甲状腺クリーゼ(甲状腺危機)とは?症状・診断基準・治療|専門医解説

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船橋市しもやま内科では、日本甲状腺学会認定の甲状腺専門医が甲状腺クリーゼの診断と治療について解説します。甲状腺クリーゼはバセドウ病の症状が急激に悪化する緊急症であり、高熱・頻脈・意識障害などを特徴とします。Burch-Wartofskyスコアによる診断、ICU管理を含む集学的治療、予防のポイントについて詳しく説明します。

甲状腺クリーゼ(甲状腺危機)とは

甲状腺クリーゼ(thyroid storm)は、甲状腺機能亢進症(特にバセドウ病)の症状が急激かつ重篤に増悪し、生命の危機に関わる緊急症です。甲状腺ホルモンが急増し、全身の代謝が過度に亢進することで多臓器にわたる障害を引き起こします。院内死亡率は10〜20%と報告されており、迅速な診断と集中治療が不可欠です。

適切な治療が行われない場合、死亡率はさらに高くなるため、疑わしい症状がある場合は速やかな医療機関の受診がすすめられます。

甲状腺クリーゼの誘因

甲状腺クリーゼは、すでに甲状腺機能亢進症がある患者さんに、以下の誘因が加わることで発症することが多いとされています。

  • 感染症:肺炎・尿路感染症・咽頭炎などの感染が最大の誘因
  • 手術:甲状腺手術や他の手術(術前の甲状腺コントロール不十分)
  • 造影剤:CT検査のヨード造影剤投与
  • 抗甲状腺薬の中断:メルカゾール・プロパジールの自己中断
  • 外傷・ストレス:事故・熱傷・精神的ストレス
  • 出産:分娩を契機とした発症
  • ヨード摂取過多:海藻・ヨード含有サプリメントの過剰摂取

主な症状

甲状腺クリーゼの症状は多岐にわたり、重症度に応じて出現します。

高熱(体温38.5℃以上)

代謝亢進により体温が著明に上昇します。通常の発熱とは異なり、解熱薬に反応しにくいことが特徴です。

頻脈・心不全症状

心拍数が著しく増加し(140〜160bpm以上)、心房細動などの不整脈を伴うことが多くあります。進行すると心不全を合併することもあります。

意識障害・中枢神経症状

不安・興奮・せん妄から、傾眠・昏睡まで幅広い意識障害を認めます。中枢神経症状の出現は重症度の高いサインです。

消化器症状

悪心・嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状がみられます。これらは鑑別診断時に誤認されやすい症状でもあります。

その他の症状

  • 発汗過多
  • 手指振戦(手のふるえ)
  • 眼球突出・眼症状の悪化
  • 肝機能障害・黄疸

Burch-Wartofskyスコア(診断基準の目安)

甲状腺クリーゼの診断には、Burch-Wartofskyスコア(BWスコア)が広く用いられています。以下の項目の点数を合計し、スコア45以上でクリーゼと診断します。

項目 評価 点数
体温 37.2〜37.7℃ 5
37.8〜38.2℃ 10
38.3〜38.8℃ 15
38.9℃以上 20
心血管症状 頻脈:90〜109bpm 5
110〜129bpm 10
130〜139bpm 15
140bpm以上 20
心房細動 なし→0点、あり→10点 0〜10
中枢神経症状 軽度(不安) 10
中等度(せん妄・傾眠) 20
重度(昏睡) 30
消化器症状 中等度(下痢・嘔気) 10
重度(黄疸) 20
誘因(手術・感染等) あり 10

スコア判断:45点以上=甲状腺クリーゼ(高確率)、25〜44点=前駆状態(切迫クリーゼ)、24点以下=クリーゼの可能性は低い

治療の基本

甲状腺クリーゼの治療は、複数の薬剤を併用した集学的治療が基本です。診断後ただちに開始されます。

抗甲状腺薬(チアマゾール・PTU)

甲状腺ホルモンの合成を阻害するために、メルカゾール(チアマゾール)またはプロパジール(プロピルチオウラシル)を高用量で投与します。特にプロパジールは末梢でのT4→T3変換も抑制するため、クリーゼでは第一選択として用いられることがあります。

β遮断薬

頻脈・振戦・不安を軽減するために、プロプラノロールなどのβ遮断薬を投与します。心拍数コントロールは治療の重要な目標です。

ステロイド(副腎皮質ホルモン)

末梢組織での甲状腺ホルモンの作用を抑制する目的で、ヒドロコルチゾンなどのステロイド薬を投与します。また、相対的な副腎不全への対応としても有用です。

解熱・全身管理

アセトアミノフェンによる解熱、十分な水分補給と栄養補給、電解質補正を行います。アスピリン(NSAIDs)はサイロキシン結合を阻害しT3・T4遊離を増加させるため、原則として避けられます。

ICU管理の重要性

甲状腺クリーゼの治療はICU(集中治療室)での管理が強くすすめられます。その理由として:

  • バイタルサインの持続的モニタリング:心拍数・血圧・体温・酸素飽和度の24時間連続監視
  • 不整脈対応:心房細動から心室頻拍への移行を監視し、緊急対応が可能
  • 呼吸管理:必要に応じて酸素投与・人工呼吸管理への即時対応
  • 循環動態の評価:心臓超音波による心機能評価、輸液管理
  • 多職種連携:内分泌内科医・循環器医・集中治療医・薬剤師によるチーム医療

予防(再発防止と自己管理)

甲状腺クリーゼの予防で最も重要なのは、日頃からの適切な治療継続と自己管理です。

薬の自己中断をしない

症状が落ち着いたからといって、抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール)を自己判断で中断しないことが重要です。症状が改善しても血液検査の数値が安定するまでは継続が必要です。

感染時の対応

発熱や風邪症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることをおすすめします。感染症が誘因となるリスクを認識しておくことが大切です。

定期検査の継続

甲状腺機能が安定していても、定期的な血液検査と甲状腺専門医の診察を継続することで、数値の変動を早期に発見できます。

手術前の確認

甲状腺疾患がある方が他の手術を受ける際は、術前に内分泌内科の評価を受け、甲状腺機能が正常範囲内であることを確認することがすすめられます。

よくある質問

甲状腺クリーゼはどのくらいの頻度で起こりますか?

バセドウ病患者さんのうちクリーゼを発症するのは約1〜2%とされています。適切な治療が行われていない方や、誘因が加わった場合に発症リスクが高まります。

クリーゼは予防できますか?

はい。抗甲状腺薬の継続服用、定期的な甲状腺機能検査、感染時の早期対応、手術前の甲状腺コントロールなどにより、リスクを低減することが可能です。

バセドウ病と診断されたら全員がクリーゼのリスクがありますか?

バセドウ病のすべての方に一定のリスクはありますが、適切に治療が行われている方のリスクは低いと考えられています。特に、定期的に通院し甲状腺機能が安定している方のリスクはさらに低減されます。

甲状腺クリーゼの死亡率はどのくらいですか?

適切な治療が行われた場合でも、院内死亡率は10〜20%と報告されています。早期診断・早期治療が予後改善に重要です。

妊娠中の方はどうすればよいですか?

妊娠中は甲状腺ホルモン値が変動しやすく、クリーゼのリスクが高まることがあります。妊娠中・授乳中のバセドウ病治療については、担当医と相談しながら適切な治療を継続することが重要です。

最終更新日:2026-09-09

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

30/06/2025