褐色細胞腫(フェオクロモサイトーマ)の症状・検査・治療|動悸・発汗・高血圧の発作

  • 褐色細胞腫は副腎にできるホルモン産生腫瘍です
  • 動悸・発汗・頭痛・発作性高血圧が代表的な症状です
  • 多くは良性で、手術により症状が改善する病気です
  • 血液・尿検査と画像検査で診断し、治療の基本は手術です

褐色細胞腫は副腎にできるカテコラミン産生腫瘍で、動悸・頭痛・発汗・発作性高血圧が特徴です。早期発見・手術で症状改善が期待できる、まれだが重要な内分泌疾患です。

褐色細胞腫の症状セルフチェック

以下のような症状が同時に・発作的に起こる場合は褐色細胞腫の可能性があります。1つでも当てはまる場合は内分泌専門医への相談をおすすめします。

  • 急に血圧が上がる発作(特に動悸・頭痛と同時に)
  • 大量の発汗(特に上半身)
  • 動悸・頻脈
  • 頭痛(拍動性)
  • 顔面蒼白
  • 不安感・焦燥感
  • 体重減少(食欲はあるのに痩せる)
  • 高血糖・糖尿病が急に悪化

特に「動悸・頭痛・発汗」の3つが同時に出る(Howardの三主徴)場合は要注意です。また、症状がなくても、画像検査で偶然に見つかる「偶発腫(incidentaloma)」として発見されることも少なくありません。

褐色細胞腫とは?副腎にできる腫瘍の症状(動悸・発汗・頭痛・高血圧)と原因を専門医が解説

褐色細胞腫とは——病態生理の詳しい解説

褐色細胞腫とは、腎臓の上にある副腎のうち、副腎髄質(カテコラミンを産生する部位)から発生する腫瘍です[1,2]。副腎髄質が本来分泌するカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)は、血圧・心拍・代謝などを調節する重要なホルモンです[2]。褐色細胞腫ではこのカテコラミンが自律的かつ過剰に分泌され、全身に多彩な症状を引き起こします[1,2]。

カテコラミン分泌のメカニズムとしては、正常の副腎髄質では神経刺激に応じて一過性に分泌されるのに対し、褐色細胞腫では腫瘍細胞が自律的にカテコラミンを合成・放出し続けます。特にノルアドレナリン優位の腫瘍では持続性高血圧を、アドレナリン優位の腫瘍では発作性症状を呈しやすいとされています。アドレナリンの過剰分泌によりβ2受容体を介した血管拡張が生じると、起立性低血圧や失神をきたすこともあるため注意が必要です[1,2]。

褐色細胞腫は頻度としてはまれ(高血圧患者の0.1〜0.6%)ですが、見逃すと高血圧クリーゼや致死的な不整脈、心筋障害など重篤な合併症につながり得るため、適切な疑いと検査の組み立てが重要です[1,2]。

褐色細胞腫は「10% disease(10%病)」と呼ばれます

褐色細胞腫・パラガングリオーマ(傍神経節腫瘍)は、古くから「10% disease」として知られています[1,2]。この名称は歴史的に以下の特徴が「約10%」の割合で認められることに由来します。

  • 転移(悪性):約10%に遠隔転移を伴う。組織学的な悪性判断が難しく、転移の有無で悪性と定義される[1,2]
  • 副腎外発生(パラガングリオーマ):約10%が副腎以外の傍神経節(腹部大動脈周囲、胸部、頸部など)に発生する[1,2]
  • 両側性:約10%が両側副腎に発生する——特に遺伝性症候群で多い[1,2]
  • 遺伝性:かつては約10%とされていたが、現在の遺伝子解析では最大30〜40%に遺伝子変異が同定される[1,2]
  • 小児発症:約10%が小児期に発症する[1]
  • 無症状(偶発腫):約10%が副腎偶発腫として無症状で発見される[1]

発症年齢や臨床像には幅があり、典型症状がそろわない場合もあるため、「原因不明の高血圧」「発作的な症状」を手がかりに評価することがあります[1,2]。

パラガングリオーマ(傍神経節腫瘍)との違い

褐色細胞腫とパラガングリオーマは同じカテコラミン産生腫瘍ですが、発生部位が異なります[1,2]。

  • 褐色細胞腫:副腎髄質に発生するカテコラミン産生腫瘍。アドレナリン・ノルアドレナリンを産生する[1,2]
  • パラガングリオーマ:副腎以外の交感神経節(傍神経節)に発生する腫瘍。多くはノルアドレナリンのみ産生し、アドレナリンは産生しない[1,2]

パラガングリオーマは頭頸部にも発生し(頭頸部パラガングリオーマ)、その場合はカテコラミン非産生性であることが多いです。頭頸部型は拍動性耳鳴りや頸部腫瘤として発見されることがあります。遺伝性症候群ではパラガングリオーマの頻度が特に高く、SDHx遺伝子変異(SDHB, SDHDなど)との関連が知られています[1,2]。

遺伝性疾患との関連——MEN2、VHL、NF1

褐色細胞腫・パラガングリオーマは、以下の遺伝性症候群の部分症としても発症します。特に若年発症、両側性、多発性の場合には遺伝性を疑います[1,2]。

MEN2(多発性内分泌腫瘍症2型)

MEN2A(RET遺伝子変異)では、褐色細胞腫(両側性が多い)に加えて、甲状腺髄様癌(MTC)と副甲状腺機能亢進症を合併します。MEN2BではMTCと褐色細胞腫に加えて、粘膜神経腫やマルファン様体型が特徴です。褐色細胞腫がMEN2の初発症状として発見されることもあるため、褐色細胞腫と診断された場合には甲状腺髄様癌のスクリーニングも推奨されます[1,2]。

VHL病(フォン・ヒッペル・リンダウ病)

VHL遺伝子変異により、褐色細胞腫(またはパラガングリオーマ)に加えて、網膜血管腫、中枢神経系血管芽腫、腎細胞癌、膵神経内分泌腫瘍などを合併します。VHL病に伴う褐色細胞腫はノルアドレナリン産生優位で、高血圧が持続型であることが多いです[1,2]。

NF1(神経線維腫症1型)

NF1遺伝子変異により、褐色細胞腫のリスクが上昇します。カフェ・オ・レ斑、神経線維腫、虹彩小結節(Lisch小節)などの特徴的所見に加えて、褐色細胞腫を合併することがあります。NF1患者の0.1〜5.7%に褐色細胞腫が発症するとされ、他の遺伝性症候群と比べて頻度は低いものの、高血圧を認めるNF1患者では鑑別に挙げる必要があります[1,2]。

遺伝性が疑われる場合には遺伝カウンセリングを考慮し、血縁者のスクリーニングも検討します[1,2]。

褐色細胞腫の病態と症状の詳細

褐色細胞腫ではカテコラミンが過剰に分泌されることで、高血圧や頻脈、代謝亢進などが生じます[2]。高血圧のパターンは以下の3つに分類されます[1,2]。

  • 持続型:常に高血圧がみられる。約50%
  • 発作型:高血圧発作(パロキシズム)を繰り返すが、間欠期は正常血圧。約30%
  • 混合型:持続性高血圧に発作的な増悪を認める。約20%

発作の誘因として、運動、ストレス、飲酒、排便、腹部圧迫、手術・麻酔、特定の薬剤(β遮断薬単独投与、グルカゴン、メトクロプラミドなど)があり、これらの機会に血圧が急上昇することがあります[1,2]。

実際の外来診療では、「若年で降圧薬が効きにくい高血圧(治療抵抗性高血圧)」や「動悸・発汗・頭痛を発作的に繰り返す方」をきっかけに、褐色細胞腫を疑って検査を進めることがあります[1,2]。夜間に症状が出現しやすいのも特徴の一つです。

代表的な症状として、以下が挙げられます[1,2]。

  • 動悸・頻脈
  • 頭痛(拍動性、後頭部痛)
  • 大量の発汗(特に上半身、夜間発汗)
  • 顔面蒼白(発作時に血管収縮による)
  • 体重減少(代謝亢進による)
  • 耐糖能異常(血糖上昇、糖尿病の悪化)
  • 振戦
  • 嘔気・腹痛
  • 不安感・パニック様症状
  • 起立性低血圧(まれ)

褐色細胞腫の検査・診断の詳細

褐色細胞腫が疑われる場合、生化学的検査(血液・尿)画像検査(CT/MRI等)を組み合わせて診断します[1,2]。診断のゴールドスタンダードは、血中または尿中のメタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)の測定です。

生化学的検査

  • 血中遊離メタネフリン測定:感度96〜99%と最も高い。採血は仰臥位安静後に行い、カテコラミン分泌の日内変動を考慮する[2]
  • 24時間蓄尿メタネフリン:感度90〜97%、特異度約95%。蓄尿中の薬剤(三環系抗うつ薬、α遮断薬など)が影響することがある[2]
  • 血中カテコラミン分画(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン):感度はメタネフリンより低いが、産生パターンの確認に有用[2]
  • 尿中カテコラミン分画:蓄尿で評価。褐色細胞腫ではノルアドレナリン優位が多い[2]
  • クロモグラニンA:補助的な腫瘍マーカーとして使用可能[2]

画像検査

  • CT(造影CT):副腎腫瘍の検出に第一選択。褐色細胞腫はCTで不均一に造影され、内部に壊死・出血・石灰化を伴うことが多い[2]。CT値(Hounsfield Units)は通常10HU以上(非造影で)であり、脂肪含量の多い副腎腺腫との鑑別に有用
  • MRI:T2強調像で高信号(light bulb sign)を示すことが特徴的。CTと同等の感度があり、放射線被曝を避けたい場合に選択される[2]
  • MIBGシンチグラフィ123I-MIBGを用いた核医学検査。カテコラミン類似物質MIBGの取り込みを利用し、褐色細胞腫・パラガングリオーマの全身検索に有用。多発性・転移性病変の検出感度に優れる[2]
  • FDG-PET/CT:特に転移性・悪性例やSDHB変異関連症例でMIBG陰性の病変検出に有用[2]

検査の順序や条件(薬剤や採血条件、食事など)で結果の解釈が変わることがあるため、疑い例では内分泌疾患に習熟した医療機関での評価が望まれます[1,2]。

褐色細胞腫の治療と経過の詳細

手術前の管理——薬物療法の重要性

治療の基本は腫瘍の外科的摘出です。しかし、手術前の適切な術前管理が極めて重要です。術前管理が不十分なまま手術を行うと、麻酔や腫瘍操作によるカテコラミン大量放出で高血圧クリーゼや致死的不整脈を招くリスクがあります[1,2]。

標準的な術前薬物療法の順序:

  1. α遮断薬を先行投与:ドキサゾシン(昇圧・頻脈の抑制)、またはフェノキシベンザミン(非選択的α遮断、持続的ノルアドレナリン遮断)。血圧コントロール目標は座位で130/80mmHg程度。起立性低血圧に注意[1,2]
  2. α遮断薬で血圧が安定した後、必要に応じてβ遮断薬を追加:頻脈や不整脈の抑制に用いる。β遮断薬単独先行投与は禁忌(α作用の無抑制により血管収縮が亢進し、血圧がさらに上昇するため)[1,2]
  3. 十分な水分・塩分摂取:α遮断による血管拡張で循環血漿量を確保する[1,2]

術前管理の期間は通常7〜14日間で行われ、最終確認として起立性低血圧を認める程度までα遮断が十分であることが理想とされています[1,2]。

手術

現在の標準術式は腹腔鏡下副腎摘出術です。腫瘍径が大きい場合(通常6cm以上)や浸潤が疑われる場合は開腹術を考慮します。両側性の場合は副腎皮質温存手術(皮質温存副腎摘出術)を検討し、ステロイド補充の必要性を減らします[1,2]。

術後フォローと再発監視

術後は以下のスケジュールでフォローアップを行います[1,2]。

  • 術後1〜2週:血中メタネフリン測定 → 正常化を確認。正常化しない場合は残存腫瘍・転移の可能性
  • 術後6ヶ月:血中メタネフリン・画像検査(CT/MRI)で再評価
  • その後年1回:血中メタネフリン測定で長期フォロー
  • 遺伝性症例・悪性例:より頻回のフォロー(6ヶ月ごと)と全身画像検査(MIBGまたはFDG-PET/CT)が必要[2]

多くの良性例では手術により高血圧や症状は改善しますが、一部の患者では術後も高血圧が残存することがあり、その場合は本態性高血圧として治療します[1,2]。

転移を伴う例(悪性褐色細胞腫)では、外科的切除に加えて、131I-MIBG療法、化学療法(CVD療法:シクロホスファミド+ビンクリスチン+ダカルバジン)、分子標的治療(スニチニブなど)を組み合わせて治療します[2]。悪性例の5年生存率は約50〜60%であり、長期の専門的フォローが必須です[1,2]。

⚠ 緊急分岐導線——高血圧クリーゼ
以下の症状がある場合は119番へのご連絡をおすすめします
• 急激な頭痛と視力障害(視野異常・複視)
• 胸痛・呼吸困難
• 意識障害・けいれん
• 測定不能なほどの異常高血圧(収縮期200mmHg以上)

通常の受診相談:047-467-5500(しもやま内科)
休日・夜間:船橋市休日急患診療所(047-431-1199)


褐色細胞腫に関するよくある質問

褐色細胞腫は良性ですか?悪性ですか?

多く(約90%)は良性です。転移を伴う悪性例も約10%に報告されていますが、早期発見・適切な治療で管理可能です[1,2]。病理組織だけでは良性・悪性の鑑別が難しく、転移の有無で悪性と判断されます。

褐色細胞腫は命に関わる病気ですか?

早期に診断・治療すれば予後は良好です。しかし、放置すると高血圧クリーゼ、重症不整脈、心筋障害、脳出血などの致死的合併症をきたす可能性があります。適切な治療によりリスクは大幅に低下します[1,2]。

褐色細胞腫の症状は必ず出ますか?

典型症状がそろわない場合もあります[1,2]。高血圧だけ、動悸だけなど非典型のこともあるため、「原因がはっきりしない高血圧」「発作性の症状」が続く場合は相談のきっかけになります。また、画像検査で偶然発見される「偶発腫(incidentaloma)」として見つかる無症状例も約10%あります[1]。

褐色細胞腫はどこにできますか?

多くは副腎に発生します(褐色細胞腫)が、副腎以外(傍神経節:腹部大動脈周囲、胸部、頸部など)にできるパラガングリオーマもあります[1,2]。

何科を受診すればいいですか?

内分泌内科が専門です。当院(しもやま内科)でも診療しています。褐色細胞腫が疑われる場合、内分泌専門医による検査・診断のうえで、泌尿器科または一般外科と連携して手術を行います。

放置するとどうなりますか?

高血圧クリーゼ、不整脈、心筋障害、脳卒中など重篤な合併症につながり得ます[1,2]。疑われた場合は、自己判断で放置せず、適切な検査で確認することが重要です[1,2]。

治療すれば治りますか?

多くの場合、腫瘍を摘出することで症状は改善します。転移を伴う例では長期フォローが必要ですが、適切な治療で管理可能です[1,2]。

手術後の生活はどうなりますか?

腹腔鏡下副腎摘出術後は、1週間程度の入院の後、通常は1〜2ヶ月で日常生活に復帰できます。片側の副腎摘出では残った副腎が代償するため、副腎皮質ホルモンの補充は通常不要です。ただし、両側摘出の場合は副腎皮質ホルモンの補充が必要になります。高血圧は多くの場合改善しますが、一部では残存することがあり、その場合は降圧薬治療を継続します。

褐色細胞腫は遺伝しますか?家族も検査が必要ですか?

遺伝性症候群(MEN2、VHL病、NF1、SDHx変異など)が関与する場合、家族にも同じ遺伝子変異がある可能性があります。若年発症・両側性・多発性の場合や家族歴がある場合は、遺伝カウンセリングのうえで血縁者のスクリーニングを検討します[1,2]。遺伝性でない孤発例は通常、家族スクリーニングの必要はありません。

再発のリスクは?どのくらいの頻度で検査が必要?

良性で完全摘出された場合の再発率は5%未満とされています。術後は年1回の血中メタネフリン測定によるフォローが推奨されます。遺伝性症例や悪性例では6ヶ月ごとの定期検査と画像フォローが必要です[1,2]。再発のリスクが高いのは、遺伝性症例、若年発症例、腫瘍径が大きかった症例です。

妊娠中に褐色細胞腫と診断された場合の注意点は?

妊娠中の褐色細胞腫は母体・胎児ともに高リスクです。妊娠中のカテコラミン過剰分泌は子宮胎盤血流を低下させ、胎児発育不全や早産のリスクを高めます。診断された場合は、α遮断薬による血圧管理を優先し、妊娠中期(14〜28週)での手術を検討します。妊娠後期の場合は、帝王切開後に腫瘍摘出を計画することが一般的です。産科・内分泌内科・麻酔科の連携が必須です[1,2]。


参考文献

  1. 日本内分泌学会.
    褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン(最新版公開情報).
    https://www.j-endo.jp/modules/news/index.php?content_id=283
  2. Lenders JWM, et al.
    Pheochromocytoma and Paraganglioma: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline.
    J Clin Endocrinol Metab. 2014;99(6):1915–1942. doi:10.1210/jc.2014-1498.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24893135/

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最終更新日:2026-08-28

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

22/04/2026