📘 要点
- 思春期の甲状腺の病気は、橋本病とバセドウ病が中心です。
- 当院の診療対象は中学生以上(12歳〜)です。
- だるさ・動悸・体重変化・首の腫れは受診のきっかけになります。
- 橋本病はチラーヂンS、バセドウ病はメルカゾールなどで治療します。
- 治療開始後は2〜6週ごと、安定後は1〜3か月ごとに採血します。
- 動悸や体重減少が続くときは、早めに受診をご検討ください。
「学校の健康診断で甲状腺を指摘された」「朝どうしても起きられない」「部活で前より動悸がする」——中学生・高校生の時期に、甲状腺の病気が見つかることは少なくありません。本人は「なんとなく調子が悪い」と感じているだけでも、周りからは「やる気が出ない」と見えることがあり、見逃されやすい時期です。
思春期は、身長が伸び、体重が変わり、月経が始まるなど、体の仕組みが大きく変わる時期です。甲状腺ホルモンの必要量も増えるため、この時期に橋本病やバセドウ病が見つかることがあります。どちらも自己免疫が関わる病気で、思春期以降、とくに女子に多いことが知られています。
このページは、ご本人と保護者の方に向けて、症状・検査・治療・学校生活・成人診療への移行をまとめた入口のページです。気になるところから読み進めてください。
⚠️ 当院の診療対象について
当院は中学生以上(12歳~)の甲状腺疾患を対象としています。小学生以下(11歳以下)のお子様の場合は、小児科専門医のいる医療機関をご案内しています。くわしくは本文の「当院の診療体制」をご覧ください。
このページの役割
思春期(中学生・高校生)の甲状腺の病気について、症状・検査・治療・学校生活・成人診療への移行をまとめた入口のページです。病気ごとの詳しい解説や学校生活の実務は、下の関連ページで扱っています。
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思春期の甲状腺——気づきやすいサイン
甲状腺の病気は、「甲状腺ホルモンが足りない」か「多すぎる」かで症状の出方が大きく2つに分かれます。どちらも本人は「なんとなく体が重い」と感じる程度で、強い痛みはありません。だからこそ「思春期だから」「受験の疲れだろう」と流されやすいのです。
甲状腺ホルモンが足りないとき(橋本病側)
- 寝ても寝ても眠い、朝どうしても起きられない
- 休んでもだるさが抜けない
- 寒がりになった、夏でも長袖を着たがる
- 食事量は変わらないのに体重が増える
- 顔やまぶたがむくむ
- 「考えがまとまらない」と感じる、成績が下がる
- 女子では月経が来ない、間隔が乱れる、初経が遅い
- 身長の伸びが止まってきた、低身長を指摘された
甲状腺ホルモンが多すぎるとき(バセドウ病側)
- 動悸がする、心臓の鼓動が気になる
- 少し動いただけで息が上がる、持久力が落ちた
- 汗をかきやすい、暑がりになった
- 食べているのにやせていく
- 手がふるえる、落ち着かない、イライラしやすい
どちらでも気づかれるサイン
- 首の前が腫れている(制服の襟やネックレスがきつくなった)
- のどの違和感、飲み込みにくさが続く
- 学校の健康診断や血液検査で甲状腺を指摘された
ここに挙げた変化は、思春期には誰にでも起こりうるものです。ひとつだけなら様子を見てもよいでしょう。ただし3か月以上続く場合や、いくつも当てはまる場合は、一度検査を受けておくと安心です。血液検査と甲状腺エコーで、かなりのところまで見当がつきます。
橋本病(甲状腺機能低下症)とバセドウ病(甲状腺機能亢進症)の違い
思春期に見つかる甲状腺の病気の中心は、この2つです。名前は似ていますが、体の中で起きていることは正反対で、治療の方向も異なります。
| 項目 | 橋本病(甲状腺機能低下症) | バセドウ病(甲状腺機能亢進症) |
|---|---|---|
| 甲状腺ホルモン | 足りなくなる(低下) | 多くなりすぎる(亢進) |
| 主な症状 | だるさ・眠気・寒がり・体重増加・むくみ | 動悸・発汗・暑がり・体重減少・手のふるえ |
| 首(甲状腺)の状態 | びまん性に腫れることがある | 腫れて血流が増える |
| 血液検査の特徴 | TSHが高い・FT4が低い。抗Tg抗体・抗TPO抗体が陽性 | TSHが低い・FT4とFT3が高い。TRAbが陽性 |
| 治療の中心 | チラーヂンS(レボチロキシン)で足りない分を補う | メルカゾール(チアマゾール)やプロパジールで抑える |
| 治療の期間の目安 | 長期の補充が必要なことが多い | 2〜3年程度が目安。思春期は再発しやすい |
| 学校生活への影響 | 治療前は眠気・集中力の低下が目立つ | 治療前は動悸・疲れやすさ。暑さへの注意が必要 |
同じ「甲状腺の病気」でも薬の使い方はまったく違います。自己判断で薬をやめたり、量を変えたりしないでください。
症状はないけれどTSHが少し高いだけ、という状態(潜在性甲状腺機能低下症)が見つかることもあります。この場合は、数値の程度・抗体の高さ・身長の伸び・学校生活への影響をあわせて相談します。一度の採血だけで決めず、数週間おいて再検査することもあります。
診断の流れ
1. 問診と診察
身長・体重の推移(成長曲線)、学校生活や部活の様子、月経の状況、ご家族に甲状腺の病気の方がいるかをうかがいます。首の甲状腺を触って、大きさや硬さも確認します。成長の記録をお持ちいただけると判断の助けになります。
2. 血液検査
- TSH・FT4・FT3:甲状腺ホルモンの状態をみます。低下症か亢進症かの判断の基本になります。
- 抗Tg抗体・抗TPO抗体:自己免疫が関わっているか(橋本病の手がかり)を確認します。
- TRAb:バセドウ病の診断と、治療中の経過観察に用います。
- その他:貧血・肝機能・電解質など、必要に応じて一般採血も行います。
思春期は成長に伴って基準値の幅が変わるため、成人と同じ見方では判断できないことがあります。年齢を踏まえ、症状とあわせて総合的に判断します。
3. 甲状腺エコー(超音波検査)
甲状腺の大きさ・形・血流・しこりの有無を確認します。痛みはなく、数分で終わる検査です。橋本病では内部が全体的に変化して見えること、バセドウ病では血流が増えていることが特徴です。
4. 追加の検査が必要なとき
しこり(結節)が疑われる場合は、エコーで詳しく評価します。穿刺吸引細胞診(FNA)が必要と判断した場合は、連携する船橋市立医療センター耳鼻咽喉科へご依頼し、結果のご説明とその後の方針は当院が担当します。
5. 結果の説明と方針
検査結果をもとに、治療を始めるか経過を見ていくかを相談します。治療が不要な「経過観察」でよいことも少なくありません。学校行事・部活・受験の予定をうかがいながら通院の間隔を決めます。検査の内容は甲状腺検査でわかること、エコーは甲状腺エコーの流れと準備をご覧ください。
治療の基本
橋本病(甲状腺機能低下症)の治療
- チラーヂンS(レボチロキシン)を1日1回、足りない分を補います。
- 飲み方は朝、起床後すぐにコップ1杯の水で。空腹時のほうが吸収が安定します。
- 鉄剤・カルシウム剤・胃薬とは4時間以上あけてください。牛乳・豆乳などの直後の服用も吸収に影響します。
- 自己判断で中止すると、数週間で元の症状に戻ります。
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の治療
- メルカゾール(チアマゾール)またはプロパジールで、ホルモンが作られすぎるのを抑えます。
- 治療の期間は2〜3年程度がひとつの目安です。思春期は成人より再発しやすいとされています。
- 発熱やのどの強い痛みが出たときは、いったん薬を中止して早めにご連絡ください(白血球が減る副作用の可能性があります)。黄疸や強いかゆみ・発疹も早めにご相談ください。
- 手術や放射性ヨウ素治療は当院では行っておらず、18歳未満では原則として選択されにくい治療です。必要と判断した場合は専門施設へご紹介します。
通院の目安
- 治療を始めた直後は2〜6週ごとに採血し、薬の量を調整します。
- 落ち着いてきたら1〜3か月ごと、安定してくれば3〜6か月ごとが目安です。
- 定期試験・大会・受験の予定は早めにお伝えください。採血の日を調整し、薬を多めにお渡しします。
薬の注意点は甲状腺薬の副作用、通院の考え方は甲状腺疾患のフォローアップで解説しています。
学校生活・部活・受験との両立
体育・部活
甲状腺の病気があっても、基本的には普通に学校生活を送ることができます。バセドウ病では心拍数が上がりやすく、治療前や薬の調整中は疲れやすいことがあります。橋本病でも、治療を始めた直後は少し疲れやすい時期があります。配慮が必要な場合は診断書を作成します。
暑さ対策
甲状腺ホルモンが多い状態(バセドウ病)では、体温が上がりやすく熱中症のリスクがやや高まります。夏の屋外活動では、こまめな水分と休憩、帽子の使用を心がけてください。
服薬のタイミング
朝の支度の流れに組み込むと忘れにくくなります。学校で服薬が必要な場合は、保健室で預かってもらうか担任に伝えておきましょう。修学旅行や合宿では薬を多めに持参し、服用のタイミングを本人が把握できるようにしておきましょう。
学校への伝え方
担任と保健室の先生に、次の3点を伝えておくと安心です。
- 病名(例:橋本病・バセドウ病)
- 薬の内容と服用のタイミング(例:毎朝、食前に1回)
- 体調が悪いときの対応と連絡先
たとえば「甲状腺の病気で治療中です。朝、食前に薬を飲んでいます。動悸が出たときは無理をせず休ませてください」といった短い伝え方で十分です。すべてを話す必要はなく、本人が話したくない場合は、保健室と共有するところから始めてもよいでしょう。
受験期の過ごし方
睡眠時間を削っての勉強は、体調にも良い影響はありません。試験の直前でも服薬は続けてください。受験の数か月前に受診し、体調が安定した状態で本番を迎えられるよう通院のタイミングを調整します。くわしくは学校生活・部活での配慮をご覧ください。
成人診療への移行(高校卒業前後〜大学生)
思春期の甲状腺診療は、成長が終わり、自分で生活を管理する力がついてきたら成人の診療へ引き継ぎます。目安は高校卒業前後から大学生の時期で、進学や就職で生活が変わるときが区切りになります。
- 移行前に整理するもの:お薬手帳、直近の検査結果、紹介状、学校での配慮内容
- 自分でできるようになりたいこと:薬を続ける、採血の予定を自分で管理する、体調の変化をメモする、体調が悪いときに自分で受診を決める
- 連携先:大学の保健管理センター、就職後の産業医。通院や採血の時間の調整を相談できます
- 将来の妊娠を考えるとき:甲状腺の機能を安定させておくことが大切です。妊娠を希望するときは事前にご相談ください
引き継ぎの実際の流れは成人診療への移行(トランジション)をご覧ください。
当院の診療体制
- 当院の甲状腺診療の対象は中学生以上(12歳〜)です。中学生・高校生の診断と治療を行っています。
- 小学生以下(11歳以下)の診療は行っていません。小児科専門医のいる医療機関をご案内しています。
- このページを含め、小児期の甲状腺疾患についての医学解説は「一般医学情報」として掲載しているものです。当院が診療していない年齢の内容も含まれます。
- 当院で行っていること:問診・診察、血液検査(TSH・FT4・FT3・抗体など)、甲状腺エコー、薬物治療(チラーヂンS・メルカゾール・プロパジール)、経過観察、連携機関との調整。甲状腺エコーは年間約480件(2025年度実績)を行っています。
- 当院では行っていない医療:穿刺吸引細胞診(FNA)は連携する船橋市立医療センター耳鼻咽喉科へご依頼します。手術と放射性ヨウ素治療は行っておらず、専門施設をご案内します。骨密度のDXA測定は行っておらず、当院ではMD法での測定となります。
- 診察は保護者の同席でも、本人おひとりでも構いません。
よくある質問
Q. 思春期に甲状腺の病気は多いのでしょうか?
A. 甲状腺の病気が出やすい時期のひとつです。学校の健康診断や別の理由で受けた血液検査で見つかることがあります。橋本病とバセドウ病が中心で、女子に多い傾向があります。
Q. 甲状腺の病気は遺伝しますか?
A. かかりやすさの体質が遺伝するとされていますが、家族に同じ病気の方がいても、必ず発症するわけではありません。ご家族に患者さんがいる場合は、症状の有無を気にかけておきましょう。
Q. 薬を飲むと身長の伸びや成長に影響しますか?
A. 適切な量で甲状腺機能を保つことが、成長には必要です。治療そのものが成長を止めることはありません。治療が遅れると、身長の伸び悩みや思春期の発来の遅れにつながることがあります。
Q. 薬を飲み忘れたらどうすればよいですか?
A. チラーヂンS(レボチロキシン)は朝の空腹時に服用します。その日のうちに気づいたら、その時点で服用して構いませんが、翌日に2日分をまとめて飲むのは避けてください。抗甲状腺薬も、気づいた時点で服用し、次回は通常どおりで構いません。いずれも鉄剤・カルシウム剤とは4時間以上あけてください。
Q. 部活や体育、修学旅行に参加できますか?
A. 多くの場合は参加できます。バセドウ病では動悸が出やすく、治療前や薬の調整中は疲れやすいことがあるため、顧問の先生に伝えたうえで無理のない範囲で活動しましょう。修学旅行には薬を多めに持参し、服用のタイミングを決めておくと安心です。配慮が必要な場合は診断書を作成します。
Q. 学校にはどこまで伝えればよいですか?
A. 担任の先生と保健室の先生に、病名・薬の内容と服用のタイミング・体調不良時の対応と連絡先の3点を伝えておくと安心です。すべてを話す必要はなく、本人が話したくない場合は、必要最小限の内容を保健室と共有するところから始めてもよいでしょう。
Q. バセドウ病の治療はいつまで続きますか?
A. 一般に2〜3年程度が目安です。思春期は成人より再発しやすいとされており、薬を終えた後も定期的な採血で経過を見ます。再発した場合も、ふたたび薬で治療します。
Q. 大人になっても通院は必要ですか?
A. 橋本病でチラーヂンSを服用している場合は、長期の服用が必要なことが多くあります。バセドウ病では、寛解した後も経過観察が続きます。進学・就職を機に、成人診療へ引き継ぐ準備を進めます。くわしくは成人診療への移行をご覧ください。
Q. 小学生の子どもは受診できますか?
A. 当院の診療対象は中学生以上(12歳〜)です。小学生以下(11歳以下)の方は診療を行っておらず、小児科専門医のいる医療機関をご案内しています。
Q. どんなときに急いで受診すればよいですか?
A. 高熱と1分間に140回以上の脈が続き、意識がもうろうとするとき、首が急に腫れて呼吸が苦しいときは、すぐに119番へのご連絡をおすすめします。橋本病で強い眠気や体温35度以下が続くときも、早めにご連絡ください。
参考文献
- 日本甲状腺学会 編「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」.
- 日本小児内分泌学会・日本甲状腺学会「小児期発症バセドウ病診療のガイドライン2016」.
- American Thyroid Association (ATA). “2016 Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.” Thyroid, 2016;26(10):1343-1421.
- American Thyroid Association (ATA). “2026 Guidelines for Thyroid Disease in Preconception, Pregnancy, and Postpartum.”
※本ページは一般的な医学情報に基づきます。最終的な治療方針は担当医の判断によります。思春期は体重や成長の変化で薬の必要量が変わるため、自己判断での増減・中止は行わないでください。
関連ページ
- 子どもの甲状腺疾患(総論) ― 症状と受診の目安
- 思春期の橋本病・甲状腺機能低下症 ― 症状と薬の調整
- 思春期のバセドウ病 ― 治療と学校生活
- 学校生活・部活での配慮 ― 体育・熱中症・試験前
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- 亜急性甲状腺炎 ― 首の痛み・発熱があるとき
- 甲状腺検査でわかること ― 血液検査とエコー
- 甲状腺の病気に関するよくある質問
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診療時間外の緊急時は、すぐに119番へのご連絡をおすすめします
最終更新日:2026-09-19
👨⚕️ この記事の監修医師
監修・執筆:しもやま内科 院長(日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医/日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。