- 妊娠中はホルモン動態が変化し、非妊娠時とはTSHの目安が異なります。
- 当院の管理目安:初期≤2.5 / 中期≤3.0 / 後期≤3.5(mIU/L)を目安に、2–4週ごと(安定後6–8週)で再検します。
- レボチロキシン内服中は、妊娠判明時に増量調整が必要となる場合があります(個別に医師が判断)。
- 出産直後〜授乳期も機能変動が起こり得るため、早期の再評価を行います。
- TSHが目標内でも、バセドウ病の既往がある方などはTRAb(TSH受容体抗体)の再検が別途必要となる場合があります。
妊娠中はhCGの影響やヨウ素需要の増加などにより、甲状腺ホルモン動態が非妊娠時と異なります。適切なTSH目標を維持し、過不足のないレボチロキシン(LT4)補充や抗甲状腺薬の調整を行うことは、母体・胎児の予後に直結します。
本ページでは、トリメスター別のTSH目標とフォロー間隔を、当院の実臨床方針にもとづいてわかりやすくまとめます。
妊娠期における甲状腺機能の特徴
- hCGによるTSH抑制:妊娠初期はhCGが甲状腺刺激作用を示し、TSHが相対的に低下しやすい。
- ヨウ素需要の増加:妊娠中はヨウ素需要が上がり、潜在的な不足は機能低下リスクにつながる。
- 母体・胎児への影響:甲状腺機能異常は流産・早産・胎児発育や神経発達に影響しうるため、早期診断・適正管理が重要。
トリメスター別TSH目標(当院の管理目安)
各施設や個々の臨床状況により目標は微調整されます。以下は当院の一般的な目安であり、検査所の基準範囲・抗体の有無・内服状況などを加味して個別化します。
| 時期 | TSH目標の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 妊娠初期(0–12週) | TSH ≦ 2.5 mIU/L | hCG影響でTSHが低く出やすい。既治療の方は判明時にLT4増量が必要なことあり。 |
| 妊娠中期(13–27週) | TSH ≦ 3.0 mIU/L | 安定化しやすいが、胎児発育や母体の体重変化に伴う調整を行う。 |
| 妊娠後期(28週以降) | TSH ≦ 3.5 mIU/L | 周産期の変動を考慮しつつ、過剰補充による母体負荷にも留意。 |
※上記は当院の一般的な管理目安です。検査法・基準範囲・抗TPO/抗Tg抗体・合併症(例:糖尿病、妊娠高血圧)などで個別最適化します。
TSHが目標内でも「抗体評価(TRAb)」が必要なケース
妊娠中のTSH管理は非常に重要ですが、TSHが目標範囲内=胎児リスクが完全に否定できるとは限りません。
とくにバセドウ病の既往がある方では、母体のTSH・FT4とは別に、
胎児への影響を評価する指標としてTRAb(TSH受容体抗体)の確認が必要になる場合があります。
TSHやFT4は主に母体の甲状腺機能を反映する検査ですが、
TRAbは胎盤を通過し、胎児の甲状腺を刺激または抑制することがあります。
そのため、母体の数値が安定していても、TRAb高値では
胎児甲状腺機能亢進や新生児甲状腺機能異常のリスクが残ることがあります。
このような背景から、バセドウ病の既往や治療歴がある方では、
妊娠初期だけでなく妊娠18–22週、30–34週といった
胎児甲状腺機能の変化点でTRAbを再評価し、必要に応じて胎児超音波や周産期管理を行います。
TSHは「母体管理の軸」、TRAbは「胎児評価の軸」。
両者は役割が異なるため、状況に応じて併せて評価することが重要です。
フォローアップ間隔と検査
- 初期診断直後・投与量調整中: 2〜4週ごとにTSH・FT4(必要に応じFT3)を再検。
- 安定期: 6〜8週ごとに再検(中〜後期は外来間隔に合わせて調整)。
- 出産直後〜授乳期: 早期に機能チェック(目安:分娩後6〜8週)。LT4は妊娠前設定へ段階的に戻すか、臨床と数値で判断。
レボチロキシン(LT4)調整の実務ポイント
- 妊娠判明時:既にLT4内服中の方は、判明時に増量(例:20〜30%)を検討し、2〜4週後に再検して微調整。
- 服薬タイミング:空腹内服(起床時)を基本。鉄剤・Ca製剤はLT4と4時間程度間隔を空ける。
- サプリ・ヨウ素:ヨウ素の過不足に注意(海藻過剰摂取や過度な制限を避ける)。
よくあるケース
- 潜在性甲状腺機能低下(TSH高値・FT4正常):抗体陽性・不妊治療中・流産歴などがある場合は、LT4導入閾値を低めに検討。
- バセドウ病治療中:過度な甲状腺機能低下を避けつつ、TSH単独でなくFT4も重視して調整。
- 合併症あり(糖尿病・高血圧など):周産期管理に併せて間隔を短縮し、チームでフォロー。
よくある質問(FAQ)
妊娠判明時、TSHが高めでした。すぐ受診すべきですか?
妊娠中はFT4とTSHのどちらを重視しますか?
鉄剤やカルシウムとレボチロキシンは一緒に飲んでよいですか?
出産後は薬を元に戻しますか?
TSHが目標内なら追加検査(TRAbなど)は不要ですか?
当院での管理(船橋市|甲状腺×妊娠)
しもやま内科では、甲状腺専門医が妊娠前〜産後まで継続してフォローします。糖尿病や妊娠糖尿病との並行管理もご相談ください。
- 対象:妊娠希望中・妊娠中・産後の甲状腺管理(橋本病・バセドウ病など)
- 実施:採血(TSH/FT4/必要に応じFT3・抗体)、内服調整、周産期連携
- 初診の方は、お電話でご相談ください。
047-467-5500 に電話する(しもやま内科)
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本老年医学会 老年病専門医・指導医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。
※本ページは一般的な情報提供を目的としています。実際の目標値・投与量・検査間隔は個別の臨床状況により異なります。必ず担当医にご相談ください。