循環器内科

慢性心不全に対する薬物療法

20/07/2019

慢性心不全に対する薬物療法のまとめ

慢性心不全の治療

慢性心不全の治療

ACE阻害薬は心不全に有効です。空咳の副作用があればARBを推奨されています。国内で心不全に適応のあるβ遮断薬はビソプロロール(メインテート®),カルベジロール(アーチスト®)の2つのみです。カルベジロールはα遮断+β遮断薬であり、ビソプロロールはβ1選択的遮断薬です。

β遮断薬

心不全治療に有効性が証明されたβ遮断薬はカルベジロール、ビソプロロールです。

β遮断薬

β遮断薬

カルベジロールはより血圧を下げ、ビソプロロールは心拍数を下げます。
気管支が狭くなる病気(喘息,COPD)など背景にある患者はβ2受容体に作用しないビソプロロールのほうが使いやすいです。
効力比は、カルベジロール:ビソプロロール=1:4なので、それぐらいで置換することがあります。

利尿剤

心不全治療で、最も原始的な薬は利尿剤です。心臓のポンプ機能が低下することにより、体内に水分が貯留します。また、心不全になるとレニン・アンジオテンシン、アルドステロンなどのホルモンが多く分泌されて、体に水分とナトリウムが溜まる結果、血液のうっ滞が起こり、息切れやむくみといった症状が現れます。水分が貯留することで、さらに心臓に負担がかかります。利尿薬は、体内に溜まった余分な水分を尿として排出する薬です。それにより呼吸困難やむくみなどの症状を改善します。

副作用として、脱水、血圧低下、耐糖能低下(血糖上昇)の可能性があります。利尿薬のうちトルバプタン(商品名:サムスカ錠)というお薬は、利尿効果が強く喉が渇くことがよくあります。そのような場合には、水分を補給するなど脱水症状に注意してください。

ACE阻害薬

上述のように、利尿剤が心不全治療のスタンダードだったのですが、パラダイムシフトが起こりました。

CONSENSUS 1987

ACE阻害薬エナラプリルが心不全死を減らすことが示され、心不全治療にパラダイムシフトをもたらした歴史的研究です。
心不全におけるレニンアンジオテンシン(RA)系の活性化が悪循環をもたらし,それを断ち切ることがACE阻害薬の予後改善効果の根幹であることが明らかになりました。

CONSENSUS Trial Study Group. "Effects of enalapril on mortality in severe congestive heart failure, results of the cooperative north Scandinavian enalapril survival study". The New England Journal of Medicine. 1987. 316(23):1429-35.

SOLVD 1991

CONSENSUSがNYHAⅣ度の重症心不全を含んでいた一方、1991年に示されたSOLVD試験はNYHAⅡ-Ⅲ度の患者さんを対象とした試験で、同様にエナラプリルの心不全改善効果を示しました。

Effect of Enalapril on Survival in Patients with Reduced Left Ventricular Ejection Fractions and Congestive Heart Failure". The New England Journal of Medicine. 1991. 325(5):293-302.

心不全患者において亢進していると考えられる交感神経やレニンアンギオテンシン系の活動性を抑える薬が、心不全患者の長期予後を改善することが明らかになったのです。

ACE阻害薬の有効性はエナラプリルとリシノプリル以外の薬剤に明確なデータはありません。我が国における慢性心不全に対する保険適応はこの2剤のみですが、ACE阻害薬全体のクラスエフェクトと考えられているのが現状です。

ARB

ARB:アンジオテンシン受容体拮抗薬にはACEに依存しないアンギオテンシンⅡの産生経路があること、ACE阻害薬の投与によりブラジキニンの産生が増加するため空咳が特に我が国の女性に多いことなどがACE阻害薬に不利な点と考えられていたこと。これらの点を解決する薬剤としてARBは大きな期待を集めていました。ところが、ARBがACE阻害薬を上回る成績を示すことはありませんでした。日米のガイドラインでもACE阻害薬に忍容性の低い患者さん(空咳が出て使えないなど)における切り替えが適切とされています。ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン以外のARBには心不全のエビデンスはありません。さらに、我が国における慢性心不全に対する保険適応はカンデサルタンのみとなっています。

ARBの使い分け

ARBの使い分け

慢性心不全の治療に用いるARB、ACE阻害薬は心筋梗塞後の治療にも用いられます。心筋梗塞により、壊れてしまった心筋の機能を補うため、残った正常な心筋が大きくなり、さらに心臓の機能を低下させてしまいます(心筋リモデリング)。ARB、ACE阻害薬にはこのリモデリングを防ぐ作用があります。

β遮断薬

強心剤で心拍出量を後押しする治療こそが最良の心不全治療であると長らく信じられてきましたが、PROMISE試験に代表されるように強心薬の長期使用は予後を悪化させることが1990年代初頭までに明らかになりました。

Douglas PS et al for the PROMISE investigators: Outcomes of anatomical versus functional testing for coronary artery disease. N Engl J Med. 2015; 372: 1291-300.

強心剤でブルドーザーのように押す治療は誤りで、交感神経系が著しく亢進してしまった状態を是正する方向へと発想の転換を迫られました。β遮断薬の時代の幕開けです。

1996年のUS Carvedilol試験*、サブ解析のMOCHA試験**によってカルベジロールの心不全改善作用が明らかになりました。

*Packer M et al for the U.S. carvedilol heart failure study group: The effect of carvedilol on morbidity and mortality in patients with chronic heart failure. N Engl J Med. 1996; 334: 1349-55.

**Bristow MR et al for the MOCHA investigators: Carvedilol produces dose-related improvements in left ventricular function and survival in subjects with chronic heart failure. Circulation. 1996; 94: 2807-16.

1999年にはビソプロロールとコハク酸メトプロロールもCIBIS II試験*とMERIT-HF試験**においてNYHA II~III度の収縮不全患者群に対して有効性が確認されました。コハク酸メトプロロールは我が国では販売されていません。酒石酸メトプロロール(セロケン)のみです。多くのβ遮断薬が存在する中でこの3剤のみが心不全に対して有効が確立されており、クラスエフェクトはないと考えられています。カルベジロールはNYHA I度やIV度の患者に対してもCAPRICORN試験***やCOPERNICUS試験****で有効性を確立しており,日米のガイドラインでもNYHA I度から適応とされています。

*CIBIS-II investigators and committees: The cardiac insufficiency bisoprolol study II (CIBIS-II); a randomised trial. Lancet. 1999; 353: 9-13.

**MERIT-HF study group: Effect of metoprolol CR/XL in chronic heart failure; metoprolol CR/XL randomised intervention trial in congestive heart failure (MERIT-HF). Lancet. 1999; 353: 2001-7.

***Dargie HJ for the CAPRICORN investigators: Effect of carvedilol on outcome after myocardial infarction in patients with left-ventricular dysfunction; the CAPRICORN randomised trial. Lancet. 2001; 357: 1385-90.

****Packer M et al for the carvedilol prospective randomized cumulative survival study group: Effect of carvedilol on survival in severe chronic heart failure. N Engl J Med. 2001; 344: 1651-8.

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬ですが、エンパグリフロジンとカナグリフロジンが心血管イベント、特に心不全による入院を減少させることが明らかとなり、新たな心不全治療薬になり得るか注目されています。2型糖尿病患者を対象としたEMPA-REG OUTCOME試験とCANVAS試験において、いずれも主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中からなる3つの複合心血管イベントを減少させました。さらに、心血管死の減少と密接に関連していたのは心不全による入院の減少でした。

今後、糖尿病薬だけでなく、心不全薬として認められて行きそうなのがSGLT2阻害薬です。

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