このページの要点
- 産後(特に産後1年以内)の動悸・不安・疲労は、産後甲状腺炎が原因のことがあります。
- 初期対応は「TSH/FT4/FT3で病型把握」+「バセドウ病との鑑別(TRAb)」が要点です。
- 多くは経過観察中心。紹介が必要なケース(強い症状・高度異常・鑑別困難)を明確化します。
本ページは、産後(主に産後1年以内)にみられる産後甲状腺炎(postpartum thyroiditis)について、
産婦人科外来での初期対応(鑑別・フォロー・紹介判断)を短時間で参照できるよう整理した実務ページです。
1. まず疑う場面(産科外来でよくある訴え)
- 産後に動悸・手指振戦・不安感・焦燥が出てきた(「パニックっぽい」訴えを含む)
- 汗が増える/暑がる、体重減少、眠れない
- 数か月後に強い疲労感・無気力・むくみ・寒がりが出る
- 産後うつ・育児疲れとの鑑別が難しい
産後甲状腺炎は、「一過性の甲状腺中毒期 → 低下期 → 回復」の経過をとることがあります。
ただし全例が典型的に推移するわけではありません。
2. 外来で最初に行う検査(まずこれだけ)
必須(初回で十分役立つ)
- TSH
- FT4(可能ならFT3も)
鑑別で重要(可能なら同時に)
- TRAb(TSH受容体抗体):バセドウ病との鑑別に有用
産後の甲状腺中毒症状は、産後甲状腺炎だけでなく産後発症のバセドウ病でも起こります。
抗甲状腺薬が必要な病態かどうかを見極めるため、TRAbは実務上とても重要です。
3. 産後甲状腺炎とバセドウ病:初期鑑別の考え方
- TRAb陽性、眼症状、甲状腺腫大が目立つ → バセドウ病を疑う
- TRAb陰性で、産後数か月の発症・症状が比較的軽い → 産後甲状腺炎を疑う
- はっきりしない場合 → 内科(内分泌)紹介で早期に整理
※ 画像検査(甲状腺シンチなど)は授乳や施設事情で制約があることが多く、産科外来の初期対応としては
採血(TSH/FT4/FT3+TRAb)で方向性をつけるのが現実的です。
4. 初期治療:外来で「今できること」
甲状腺中毒期(動悸・手の震えがつらい)
- 産後甲状腺炎が疑われる場合、基本は対症療法(必要時、β遮断薬の相談)
- 抗甲状腺薬(メルカゾール等)は原則として産後甲状腺炎には不要(病態が「破壊性」であるため)
- 鑑別がつかない/症状が強い場合は早めに内科紹介
低下期(疲労感・むくみが強い/TSH高値)
- 軽症で日常生活が保てる:経過観察(回復する例が多い)
- 症状が強い、TSH高値が持続、日常生活に支障:内科紹介(レボチロキシン導入の判断)
5. フォロー間隔の目安(産科外来で迷わないために)
- 甲状腺中毒期が疑わしい:2~4週でTSH/FT4を再確認(症状により前倒し)
- 低下期に移行しそう/移行した:4~6週で再確認
- 改善が明らか:その後は2~3か月ごとに確認(必要に応じて内科へ)
「数週間で景色が変わる」ことがあるため、最初の1~2回は短めの再検が実務的です。
6. どの時点で内科(内分泌)へ紹介するか:判断基準
以下のいずれかに該当する場合は、早期の紹介を推奨します。
- 症状が強い(動悸・不眠・不安が強く、育児や生活に支障)
- FT4/FT3が高度に上昇している、または明らかな増悪
- TRAb陽性(バセドウ病が疑われる)
- 鑑別がつかない/治療方針に迷う
- 低下期でTSH高値が持続、または症状が強い(補充療法の要否判断)
- 次回妊娠を早期に希望しており、早めに状態を整えたい
7. 患者さんへの説明(短い定型文)
- 「産後は甲状腺が一時的に不安定になることがあり、動悸や疲れが強くなることがあります」
- 「多くは時間とともに落ち着きますが、血液検査で今の段階を確認します」
- 「必要に応じて内科(甲状腺の専門)と連携して安全に整えます」
8. 紹介時に共有していただきたい情報(チェックリスト)
- 産後何週/何か月か、授乳状況
- 主な症状(動悸、不安、不眠、体重変化、むくみ、倦怠感など)
- TSH/FT4/FT3、TRAb(実施した場合)
- 既往歴(甲状腺疾患の既往、家族歴、自己免疫疾患など)
- 内服薬・サプリ、アレルギー
必要情報を外来で整理するチェック式シートはこちら:
甲状腺評価 連携チェックシート(PDF)
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