📘 要点
- 甲状腺炎は原因・経過・治療の異なる複数の病気の総称です
- 首の痛みと発熱があれば亜急性甲状腺炎を疑います
- 痛みがなく動悸が先行する場合は無痛性甲状腺炎を考えます
- 橋本病は自己抗体が陽性で、長期の経過観察が必要です
- 亜急性甲状腺炎の痛みはNSAIDsやステロイドで調整します
- 首の強い痛みや発熱が続くときは、早めにご相談ください
首の前が痛む、熱が出た、動悸が続く、だるさが抜けない——こうした症状の背景に甲状腺炎が隠れていることがあります。甲状腺炎はひとつの病気の名前ではなく、原因も経過も治療も異なる複数の病気をまとめた呼び方です。このページでは、分類から検査・治療の判断、運動や仕事の目安、経過の見通しまでをまとめました。
甲状腺炎とは|タイプの分類と見分け方
甲状腺炎は、首の痛みがあるか、発熱や炎症反応(CRP)があるか、自己抗体が陽性かである程度の見当がつきます。
| タイプ | 主な原因 | 首の痛み・発熱 | 甲状腺ホルモンの変化 | 主な経過 |
|---|---|---|---|---|
| 慢性甲状腺炎(橋本病) | 自己免疫 | 痛み・発熱はなし | 正常〜低下(TSH高値・FT4低値) | 数年〜長期。多くは無症状 |
| 亜急性甲状腺炎(de Quervain) | ウイルス感染後 | 首の痛み・38℃前後の発熱 | 亢進(TSH低値・FT4高値)→低下→正常 | 数週間〜数か月で軽快 |
| 無痛性甲状腺炎・産後甲状腺炎 | 自己免疫・産後の免疫変化 | 痛みはなし(発熱もまれ) | 亢進→低下→正常 | 1〜3か月。産後2〜6か月に発症しやすい |
| 急性化膿性甲状腺炎 | 細菌感染 | 強い痛み・39℃以上の高熱 | 通常は大きな変動なし | 抗菌薬で治療。まれ |
| その他(薬剤性・放射線性など) | 薬剤・放射線・外傷 | さまざま | さまざま | 原因への対応による |
このうち亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎は、炎症で甲状腺が壊れ、蓄えられていたホルモンが血中に漏れ出し、一時的にホルモンが高い状態(破壊性甲状腺中毒症)になります。採血結果だけを見るとバセドウ病と似ていますが、治療はまったく異なります。バセドウ病の薬(抗甲状腺薬)をこの状態に使うと、後に訪れる低下期を長引かせてしまうため、鑑別が重要です。
1. 慢性甲状腺炎(橋本病)
どんな病気か
橋本病は、自分の甲状腺に対する免疫の働きが続き、甲状腺がゆっくりと炎症を起こす慢性の甲状腺炎です。抗TPO抗体や抗Tg抗体が陽性で、30〜50代の女性に多く見られます。首の痛みや発熱はなく、甲状腺がびまん性に腫れる以外は多くの方は無症状です。
ただし、数年〜十数年かけて甲状腺の働きが少しずつ低下し、甲状腺機能低下症になる方が一定の割合でおられます。だるさ・眠気・寒がり・体重増加・便秘・むくみ・集中力の低下などが続く場合は、採血で確認します。
診断と治療の目安
TSHの一般的な基準範囲は0.4〜4.0 mIU/L(検査機関により多少異なります)です。橋本病で甲状腺機能が低下してくると、TSHが高くFT4が低いパターンになります。
- TSH 10 mIU/L以上:甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の補充を開始することが多い
- TSH 4〜10 mIU/L程度でFT4が正常:症状・抗体の値・妊娠のご希望・年齢などから個別に判断
- 甲状腺機能が正常:症状がなければ経過観察。3〜6か月ごとの採血で確認
補充を始めた場合は6〜12週間ごとにTSHを確認して量を調整し、落ち着いたら3〜6か月ごとの通院になります。基本は長期の内服になりますが、通院と採血だけで普通の生活を続けられます。なお、橋本病では痛み止めや抗菌薬は必要ありません。不足するホルモンを補うことが治療の中心です。
食事は、昆布などヨウ素を多く含む食品の大量摂取を避け、バランスよく整えてください。
2. 亜急性甲状腺炎|経過・痛み・カロナールの効き方と限界
経過と症状
風邪(上気道炎)のあと1〜3週間して、首の前の痛みと発熱で発症することが多いタイプです。30〜50代の女性に多く、片側から始まって反対側へ広がる傾向があります。痛みは耳・あごへ放散し、首を動かすと強くなります。甲状腺を触ると痛む(圧痛)のも特徴です。人から人へうつる病気ではありません。
| 時期 | 期間の目安 | 主な症状 | 採血の変化 |
|---|---|---|---|
| 炎症期・亢進期 | 発症〜4週間 | 首の痛み・発熱・倦怠感・動悸 | FT4高値・TSH低値(CRP上昇) |
| 移行期 | 1〜4週間 | 痛みが軽くなり、症状が落ち着く | 正常化していく |
| 低下期 | 数週間〜数か月 | だるさ・むくみ・寒がり・眠気 | FT4低値・TSH高値 |
| 回復期 | 数か月〜半年 | 症状が消えていく | 正常化 |
軽症の場合は、亢進期や低下期に気づかないまま回復することもあります。
痛み止めの使い分け|カロナールの効き方と限界
- カロナール(アセトアミノフェン):発熱にはよく効きますが、甲状腺の炎症による首の痛みには限界があります。胃への負担が少なく、胃の病気・高齢・腎機能低下がある方に使いやすい薬です。
- NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェンなど):首の痛みには第一選択です。胃痛、腎機能への影響、飲み合わせに注意が必要です。
- β遮断薬(プロプラノロールなど):動悸・手のふるえがつらい時期に、症状をやわらげる目的で一時的に使います。喘息のある方は使用できないことがあります。
「カロナールを飲んでも首の痛みが取れない」場合は、痛みと炎症の程度を評価し、NSAIDsへの変更やステロイドの追加を検討します。市販の痛み止めを自己判断で重ねて飲むのは避けてください。
ステロイドが必要な場合
NSAIDsで十分に改善しない場合や、炎症反応(CRP)が著明に高い場合、強い頸部痛や発熱が続く場合には、プレドニゾロンなどのステロイドを短期間使用します。目安として15〜40mg/日から開始し、痛みは数日〜1週間で大きく軽減することが多いです。症状が落ち着いたら2〜4週間かけて少しずつ減らして中止します。急に中止すると痛みが再燃しやすいため、自己判断せず指示どおりに減らしてください。短期使用では副作用のリスクは抑えられますが、糖尿病・骨粗鬆症などの背景がある場合は慎重に判断します。
なお、このタイプでも抗甲状腺薬(メルカゾールなど)は使いません。バセドウ病とは治療の考え方が異なります。
3. 無痛性甲状腺炎・産後甲状腺炎
無痛性甲状腺炎は、首の痛みがないまま甲状腺ホルモンが乱れるタイプです。出産後1年以内、とくに産後2〜6か月に発症した場合は産後甲状腺炎と呼びます。動悸・発汗・体重減少などの亢進症状のあとに、だるさ・むくみ・気分の落ち込みといった低下症状へ移ることが多く、約60〜70%の方は自然に回復します。一部の方は低下が続き、ホルモン補充を続けます。
産後の動悸・疲労・気分の落ち込みは「育児の疲れ」と区別がつきにくい症状です。産後2〜6か月で動悸やだるさが続くときは、採血での確認をおすすめします。
産後に見分けたい|無痛性甲状腺炎とバセドウ病の再燃
| 項目 | 無痛性甲状腺炎(産後甲状腺炎) | バセドウ病の再燃 |
|---|---|---|
| 仕組み | 破壊型(蓄えたホルモンが漏れ出す) | 産生過剰(ホルモンを作り続ける) |
| TRAb(TSH受容体抗体) | 通常は陰性 | 陽性のことが多い |
| エコーの血流 | 低下〜正常 | 増加が目立つ |
| 甲状腺のヨウ素摂取率 | 低下 | 増加 |
| 治療 | 経過観察+症状に応じた薬 | 抗甲状腺薬の再開・調整 |
治療方針が大きく異なるため、産後の動悸や体重変化がある場合は、ホルモン値・抗体・エコーをあわせて確認します。
4. 急性化膿性甲状腺炎
甲状腺に細菌が感染し、膿がたまる急性の炎症です。頻度はまれですが、首の前の強い痛みと腫れ、39℃以上の高熱、飲み込みにくさで発症します。自然に軽快することは少なく、抗菌薬による治療が必要です。抗菌薬を開始すると、通常2〜3日で熱や痛みが軽くなってきます。
診断では、採血(炎症反応・白血球数)と甲状腺エコーで膿瘍(膿のたまり)の有無を確認します。膿瘍がある場合は排膿の処置を併用します。膿瘍が大きい場合や、気道を圧迫するおそれがある場合は、入院での点滴治療が必要になります。当院ではエコーと採血で評価し、入院や排膿が必要と判断した場合は連携する専門施設へご紹介します。
飲み込めないほどの頸部痛、呼吸が苦しいといった症状があるときは、急を要する状態の可能性があります。119番へのご連絡をおすすめします。
5. 検査の流れ
- 問診・診察:症状の始まり、痛みの広がり、発熱、出産の時期、内服薬、家族歴を確認し、首の前を触れて腫れ・圧痛を診ます。
- 血液検査:TSH・FT4・FT3で病期を判断し、TRAbでバセドウ病との鑑別、抗TPO抗体・抗Tg抗体で橋本病の背景、CRPや血算で炎症の程度を確認します。当日に結果をご説明できる項目があります。
- 甲状腺エコー(超音波検査):甲状腺専門医が実施・読影します。亜急性では痛みのある部位に一致した境界不明瞭な低エコー域、橋本病ではびまん性の低エコー・不均一、無痛性では血流の低下が手がかりになります(バセドウ病では血流が増加)。当院では年間約480件(2025年度実績)のエコー検査を行っています。
- 必要に応じた追加検査:鑑別が難しい場合は、放射性ヨウ素摂取率検査(シンチグラフィ)などを連携する専門施設で行います。
- 結果のご説明と治療方針:診断と病期をお伝えし、痛み止め・β遮断薬・ステロイド・ホルモン補充の必要性を相談します。
当院で行っていること・行っていないこと
| 検査・診療 | 当院での対応 |
|---|---|
| 問診・診察(症状・経過・首の診察) | 当院で実施します |
| 血液検査(ホルモン・抗体・CRP・血算など) | 当院で実施します(当日説明できる項目があります) |
| 甲状腺エコー(超音波検査) | 当院で実施します(甲状腺専門医が実施・読影) |
| 痛み止め・β遮断薬・ステロイド・ホルモン補充の調整 | 当院で実施します |
| 放射性ヨウ素摂取率検査(シンチ) | 当院では行っておりません。必要時は専門施設へご紹介します |
| 自由診療(自費診療) | 当院では行っておりません(保険診療のみ) |
当院は保険診療を基本としています。エコーと採血で診断し、治療の調整と経過観察を担当します。当院で行っていない検査・治療が必要な場合は、連携する専門施設へご紹介します。当院の甲状腺診療の対象は中学生以上(12歳〜)です。
6. 運動・日常生活の目安
甲状腺炎では、病期によって体の負担のかかり方が変わります。とくに動悸や脈の速さが強い亢進期は、運動の強さを調整することが大切です。
| 病期・状態 | 運動の目安 | 日常生活の目安 |
|---|---|---|
| 亢進期(安静時心拍数100/分未満・動悸なし) | 軽い散歩・ストレッチまで。持久走や炎天下の活動は控える | 睡眠を優先。カフェイン控えめ、こまめな水分補給を |
| 亢進期(100〜120/分、または動悸あり) | 軽い運動のみ。持久走・高強度は見合わせる | 動悸が続くなら早めに受診 |
| 亢進期(120/分以上) | 運動は休む | 早めに受診してください |
| 発熱・強い頸部痛がある時期 | 安静を優先し、運動は休む | 解熱後1週間ほどは軽い活動から |
| 低下期(だるさ・眠気) | 回復を優先し、短時間の散歩から | 睡眠時間を確保。無理な運動は回復を遅らせることがある |
運動を再開する目安は、首の痛みや発熱がなくなり、動悸が落ち着いて、安静時心拍数が80〜90/分以下になったときです。甲状腺機能が安定していることを採血で確認したうえで、軽い運動から段階的に戻します。
食事では、亢進期は昆布・わかめなどのヨウ素を多く含む食品を一時的に控えめにし、カフェインやアルコールも控えめにすると動悸が楽になることがあります。低下期は特別な制限は必要ありません。
7. 経過の見通し(寛解・再発)
タイプごとの見通し
- 亜急性甲状腺炎:治療を始めて2〜4週間で痛みや発熱が軽くなり、9割以上の方が数週間〜数か月で軽快します。一時的な甲状腺機能低下は5〜10%程度、永続的な低下症は1〜2%程度とまれです。
- 無痛性甲状腺炎・産後甲状腺炎:約60〜70%の方は自然に回復します。一部の方は低下が続き、ホルモン補充を継続します。
- 橋本病:自然に消える病気ではありません。機能が保たれていれば経過観察、低下症になれば補充を続けながら普通の生活を送っていただけます。
再発について
亜急性甲状腺炎の再発は5%程度とまれですが、再発する方もおられます。無痛性甲状腺炎は10〜20%程度で再発し、とくに産後甲状腺炎を経験した方は次の出産でも再発しやすいとされています。再発した場合も、初回と同じ考え方で治療します。
通院の間隔
亢進期や治療開始直後は2〜4週間ごと、安定期は4〜8週間ごと、ホルモン値が落ち着いたら3〜6か月ごとが目安です。
8. 受診の目安
- 数日以内に受診をご検討ください:首の前の痛みや腫れ、38℃前後の発熱/動悸・手のふるえ・体重減少/強いだるさ・むくみ/産後2〜6か月の動悸や体調不良/TSH異常や抗体陽性の指摘
- 急いで受診してください:39℃以上の高熱が続く/痛みで眠れない/飲み込みにくさが強くなってきた
- すぐに119番へのご連絡をおすすめします:呼吸が苦しい/飲み込めないほどの頸部痛/意識がもうろうとする/脈が非常に速く、動悸が止まらない
受診の際は、お薬手帳、これまでの検査結果、症状が始まった時期のメモをお持ちください。内服薬や妊娠・出産のご予定が診断の手がかりになります。夜間・休日に急な症状が出た場合は、当院では時間外の診療を行っておりませんので、救急外来または119番へのご連絡をおすすめします。
よくある質問
甲状腺炎はどのくらいで落ち着きますか?
タイプによって異なります。亜急性甲状腺炎は治療を始めて2〜4週間で痛みや発熱が軽くなり、数週間〜数か月で機能が正常化することが多いです。無痛性甲状腺炎・産後甲状腺炎は1〜3か月で軽快することが多く、約60〜70%の方は自然に回復します。橋本病は自然に消える病気ではなく、機能を確認しながら長く付き合っていく病気です。
亜急性甲状腺炎でカロナール(アセトアミノフェン)は効きますか?
発熱や軽い痛みには有効ですが、甲状腺の炎症による強い首の痛みには効果が十分でないことが多いです。首の痛みにはロキソプロフェンなどのNSAIDsが第一選択になります。胃の病気・腎機能低下・抗凝固薬内服中の方などはNSAIDsを使いにくく、その場合にカロナールを選ぶことがあります。市販薬を自己判断で追加せず、痛みの程度を医師に伝えてください。
ステロイド治療はどのようなときに使いますか?
すべての方に必要なわけではありません。NSAIDsで十分に改善しない場合、炎症反応(CRP)が著明に高い場合、高熱が続く場合に、プレドニゾロンを15〜40mg/日から短期間使用します。痛みは数日〜1週間で軽減することが多く、その後2〜4週間かけて減らします。急に中止すると再燃しやすいため、指示どおりに減らすことが大切です。糖尿病・骨粗鬆症がある場合は慎重に判断します。
甲状腺炎のとき、運動や仕事はどうすればよいですか?
発熱や首の痛みが強い時期は安静を優先してください。動悸や脈が速い時期は、安静時心拍数100/分以上で持久走・高強度の運動・炎天下の活動を控え、軽い散歩やストレッチまでにします。120/分以上ある、動悸が続く場合は運動を休み、早めに受診してください。症状が落ち着き、安静時心拍数が80〜90/分以下になり甲状腺機能が安定してから段階的に再開します。
無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎はどう違いますか?
いちばんの違いは首の痛みの有無です。亜急性甲状腺炎は首の前の痛み・圧痛と発熱、CRP上昇が特徴で、痛みは耳やあごへ広がることもあります。無痛性甲状腺炎は痛みも発熱もなく、動悸・体重減少・だるさなどで気づかれます。産後1年以内の発症は産後甲状腺炎と呼びます。どちらもホルモンが一時的に乱れる破壊性甲状腺炎で、抗甲状腺薬は使いません。
甲状腺炎は再発しますか?
タイプによって異なります。亜急性甲状腺炎の再発は5%程度とまれです。無痛性甲状腺炎は10〜20%程度で再発し、とくに産後甲状腺炎を経験した方は次の出産で再発しやすいとされています。橋本病は慢性的に続く病気で、いったん甲状腺機能低下症になると補充を続けることが多くなります。動悸・だるさ・首の痛みが再び現れた場合は、早めにご相談ください。
関連ページ
参考文献
- 日本甲状腺学会 編集「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」
- Ross DS, et al. “2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.” Thyroid, 2016;26(10):1343-1421
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診療時間外の緊急時は、119番へのご連絡をおすすめします。
最終更新日:2026-09-20
👨⚕️ この記事の監修医師
監修・執筆:しもやま内科 院長(日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医/日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。