授乳中に使える甲状腺薬は?LT4・チアマゾール・PTUの安全性と初期対応|産婦人科向け

授乳期の甲状腺薬:安全性とフォロー(LT4/チアマゾール/PTU)

授乳中はレボチロキシン(LT4)は基本的に安全です。抗甲状腺薬は「最少用量」と「授乳直後の内服」を軸に、母体TSH/FT4の再評価と、必要時のみ乳児フォローを共有します。

要点まとめ(産婦人科外来で迷うところだけ)

  • LT4:母乳移行は極少。授乳は原則継続し、6–8週でTSH再評価。LactMed
  • 抗甲状腺薬:「最少用量」+「授乳直後内服」。可能なら次回授乳まで3–4時間空ける。LactMed(MMI)
  • 用量目安:MMI(チアマゾール)〜20mg/日、PTU〜450mg/日が“低〜中等量”の目安としてよく用いられる。ATA 2017
  • 乳児:ルーチン採血は原則不要。体重増加・哺乳力・活動性などを共有し、症状が続くときのみ小児科で検討。LactMed(MMI)
  • 紹介の目安:用量が増える/FT4高値が続く/症状強い/TRAb高値が疑われる場合は内科へ。ATA 2017

産婦人科外来でよくある悩みは「授乳を続けてよいか」「どの薬をどのタイミングで飲ませるか」「乳児の採血が必要か」です。
ここでは、授乳を止めずに安全域で管理するための実務ポイントを1ページにまとめます。

1) LT4(レボチロキシン)は授乳中に基本“継続OK”

  • 安全性:LT4は母乳中にごく少量で、通常用量で乳児への有害事象は報告上きわめて稀です。LactMed: Levothyroxine
  • TSH再評価:産後は必要量が変わることがあるため、目安として6–8週でTSH/FT4を再確認します。ATA 2017 Guidelines
  • 内服のコツ:空腹時内服。鉄・カルシウム・マグネシウム・PPI・大豆製品で吸収低下があり、投与間隔を確保します(例:LT4と鉄/Caは4時間以上)。

2) 抗甲状腺薬(MMI/PTU)は「最少用量」+「授乳直後内服」

  • 基本方針:授乳は原則継続しつつ、母体の甲状腺機能を保つ最少用量を目指します。ATA 2017 Guidelines
  • MMI(チアマゾール):母乳曝露を減らすには授乳直後に内服し、次回授乳まで3–4時間空けるのが実務的です。LactMed: Methimazole
  • 用量目安:低〜中等量としてMMI〜20mg/日PTU〜450mg/日が目安としてよく引用されます。ATA 2017
  • PTU:一部状況で選択されますが、母体側の肝障害リスクには注意し、漫然長期化を避けます。LactMed: Propylthiouracil

3) 乳児フォローは「ルーチン採血より“成長発達の見守り共有”」

  • 日常観察:体重増加曲線、哺乳力、傾眠・興奮、発汗・下痢傾向、皮疹。
  • 採血の要否:原則は不要で、成長発達の定期健診での確認が推奨されます。LactMed: Methimazole
  • 検討する状況:哺乳不良・体重停滞・傾眠が強いなどが持続する場合に、小児科で甲状腺機能を検討します。
  • 共有項目:母体の薬剤名・用量・内服時刻、採血結果、症状推移を母子手帳や紹介状で共有。

よくあるご質問(FAQ)

授乳中のLT4は本当に安全ですか?
はい。LT4は母乳移行が極少で、通常用量では乳児への影響は報告上きわめて稀です。授乳は原則継続し、産後は必要量が変わることがあるため目安として6–8週でTSH/FT4を再評価します。
LactMed
ATA 2017
MMI(チアマゾール)とPTUはどちらを選びますか?
授乳中はいずれも「最少用量」を基本に使用できます。実務的にはMMIを選ぶことが多く、授乳直後内服+次回まで3–4時間空けると乳児曝露を減らせます。PTUは状況により選択されますが、母体の肝障害リスクに注意します。
LactMed: MMI
LactMed: PTU
産後甲状腺炎の一過性“甲状腺機能亢進”でも抗甲状腺薬が必要ですか?
多くの場合、不要です。産後甲状腺炎は「破壊性甲状腺炎」でホルモン産生が過剰なわけではないため、抗甲状腺薬の効果が乏しいことが一般的です。動悸・手指振戦など症状が強い場合は、まず対症療法(β遮断薬など)を検討し、経過や採血推移で鑑別に迷うときは内科へ紹介してください。
ATA 2017
放射性ヨウ素(検査・治療)を予定している場合、授乳はどうしますか?
I-131治療は授乳中は禁忌です。検査薬(I-123など)でも、一定期間の授乳中止・搾乳破棄が必要になる場合があります。施設や投与量で扱いが変わるため、核医学実施施設の指示に従い、予定がある時点で早めに内科/専門施設へ相談してください。
J Endocrine Soc 2021
ATA 2017

実際の外来診療では…
授乳継続の可否そのものよりも、「母体の病勢が落ち着いているか」と「薬の飲み方(授乳直後・最少用量・相互作用回避)」でトラブルが減ります。迷うときは、母体の採血推移と症状を添えて紹介いただくと調整が早くなります。

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参考文献・出典

  1. LactMed: Levothyroxine. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501003/
  2. LactMed: Methimazole. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501024/
  3. LactMed: Propylthiouracil. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501084/
  4. ATA 2017 Guidelines (pregnancy & postpartum). https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/thy.2016.0457
  5. Rind J, et al. Hyperthyroidism in Pregnancy and Lactation. J Endocrine Soc. 2021. https://academic.oup.com/jes/article/5/4/bvab001/6067596

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)

しもやま内科 院長(千葉県船橋市)
日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医/日本甲状腺学会 甲状腺専門医/日本循環器学会 循環器専門医/日本老年医学会 老年病専門医・指導医

糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

01/10/2025