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ミトコンドリア糖尿病(MIDD)は、若年発症・やせ型で母方の家系に糖尿病や難聴が集まりやすいタイプの糖尿病です。稀な疾患ですが、適切に疑って早めに評価することで、血糖管理だけでなく心臓・腎臓・神経など全身の合併症を意識したフォローがしやすくなります。

図:ミトコンドリア糖尿病を示唆する若年・やせ型糖尿病と難聴のイメージ1)
- ミトコンドリア糖尿病(MIDD)は「母方から遺伝しやすい糖尿病+難聴」が特徴の稀な糖尿病
- 若年〜中年発症・やせ型・早期からインスリンが必要になるケースでは特に注意
- 心筋症・腎症・脳卒中様発作(MELAS)など、全身のミトコンドリア病の一部として現れることもある
- 確定診断には遺伝子検査が必要で、専門機関との連携が重要
- しもやま内科では、疑われる方の初期評価と血糖管理、必要に応じた専門医紹介を行います
【船橋市で「レアな糖尿病」も含めた評価をご希望の方へ】
「家族にみんな糖尿病と難聴がある」「やせ型なのに若い頃から糖尿病と言われた」――こうしたケースの一部には、ミトコンドリア糖尿病(MIDD) の方が含まれます1)。
しもやま内科(船橋市芝山)は、糖尿病専門医が在籍し、一般的な2型糖尿病だけでなく、1型糖尿病やインスリンポンプ療法、そして稀な糖尿病 まで視野に入れて診療を行っています。
ミトコンドリア糖尿病(MIDD)とは?
ミトコンドリア糖尿病は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアDNAの変異が原因で起こる糖尿病です。とくに有名なのが、m.3243A>G変異を背景にした「母系遺伝の糖尿病+難聴(MIDD:Maternally Inherited Diabetes and Deafness)」 です1,2)。
一般的な2型糖尿病と比べて患者数は少なく、糖尿病全体の0.5〜数%程度と報告されていますが2)、若年発症でやせ型、母系家系に糖尿病と難聴が多い場合には、見逃したくないタイプです1,3)。
なぜ「母方の家系」に集まりやすいのか
ミトコンドリアDNAは母親からのみ受け継がれるため、ミトコンドリア糖尿病では「母方の家族に糖尿病や難聴が多い」「母・祖母・母方のおじ・おばにも糖尿病」が特徴としてみられることがあります4,5)。
ミトコンドリア糖尿病の特徴
- 若年〜中年発症の糖尿病(平均30〜40歳前後)1,2)
- BMIが低め〜普通体重の方に多い
- 母方の家族に糖尿病+難聴が集まりやすい1,3)
- 早い段階でインスリンが必要になることがある1,2)
- 感音性難聴(高音から聞こえにくい)を伴いやすい3)
- 一部の方で、MELAS(脳卒中様発作・けいれんなど)や心筋症・腎障害など、全身のミトコンドリア病として症状が出ることがある3,4)
もちろん、これらがすべて当てはまるわけではありませんが、複数が重なる場合にはミトコンドリア糖尿病の可能性を考えるきっかけになります2,4)。
どんなときにミトコンドリア糖尿病を疑う?
- 20〜40代で糖尿病と診断され、やせ型〜普通体重なのに血糖が高い
- 母方の家系(母・祖母・母方のおじ・おばなど)に糖尿病と難聴の人が多い
- 内服薬だけでは血糖コントロールが難しく、比較的早期にインスリンが必要になった
- 自分または家族に感音性難聴があり、補聴器を勧められている
- 心筋症・腎障害・神経症状・脳卒中様発作などを指摘されたことがある
これらはあくまで「疑うためのヒント」であり、1つ当てはまるだけでミトコンドリア糖尿病と決まるわけではありません。ただし、いくつか当てはまる場合には、一度専門医に相談してみる価値があります2)。
検査・診断の流れ
1. 一般的な糖尿病の評価
- 血糖値・HbA1c
- Cペプチド(インスリン分泌の目安)
- 1型糖尿病関連抗体(GAD抗体など)の有無
- 体重・BMI、インスリン抵抗性の評価
まずは1型糖尿病・2型糖尿病・MODYなどとの鑑別を行います。そのうえで、体型や家族歴、難聴の有無などを総合して、ミトコンドリア糖尿病を疑うかどうか判断します2,4)。
2. 難聴・他臓器の評価
- 耳鼻科での聴力検査(高音部からの感音性難聴が多い)3)
- 心電図・心エコー:心筋症や伝導障害の有無
- 腎機能・尿蛋白:腎症の評価
- 必要に応じて神経内科・脳画像検査など
3. 遺伝学的検査(確定診断)
ミトコンドリア糖尿病の確定診断には遺伝子検査(mtDNA変異の確認)が必要です。代表的なのが m.3243A>G 変異ですが、他の変異も報告されています1,5)。
遺伝子検査は、大学病院や専門機関と連携して行うことが多く、保険適応や検査方法は施設ごとに異なります。しもやま内科では、「ミトコンドリア糖尿病の可能性があるかどうか」を整理したうえで、必要に応じて連携先にご紹介します。
治療とフォローアップ
血糖コントロールの基本
- 食事・運動などの生活習慣の調整
- 内服薬(インスリン分泌・感受性を考慮)
- インスリン療法(早い段階で必要となることも)
ミトコンドリア糖尿病では、膵β細胞のエネルギー産生障害からインスリン分泌が低下しやすく、時間とともにインスリン依存になりやすいと報告されています1,2)。
薬剤選択にあたっては、ミトコンドリア機能に影響しうる薬剤(例:乳酸アシドーシスリスクがある薬)への注意が必要であり、個々の状況に合わせて慎重に判断します2,4)。
全身のミトコンドリア病としてのフォロー
- 心臓:心筋症・伝導障害のチェック(心電図・心エコーなど)
- 腎臓:腎機能・尿蛋白、ミトコンドリア病に特徴的な腎障害の評価
- 神経・脳:MELASに代表される脳卒中様発作やけいれんの有無
- 眼:網膜・視神経の異常(MELAS・MIDD関連の眼合併症)
- 聴覚:難聴の進行や補聴器・人工内耳の検討
これらはすべての患者さんに起きるわけではありませんが、ミトコンドリア糖尿病が疑われる方では、一般的な糖尿病以上に全身のフォローが大切です3,4)。
家族への影響と遺伝カウンセリング
ミトコンドリアDNAは母から子へ受け継がれるため、ミトコンドリア糖尿病の患者さんのお子さんには変異を受け継ぐ可能性があります4,5)。ただし、「変異を持っている=必ず同じように発症する」というわけではなく、症状の出方や程度は人により大きく異なります。
家族への説明や遺伝カウンセリングは、遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーと連携して行うことが望ましいため、必要に応じて適切な医療機関をご紹介します4,5)。
📞 ミトコンドリア糖尿病が心配な方へ
「やせ型なのに若くして糖尿病になった」「母方の家族に糖尿病と難聴が多い」など、気になる点があればご相談ください。
糖尿病専門医が、ミトコンドリア糖尿病を含めた背景疾患を意識しながら評価・治療方針をご説明します。
よくあるご質問(FAQ)
ミトコンドリア糖尿病は、普通の2型糖尿病と何が違うのですか?
どのくらい珍しい病気なのですか?
ミトコンドリア糖尿病は家族に遺伝しますか?
インスリン治療は必ず必要になりますか?
難聴や心臓病など、他の病気も出やすいのでしょうか?
遺伝子検査はどこで受けられますか?
船橋市周辺でミトコンドリア糖尿病について相談したいのですが…
関連ページ
- ▶ 糖尿病トップページ(/dm/)
- ▶ HbA1cだけでは見えない血糖コントロール(Time in Rangeなど)
- ▶ CGM機器の比較(Libre 2・Dexcom G7)
- ▶ インスリンポンプ療法(CSII)について
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。
引用・参考文献
- Maassen JA, et al. Diabetes. 1995;44:1042–1049.
- 日本糖尿病学会 編.糖尿病治療ガイド 2024–2025.南江堂.
- McMillan HJ, et al. Neurology. 2010;75:1545–1553.
- Elliott HR, et al. Nat Rev Endocrinol. 2008;4:96–105.
- Goto Y. J Hum Genet. 2020;65:467–476.