内分泌内科

妊娠中のTSH目標とフォロー間隔|トリメスターごとの管理ポイントを専門医が解説

15/09/2025

要点まとめ

  • 妊娠中はホルモン動態が変化し、非妊娠時とはTSHの目安が異なります。
  • 当院の管理目安:初期≤2.5 / 中期≤3.0 / 後期≤3.5(mIU/L)を目安に、2–4週ごと(安定後6–8週)で再検します。
  • レボチロキシン内服中は、妊娠判明時に増量調整が必要となる場合があります(個別に医師が判断)。
  • 出産直後〜授乳期も機能変動が起こり得るため、早期の再評価を行います。

妊娠中のTSH目標とフォロー間隔(初期・中期・後期ごとの管理ポイント)

妊娠中はhCGの影響やヨウ素需要の増加などにより、甲状腺ホルモン動態が非妊娠時と異なります。適切なTSH目標を維持し、過不足のないレボチロキシン(LT4)補充や抗甲状腺薬の調整を行うことは、母体・胎児の予後に直結します。本ページでは、トリメスター別のTSH目標フォロー間隔を、当院の実臨床方針にもとづいてわかりやすくまとめます。


妊娠期における甲状腺機能の特徴

  • hCGによるTSH抑制:妊娠初期はhCGが甲状腺刺激作用を示し、TSHが相対的に低下しやすい。
  • ヨウ素需要の増加:妊娠中はヨウ素需要が上がり、潜在的な不足は機能低下リスクにつながる。
  • 母体・胎児への影響:甲状腺機能異常は流産・早産・胎児発育や神経発達に影響しうるため、早期診断・適正管理が重要。

トリメスター別TSH目標(当院の管理目安)

各施設や個々の臨床状況により目標は微調整されます。以下は当院の一般的な目安であり、検査所の基準範囲・抗体の有無・内服状況などを加味して個別化します。

時期 TSH目標の目安 補足
妊娠初期(0–12週) TSH ≦ 2.5 mIU/L hCG影響でTSHが低く出やすい。既治療の方は判明時にLT4増量が必要なことあり。
妊娠中期(13–27週) TSH ≦ 3.0 mIU/L 安定化しやすいが、胎児発育や母体の体重変化に伴う調整を行う。
妊娠後期(28週以降) TSH ≦ 3.5 mIU/L 周産期の変動を考慮しつつ、過剰補充による母体負荷にも留意。

※上記は当院の一般的な管理目安です。検査法・基準範囲・抗TPO/抗Tg抗体・合併症(例:糖尿病、妊娠高血圧)などで個別最適化します。

フォローアップ間隔と検査

  • 初期診断直後・投与量調整中: 2〜4週ごとにTSH・FT4(必要に応じFT3)を再検。
  • 安定期: 6〜8週ごとに再検(中〜後期は外来間隔に合わせて調整)。
  • 出産直後〜授乳期: 早期に機能チェック(目安:分娩後6〜8週)。LT4は妊娠前設定へ段階的に戻すか、臨床と数値で判断。

レボチロキシン(LT4)調整の実務ポイント

  1. 妊娠判明時:既にLT4内服中の方は、判明時に増量(例:20〜30%)を検討し、2〜4週後に再検して微調整。
  2. 服薬タイミング:空腹内服(起床時)を基本。鉄剤・Ca製剤はLT4と4時間程度間隔を空ける。
  3. サプリ・ヨウ素:ヨウ素の過不足に注意(海藻過剰摂取や過度な制限を避ける)。

よくあるケース

  • 潜在性甲状腺機能低下(TSH高値・FT4正常):抗体陽性・不妊治療中・流産歴などがある場合は、LT4導入閾値を低めに検討。
  • バセドウ病治療中:過度な甲状腺機能低下を避けつつ、TSH単独でなくFT4も重視して調整。
  • 合併症あり(糖尿病・高血圧など):周産期管理に併せて間隔を短縮し、チームでフォロー。

よくある質問(FAQ)

妊娠判明時、TSHが高めでした。すぐ受診すべきですか?
早めの受診を推奨します。既にLT4内服中の方は増量が必要なことがあり、内服していない方でも導入適応を個別に評価します。目安として2〜4週後に再検します。
妊娠中はFT4とTSHのどちらを重視しますか?
両者を併読します。とくに治療中や初期はFT4の目標域を外さないように注意し、TSHはトリメスター別目安を参考に調整します。
鉄剤やカルシウムとレボチロキシンは一緒に飲んでよいですか?
吸収阻害が起こるため、LT4とは4時間程度間隔を空けて内服してください。
出産後は薬を元に戻しますか?
妊娠前量へ段階的に戻すか、TSH・FT4の推移で調整します。分娩後6〜8週を目安に再評価します。

当院での管理(船橋市|甲状腺×妊娠)

しもやま内科では、甲状腺専門医が妊娠前〜産後まで継続してフォローします。糖尿病や妊娠糖尿病との並行管理もご相談ください。

  • 対象:妊娠希望中・妊娠中・産後の甲状腺管理(橋本病・バセドウ病など)
  • 実施:採血(TSH/FT4/必要に応じFT3・抗体)、内服調整、周産期連携
  • 初診の方は、お電話でご相談ください。


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👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本老年医学会 老年病専門医・指導医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

※本ページは一般的な情報提供を目的としています。実際の目標値・投与量・検査間隔は個別の臨床状況により異なります。必ず担当医にご相談ください。

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