする、興奮する)
- 心不全(息切れ、むくみ)
- 消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、黄疸)
甲状腺クリーゼが疑われる場合
以下の場合は、すぐに救急外来を受診してください。
- 高熱+頻脈+意識障害がある
- 息切れが強く、座っていないと呼吸が苦しい
- 黄疸(目が黄色い)がある
甲状腺クリーゼは、ストレス・感染症・手術・放射性ヨード治療などが引き金になることがあります。甲状腺機能亢進症の治療中は、これらの誘因を避けることも大切です。
👨⚕️ 執筆・監修
しもやま内科 院長 / 日本甲状腺学会 甲状腺専門医
根拠文献:日本甲状腺学会「甲状腺疾患診療ガイドライン2022」、Ross DS, et al. “2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism”
※ 本ページは一般的な解説です。診断や治療方針は必ず医師の診察に基づいて決定されます。症状が気になる方は医療機関を受診してください。
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参考文献
- 日本甲状腺学会 編集「甲状腺疾患診療ガイドライン 2022」
- American Thyroid Association (ATA). “Guidelines for the Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.” Thyroid, 2016;26(10):1343-1421
- Ross DS, et al. “2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.” Thyroid, 2016;26(10):1343-1421
- Wiersinga WM, et al. “Graves’ disease.” Nature Reviews Disease Primers, 2018;4:18024
最終更新日:2026-08-27
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。