妊娠初期に甲状腺異常が疑われたときの初期対応|産婦人科医向け判断ポイント

  • 産婦人科外来での妊娠初期TSH異常の初期判断を整理
  • 様子見か紹介かの判断ポイントを実務ベースで解説
  • 迷う段階での内分泌内科連携を前提に構成

このページの要点(産婦人科の初期対応)

  • 妊娠初期はTSH異常を見逃さないことが最優先(胎児は母体ホルモン依存)。
  • 初期判断はTSH+FT4が基本(FT3は原則必須ではありません)。
  • TSH低値=バセドウ病とは限りません(hCGによる一過性低下を考慮)。
  • TSH高値は軽度でも注意。迷う段階で内分泌内科へ紹介が安全です。

本ページは、妊娠初期(~妊娠10週頃)にTSH異常や甲状腺機能異常が疑われた場合の、
産婦人科外来での初期対応と紹介判断を簡潔に整理したものです。
「治療が必要かどうか」よりも、「今この時点で何を確認し、どこで専門紹介するか」に焦点を当てています。


1.妊娠初期に甲状腺評価が重要な理由

妊娠初期は胎児の甲状腺機能が未成熟で、胎児の発達(特に神経系)は母体甲状腺ホルモンの影響を受けます。
この時期の明らかな機能異常は、流産・早産、妊娠高血圧症候群、胎児発育などの観点からも見逃しを減らす意義があります。

したがって、健診や不定愁訴で偶発的に見つかった軽度異常であっても、妊娠中は「様子見」の基準が変わる点が重要です。

2.初期スクリーニング:まず行う検査

  • TSH
  • FT4

FT3は初期判断では原則必須ではありません(必要時に専門側で追加)。
既往(バセドウ病・橋本病・甲状腺手術・放射性ヨウ素治療)や内服歴(抗甲状腺薬・レボチロキシン)を必ず確認します。

3.TSH低値を見たときの考え方(落とし穴)

妊娠初期には、hCGの影響でTSHが低下することがあり、TSH低値だけでバセドウ病と断定しないことがポイントです。
まずはFT4の程度症状で緊急度を判断します。

紹介を急がないことが多いパターン

  • TSH低値だがFT4が正常
  • FT4が軽度高値でも、嘔気・体重減少などが妊娠悪阻の範囲で説明可能

早期紹介が望ましいパターン

  • FT4が明らかに高値(上限を大きく超える)
  • 動悸・手指振戦・発汗・体重減少など甲状腺中毒症状が強い
  • 甲状腺腫大、眼症状、頻脈が目立つ
  • 既知のバセドウ病で妊娠判明、または抗甲状腺薬内服中

4.TSH高値を見たときの考え方(妊娠初期は特に注意)

妊娠初期のTSH高値は、軽度でも見逃しにくい領域です。特にFT4が正常下限~低値の場合は、
甲状腺機能低下症としての評価・補充療法の要否を専門的に判断する必要があります。

実務の目安:

・TSH高値が確認された時点で、FT4を同時に評価し、FT4が正常下限~低値なら早期紹介

・「軽度だから次回で…」より、妊娠週数を意識して早めに判断する方が安全です。

5.緊急性が高いケース(当日~早期紹介)

  • 明らかな甲状腺中毒症状+頻脈、脱水、全身状態不良
  • TSH著明低値+FT4高値
  • 既知のバセドウ病で妊娠判明(内服調整が必要)
  • 甲状腺機能低下が疑われ、FT4低値を伴う

6.産婦人科外来での初期対応まとめ(実践版)

所見 産婦人科での初期対応 紹介の考え方
TSH低値・FT4正常 症状確認、必要なら2~4週程度で再評価 症状が強い/既往ありで紹介
TSH低値・FT4高値 頻脈・脱水などの全身状態を確認 早期紹介(治療要否の判断が必要)
TSH高値・FT4正常下限~低値 週数を踏まえて早めに評価を進める 原則紹介(補充療法の要否判断)
既往(バセドウ病/橋本病/治療歴)あり 妊娠判明時にTSH/FT4を確認 早期紹介(薬剤・目標値調整)

7.紹介のタイミング:迷った時点で早期相談が安全

妊娠初期の甲状腺領域は、「治療を開始するかどうか」以前に、
妊娠週数に応じた目標値・追加検査・薬剤選択が絡みます。
判断に迷う場合は、紹介により結論を前倒しできること自体がメリットになります。

よくある質問(産婦人科医向け)

妊娠初期のスクリーニングはTSHだけで十分ですか?
原則はTSH+FT4のセットが基本です。妊娠初期は生理的変化もあるため、TSH単独だと解釈が難しい場面があります。
TSH低値を見たら、すぐにバセドウ病を疑うべきですか?
TSH低値=バセドウ病とは限りません。妊娠初期はhCGの影響でTSHが低下することがあり、まずFT4の程度症状で緊急度を判断します。
FT3は測定した方がよいですか?
初期対応の段階ではTSH+FT4で十分なことが多く、FT3は必須ではありません。必要性は病態や経過で専門側が追加判断します。
TSH高値はどの程度から紹介を考えますか?
妊娠初期はTSH高値を軽視しにくく、FT4が正常下限〜低値を伴う場合は早期紹介が安全です。週数によって判断のハードルが変わる点が重要です。
甲状腺抗体(TPOAb/TgAb)は初診時に必須ですか?
初期の分岐はTSHとFT4が最重要で、抗体は追加情報として有用です。外来状況により、抗体測定は専門紹介後にまとめて評価しても問題ないことが多いです。
既往(バセドウ病・橋本病・治療歴)ありの妊娠は、いつ紹介すべきですか?
妊娠判明時点で薬剤調整や目標値設定が絡むため、早期紹介が基本です。抗甲状腺薬やレボチロキシン内服中は特に早めの連携が安全です。
受診を急ぐ(当日〜数日以内の)危険サインは?
FT4高値が明らか、頻脈・脱水・全身状態不良、強い中毒症状(動悸・ふるえ・発汗など)が目立つ場合は早期紹介が望まれます。
TSH低値・FT4正常のとき、どれくらいの間隔で再検しますか?
症状が軽く全身状態が安定していれば、外来実務としては2〜4週程度で再評価する運用が多いです(週数・症状で調整)。
紹介状に書いておくと助かる情報は何ですか?
妊娠週数、既往(甲状腺疾患・治療歴)、内服薬、症状(動悸・体重変化・悪阻の程度など)、直近のTSH/FT4結果があると初期判断がスムーズです。
📄 妊娠期 甲状腺評価チェックシート(PDF)
初期評価・検査値・症状・紹介目的をチェック式で整理できます。
甲状腺評価 連携チェックシート(2枚構成 PDF)

紹介・相談の受付(しもやま内科)

妊娠中の甲状腺機能異常が疑われる症例について、初期評価・方針相談を承ります。
紹介状をご用意いただけると情報連携がスムーズです。

電話:047-467-5500

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

10/01/2026