糖尿病内科

重症低血糖の対処|口から食べさせない・救急の目安と家族の対応を解説|船橋市 しもやま内科

24/04/2019

🆘 重症低血糖:このページの要点

このページは「重症低血糖の対処」と「家族・周囲の方の対応」をまとめたページです。
意識がはっきりしない場合は口から食べさせず、救急要請の判断と事前の備え(ブドウ糖・グルカゴン等)を確認します。

▶ 低血糖の総論(原因・予防):/diabetes/hypoglycemia/
▶ HbA1cだけでは見えない評価軸:/dm/beyond_hba1c/

重症低血糖の対処と家族の対応を示すイメージ(ブドウ糖・測定器・連絡の準備)
重症低血糖では「口から食べさせない」ことが重要です。家族・周囲の方ができる対応を整理します。

低血糖について知ってください

糖尿病治療を受けていると、どうしても血糖値が低くなる副作用(低血糖)を起こす可能性が出てきます。
血糖値を下げる薬を使用している患者さんは、低血糖についてよく知っておいてください。

血糖コントロール指標の代表にHbA1cがあります。HbA1cを下げたい一心で頑張っておられる患者さんも多いと思います。
ところが、HbA1cを下げれば下げるほど生命予後が改善するわけではないことがいくつかの大規模臨床試験で示されています。

HbA1cを下げることが生命予後の改善に寄与しない理由のひとつに、低血糖の存在があります。

55歳以上の2型糖尿病患者1万1140例を対象として、重症低血糖とその後の心血管疾患および死亡のリスクとの関連を調べた報告があります4)
追跡期間の中央値は5年であり、この間231例(2.1%)に重症低血糖が1回以上発生しており、低血糖は全死亡リスクを3.27倍、心血管死リスクを3.79倍上昇させました(図1)。

ADVANCE

図1 低血糖と心血管疾患および死亡リスクとの関連(文献4より引用)

1型糖尿病でも低血糖が死亡の予後規定因子であることが報告されています5)
スウェーデンの1型糖尿病患者を対象とした研究で、心血管イベント後の死亡率と低血糖の関連について検討したものです。
2万7087人の1型糖尿病を対象とし、低血糖で入院した回数で分類した心血管イベント後の生存曲線を図2にお示しします。

Sweden

図2 低血糖の入院した回数と生存曲線(文献5より引用)

心血管イベントに先行して2回以上の重症低血糖を経験している患者の生存率が最も低く、低血糖を経験していない人の生存率が最も高い結果でした。

1型糖尿病でも2型糖尿病でも、低血糖を起こすと死亡リスクが増加すると考えられます。

どんなにHbA1cが良くても、低血糖が多くてはいけないのです。
低血糖をできるだけ起こさずに、HbA1cを改善することが重要です1)-3)

1) Currie CJ, Peters JR, Tynan A, Evans M, Heine RJ, Bracco OL, Zagar T, Poole CD. Survival as a function of HbA(1c) in people with type 2 diabetes: a retrospective cohort study. Lancet 2010; 375:481-489.
2) Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group, Gerstein HC, Miller ME, Byington RP, Goff DC Jr, Bigger JT, Buse JB, Cushman WC, Genuth S, Ismail-Beigi F, Grimm RH Jr, Probstfield JL, Simons-Morton DG, Friedewald WT. Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. N Engl J Med 2008 12; 358:2545-2559.
3) ADVANCE Collaborative Group, Patel A, MacMahon S, Chalmers J, Neal B, Billot L, Woodward M, Ninomiya T, Neal B, MacMahon S, Grobbee DE, Kengne AP, Marre M, Heller S; Intensive blood glucose control and vascular outcomes in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med 2008;358:2560-2572.
4) Zoungas S, Patel A, Chalmers J, de Galan BE, Li Q, Billot L, Woodward M, Ninomiya T, Neal B, MacMahon S, Grobbee DE, Kengne AP, Marre M, Heller S; ADVANCE Collaborative Group. Severe hypoglycemia and risks of vascular events and death. N Engl J Med 2010; 363:1410-1418.
5) Lung TW, Petrie D, Herman WH, Palmer AJ, Svensson AM, Eliasson B, Clarke PM. Severe hypoglycemia and mortality after cardiovascular events for type 1 diabetic patients in Sweden. Diabetes Care. 2014;37:2974-2981.

低血糖ってなに?

一般に、血糖値が70未満であることを指します。血糖値が70mg/dL以下になると、人体は血糖値を上げて対応しようとします。
また、血糖値が50mg/dL未満になると、脳などの中枢神経がブドウ糖不足になり、意識レベルが下がるなどの症状がでます。
その時に出現する特有の症状を、低血糖症状といいます。
人によっては、血糖値が70mg/dL以下でなくても治療などによって血糖値が急激に大きく下がるタイミングでも、低血糖症状が出現することがあります。
逆に、血糖が70mg/dLより低くなっても、症状が出ない方もいらっしゃいますので注意が必要です。

低血糖について知ってください。

低血糖について知ってください。

低血糖の症状

血糖値がおよそ70mg/dL以下になると、「交感神経症状」が出現します。さらに血糖値が低下して50mg/dL程度になると、「中枢神経症状」が出現します。
ただし、普段から低血糖がよく起こる方や、低血糖症状の自覚が少ない方は、「汗をかく」などの交感神経症状がみられないまま、無自覚性低血糖になることがあります。

  • 血糖値を測ったら60mg/dL程度まで低下していることに気づく
  • 血糖値が50mg/dLより低く、突然さらに重い中枢神経症状が出現する

そして血糖値が50mg/dLよりも低くなると、昏睡(こんすい)など意識のない危険な状態(重症低血糖)になってしまうことがあります。
非常に深刻な状態で、命に危険が及ぶことがあります。低血糖になった時は、できるだけ早い段階ですみやかに対応をしなければなりません。
また、意識がなくなるほどでなくても低血糖を繰り返していると、
心筋梗塞・狭心症などが増えて危険であることがわかっています。
特に、HbA1cが良くて低血糖が頻繁に起きている人は注意が必要です。気づかないうちに低血糖が起きている(無自覚低血糖)可能性があります。

低血糖を起こすきっかけを知ってください。

低血糖を起こすきっかけを知ってください。

低血糖の原因

低血糖になる原因は、いくつか考えられます。
インスリン、飲み薬の量や種類を誤って投与した/薬を使ったあとの食事時間の遅れ/食事量が少ない(炭水化物が少ない)/普段より運動量が多い/運動量が多かった日の夜や翌朝/空腹での運動/飲酒/入浴 などがあります。

低血糖の対処法を知ってください。

低血糖の対処法を知ってください。

低血糖時の対応

軽い低血糖を起こしたら、速やかにブドウ糖を飲むことが大切です。
昏睡まで至らないような通常の低血糖症状の場合、ブドウ糖を経口摂取することで安全に回復します。いちどに20gは摂取しましょう。

しかし、ひどい低血糖の場合は、意識がはっきりせず、ブドウ糖を飲み込むのが難しい場合があります。
その場合は、無理にブドウ糖を飲ませると、誤嚥(ごえん)や窒息の原因になります。
周りの方は、ブドウ糖や砂糖を水で溶かして、口唇と歯肉の間に塗り付け、すぐに救急車を呼び、医療機関へ行きましょう。
意識がはっきりしない状態にまでなった深刻な低血糖は、一時的に血糖値が改善してもそのあとにまた血糖が下がり、同じ症状が出る可能性が高いです。低血糖が続く場合も、必ず医療機関で診察を受けてください。

α-グルコシダーゼ阻害薬を使用している患者さんは、必ずブドウ糖を使用してください。薬の作用のため、砂糖や甘いものでは血糖上昇が悪いです。

車を運転する方は、車にブドウ糖やブドウ糖を多く含む食品を必ず常備しておきましょう。
運転中に低血糖になり、事故につながるケースがあります。無自覚性低血糖があり、ご自分で血糖値をコントロールできない場合は、運転をしてはいけません。
運転中に低血糖の気配を感じたら、ハザードランプを点滅させ、すぐに車を路肩に停車します。そして、すぐにブドウ糖やブドウ糖を多く含む食品をとってください。運転は、症状が改善した後に再開してください。低血糖を起こしやすい方は、空腹時の運転は避けるか、何か糖分を含むものをとってから運転するとよいでしょう。

低血糖でブドウ糖を口からとれないなど本人が対応できない状況の場合、ご家族など周りの方が血糖値を上げるためのグルカゴンという注射を行う場合もあります。具体的な適応や使用方法については、しもやま内科にお問い合せください。

低血糖を起こしたら、その原因を確認し、解決する事が大切です。今後の低血糖を予防するために役立てられるよう、一緒に考えましょう。

糖尿病患者用IDカード

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いざという時のために

糖尿病患者であることを示す「糖尿病患者用IDカード(緊急連絡用カード)」があります。いざという時のために財布などに入れて持ち歩くことができます。必要な方はお申し出ください。

よくある質問(重症低血糖の対処・家族向け)

Q. 意識がもうろうとしているとき、口から食べさせてもいいですか?
A. いいえ。意識がはっきりしない場合は誤嚥や窒息の危険があるため、口から飲食物を与えないでください。安全確保のうえで救急要請を検討します。
Q. 救急車を呼ぶ目安はありますか?
A. 呼びかけに反応しない返事がおかしいけいれん立てないなど重症のサインがある場合は救急要請を考えます。迷うときも早めに相談・受診してください。
Q. グルカゴンはいつ使いますか?
A. グルカゴン製剤は、低血糖で自力で摂取できない場合などに使用を検討します。具体的な適応や手順は製剤・患者さんの状況で異なるため、あらかじめ主治医と相談し、家族も使い方を確認しておくと安心です。
Q. 家族が準備しておくと良いものはありますか?
A. ブドウ糖や糖質飲料などの迅速に使える補食、治療内容が分かるメモ、必要に応じてグルカゴン製剤などが役立ちます。「いつ・どの順で対応するか」を家族内で共有しておくと、緊急時に落ち着いて動けます。

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医

糖尿病治療において、低血糖の予防と「無理のない血糖コントロール」を重視し、生活背景に合わせた治療の最適化を行っています。

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