バセドウ病(甲状腺機能亢進症)とメルカゾール|原因・症状・副作用・寛解率を専門医が解説|しもやま内科

📘 まず結論

  • バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です
  • 主な症状は動悸・手の震え・体重減少・多汗・イライラです
  • 原因はTRAb抗体が甲状腺を刺激することです
  • 治療の第一選択は薬物療法(メルカゾール・チウラジール)です
  • 半数の方が2〜3年で寛解(薬を止められる状態)します
  • 副作用として肝機能異常・白血球減少・無顆粒球症に注意が必要です
  • 甲状腺クリーゼ(高熱・頻脈・意識障害)は救急疾患です

「最近動悸が激しい」「手が震えて字が書きにくい」「汗が止まらない」「食べても体重が減る」——こんな症状でお困りではありませんか?

これらはバセドウ病(甲状腺機能亢進症)の典型的な症状です。バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、日本では100人に1〜2人の割合で発症します。女性に多く、20〜40代で発症しやすいことが特徴です。

当院では、日本甲状腺学会専門医である院長が、正確な診断と一人ひとりに合わせた治療を行っています。年間480件以上の甲状腺診療実績があり、バセドウ病の治療にも豊富な経験があります。

このページでは、バセドウ病の症状・原因・検査・治療・寛解の可能性・副作用・妊娠中の注意点までを詳しく解説します。

バセドウ病の主な症状

バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰になることで、体の代謝が亢進します。以下のような症状が複数ある場合は、早めの受診をおすすめします。

代表的な症状

  • 動悸・頻脈:安静時でも心拍数が90回以上になることが多いです
  • 手の震え(細震):字が書きにくい、箸が持ちにくい
  • 多汗・暑がり:汗をたくさんかく、夏でなくても暑い
  • 体重減少:食欲があるのに体重が減る
  • イライラ・不安感:集中できない、落ち着かない
  • 不眠:眠りが浅い、寝付きが悪い
  • 疲労感:疲れやすいのに落ち着かない
  • 下痢・頻便:便の回数が増える

特徴的な症状

  • 甲状腺腫:首の前が腫れる(びまん性腫大)
  • 眼球突出・眼症状:目が飛び出る、目が乾く、複視(バセドウ病眼症)
  • 脛前粘液水腫:すねの皮膚が厚くなる(稀)

これらの症状は徐々に現れることが多く、「疲れやすいだけ」「ストレスのせい」と思い込んで受診が遅れるケースも少なくありません。症状が複数ある場合は、血液検査で甲状腺機能を調べることが大切です。

バセドウ病の原因とメカニズム

バセドウ病は自己免疫疾患の一種です。本来、体を守るはずの免疫システムが誤作動を起こし、TRAb(TSH受容体抗体)という抗体が産生されます。

TRAbは甲状腺のTSH受容体に結合し、甲状腺を過剰に刺激します。その結果、甲状腺ホルモン(FT4・FT3)が大量に分泌され、全身の代謝が亢進します。

なぜ自己免疫反応が起きるの?

正確な原因は不明ですが、以下の要因が関与していると考えられています。

  • 遺伝的素因:家族に甲状腺疾患がある場合、発症リスクが高い
  • 環境要因:ストレス、感染症、喫煙、ヨウ素の過剰摂取
  • ホルモンバランスの変化:妊娠・出産・更年期など

特に喫煙はバセドウ病の発症リスクを高め、眼症(眼球突出)を悪化させることが知られています。喫煙されている方は禁煙をおすすめします。

バセドウ病の検査

バセドウ病の診断には、以下の検査を行います。

1. 血液検査

  • TSH(甲状腺刺激ホルモン):低値(0.1 mIU/L未満)
  • FT4(フリーT4):高値
  • FT3(フリーT3):高値
  • TRAb(TSH受容体抗体):陽性(バセドウ病の確定診断に重要)
  • TSI(甲状腺刺激免疫グロブリン):陽性(TRAbと同様)
  • 肝機能・白血球数:治療開始前のベースライン確認

2. 甲状腺超音波検査(エコー)

甲状腺の大きさ・形・血流を確認します。バセドウ病では甲状腺がびまん性に腫大し、血流が豊富になる特徴があります。

3. アイソトープ検査(必要に応じて)

甲状腺の機能亢進を確認するため、放射性ヨウ素を用いた検査を行うことがあります。妊娠中は実施できません。

バセドウ病の治療

バセドウ病の治療は主に以下の3つです。患者さんの年齢・症状の重さ・妊娠希望の有無・生活習慣などを総合的に判断し、最適な治療を選択します。

1. 薬物療法(抗甲状腺薬)

最も多く選択される治療法です。甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を服用します。

主な薬剤

  • メルカゾール(一般名:チアマゾール):第一選択薬。効果が強く、副作用も比較的少ない
  • チウラジール(一般名:プロピルチオウラシル):妊娠初期やメルカゾールで副作用が出た場合に使用

メルカゾールの作用機序

メルカゾールは、甲状腺内でヨウ素が甲状腺ホルモンに変わる過程を阻害します。具体的には、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)という酵素の働きを抑えることで、ホルモンの合成を抑制します。

用量と期間

  • 初期用量:メルカゾール 15〜30 mg/日(症状の重さによる)
  • 維持用量:5〜10 mg/日(症状が安定した後)
  • 治療期間:2〜3年(約半数の方が寛解)

副作用と注意点

メルカゾールの主な副作用は以下の通りです。

  • 肝機能異常:定期的な血液検査でモニタリング
  • 白血球減少・無顆粒球症:発熱・喉の痛みがある場合はすぐに受診
  • 発疹・かゆみ:軽度の場合は抗ヒスタミン薬で対応
  • 関節痛:稀ですが、症状が強い場合は薬の変更を検討

無顆粒球症は最も重篤な副作用で、白血球が極端に減少し、感染症にかかりやすくなります。発熱・喉の痛み・口内炎がある場合は、速やかに受診してください。

2. 放射性ヨード治療

放射性ヨウ素(ヨウ素131)をカプセルで服用し、甲状腺細胞を破壊する治療法です。

  • 適応:薬でコントロールしにくい場合、再発を繰り返す場合、高齢の方
  • 効果:甲状腺機能が低下し、甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)の服用が必要になることが多い
  • 注意点:妊娠中・授乳中は実施不可。治療後6ヶ月は妊娠を避ける

3. 手術(甲状腺亜全摘出術)

甲状腺の一部または全部を切除する手術です。

  • 適応:大きな甲状腺腫がある場合、妊娠希望ですぐに完治したい場合、薬で副作用が出る場合
  • 効果:即効性があり、再発リスクが低い
  • 注意点:術後は甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)の终身服用が必要

寛解(完治)の可能性

バセドウ病は、約半数の方が薬を2〜3年続けた後に寛解(かんかい:薬を止められる状態)します。

寛解しやすい条件:

  • 初期の甲状腺腫が小さい
  • TRAbの値が低い
  • 治療開始後、早期に甲状腺機能が正常化
  • 喫煙していない

寛解後も再発する可能性があるため、定期的なフォローアップが重要です。再発率は約30〜50%とされています。

妊娠中のバセドウ病

妊娠中もバセドウ病の治療は可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 薬の種類:妊娠初期はチウラジールを優先(メルカゾールは胎児の皮膚形成異常のリスクが指摘されている)
  • 用量調整:妊娠中は甲状腺ホルモンの需要が増えるため、用量を調整
  • TRAbのモニタリング:TRAbが胎盤を通過し、胎児の甲状腺に影響する可能性がある
  • 産科との連携:当院では産科と連携しながら安全に管理

妊娠を希望する方は、事前に甲状腺機能を安定させておくことが大切です。妊娠が判明したら、速やかに受診してください。

甲状腺クリーゼ(緊急性の判断)

甲状腺クリーゼは、バセドウ病が急激に悪化した救急疾患です。死亡率が高いので、早期発見・早期治療が重要です。

甲状腺クリーゼの症状

  • 高熱(39℃以上)
  • 頻脈(1分間に140回以上)
  • 意識障害(もうろうとする、興奮する)
  • 心不全(息切れ、むくみ)
  • 消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、黄疸)

甲状腺クリーゼが疑われる場合

以下の場合は、すぐに救急外来を受診してください。

  • 高熱+頻脈+意識障害がある
  • 息切れが強く、座っていないと呼吸が苦しい
  • 黄疸(目が黄色い)がある

甲状腺クリーゼは、ストレス・感染症・手術・放射性ヨード治療などが引き金になることがあります。バセドウ病の治療中は、これらの誘因を避けることも大切です。

よくあるご質問

Q. バセドウ病の原因は何ですか?

バセドウ病は自己免疫疾患で、自分の免疫システムが誤って甲状腺を刺激する抗体(TRAb:TSH受容体抗体)を作り出してしまうことが原因です。この抗体が甲状腺を常に刺激するため、甲状腺ホルモン(T3・T4)が過剰に産生されます。発症には遺伝的素因が関わっており、家族歴がある方はリスクが高まります。また、ストレス・出産・感染症・喫煙などが引き金になることがあります。女性に多く(男性の約5倍)、20〜40代での発症が多いのも特徴です。

Q. バセドウ病の初期症状は?セルフチェックできますか?

バセドウ病の初期症状:(1)動悸・脈が速い(安静時100以上)(2)手の震え・細かい震えが出る (3)異常に汗をかく・暑がりになる (4)食べているのに体重が減る (5)イライラ・不安・落ち着かない (6)眠れない・疲れやすい (7)首の前が腫れてきた (8)便の回数が増えた。セルフチェックの目安:「最近、イライラして周りに当たりやすい」「暑いわけじゃないのに汗をかく」「体重が減っているのに食べている」などの変化があれば、バセドウ病の可能性があります。

Q. メルカゾール(チアマゾール)の効果と飲み方を教えてください

メルカゾール(一般名:チアマゾール)はバセドウ病の第一選択薬で、甲状腺でのホルモン産生を抑える働きがあります。飲み方:(1)初期は1日3回(15〜30mg/日)で開始 (2)効果が出始めるまで2〜4週間 (3)甲状腺機能が正常化したら維持量(5mg/日程度)に減量 (4)効果判定はTSH・FT4・FT3の血液検査で行う。メリットは飲むだけで治療できること、デメリットは副作用のリスク(無顆粒球症・肝障害)と、再発率が高い(寛解率約50%)ことです。治療期間は通常1〜2年程度で、その後寛解か再発かの判定を行います。

Q. メルカゾールの副作用で特に注意すべきものは?

メルカゾールの副作用で最も注意すべきは「無顆粒球症」(白血球の一種である好中球が激減する)です。症状は突然の高熱・咽頭痛・倦怠感で、服用開始から2〜3ヶ月以内に起こることが多いため、この期間は特に注意が必要です。また、肝機能障害(AST/ALT上昇)、皮疹(じんましん・発疹)、関節痛、味覚異常などの副作用もあります。無顆粒球症は緊急対応が必要なため、メルカゾール服用中に「急な高熱が出た」場合はすぐに医療機関に連絡してください。定期的な血液検査でモニタリングします。

Q. バセドウ病は完治しますか?寛解率はどのくらい?

バセドウ病は薬物治療により「寛解」(症状が消失し、薬が不要になる状態)を目指せます。薬物治療による寛解率は約50%(1〜2年の治療後)とされています。寛解した場合も再発の可能性があり、特に治療中止後1年以内の再発が多いです。寛解しなかった場合や再発を繰り返す場合は、手術(甲状腺亜全摘/全摘)や放射性ヨウ素内用療法(RAI療法)が選択されます。これらの根治的治療後は甲状腺機能低下症になり生涯チラーヂン補充が必要ですが、バセドウ病そのものの再発はほぼなくなります。

Q. メルカゾールとヨウ化カリウムの併用療法とは?

メルカゾールとヨウ化カリウムの併用療法は、特に甲状腺機能が非常に高い重症バセドウ病や、手術前の甲状腺機能の速やかな正常化を目指す場合に行われます。ヨウ化カリウムは甲状腺ホルモンの放出を抑制し、甲状腺への血流を減らす効果があり、メルカゾールと併用することでより速やかに甲状腺機能を正常化できます。特に手術前の準備として用いられることが多く、手術の7〜10日前から併用開始します。ただし、ヨウ化カリウム単独では効果が一時的で、長期使用はかえって病状を悪化させるため、単独での長期使用はしません。

Q. バセドウ病の食事で気をつけることは?

バセドウ病の食事で気をつける点:(1)ヨウ素の過剰摂取を避ける(昆布・わかめなどの海藻類を大量に食べない)(2)カフェインの摂取を控える(動悸・不安を悪化させる)(3)十分なカロリーと栄養を取る(代謝が亢進しているため、体重減少が激しい場合は栄養補給が必要)(4)アルコールは控えめに。特に治療開始初期は甲状腺機能が高いため、刺激物(カフェイン・アルコール・香辛料)は控えめにしましょう。バセドウ病の食事療法で最も重要なのは「ヨウ素制限」と「カフェイン制限」です。

Q. バセドウ病の手術が必要になるのはどんな時?

バセドウ病の手術(甲状腺亜全摘/全摘)が検討されるのは以下の場合:(1)薬物治療で寛解しない(1〜2年治療しても効果不十分)(2)薬の副作用(無顆粒球症など)で内服継続不可 (3)再発を繰り返す (4)大きな甲状腺腫による圧迫症状(呼吸・嚥下困難)(5)妊娠を希望する女性(RAIは避けたい)(6)甲状腺がん合併が疑われる。手術ではほぼ確実にバセドウ病を根治できますが、全摘の場合は生涯チラーヂン補充が必要です。手術のリスクとしては声帯麻痺(反回神経損傷)・低カルシウム血症(副甲状腺損傷)があり、熟練した外科医の手術が重要です。

Q. バセドウ病と妊娠の関係は?妊娠中に薬は飲める?

バセドウ病の妊娠は以下の点に注意が必要です:(1)妊娠前:TSH・FT4を正常化してから妊娠計画(メルカゾールは妊娠初期に催奇形性リスクあり)(2)妊娠初期(4〜12週):メルカゾールは避け、プロパジール(PTU)に変更するのが標準 (3)妊娠中期以降:プロパジールまたはメルカゾールを慎重に使用 (4)産後:バセドウ病の再発リスクが高いため注意。特に注意すべきは「妊娠初期に甲状腺機能を正常に保つこと」で、胎児の脳発達に母体の甲状腺ホルモンが必須だからです。バセドウ病で妊娠を希望する方は、必ず事前に主治医と相談の上、計画的に妊娠してください。

監修:しもやま内科 院長 下山立志(総合内科専門医・糖尿病専門医・循環器専門医・甲状腺専門医)

最終更新日:2026年8月23日

🚨 緊急を要する場合: 急な高熱・強い動悸(脈拍120以上)・意識がもうろうとする・嘔吐を伴う症状がある場合は甲状腺クリーゼの可能性があります。ためらわずに 119番(救急車)へ連絡してください。

⚠️ 緊急性の判断

  • 高熱(39℃以上)+頻脈(1分間に140回以上)+意識障害 → 救急車を呼んでください(甲状腺クリーゼの可能性があります)
  • 発熱+喉の痛み+口内炎 → 速やかに受診してください(無顆粒球症の可能性があります)
  • 息切れが強く、座っていないと呼吸が苦しい → 救急外来を受診してください
  • 上記以外の症状は、通常予約で受診いただけます

参考文献

  • 日本甲状腺学会 編集「甲状腺疾患診療ガイドライン 2022」
  • American Thyroid Association (ATA). “Guidelines for the Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.” Thyroid, 2016;26(10):1343-1421
  • Ross DS, et al. “2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.” Thyroid, 2016;26(10):1343-1421
  • Wiersinga WM, et al. “Graves’ disease.” Nature Reviews Disease Primers, 2018;4:18024
  • 関連ページ

    🩺 医療者向け補足:バセドウ病の治療アルゴリズム

    治療選択の基準

    • 薬物療法:初発例、若年者、妊娠希望者
    • 放射性ヨード治療:再発例、高齢者、薬で副作用が出る場合
    • 手術:大きな甲状腺腫、妊娠希望ですぐに完治したい場合、薬で副作用が出る場合

    メルカゾールの用量調整

    • 初期:15〜30 mg/日(FT4・FT3の値による)
    • 維持:5〜10 mg/日(TSH・FT4・FT3でモニタリング)
    • 寛解:TRAb陰性化後、徐々に減量・中止

    無顆粒球症の対応

    • 白血球数 < 1,000/μL または好中球数 < 500/μL で疑う
    • 即座に抗甲状腺薬を中止
    • 広域抗菌薬の開始
    • G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の投与を検討

    最終更新日:2026-08-23

    👨‍⚕️ この記事の監修医師

    下山 立志(しもやま たつし)
    しもやま内科 院長
    日本内科学会 総合内科専門医
    日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
    日本循環器学会 循環器専門医
    日本老年医学会 老年科専門医・指導医
    日本甲状腺学会 甲状腺専門医
    糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

19/06/2025