甲状腺内科

甲状腺眼症

13/10/2024

甲状腺眼症とは、甲状腺に関係した抗体が眼球の周りにある脂肪や目を動かす筋肉の中に存在し、それが標的となって炎症が起こるものです。バセドウ病の患者の約20~50%に甲状腺眼症が発症するとされていますが、明らかな眼球突出を認めるのは10%程度です。橋本病でも発症することがあり、橋本病の患者の約2%に甲状腺眼症が見られるとされています。甲状腺機能亢進症が見られるのは症例の80%に過ぎず、甲状腺機能が正常であっても甲状腺眼症は起こります。

甲状腺眼症は免疫系が誤って自分の体を攻撃すること(自己免疫機序)によって引き起こされます。特に、甲状腺に関連する抗体が眼窩(眼の奥)の組織に炎症を引き起こします。TSH受容体やIGF-1(Insulin-like Growth Factor 1)受容体に対する自己免疫機序が想定されています。

甲状腺眼症の治療は、まず禁煙です。喫煙によって甲状腺眼症が悪くなることが知られています。
つづいて、甲状腺機能を正常にコントロールすることが大切です。
バセドウ病、橋本病の治療をしっかり行いましょう。131-I 内用療法を行う場合は15%に眼症の発症や増悪をみるので、喫煙、治療前のT3高値、TSH受容体抗体高値などのハイリスク症例では3か月間のステロイド薬の予防投与を考慮します。

重症度に合わせて、ステロイド治療、放射線治療、眼窩減圧術、斜視がみられれれば斜視の手術などを行います。

甲状腺眼症に対する抗体医薬のテプロツムマブ(テッペーザ)はIGF-1受容体阻害薬です。活動性の甲状腺眼症で苦しむ患者さんが適応となり、約1時間の点滴を3週毎に8回行うことで、目の周りの炎症が落ち着き、眼球突出が平均で2mm以上減少します。眼の周りだけでなくまぶたや顔全体の腫れも改善することが報告されており、IGF-1受容体が存在する部位全体に効果があると考えられています。

IGF-1は通常、主に肝臓で産生されます。肝細胞が、成長ホルモンの刺激を受けると、IGF-1を合成および分泌します。IGF-1は成長ホルモンによって刺激され、体全体の成長を促進し、細胞の増殖や分化、代謝調節などに重要な役割を果たしています。

肝臓以外でも、IGF-1は他の組織や細胞でも産生されることがありますが、肝臓が主要なIGF-1生産器官であり、血液中での大部分のIGF-1は肝臓から放出されます。IGF-1はその後、血液を通じて体内のさまざまな組織や細胞に配布され、さまざまな生理学的機能を調節しています。

活動性甲状腺眼症の治療薬である、テプロツムマブ(teprotumumab 商品名:テッペーザ)は、主に甲状腺眼症(バセドウ病眼症)の治療に使用されるモノクローナル抗体です。IGF-IR を阻害するヒトモノクローナル抗体です。テッペーザは、通常、成人にはテプロツムマブ(遺伝子組換え)として初回は10 mg/kg を、2 回目以降は20 mg/kg を7 回、3 週間間隔で計8 回点滴静注する薬剤です。甲状腺眼症ではIGF-1受容体が過剰発現しており、テッペーザはIGF-1受容体を阻害することで、外眼筋および眼窩内脂肪組織の肥大や炎症を軽減し、眼球突出をはじめとする眼症状を改善させる効果が期待されます。甲状腺眼症に対しては、これまで疾患の根本原因に作用する治療薬が存在せず、高用量のステロイド投与や手術といった患者さんにとって負担のある治療が主流でした。今回、テッペーザが日本で製造販売承認されたことにより、活動性甲状腺眼症の患者さんに新しい治療選択肢を提供できることになりました。

この薬の副作用には以下のようなものがあります。
高血糖:患者の約10%に見られ、特に糖尿病や耐糖能障害の既往がある人に多いです。
聴覚障害:耳鳴りや聴覚障害が約10%の患者に報告されています。
下痢:12%の患者に見られますが、一般的に軽度で可逆的です。
吐き気:14%の患者に見られます。
脱毛症:11%の患者に見られます。
味覚異常:8%の患者に見られます。
頭痛:8%の患者に見られます。
皮膚乾燥:8%の患者に見られます。

これらの副作用は、点滴の終了または中止後に消失することが多いです。

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