無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎は甲状腺ホルモンが高くなる病気です。甲状腺機能亢進を起こすので、バセドウ病と間違われることがあります。
無痛性甲状炎のしくみ
甲状腺が一時的に炎症を起こした結果、甲状腺組織の一部が破壊されます。甲状腺内にたまった甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出たために起こる甲状腺中毒症です。一時的な変化で自然に治ることが特徴です。発熱、痛みなどがないため、無痛性甲状腺炎と呼ばれています。
一時的な甲状腺ホルモン増加の後、いったん甲状腺機能低下症になることがありますが、数か月以内に甲状腺機能は正常化し症状はなくなります。まれに永続性の甲状腺機能低下症になってしまう方がいますが、このような方は甲状腺ホルモン剤の内服を継続する必要があります。自然に治る病気ですが、何度か繰り返すことも少なくありません。
無痛性甲状腺炎の原因
慢性甲状腺炎(橋本病)をもともと持っている方が多いことから、自己免疫性の病気と考えられていますが、原因はまだわかっていません。甲状腺機能亢進症の5~15%を占めるという報告もあります。出産後にもみられますが、妊婦の2~21%と報告によってバラつきがあります1)。出産後甲状腺炎の例では、次の出産後にも無痛性甲状炎を起こすことが多いです。
インタフェロンやIL-2などの免疫作動薬、GnRH、炭酸リチウムでの治療中や下垂体卒中後にも無痛性甲状炎が誘発されることがあります。アミオダロン使用中に破壊性の甲状腺炎が起きることがあります。
無痛性甲状炎の症状
血液中の甲状腺ホルモンが増加しているため、病気の初めのうちは動悸、暑がり、体重減少など、甲状腺中毒症の症状が現れます。この後、壊れた甲状腺が回復するまでは一時的に甲状腺ホルモンが少なくなり、むくみ、寒がり、体重増加などが現れます。
診断
バセドウ病との鑑別が大切になってきますので、TSHレセプター抗体(TRAb)、頸部超音波検査での甲状腺内の血流の程度、放射性ヨウ素摂取率などを用いて診断を進めます。TRAbはバセドウ病の原因となる抗体で、バセドウ病では陽性、無痛性甲状腺炎など、バセドウ病以外の甲状腺中毒症では原則として陰性となります。頸部超音波検査でバセドウ病では甲状腺内の血流が増加しているのに対して、無痛性甲状腺炎などでは血流が低下していることが診断の参考となります。TRAb、頸部超音波検査は、放射性ヨウ素摂取率と比較し、簡便で容易に検査が行える点が利点ですが、一部これらのみでは正確な診断がむずかしいことがあります。
そこで重要になってくるのが放射性ヨウ素摂取率・シンチグラフィ(あるいはTc摂取率・シンチグラフィ)です。この検査は、123Iあるいは131I、テクネシウムという放射性同位元素を用いて、これが甲状腺に取り込まれるかどうかを評価する検査です。簡潔にまとめると、バセドウ病ではヨウ素の取り込みが高く、無痛性甲状腺炎ではヨウ素の取り込みが低下しており、これを放射性ヨウ素摂取率(あるいはTc摂取率)の評価を行うことにより評価することができます。
Aはバセドウ病の甲状腺(アイソトープの集積を認める) Bは無痛性甲状炎のの甲状腺(集積なし)
治療
無痛性甲状腺炎と診断された場合、基本的には経過観察のみで甲状腺機能は改善していきます。動悸や手の震えがひどい場合はβブロッカーを使用することがあります。ただし、回復過程で一時的に甲状腺ホルモンが低い時期が認められることが多いです。そこから甲状腺ホルモンが正常に戻ることが多いですが、中には低めで推移する方もいますので、その場合は、必要に応じて甲状腺ホルモンの補充を行います。また、無痛性甲状腺炎は再発をすることがあります。そのため、一度改善しても、発症時と同様な症状を自覚するようであれば、甲状腺機能の検査が必要となります。
1) Werner amd Ingbar's the Thyroid. 8th ed, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia,2000: 578-589.