甲状腺眼症の治療と生活上の注意(強化版)|禁煙・セレン/ステロイド/放射線・手術/視神経の危険サイン|しもやま内科(船橋市)

📋 要点まとめ
まずは禁煙眼表面ケアを徹底。活動期はステロイド(静注/内服)や放射線を検討し、安定期は手術の順序(眼窩減圧→斜視→眼瞼)を意識。視力低下・色覚低下・視野異常は視神経症の赤旗で至急対応。
甲状腺眼症の治療と生活上の注意:中央の眼と甲状腺シルエットを基点に、禁煙(禁止マーク付きタバコ)、セレン(原子イメージ)、ステロイド(点滴+錠剤)、放射線・手術(放射線マーク+メス)、視神経症の赤旗(三角警告)を結ぶ図(しもやま内科)
甲状腺眼症の治療と生活上の注意(禁煙・セレン/ステロイド/放射線・手術/視神経症の赤旗)

甲状腺眼症(Thyroid Eye Disease, TED)の治療は、活動期と安定期で戦略が異なります。まず禁煙と生活ケアを土台とし、活動性・重症度・合併症・妊娠計画を踏まえ、薬物・放射線・手術を組み合わせます。ここでは実践上の順序と注意点に絞って整理します。


治療アルゴリズム(全体像)

重症度 活動性 治療戦略
軽症 活動期/非活動期 禁煙・セレン・眼表面ケア・経過観察
中等症〜重症 活動期 ステロイド(静注優先)± 眼窩放射線療法 ± 生物学的製剤
中等症〜重症 非活動期(安定期) 手術(眼窩減圧→斜視→眼瞼)
視神経症 問わず(緊急) 高用量ステロイド静注 → 緊急眼窩減圧術

CAS(Clinical Activity Score)詳細評価シート

CASは甲状腺眼症の活動性を評価する標準的なスコアリングシステムです。7点満点(または10点満点の拡張版)で評価し、活動期の目安はCAS ≧ 3/7 または 4/10です。

基本CAS(7項目)

項目 内容 評価
1 自覚的眼窩痛(安静時/運動時) ☐ あり / ☐ なし
2 眼球運動時痛 ☐ あり / ☐ なし
3 眼瞼発赤 ☐ あり / ☐ なし
4 結膜発赤(びまん性/局所) ☐ あり / ☐ なし
5 眼瞼浮腫 ☐ あり / ☐ なし
6 結膜浮腫(ケミョーシス) ☐ あり / ☐ なし
7 涙丘/半月皺襞の炎症 ☐ あり / ☐ なし

合計:____ / 7点(活動期目安:≧3点)

拡張CAS(追加3項目・10点満点)

項目 内容 評価
8 眼球突出度の増加(≧2mm) ☐ あり / ☐ なし
9 眼瞼裂幅の増加(≧2mm) ☐ あり / ☐ なし
10 視力低下(1段階以上) ☐ あり / ☐ なし

合計:____ / 10点(活動期目安:≧4点)

評価のタイミング:治療開始前・治療中2〜4週ごと・経過観察時。CASの変化は治療効果判定にも使用します。


1. 生活介入:禁煙・セレン・眼表面ケア

  • 禁煙(最優先):喫煙は眼症の発症・増悪と治療反応不良に関連。禁煙外来の併用を推奨。受動喫煙も回避。
  • セレン補充:軽症・活動期で適応を検討。1日あたりセレン50〜100μg(例:セレン酵母)。サプリ併用時は過量(400μg/日超)に注意。
    ※セレンは甲状腺眼症の進行抑制・QOL改善のエビデンスがありますが、長期投与の効果は個人差大。
  • 眼表面ケア:ヒアルロン酸点眼・夜間眼軟膏・就寝時のテーピング/保護眼鏡。就寝時は枕を高めに。
  • 全身コントロール:甲状腺機能の安定化(特にバセドウ病)、睡眠・ストレス管理、ドライアイ素因の同時対応。

2. ステロイド療法:静注/内服の使い分け

活動期の中等症~重症に検討。以下が使い分けの目安です。

静注メチルプレドニゾロン 内服プレドニゾロン
効果発現 速い(数日〜1週) やや遅い
副作用リスク 比較的低い(蓄積量依存) 高い(長期投与で顕著)
肝機能障害 要注意(週次モニタリング) 比較的少ない
標準的レジメン 週1回 × 12週(計4.5〜6g) 開始40〜60mg/日 → 漸減
適応優先 中等症〜重症・活動期 軽症〜中等症・静注不適応

モニタリング項目:肝機能・血糖・血圧・感染兆候・骨密度(長期例)。
反応性評価:炎症所見(疼痛・充血・浮腫・眼瞼後退の進行)と機能(複視・視力)で判断。必要に応じ放射線併用も検討します。


3. 生物学的製剤(テプロツムマブ・トシリズマブ)

従来のステロイド抵抗性や副作用が問題となる症例に対して、生物学的製剤が新しい治療選択肢として注目されています。

テプロツムマブ(Tepezza®)

  • 作用機序:インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)阻害薬。眼窩線維芽細胞の活性化を抑制。
  • 適応:活動期の中等症〜重症甲状腺眼症(米国FDA承認、本邦では未承認/臨床研究中)
  • 投与方法:静注、3週間ごと × 8回(24週間)
  • 効果:眼球突出度改善・複視改善・CAS低下(臨床試験で有意な効果)
  • 副作用:筋痙縮、聴覚障害(難聴・耳鳴り)、疲労、脱毛、下痢、高血糖
  • 注意:本邦では保険未承認のため、臨床試験への参加または自己負担(高額)となる可能性があります。

トシリズマブ(アクテムラ®)

  • 作用機序:IL-6受容体阻害薬。炎症性サイトカインカスケードを抑制。
  • 適応:ステロイド抵抗性の活動期甲状腺眼症(本邦では関節リウマチ・サイトカイン放出症候群などに承認、甲状腺眼症は適応外使用)
  • 投与方法:静注(4〜8mg/kg、4週ごと)または皮下注
  • 効果:CAS低下・眼球突出度改善・ステロイド減量効果(複数の症例報告・小規模試験で有効性示唆)
  • 副作用:感染症リスク上昇、肝機能障害、好中球減少、脂質異常症
  • 注意:甲状腺眼症に対する保険適応はなく、適応外使用となるため施設の倫理委員会承認や患者同意が必要です。

生物学的製剤の位置づけ

テプロツムマブ トシリズマブ
本邦承認状況 未承認(臨床研究中) 甲状腺眼症では適応外
エビデンスレベル ランダム化比較試験あり 症例報告・小規模試験
主な適応 活動期中等症〜重症TED ステロイド抵抗性TED
投与間隔 3週ごと × 8回 4週ごと(継続的)
コスト 非常に高額 高額(適応外のため保険適用外)

4. 放射線・手術:適応と順序

  • 眼窩放射線療法:活動期の炎症・浮腫、複視に対し有効性が期待される場合に検討(妊娠は不可)。単独よりステロイド併用で効果を高める戦略あり。
    ※効果発現まで数週間〜数ヶ月。糖尿病網膜症・高血圧性網膜症は注意。
  • 手術の基本順序(安定期):病勢が安定してから段階的に。
    1. 眼窩減圧術(突出/圧迫の改善)— 眼球突出度の軽減、視神経圧迫解除
    2. 斜視手術(複視の是正)— 眼筋バランスの調整
    3. 眼瞼手術(眼瞼後退・露出の是正)— 眼瞼縁の位置矯正

    美容と機能の両面を説明。手術間隔は少なくとも3〜6ヶ月以上空けるのが原則。

眼瞼手術の種類:眼瞼後退矯正術(Müller筋切除・外側翼状靭帯弛緩術など)、眼瞼形成術(皮膚切除・脂肪除去)、眼瞼下垂手術(挙筋前転術など)。


5. 画像診断(MRI/CT)の所見と意義

甲状腺眼症の診断・重症度評価・治療計画には画像診断が不可欠です。

MRI(推奨:眼窩専用プロトコル)

所見 意義
T2強調画像での高信号 活動性炎症(眼外筋の浮腫・炎症)→ ステロイド感受性が高い
T1強調画像での低信号 線維化・脂肪浸潤(非活動期)→ 手術適応が高い
造影効果の有無 活動性評価(造影される=活動期)
眼窩脂肪組織の増生 眼球突出の主因(脂肪優位型 vs 筋優位型)
視神経の圧迫・弯曲 視神経症のリスク評価

CT(骨評価・手術計画に有用)

所見 意義
眼窩骨壁の形態 眼窩減圧術の術前計画に必須
副鼻腔状態 手術アプローチの決定(経鼻内視鏡 vs 外側アプローチ)
眼外筋の肥厚パターン 下直筋・内直筋優位の肥厚(典型)
視神経管の狭窄 緊急減圧の必要性判断

画像診断のタイミング:初診時(確定診断・重症度評価)、治療効果判定(3〜6ヶ月ごと)、手術前(詳細な解剖評価)。


6. 視神経症の赤旗(至急対応)

以下の症状がある場合は同日評価・緊急対応が必要です。

  • 視力低下・色覚低下(特に赤の見え方が鈍い)
  • 視野異常(中心暗点・周辺視野欠損)
  • 相対的瞳孔求心路障害(RAPD)(スイングフラッシュライトテストで確認)
  • 眼痛を伴う急な増悪、著明な眼窩硬結
  • 眼底所見:視神経乳頭の発赤・腫脹・境界不明瞭

緊急対応フロー

  1. 疑う場合は至急対応(同日評価)
  2. 高用量静注ステロイド(メチルプレドニゾロン 500〜1000mg/日 × 3日連日など)
  3. 48〜72時間で反応不十分 → 緊急眼窩減圧術を検討

多職種(内分泌科・眼科・脳神経外科)で迅速に判断します。


7. 他院紹介基準

当院では以下の基準で専門施設との連携・紹介を行います。

紹介基準(専門施設へ)

  • 視神経症が疑われる/確定した症例(緊急紹介)
  • ステロイド抵抗性の活動期中等症〜重症(生物学的製剤検討のため)
  • 手術適応(眼窩減圧・斜視・眼瞼)の評価・実施
  • 放射線療法の適応検討
  • 重症複視で専門的なプリズム調整・斜視手術が必要な症例
  • 小児・思春期の甲状腺眼症
  • 妊娠合併例(産科・眼科連携が必要)

紹介先の選び方

治療内容 推奨診療科
ステロイドパルス療法・生物学的製剤 内分泌科・リウマチ科
眼窩放射線療法 放射線腫瘍科
眼窩減圧術 眼科(眼窩外科)・形成外科・脳神経外科
斜視手術 眼科(斜視専門)
眼瞼手術 眼科(眼形成)・形成外科

8. 妊娠・授乳に関する注意

  • 放射線療法は妊娠中不可。ステロイドは必要最小限・短期を基本に個別検討。
  • セレン補充:妊娠中の安全性は確立されていないため、原則中止または最小用量で慎重投与。
  • 生物学的製剤:妊娠中の安全性データは不十分。原則として妊娠中は避ける。
  • 甲状腺機能の安定化を優先。胎児・母体双方の安全性を最重視し、産科・眼科・内分泌で連携。
  • 妊娠計画がある場合は、治療前に必ず相談を。

9. 日常生活の工夫

  • 乾燥対策:加湿(室内湿度50〜60%)、頻回点眼(保存料なしが望ましい)、夜間保護(眼軟膏+眼帯/ゴーグル)。
  • 複視対策:臨時のプリズム眼鏡やアイパッチを検討(医師と相談)。フレネルプリズム(貼り付け式)は暫定対応に有用。
  • PC/読書:休憩(20-20-20ルール:20分ごとに20フィート先を20秒)、文字サイズ拡大・照明環境の調整(グレア防止)。
  • 紫外線対策:UVカット眼鏡の着用(症状悪化予防)。
  • 就寝時の体位:枕を高めに(眼窩浮腫軽減)。

10. 経過観察の目安

病期 観察頻度 主な評価項目
活動期(治療中) 2〜4週ごと CAS・視力・眼圧・複視
活動期(経過観察) 1〜3ヶ月ごと 炎症所見の変化、甲状腺機能
安定期(非活動期) 3〜6ヶ月ごと 眼球突出度・眼瞼後退量・複視の固定化
手術後 1・3・6ヶ月・1年 手術成績、残存症状、新たな問題

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 甲状腺眼症の活動期と安定期はどうやって見分けますか?
A. CAS(Clinical Activity Score)で評価します。
・活動期:CAS ≧ 3/7 または 4/10
・安定期:CAS 0〜2/7 で6ヶ月以上安定
詳細な評価項目はCAS評価シートを参照してください。
Q2. セレンはどれくらい続ければいいですか?効果がない場合は?
A. 標準的には6ヶ月間の補充を検討します。効果判定は3〜6ヶ月時点。軽症例ではQOL改善・進行抑制効果が期待できますが、効果が明らかでない場合は継続不要。過量(400μg/日超)は爪の脆弱化・脱毛・胃腸障害などの副作用があるため注意。
Q3. ステロイドの副作用が心配です。避けられませんか?
A. ステロイドは活動期の標準治療ですが、リスク管理が可能です。静注療法は内服より副作用が比較的少なく、短期間の投与で効果を狙えます。また、ステロイド不適応や効果不十分な場合は、眼窩放射線療法や生物学的製剤を検討する施設もあります。担当医とリスクベネフィットを相談してください。
Q4. 手術は必ず3つすべて受ける必要がありますか?
A. いいえ、必要なものだけを選択します。例えば、眼球突出が軽度で複視が主訴なら斜視手術のみ、突出が高度でも複視がなければ眼窩減圧のみ、など。順序は原則として「眼窩減圧→斜視→眼瞼」ですが、患者さんの状態や希望によりカスタマイズ可能です。
Q5. 甲状腺機能が正常でも眼症は悪化しますか?
A. はい。甲状腺機能正常でも眼症が進行・発症することがあります(euthyroid TED)。ただし、甲状腺機能の安定化は最も重要な予防因子の一つです。機能正常でも喫煙やセレン欠乏、ストレスなどが悪化因子となるため、生活介入は継続が必要です。
Q6. 放射性ヨウ素治療と甲状腺眼症の関係は?
A. 放射性ヨウ素(RAI)治療はバセドウ病に対して有効ですが、眼症を悪化させるリスクがあります(特に喫煙者・重症眼症例)。RAI実施前にはステロイド予防投与を併用するか、手術や抗甲状腺薬を優先的に検討します。RAI治療を検討中の方は必ず眼症の評価を受けてください。
Q7. メイクやコンタクトレンズは使用できますか?
A. コンタクトレンズはドライアイや眼表面障害がある場合は避けるべきです。眼軟膏使用中も不可。メイクは清潔なものを使用し、こすらないように注意。アイシャドウやアイライナーは直接眼瞼縁に触れないように。夜間はしっかりオフすることが重要です。
Q8. 治療にかかる費用はどのくらいですか?
A. 保険診療の範囲内であれば、ステロイド治療・放射線療法・手術は保険適用(ただし条件あり)。セレン補充は自費の場合が多いです。生物学的製剤(テプロツムマブなど)は保険未承認の施設が多く、高額になる可能性があります。具体的な費用は治療内容や保険の種類により異なるため、医療機関にご確認ください。
Q9. どのような場合に他院を紹介されますか?
A. 視神経症、ステロイド抵抗性、手術適応、放射線療法適応、重症複視、小児例、妊娠合併例などが紹介基準です。詳細は他院紹介基準をご参照ください。

ご相談・治療計画のご予約
☎ 047-467-5500
受付時間:診療時間に準じます/千葉県船橋市(しもやま内科)

👨‍⚕️ 執筆・監修

下山 立志(しもやま たつし)
院長/しもやま内科
資格:日本甲状腺学会 甲状腺専門医・日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・日本内科学会 総合内科専門医 ほか
最終更新日:2026-04-07(JST)

本ページは一般的な解説です。活動性・重症度・妊娠計画などにより方針は異なります。最終判断は担当医の説明・書面に従ってください。


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19/10/2025