糖尿病内科

SGLT2阻害薬

02/10/2018

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、「尿中に糖が出ることは悪いことだ。」というこれまでの糖尿病の常識を覆す全く新しい治療薬です。その特徴は、血液中の過剰な糖を尿中に積極的に排出させることで血糖値を下げるという画期的なものです。
SGLT2 inhibitor

SGLT2阻害薬のしくみ

SGLTとは、Sodium-glucose transporterの略で、ナトリウム・グルコース共役輸送体とも呼ばれています。腎臓にある糸球体というところで血液がろ過され尿の元が作られます。もちろんこの中には血液とほぼ同じ濃度のブドウ糖を含みます。

SGLT2阻害薬のしくみ

SGLT2阻害薬のしくみ

正常な人の場合、貴重なエネルギーであるブドウ糖を捨てることはしません。そのため近位尿細管というところでほとんどのブドウ糖が再吸収されます。そのブドウ糖再吸収の仕事をしているのがSGLT2受容体です。SGLT2阻害薬を使用することで、ブドウ糖を再吸収するSGLT2の働きを阻害します。そのためブドウ糖が体内に再度吸収されることなく尿と一緒に体外に排泄され、 結果として体内の血糖値が低下します。尿から1日70gのブドウ糖が排泄されるので、約300KCalの喪失になります。そのため、SGLT2阻害薬の追加によって2-3Kgの体重減少効果があります。また、内臓脂肪が減少するのでお腹周りが細くなります。

SGLT2阻害薬の臓器保護作用

SGLT2阻害薬は発売以来、さまざまな臨床研究で心臓や腎臓を保護する結果が出ています。心筋梗塞・狭心症といった心血管イベント、心不全を減らす効果や、腎臓を保護して糖尿病性腎症を抑える効果など、血糖を下げるだけでない、さまざまな優れた効果が認められてきています。特にSGLT2阻害薬による心不全予防効果は、従来薬では考えられないほどの効果があり、今後、心不全の適応拡大に向けて治験が始まったことは、心不全予防に対して大きな一歩と言えます。

心血管系イベント抑制作用:エンパグリフロジン

心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者さんにおいて、標準治療へのエンパグリフロジンの追加は心血管疾患による死亡、心血管イベント、および全死亡の発症率を低下させました(*EMPA-REG OUTCOME試験、2015年)。下の図にお示しするように、エンパグリフロジンを服用した群(青線)は偽薬群(灰色線)に比べ心血管死が38%も減少しました。

*EMPA-REG OUTCOME Investigators: Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2015.

SGLT2阻害薬の心保護作用

SGLT2阻害薬の心保護作用

腎機能保護作用:カナグリフロジン

カナグリフロジンは糖尿病患者の腎不全を抑制することが示されました。主要評価項目は末期腎不全、クレアチニン倍増、腎死あるいは心血管死の複合
(アルブミン尿のある2型糖尿病患者を対象にした**CREDENCE試験、2019年)。下図にお示しするように、カナグリフロジンを服用した群(青線)は偽薬投与群(黄色線)に比べて腎不全が30%も抑制されました。

**Canagliflozin and Renal Outcomes in Type 2 Diabetes and Nephropathy.N Engl J Med. 2019 Apr 14. doi: 10.1056/NEJMoa1811744.

カナグリフロジンの腎保護作用

カナグリフロジンの腎保護作用

SGLT2阻害薬の副作用

海外を含めた臨床試験では、尿路、陰部の感染症が特に女性に多く報告されました。日本人は入浴する習慣があるので、陰部が清潔な方が多く、海外より尿路感染症は少ない印象です。ただし、もともと膀胱炎など、尿路感染症になりやすい人に処方すると尿路感染症が増えます。処方前によく問診して、尿路感染症になりやすい人には処方しないようにしています。

浸透圧利尿による脱水、高尿酸血症、リン・カルシウム代謝異常が知られています。

ブドウ糖排泄の結果、カロリーを喪失する結果、ケトン体上昇が起こることが知られています。過度な糖質制限をしながらSGLT2阻害薬を内服すると、脂肪の分解が進みすぎてケトン体が急上昇し、糖尿病性ケトアシドーシスになるリスクが高まります。SGLT2阻害薬を内服中の患者さんは過度な糖質制限を避けて下さい。

発売後、注目されているのが薬疹(紅斑)です。一定の割合で紅斑が出ます。出る人は内服を開始したその日から出ます。最初の一週間くらい様子をみて、皮膚が痒くなったり発疹が出たら直ちに服用をやめるようお願いしています。その時期を乗り越えれば大丈夫なことが多いです。特定のSGLT2阻害薬で紅斑が出ても、他社の別の製品では出ない、などということも多く、どうしても処方したい場合は注意しながら処方変更します。

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