🔊 このページの要点
吸入薬を「正しい手順」で使うことが治療の成否を分けます。機種(pMDI/DPI/SMI)ごとに吸い方は異なり、息を吐いてから深く吸う・3〜5秒息止め・吸入ステロイド(ICS)後は必ずうがいが3つの基本です。このページでは喘息・咳喘息の吸入薬の種類別正しい手順と、よくある間違い・その対策、スペーサーの使い方、吸入コンプライアンス向上のコツまで、しもやま内科(船橋市)が詳しく解説します。

吸入薬がなぜ重要なのか
喘息や咳喘息の治療において、吸入薬はもっとも中心的な役割を果たします。経口薬と違い、吸入薬は薬剤を直接気道に届けるため、少量で効果が高く、全身への副作用が少ないという大きな利点があります。
しかし、いくら優れた薬剤でも「正しい手順で吸入できなければ」十分な効果は得られません。吸入の手技が不適切だと、薬剤の大半が口腔内や咽頭に留まり、気道まで届かないままになります。当院では吸入指導に力を入れており、初回処方時には必ずデモンストレーションと実技確認を行っています。
吸入薬の種類(3つのタイプ)
吸入薬は大きく3つのタイプに分類されます。それぞれ使い方と特徴が異なるため、自分に合った機種を選ぶことが重要です。
① pMDI(加圧型定量吸入器・プレス式)
最も歴史のある吸入器で、缶内部の加圧ガスで薬剤を噴霧します。フルタイド(吸入ステロイド)やアドエア(ICS/LABA配合)などの多くの製品で採用されています。押下と吸気のタイミングを合わせる必要があり、慣れるまでやや難しいタイプです。高齢者や小児にはスペーサーの併用が強く推奨されます。
② DPI(ドライパウダー吸入器)
粉末状の薬剤を、自分自身の吸気の力で吸引するタイプです。シムビコート(タービュヘイラー)、レルベア(エリプタ)、ツイストヘラーなどが代表的。pMDIと違い「押す」動作が不要で、吸気と吸入が連動するためタイミングが合わせやすい反面、十分な吸入流速が必要です。吸気力が弱い高齢者や重症の患者さんでは使用が難しい場合があります。
③ SMI(ソフトミスト吸入器)
機械的に薬液を微細なミストとして噴霧するタイプです。スピリーバ レスピマットが代表的。pMDIより噴霧速度が遅く滞留時間が長いため、ゆっくり深く吸うことで高い肺内沈着率が期待できます。DPIと異なり吸気力が弱くても使用可能です。
代表的な吸入デバイスとその特徴
| デバイス名 | タイプ | 主な製品 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| pMDI | 加圧式 | フルタイド、アドエア | 噴霧と吸気の同時性が重要。スペーサー併用で改善 |
| タービュヘイラー | DPI | シムビコート | ツイスト式。吸気抵抗がやや高い |
| エリプタ | DPI | レルベア、アノーロ | カバーを開けて吸うだけ。操作が簡単 |
| ツイストヘラー | DPI | 各種単剤 | カプセル装填式。回転させて穿刺 |
| レスピマット | SMI | スピリーバ | ソフトミスト。吸気力が弱くても使用可 |
各デバイスの正しい手順
pMDI(フルタイド・アドエアなど)の正しい手順
- キャップを外し、製品の指示に従ってよく振る(懸濁液タイプは毎回必須)
- 顔を横に向けて息を吐く(苦しくない範囲で、胸を空にする)
- マウスピースを上下の歯で軽く咥え、唇で密閉する
- 缶を押下すると同時に、ゆっくり深く息を吸い込む(「押しながら吸う」意識が重要)
- 吸い終わったらすぐに口を閉じ3〜5秒息を止める(薬剤が気道壁に沈着する時間)
- ゆっくり息を吐く
- 2回必要な場合は30秒〜1分以上間隔を空けて、手順2〜6を繰り返す
- ICS(吸入ステロイド)含有の場合は必ずうがい(含嗽)を行う
ワンポイント: 押下と吸気のタイミングが合わない方は、スペーサーを使うと格段に改善します。スペーサーがない場合でも、押下直後に吸い始めるのではなく「押しながら吸う」よう意識してみてください。
DPI(シムビコート・レルベア・ツイストヘラーなど)の正しい手順
シムビコート(タービュヘイラー)の場合
- キャップを外し、本体を垂直に立てて口側のツイストグリップを右→左にひねる(カチッと音がするまで)
- 息を吐く(マウスピースに息を吹きかけないよう注意)
- 速く・深く吸う(吸気抵抗を感じながら、最後まで吸い切る)
- 3〜5秒息止め→ゆっくり吐く
- キャップを閉めて保管
- ICS配合ならうがい
レルベア(エリプタ)の場合
- カバーを下にスライドして開ける(カチッと音がするまで)
- 息を吐く
- 速く深く吸う(カバーを開けると自動的に1回分が準備される)
- 3〜5秒息止め→ゆっくり吐く
- カバーを閉じる
- ICS配合ならうがい
ツイストヘラーの場合
- キャップを外し、本体にカプセルを装填
- 本体を回転させてカプセルを穿刺する
- 息を吐く
- 速く深く吸う(カプセルが回転している音が聞こえる)
- 3〜5秒息止め→ゆっくり吐く
- 使用済みカプセルを捨てる
- ICS配合ならうがい
DPI全般の注意:湿気厳禁。保管は高温多湿を避け、吸入直前に準備すること。吸気前にマウスピースに息を吹きかけると粉末が固結します。
ソフトミスト(SMI:スピリーバ レスピマット)の手順
- 初回使用時はプライミング操作(製品添付文書に従って薬液カートリッジを装填・準備)
- キャップを開け、息を吐く
- マウスピースを唇で密閉し、ボタンを押すと同時にゆっくり深く吸う(ミストを追いかけるイメージ)
- 3〜5秒息止め→ゆっくり吐く
- キャップを閉める
- ICS配合ならうがい
スペーサーの使い方と効果
スペーサーはpMDIの吸入効率を大幅に向上させる補助具です。押下と吸気のタイミングを気にしなくて済み、口腔内への薬剤沈着も減少します。特に小児・高齢者・pMDIが苦手な方に強く推奨します。
スペーサーの使い方
- スペーサーのマウスピース側を唇で密閉(小児用マスク型もあり)
- pMDIを1回噴霧し、5〜6回のゆっくりした呼吸で吸入する
- または1回の深くゆっくりした吸気で一気に吸入する方法も
- 噴霧後はすぐに吸入を開始する(遅れると薬剤がスペーサー内壁に付着)
スペーサーのお手入れ
- 中性洗剤で洗浄し、自然乾燥(拭き取りは静電気で薬剤が付着しやすくなるため避ける)
- 月1回程度の洗浄を推奨
- 汚れがひどい場合は新しいものに交換
吸入後のうがいの重要性
吸入ステロイド(ICS)を含む吸入薬を使用した後は毎回必ずうがい(含嗽)を行ってください。理由は以下の2点です:
- 口腔カンジダ(鵞口瘡)の予防:ステロイドが口腔内に残ると真菌の増殖を促します
- 嗄声(声がれ)の予防:声帯にステロイドが付着することで起こる副作用です
うがいは水で十分に(ガラガラとブクブクの両方)、15秒程度行い、吐き出してください。うがい後に水を飲み込む必要はありません。
よくある間違いとその対策
| よくあるミス | 対策 |
|---|---|
| 押下と吸気のタイミングが合わない(pMDI) | スペーサー使用。「押してから吸う」ではなく「押しながら吸う」意識に |
| 吸入前に息を吐いていない | 毎回軽く吐いてから開始。胸に吸気の余地を作ることが重要 |
| 息止めが短い/しない | 3〜5秒を目標に。最初は3秒から始めて徐々に延長 |
| ICS後のうがいを省略 | 口腔内副作用予防のため毎回必ずうがい(含嗽) |
| DPIの吸気が弱い/遅い | 速く深い吸気を意識。難しい場合はpMDI+スペーサーへの変更を医師に相談 |
| DPIの保管場所が高温多湿 | 冷暗所(直射日光・浴室・台所は避ける)。吸入直前に準備する |
| 症状がないから吸入を飛ばす | コントローラーは症状がなくても毎日。炎症を抑えることが目的 |
吸入指導のポイント(医療者向け)
当院での吸入指導で特に重視しているポイントを紹介します。患者さん自身が確認する際の参考にもなります。
- 実技を見せてからやらせる:口頭説明だけでは不十分。デモ→患者実施→修正の3段階
- 吸入速度を実際に確認:DPI用の吸入流速チェッカー(In-Check DIALなど)があると客観的評価が可能
- 毎回の受診時に持参:実際のデバイスを見せてもらい、使用状況と手技を再確認
- コントローラーとリリーバーの区別を明確に:特に色が似ている製品は注意
- うがいの実践をその場で:指導後、実際にうがいをしてもらうと習慣化しやすい
喘息と咳喘息での違い
喘息と咳喘息はどちらも気道の慢性炎症が基盤ですが、症状に違いがあります。
- 喘息:喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)、呼吸困難、胸部圧迫感、咳が主症状。発作性に出現
- 咳喘息:咳だけが症状(喘鳴・呼吸困難なし)。特に夜間〜早朝の乾性咳嗽が特徴
吸入治療の基本は共通していますが、咳喘息ではICS(吸入ステロイド)単独で開始することが多く、治療反応性を見ながらLABA(長時間作動型β2刺激薬)の追加を検討します。喘息ではICS/LABA配合薬(アドエア・シムビコート・レルベア)が第一選択となることが多いです。
吸入コンプライアンス(継続)向上のコツ
- 毎日同じ時間に吸入する習慣:朝の歯磨き後や就寝前など、日常動作と紐づける
- リマインダー活用:スマホのアラームやカレンダー通知を設定
- 予備を常備:携帯用と家用の2セットを用意。忘れた時の安心感が継続につながる
- 自己中断のリスク理解:症状が落ち着いても炎症は続いている。医師の指示なく中断しない
- リリーバー使用回数を把握:週2回以上の使用はコントロール不良のサイン。早めに受診を
- 家族の協力:家族も吸入のタイミングやうがいを声かけすることで継続率が向上
お手入れ・保管
- マウスピースは乾いた布で拭く(機種により水洗い不可。取扱説明書を確認)
- 直射日光・高温多湿を避け、子どもの手の届かない場所に保管
- 残量表示や回数カウンターを定期的に確認。残量が少なくなったら早めに受診して処方を受ける
- DPIは特に湿気対策が重要。浴室・台所・加湿器の近くは避ける
使い分け(コントローラーとリリーバー)
- コントローラー(長期管理薬):毎日定時に使用。ICS(吸入ステロイド)を中心に、LABAやLAMAを配合。症状がなくても継続する
- リリーバー(発作治療薬・救急薬):SABA(短時間作動型β2刺激薬)など。症状時にのみ使用。週2回以上の使用はコントロール不良のサインなので、早めに主治医に相談
⚠️ 喘息発作時の対応と救急受診基準
以下の症状がある場合はすぐに医療機関へ(救急車)
- リリーバー吸入をしても症状が改善しない
- 息苦しくて会話ができない(一語一語しか話せない)
- 唇や爪が紫色(チアノーゼ)
- 横になれず前かがみでないと息ができない(起坐呼吸)
- 呼吸数が極端に多い、または逆に息を吸う時に胸が陥没する(努力呼吸)
- 意識がもうろうとしている
発作のサインを早期に察知し、軽いうちにリリーバーを使用することが重要です。日頃から喘息アクションプランを医師と作成しておくことをおすすめします。
うまくいかない時のQ&A
吸った感じがしません
吸気のタイミングや速度を調整。pMDIは押下と同時に吸う、DPIは速く深く吸うのがポイント。デバイスが正しく準備できているかも確認してください。改善しない場合は、吸入指導外来で実際の手技を確認できます。
口の中がイガイガする/声がかれる
ICS後のうがい徹底で改善します。続く場合は薬剤・デバイスの調整をご相談ください。口腔カンジダのチェックも必要です。
外出先での管理は?
携帯ポーチに入れて温度変化と衝撃を回避。予備を自宅に保管すると安心です。夏場の車内放置は高温になるため絶対に避けてください。
子どもでも使えますか?
はい。小児用のデバイスやスペーサーが用意されています。5歳未満の小児にはpMDI+マスク付きスペーサーが推奨されます。小児喘息の吸入については小児科医と相談しながら進めます。
吸入薬の副作用はありますか?
吸入薬は経口薬より副作用が少ないですが、ICSでは口腔カンジダ・嗄声、LABAでは動悸・振戦などが報告されています。うがいの徹底で大半は予防可能です。気になる症状があれば医師に相談してください。
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👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長/日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医
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最終更新日:2026-08-28
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。