📘 要点
- 妊娠初期の動悸や脈の速さは、GTTの可能性があります。
- GTTはhCGによる一過性の甲状腺刺激で、バセドウ病とは異なります。
- 妊娠8〜12週頃に多く、多くは妊娠中期に自然に軽快します。
- バセドウ病との鑑別には、TRAbなどの検査が有用です。
- 胎児への影響はほとんどなく、抗甲状腺薬は原則不要です。
- 動悸や息切れ、意識の変調があるときは119番へのご連絡をおすすめします。
「妊娠して8週なんですが、つわりがひどくて脈も早いんです……これって大丈夫ですか?」——妊娠初期に、このような不安を抱えて受診される方は少なくありません。実は、妊娠初期にはhCGというホルモンの影響で、一過性の甲状腺機能亢進症が起こることがあります。これを「妊娠時一過性甲状腺機能亢進症」と言いますが、多くの場合は妊娠中期に自然に改善します。つまり、胎児に影響を与えることなく穏やかに経過することがほとんどなんです。
このページの役割
妊娠初期の動悸・脈が速い・つわりの背景のひとつである、妊娠性一過性甲状腺機能亢進症(GTT)について解説しています。バセドウ病との区別が重要になるため、関連ページもあわせてご覧ください。
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妊娠時一過性甲状腺機能亢進症とは
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症(gestational transient thyrotoxicosis, GTT)は、妊娠初期(特に妊娠8〜12週頃)にみられる一過性の甲状腺機能亢進状態です。これは hCG が甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に作用し、甲状腺ホルモン産生を一時的に亢進させるために生じます[1]。
重要なポイント:GTT は妊娠中の生理的な変化の一つであり、多くの場合は特別な治療をせずとも自然に治まります。胎児への影響もほとんどなく、安心して経過を見守ることができます。
症状と臨床像——動悸・脈が早い・つわりとの関係
多くは悪阻の強い妊婦に合併し、動悸、体重減少、発汗などの甲状腺亢進症状を呈します。ただし症状はつわりの一部と重なるため、甲状腺疾患として見逃されやすい特徴があります[2]。
ただし、多くは軽度で、つわりが治まると同時に甲状腺ホルモン値も正常化していきます。
動悸はいつまで続く?——週数別のめやす
GTT の症状は、hCG がピークになる時期に出やすく、つわりが落ち着くにつれて軽くなっていきます。経過のめやすをまとめました。
| 時期 | 動悸・脈のめやす | この時期の考え方 |
|---|---|---|
| 妊娠8〜12週 | 最も出やすい | hCGがピーク。つわりが強い時期で、動悸・発汗・体重減少が出ることがあります |
| 妊娠12〜16週 | つわりと一緒に軽くなりはじめる | 甲状腺ホルモン値も下がりはじめる時期です |
| 妊娠16〜20週 | 多くの方は気にならなくなる | 自然に正常化していく時期です |
| 妊娠20週以降も続く | 別の原因を検討 | バセドウ病・貧血・不整脈などの確認が必要になることがあります |
経過には個人差があります。上記はめやすであり、診断は採血(TSH・FT4・TRAb)で行います。
妊娠中の脈が早い・動悸はよくあること?
妊娠すると血液量が増え、心臓が送り出す血液の量も増えるため、安静時の脈拍が妊娠前より1分あたり10〜20回ほど多くなることがあります。これは妊娠に伴う生理的な変化で、多くの場合心配はいりません。
そこに GTT による甲状腺ホルモンの上昇が重なると、動悸や脈の速さがより強く感じられます。次のような場合は GTT 以外の原因も考えられるため、受診して確認しましょう。
- 安静にしていても脈が速く、息苦しさや胸の痛みを伴う
- 体重が急に減る、発汗が強い、手指のふるえがある
- 嘔吐が続いて水分がとれない(脱水が疑われる)
- 意識がぼんやりする、立っていられない
- 妊娠中期以降も動悸が続く、あるいは強くなる
受診の際は、いつから・どのくらい続いているか、つわりの程度、体重の変化をメモしておくと診察がスムーズです。
動悸がつらいときの対処
GTT は多くの場合、治療を必要としません。つらいときは次のような工夫を試してください。
- こまめな水分補給(つわりで飲みにくいときは、少しずつ頻回に)
- カフェイン(コーヒー・緑茶・エナジードリンク)を控える
- 起き上がるときはゆっくり動作し、つらいときは横になって休む
- 締め付けの少ない服装、涼しい環境で過ごす
つわりが強く水分がとれない場合や動悸が強い場合は、補液や制吐剤などの支持療法を行うことがあります。自己判断で抗甲状腺薬を使うことはありません。
バセドウ病との見分け方
GTT はTRAb(TSH受容体抗体)陰性であり、通常は甲状腺腫大や眼症も認めません。一方、バセドウ病では TRAb 陽性で持続的な甲状腺ホルモン高値がみられます[1][2]。このため、初診時には甲状腺自己抗体の測定と経過観察が重要です。
| 比較項目 | GTT(一過性) | バセドウ病 |
|---|---|---|
| TRAb抗体 | 陰性 | 陽性 |
| 眼症 | なし | あり(場合により) |
| 甲状腺腫 | 軽微またはなし | 中等度〜著明 |
| 経過 | 自然軽快する | 持続または進行 |
| 治療 | 原則不要 | 抗甲状腺薬が必要 |
治療と経過
多くの症例は自然軽快するため、抗甲状腺薬は不要です。重度の妊娠悪阻に対しては補液や制吐剤などの支持療法を行います。甲状腺ホルモン値は妊娠中期以降に自然に正常化します[2]。
胎児への影響
GTT 自体は胎児に悪影響を与えることはほとんどありません。むしろ過剰な薬物治療が胎児の甲状腺機能低下を引き起こす可能性があるため、不要な抗甲状腺薬投与は避けるべきです[1]。
つまり、GTT は「治療しないこと」が胎児を守る最善の方法なのです。
よくある質問(FAQ)
妊娠悪阻と甲状腺の関係は?
hCG が高値となる妊娠初期に、つわりとともに一過性の甲状腺機能亢進が起こることがあります。これを妊娠時一過性甲状腺機能亢進症と呼びます。
バセドウ病とどう見分けますか?
TRAb(TSH受容体抗体)が陰性で、甲状腺腫や眼症がない場合は GTT が疑われます。ホルモン値も時間とともに自然軽快する点が特徴です。
治療は必要ですか?
原則として抗甲状腺薬は不要で、補液や制吐剤など支持療法が中心です。
胎児への影響はありますか?
GTT そのものが胎児に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。ただし抗甲状腺薬の過剰投与は胎児に影響を与える可能性があるため注意が必要です。
どのくらいで治まりますか?
多くは妊娠中期以降に自然に正常化します。
妊娠初期に動悸がするのですが、つわりとGTTの見分け方がわかりません
つわり(悪阻)とGTTによる動悸は区別が難しいことがあります。一般的に、GTTでは甲状腺ホルモン(FT4)が上昇しTSHが低下する一方、つわり単独では甲状腺ホルモンは正常範囲内です。また、GTTの動悸は安静時にも感じやすく、体重減少や発汗を伴うことが多いのが特徴です。採血での確認が最も確実な鑑別方法です。
妊娠初期に脈が早いのですが、胎児に影響はありますか?流産が心配です
GTTによる一過性の脈拍上昇が直接胎児に悪影響を及ぼしたり流産の原因になることはほとんどありません。心配な場合は、甲状腺機能検査(TSH・FT4・TRAb)と産科的な評価を併せて受けることをおすすめします。GTTと診断された場合、多くは妊娠中期までに自然に改善し、胎児の発育にも影響を与えません。
つわりがひどくて甲状腺の数値が高いと言われました。治療が必要ですか?
つわりが強い時期に甲状腺ホルモンが軽度高値になるのは、hCGの影響による一過性の変化であることが多く、GTTの可能性が高いです。この場合、抗甲状腺薬は原則不要で、つわりに対する支持療法(補液・制吐剤など)が中心となります。ただし、バセドウ病の可能性を除外するためにTRAb検査を受けることをおすすめします。
妊娠初期に動悸がするのは普通のことですか?
妊娠中は血液量が増えるため、動悸や脈の速さを感じやすくなります。加えて妊娠初期には hCG の影響で一過性の甲状腺機能亢進(GTT)が起こることがあり、つわりが強い方では動悸・発汗・体重減少を伴うことがあります。多くは妊娠中期までに自然に軽くなりますが、症状が強い場合は採血で確認します。
動悸はいつまで続きますか?
GTT による動悸は、hCG がピークとなる妊娠8〜12週頃に出やすく、つわりが落ち着く妊娠12〜16週頃から軽くなり、多くは妊娠中期までに気にならなくなります。妊娠20週以降も続く場合や症状が強くなる場合は、バセドウ病や貧血など別の原因を確認します。
妊娠中は脈が早くなるものですか?
はい。妊娠すると血液量が増え、安静時の脈拍が妊娠前より1分あたり10〜20回ほど多くなることがあります。これは生理的な変化です。安静時にも脈が速く息苦しさを伴う、体重が急に減る、意識がぼんやりするといった場合は、早めに受診してください。
動悸がつらいときはどうすればよいですか?
こまめな水分補給、カフェインを控える、ゆっくり動作する、涼しい場所で休むといった工夫が役立ちます。つわりが強く水分がとれない場合や動悸が強い場合は、補液や制吐剤などの支持療法を行うことがありますので、早めにご相談ください。
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しもやま内科(船橋市)
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執筆・監修
根拠・参考
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」
- ATA Guidelines 2026(妊娠・産後の甲状腺疾患管理)
対象と目的
妊娠初期の甲状腺機能異常が疑われる方へ、鑑別の考え方と受診の目安を提示します。
参考文献
- 2026 Guidelines for Thyroid Disease in Preconception, Pregnancy, and Postpartum Thyroid. 2026;36(5):481-544.
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」.
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電話予約:047-467-5500
参考文献
- 日本甲状腺学会 編『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』
- American Thyroid Association (ATA) 2026 Guidelines for Thyroid Disease in Preconception, Pregnancy, and Postpartum(2026)
- Kimura M, Amino N, et al. “Transient thyrotoxicosis in apparent normal pregnancy.” Thyroid. 2003;13(11):1053-1056
- Goodwin TM, Montoro M, et al. “Transient gestational hyperthyroidism: a review.” Thyroid. 2013;23(7):772-783
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最終更新日:2026-10-09
👨⚕️ この記事の監修医師
監修・執筆:しもやま内科 院長(日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医/日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。