📘 要点
- 妊娠中も授乳中もチラーヂンは継続でき、自己判断で中止しません
- 「チラージン」と表記されることもありますが、同じレボチロキシン(LT4)の薬です
- 妊娠判明時はTSHを確認し、必要に応じて増量します
- 採血は4〜6週ごとに行い、用量を調整します
- 服用は朝食前30〜60分、または就寝前が基本です
- 鉄・カルシウムとは4時間以上あけて服用します
- 動悸やむくみなど気になる症状があれば、早めにご相談ください
「甲状腺の薬を飲んでるんですが、妊娠しても大丈夫ですか?」——橋本病でチラーヂンを服用中に妊娠された方から、よくいただくご質問です。実は、妊娠中のチラーヂン服用は安全で、むしろやめると胎児に悪影響を及ぼすことがあります。ただし、用量は妊娠に合わせて増やす必要があります。
このページの役割
チラーヂンS(レボチロキシン)の妊娠中の用量調整と飲み方についてまとめています。妊娠中の目標値の考え方は、関連ページをご覧ください。
関連ページ
- 橋本病と妊娠・授乳 ― 病気の概要と妊娠への影響
- 妊娠中のTSH目標値 ― 目標値の数値と再検の間隔
- 授乳期の甲状腺薬 ― 産後の服薬と母乳育児

妊娠中・授乳中にレボチロキシン(チラーヂン)を安全に継続し、適切に用量調整するための実務ガイドです。橋本病・甲状腺全摘後・RAI後など背景は様々ですが、妊娠期は甲状腺ホルモン需要が変化するため、定期的な採血と内服タイミングの工夫がとても大切です。
「チラージン」「チラーヂン」は同じ薬です(呼び方の整理)
「妊娠中にチラージンを飲んでいますが大丈夫ですか?」というご相談をいただくことがあります。会話や検索では「チラージン」と表記されることがありますが、これは一般名レボチロキシン(LT4)の同じ薬を指しています。お薬手帳や処方箋の表記が違って見えても、有効成分が同じであれば同じ薬です。
| 表記 | 何を指すか |
|---|---|
| チラーヂンS® | 商品名。一般名はレボチロキシンナトリウム水和物(レボチロキシン) |
| チラージン | 会話や検索で使われることの多い表記。同じレボチロキシン製剤を指します |
| レボチロキシン/LT4 | 一般名と略号。検査値の説明やガイドラインの記載で使われます |
| 後発品(ジェネリック) | 有効成分が同じレボチロキシンNaの製剤。銘柄が変わったときは薬剤師にご確認ください |
妊娠中に大切なのは、薬の名前よりも「同じ有効成分を、毎日同じタイミングで続けられているか」です。銘柄や用量が変更になったときは、切り替え前後で量が変わっていないかを薬剤師・医師にご確認ください。
なぜ妊娠で用量調整が必要になるの?
妊娠により甲状腺ホルモン需要が増え、従来量のままだと相対的に不足(TSH上昇)しやすくなります。胎児の発達・妊娠経過のためにも、妊娠期に適したTSH目標を保つことが推奨されます(目標値は個別に設定)。
▼ 妊娠期のTSH目標と採血間隔の考え方は、こちらもご参照ください:
妊娠中のTSH目標とフォロー間隔
妊娠がわかったら(初期対応)
- 自己判断で中止しない(継続が原則)。
- 速やかに受診・採血:TSH/FT4を確認し、必要に応じて用量を調整。
- 橋本病だけでなく、術後・RAI後の甲状腺機能低下症も同様に慎重な調整が必要です。
採血とフォロー(目安)
- 4〜6週ごとにTSH(必要に応じてFT4)をチェック。
- 用量変更後は、やや早めの再評価で過不足を素早く補正。
- 妊娠後期〜分娩直前の安定化も確認。
- TSH目標値の数値と考え方、抗体(TRAb)評価が必要なケースは妊娠中のTSH目標値で解説しています。
飲み方のコツ(吸収を安定させる)
- 空腹時:朝食前30〜60分が基本。朝が難しければ就寝前(最終食後3〜4時間)も選択肢。
- つわりで朝内服がつらい場合は、就寝前へ切り替えて吸収を安定させます。
- 採血当日も、通常どおりの時間に服用して構いません(医師の指示があればそれに従ってください)。
相互作用の多い成分と内服間隔
次の成分はレボチロキシンの吸収を低下させることがあります。原則4時間以上あけるのが安全です。
| 成分・薬剤 | 例 | ポイント |
|---|---|---|
| 鉄 | 鉄剤、マルチビタミン | キレート形成で吸収↓。4時間以上あける。 |
| カルシウム・マグネシウム | カルシウム製剤、Mg製剤、酸化マグネシウム(マグミット®等の便秘薬)、乳製品多量 | 吸着・結合で吸収↓。4時間以上あける。 |
| 制酸剤・スクラルファート | アルミニウム/マグネシウム含有、スクラルファート | 吸着で吸収↓。4時間以上あける。 |
| 胆汁酸吸着薬 | コレセベラム等 | 吸着で吸収↓。多くの製剤で4時間以上あける。 |
| コーヒー・大豆食品 | 濃いコーヒー、豆乳・大豆食品 | 吸収に影響の可能性。時間をずらすか就寝前服用に。 |
「食後でもよいですか?」というご質問もよくあります。基本は空腹時ですが、つわりや生活リズムで空腹時の服用が難しい場合は、毎日同じタイミングで続けることを優先してください。鉄剤・カルシウム製剤・酸化マグネシウム(便秘薬)・制酸剤などは、服用時間を4時間以上ずらすのが目安です。
※ 個々の薬剤で推奨間隔が異なる場合があります。処方時に必ずご相談ください。
よくある困りごと(トラブルシューティング)
- 飲み忘れた:気づいた時点で1回分を内服。重ね飲みはしない。連日の飲み忘れは受診で相談。
- つわりで吐いてしまう:就寝前へ切り替える/内服タイミングを医師と調整。
- 便秘薬・鉄剤が必要:内服間隔を十分あける。可能なら別時間帯に。
背景別の留意点
- 橋本病:妊娠に伴う需要増で増量が必要になることあり。橋本病と妊娠:総論
- 甲状腺全摘・RAI後:内因性分泌がないため、より厳密なモニタリングが必要。
- 体外受精・多胎:需要変化が大きくなりうるため、早めの再評価を。
産後の対応・授乳
- 多くの方が妊娠前の用量へ戻すのが目安。6〜8週でTSH再評価。
- 授乳中も原則継続可能です。乳汁分泌が整うためにも適正量を維持しましょう。
- 産後の甲状腺機能変動(産後甲状腺炎)にも注意:産後甲状腺炎
受診の目安
- 妊娠判明/流産・早産歴がある/甲状腺手術歴やRAI治療歴がある
- 動悸・だるさ・むくみ・体重変化など甲状腺関連症状が気になる
- 鉄剤・Ca製剤・制酸剤など併用薬が増えた/飲み方の調整が必要
よくあるご質問(FAQ)
Q. 妊娠中もチラーヂンを飲み続けてよいですか?
A. 妊娠中も継続が原則で、自己判断で中止しないことが大切です。妊娠中は甲状腺ホルモンの需要が増えるため、中止すると不足し、胎児の発達や妊娠経過に影響することがあります。妊娠がわかったら速やかに受診し、採血で確認しましょう。
Q. 妊娠したら用量は変わりますか?
A. 妊娠により甲状腺ホルモンの需要が増えるため、従来と同じ量では不足し(TSH上昇)、増量が必要になることがあります。妊娠がわかったら速やかにTSH・FT4を確認し、必要に応じて用量を調整します。その後は4〜6週ごとの採血で経過をみます。
Q. チラーヂンはいつ飲むのがよいですか?
A. 空腹時、朝食前30〜60分が基本です。朝が難しい場合やつわりで朝の内服がつらい場合は、就寝前(最終食後3〜4時間)に切り替えると吸収が安定します。採血当日も、医師の指示がなければ通常どおりの時間に服用して構いません。
Q. 鉄剤やカルシウムと一緒に飲んでもよいですか?
A. 鉄やカルシウム・マグネシウム、制酸剤、胆汁酸吸着薬は、チラーヂンの吸収を低下させることがあります。原則として4時間以上あけて服用してください。濃いコーヒーや大豆食品も、時間をずらすか就寝前の服用にすると安心です。
Q. 飲み忘れたときはどうすればよいですか?
A. 気づいた時点で1回分を服用してください。ただし重ねて飲むのは避けてください。連日の飲み忘れが続く場合やつわりで吐いてしまう場合は、診察で相談のうえ内服のタイミングを調整します。
Q. 授乳中もチラーヂンを続けられますか?
A. 授乳中も原則として継続でき、乳汁分泌を整えるためにも適正量を維持することが大切です。産後は多くの場合、妊娠前の用量に戻します。産後6〜8週を目安にTSHを再評価し、産後甲状腺炎による変動にも注意します。
Q. 「チラージン」と「チラーヂン」は違う薬ですか?
A. 同じ薬を指す表記の違いです。一般名はレボチロキシン(LT4)で、チラーヂンS®は商品名にあたります。お薬手帳や処方箋の表記が違って見えても、有効成分が同じであれば同じ薬で、妊娠中の扱い(継続が原則)も変わりません。銘柄が変更になったときは、量が同じかを薬剤師にご確認ください。
Q. 妊娠中はいつまで飲み続けますか?
A. 出産まで継続し、産後も続けていただくのが基本です。妊娠中は必要量が増え、産後は妊娠前の量に戻すことが多いため、産後6〜8週を目安にTSHを確認して調整します。授乳中も原則として継続でき、自己判断で中止しないことが大切です。
Q. 食後に飲んでもかまいませんか?マグミット(便秘薬)とは何時間あけますか?
A. 基本は空腹時(朝食前30〜60分)または就寝前です。食後にしか飲めない日が続く場合でも、毎日同じタイミングで続けることを優先してください。鉄剤・カルシウム製剤・酸化マグネシウム(マグミット®等)・制酸剤は吸収を低下させることがあるため、4時間以上あけて服用するのが目安です。
※記載内容は一般的な医学情報です。診断・治療は受診のうえご相談ください。
関連記事
参考文献
2017 American Thyroid Association Guidelines for Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum(妊娠期の管理・TSH評価)
Liebert Publishing
ACOG Practice Bulletin: Thyroid Disease in Pregnancy(妊娠中のモニタリングと用量調整の考え方)
アメリカ産科婦人科医会
LactMed: Levothyroxine(授乳期の安全性)
NHS medicines: Levothyroxine(妊娠中の継続と定期血液検査の必要性)
nhs.uk
Mayo Clinic & StatPearls(鉄・カルシウムなどとの内服間隔の目安)
Mayo Clinic
KEGG MEDICUS/JAPIC 添付文書情報『チラーヂンS錠』(一般名レボチロキシンナトリウム水和物・商品名と一般名の対応)
JAPIC
- 日本甲状腺学会 編『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』
- American Thyroid Association (ATA). “2026 Guidelines for Thyroid Disease in Preconception, Pregnancy, and Postpartum” Thyroid 2026;36(5):481-544.
- Yassa L, et al. “Levothyroxine Dose Adjustment during Pregnancy.” J Clin Endocrinol Metab, 2021;106(4):999-1007.
主な参考資料:日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」(2024年11月21日改定)/日本甲状腺学会「バセドウ病治療ガイドライン2019」/日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン 産科編2026/婦人科外来編2026」(2026年4月発行)
作成・更新:2026-10-09|本ページは一般的な医学情報の提供を目的としたものです。診断・治療については受診のうえご相談ください。
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最終更新日:2026-10-09
👨⚕️ この記事の監修医師
監修・執筆:しもやま内科 院長(日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本循環器学会 循環器専門医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医/日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。