脱水を契機に糖尿病性ケトアシドーシスをきたした1型糖尿病例
200x年12月中旬より口渇・多飲・多尿が出現し、医療機関を受診した。随時血糖値582mg/dlであったため、XXXX年YY月某病院糖尿病内科紹介となった。抗GAD抗体50.4U/ml、空腹時血清CPR0.6ng/mlであり、自己抗体陽性、内因性インスリン分泌が低下していたことから1A型糖尿病と診断され、入院し強化インスリン療法開始となった。その後某クリニックに紹介され、通院フォローされていた。2011年12月、持続皮下インスリン注入療法(CSII)を希望し、当科紹介受診した。翌年1月、当科院しCSII導入を行った。その後外来フォローを続けていた。ZZZZ年AA月中旬から食欲低下が出現した。AA月BB日夜より嘔吐が始まり、10数回嘔吐した。翌朝全身倦怠感と頭痛のため救急要請し、当院ERへ搬送された。来院時、随時血糖360mg/dl、尿ケトン強陽性、代謝性アシドーシスを認め、DKAの診断で当科へ入院となった。
入院前より胃腸炎様症状があり,摂食量が減っていてシックデイ状態であった.CSIIによるベーサルインスリン投与,摂食量に応じたボーラス投与,水分摂取にて対応していたが,入院当日未明より頻回な嘔吐を繰り返したことから脱水が進行し糖尿病性ケトアシドーシスに至ったと考えられた.入院後生理食塩水の投与と並行してノボラピッド持続皮下注を行い,脱水の補正と血糖コントロールを行った.翌朝にアシドーシスはなくなり,同日昼から食事を再開した。しかしながら,経口摂取が十分ではないことからベーサルを7-0時:0.4 U/hr、0-7時:0.3 U/hr、ボーラスの投与量はスライディングスケールに従うものとした.その後血糖値は安定し、100台前半で推移した.26日には食事を半分以上摂取出来るようになった.翌日よりボーラスインスリンは2-2-2を基本とすることにした.ご本人が退院を希望されたことから、同日退院を許可した.食事量が安定するまでの1-2週間は看護師が定期的に電話で状況を聴取し,医師よりインスリン流量の変更指示を適宜与える方針とした.
糖尿病性ケトアシドーシスは,インスリンの極端な欠乏とインスリン拮抗ホルモンの増加により,高血糖(≧250 mg/dL),高ケトン血症(β-ヒドロキシ酪酸の増加),アシドーシス(PH<7.30,重炭酸塩濃度<18mEq/L)をきたした状態であり,緊急の対応が必要である1).1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)の初発症状として認められるのみならず,本症例のような1型糖尿病患者における感染症併発時,あるいは感染症に引き続き胃腸炎を併発し,嘔気・嘔吐などの消化器症状のため十分な摂食ができないときに起きやすい2).このような場合にはシックデイルールに基づいたインスリン投与量の調整,水分摂取励行が必要となるが,本症例のように嘔吐のため経口水分摂取が不可能な場合には入院のうえ補液を行うことが不可欠となる.
【参考文献】
1) Trachtenbarg DE,Diabetic ketoacidosis.Am Fam Physician.,2005.
2) Morris LR, Murphy MB, Kitabchi AE.Bicarbonate therapy in severe diabetic ketoacidosis.Ann Intern Med,1986.