高浸透圧高血糖症候群(HHS)とは
高浸透圧高血糖症候群(HHS)は、血糖値が極度に上昇(600 mg/dL以上)し、血液が濃縮されて高浸透圧状態になることで意識障害や脱水をきたす、糖尿病の緊急症です。主に2型糖尿病の高齢者に発症し、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)よりも死亡率が高い(5〜20%)ため、迅速な対応が不可欠です。しもやま内科(船橋市)では、糖尿病専門医がHHSの診断・治療・予防指導を行っています。
HHSの病態生理——なぜ危険なのか
HHSの根底にあるのは、相対的なインスリン不足とストレスホルモン(カテコラミン、グルカゴン、コルチゾール、成長ホルモン)の過剰です。これにより肝臓での糖新生が亢進し、末梢組織での糖利用が低下するため、血糖値が急激に上昇します。
高血糖になると尿中に糖が漏れ出し(浸透性利尿)、大量の水分と電解質が失われます。この脱水が進行すると血液が濃縮され、血清浸透圧が320 mOsm/kg以上に達します。DKAと異なり、HHSではインスリンが完全に欠乏しているわけではないため、ケトン体の著明な蓄積は起こりません。しかし、脱水と高浸透圧による脳細胞の脱水が意識障害を引き起こし、最悪の場合は昏睡に至ります。
主な症状——初期兆候を見逃さない
HHSの症状は数日から数週間かけて徐々に進行します。初期には以下の症状が現れます:
- 多飲・多尿:のどが異常に渇き、頻繁にトイレに行く
- 体重減少:糖が尿中に排泄されるため
- 口渇・皮膚の乾燥:脱水のサイン
- 倦怠感・脱力感:エネルギー不足と脱水による
進行すると以下の症状が現れ、この段階では緊急受診が必要です:
- 意識障害:ぼんやりする、反応が鈍い、混乱
- 痙攣:高浸透圧による神経症状
- 一過性の片麻痺:脳卒中と誤診されることもある
- 昏睡:最終的に意識を失う
診断基準——検査値で見極める
HHSの診断は主に血液検査に基づきます。以下の基準が参考になります:
| 項目 | HHS | DKA(参考) |
|---|---|---|
| 血糖値 | 600 mg/dL以上 | 250 mg/dL以上 |
| 血清浸透圧 | 320 mOsm/kg以上 | 可変 |
| 動脈血pH | 7.3以上 | 7.3未満 |
| 血清重炭酸 | 15 mEq/L以上 | 15 mEq/L未満 |
| 尿中・血中ケトン | 微量〜軽度 | 強陽性 |
| アニオンギャップ | 正常 | 上昇 |
HHSとDKAの違い——完璧に理解する
同じ糖尿病の緊急症であるHHSとDKAですが、発生機序・患者背景・治療法に違いがあります。以下に比較表でまとめます:
| 項目 | HHS | DKA |
|---|---|---|
| 主な患者像 | 2型糖尿病の高齢者 | 1型糖尿病(若年〜中年) |
| 発症スピード | 数日〜数週間(緩徐) | 数時間〜1日(急激) |
| 血糖値 | 600〜1,200 mg/dL以上 | 250〜600 mg/dL |
| ケトーシス | なし〜軽度 | 著明 |
| アシドーシス | なし | あり(pH低下) |
| 意識障害 | 高頻度(重症例では昏睡) | 比較的少ない |
| 脱水 | 極度(10〜15%の体液喪失) | 中等度(5〜10%) |
| 死亡率 | 5〜20% | 1〜5% |
| 平均入院期間 | 5〜10日 | 3〜5日 |
| 主な治療の柱 | 大量輸液+インスリン | 輸液+インスリン+ケトン対策 |
HHSの死亡率が高い理由は、高齢で基礎疾患を持つ患者が多いこと、発見が遅れやすいこと、治療中の合併症(脳浮腫、心不全、電解質異常)リスクが高いことです。
治療——ステップバイステップ
1. 輸液療法(最優先)
HHS治療の要は大量の輸液です。推定脱水量は体重の10〜15%に及びます。
- 第1時間目:生理食塩液 15〜20 mL/kg(体重60 kgなら900〜1,200 mL)を急速投与
- 2〜4時間目:0.45%食塩液(高ナトリウム血症の場合)または生理食塩液を250〜500 mL/時
- 以降:バイタル・尿量・電解質を見ながら調整。最初の24時間で総輸液量4〜6 Lが目安
高齢者では心不全に注意し、輸液速度を調整します。必要に応じてCVP(中心静脈圧)モニタリングを行います。
2. インスリン療法
- 初期:インスリン持続静注(0.05〜0.1 U/kg/時)。血糖値が1時間あたり50〜70 mg/dLずつ低下するよう調整
- 血糖値が300 mg/dLを下回ったら:輸液をブドウ糖含有液に切り替え、インスリン投与量を減量(0.02〜0.05 U/kg/時)
- 経口摂取が可能になったら:皮下注インスリンに切り替え。持効型+速効型の regimen で管理
3. 電解質補正
- カリウム:血清K値が5.3 mEq/L未満なら輸液にKを追加(20〜30 mEq/L)。5.3以上なら補正不要。低K血症は不整脈の原因となるため注意
- リン:著明な低リン血症(1.0 mg/dL未満)では補充を検討
- マグネシウム:低Mg血症も補正
4. 原因精査と治療
HHSの約60%は感染症が契機となります。発熱・咳嗽・排尿痛などの症状がないか確認し、必要に応じて抗菌薬を投与します。その他、心筋梗塞・脳卒中・薬剤性(ステロイド、利尿薬、抗精神病薬)も考慮します。
高齢者特有の注意点
HHS患者の多くは65歳以上の高齢者であり、以下の点に特に注意が必要です:
- 非典型的な症状:のどの渇きを感じにくい(口渇中枢の機能低下)、認知機能低下により症状をうまく伝えられない
- 発熱がなくても感染症:高齢者では発熱反応が弱いため、感染症を見逃しやすい
- 薬剤性リスク:サイアザイド系利尿薬、SGLT2阻害薬、抗精神病薬(オランザピンなど)がHHSを誘発することがある
- 転倒リスク:脱水によるふらつきや低血圧で転倒リスクが上昇
- 誤嚥性肺炎:意識障害時に誤嚥を起こしやすい
- フレイル・サルコペニア:長期間の入院で筋力低下が加速
入院期間の目安と退院後フォロー
HHSの平均入院期間は5〜10日間です。退院基準の目安は以下の通り:
- 血糖値が安定し、経口摂取が可能である
- 意識状態が正常に戻っている
- 電解質異常が改善している
- 基礎疾患(感染症など)がコントロールされている
- 自宅での自己注射・血糖測定が可能(または家族の支援がある)
退院後は以下のフォローが重要です:
- 1週間後:血糖コントロール確認、インスリン量調整
- 1ヶ月後:HbA1c、腎機能、電解質チェック
- 3ヶ月後以降:3〜6ヶ月ごとの定期フォロー。再発予防のための生活指導を継続
予防——HHSを防ぐ生活習慣
水分摂取の重要性
HHSの最大の予防策は「脱水を防ぐ」ことです。特に高齢者や夏場は意識的な水分補給が必要です。以下は1日の水分摂取スケジュールの例です:
| 時間帯 | 摂取量の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 起床時(6:00〜7:00) | コップ1杯(200 mL) | 寝ている間の脱水を補う |
| 朝食時 | お茶または水 200 mL | |
| 10時頃 | 水または麦茶 200 mL | 利尿作用のあるコーヒーより水を |
| 昼食時 | 味噌汁+水 200 mL | 塩分の取りすぎに注意 |
| 15時頃 | 水またはお茶 200 mL | 夕方に向けてこまめに |
| 夕食時 | お茶または水 200 mL | |
| 就寝前 | コップ1杯(200 mL) | 夜間の脱水予防 |
| 合計約1,400 mL(食事中の水分を含めると約2,000〜2,500 mL) | ||
シックデイ・ルール(体調不良時の対応)
- 絶対に自己判断でインスリンや内服薬を中止しない:体調不良時はむしろインスリン需要が増加することが多い
- こまめに水分を摂る:1時間おきにコップ半分(100 mL)の水やお茶を飲む
- 血糖値を頻回に測定する:4時間おきを目安に
- 家族に伝える:体調不良であることを同居家族に知らせる
- 以下の場合はすぐに医療機関に連絡する:血糖値が500 mg/dL以上、嘔吐が続く、水分が摂れない、意識がぼんやりする
定期的な血糖コントロール
HbA1c 7.0%未満を目標に、主治医と相談しながら治療を継続しましょう。特に高齢者では、低血糖リスクとのバランスを考慮した個別の目標設定が重要です。
家族向け——見守りポイント
HHSは本人の自覚症状が乏しいまま進行することがあります。同居家族は以下の点に注意して見守りましょう:
- 水分摂取量の確認:高齢者は喉の渇きを感じにくい。積極的に水分を勧める
- トイレの回数と尿量:極端に多い、または逆に少ない(脱水進行)場合は要注意
- 意識レベルの変化:いつもよりぼんやりしている、反応が遅い、話が通じない
- 体重の急激な減少:数日で2〜3 kg減るのは脱水のサイン
- 肌のツルゴール(張り):腕の皮膚をつまんで戻りが遅い(1〜2秒以上)のは脱水の兆候
- 血糖測定器の数値:血糖値が500 mg/dLを超えたら迷わず医療機関へ
緊急時の判断——119番が必要なケース
🚨 すぐに119番へのご連絡をおすすめします
- 意識がない、呼びかけに反応しない
- 痙攣(けいれん)が起きている
- 半分の顔・手足が動かない(脳卒中が疑われる)
- 呼吸がおかしい(浅い・速い)
- 呼びかけても返事が曖昧で、明らかにおかしい
⚠️ 速やかに医療機関を受診してください
- 血糖値が500 mg/dL以上で、水分が十分に摂れない
- 嘔吐が続いて食事や水分が一切摂れない
- 強い口渇で水分を大量に飲んでいるが、尿も異常に多い
- いつもより元気がなく、だるそうにしている
- 発熱(38℃以上)があり、糖尿病のコントロールが悪い
しもやま内科 電話:047-467-5500(診療時間内)/かかりつけ医に連絡
✅ 通常の診療予約で対応可能なケース
- HbA1cが高めだが、自覚症状は特にない
- 最近のどの渇きや尿の回数が増えた気がするが、元気はある
- HHSについて予防的な相談がしたい
- 糖尿病の治療を継続中で、定期的なフォローアップが必要
Q&A(よくある質問)
Q1. HHSとDKAの違いは何ですか?
HHS(高浸透圧高血糖症候群)は主に2型糖尿病の高齢者に発症し、極度の高血糖(600 mg/dL以上)と脱水が特徴で、ケトン体の蓄積は軽度にとどまります。DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)は主に1型糖尿病に発症し、ケトン体の蓄積によるアシドーシス(血液の酸性化)が特徴です。HHSの方が死亡率が高く、より慎重な治療が必要です。
Q2. HHSの初期症状はどんなものがありますか?
初期症状は、異常な喉の渇き(多飲)、頻尿(多尿)、体重減少、倦怠感などです。これらの症状は数日から数週間かけて徐々に進行します。高齢者では喉の渇きを感じにくいため、症状に気づきにくいことがあります。
Q3. HHSの死亡率はどのくらいですか?
HHSの死亡率は5〜20%と報告されており、DKA(1〜5%)よりも高くなっています。これは、高齢で基礎疾患(心疾患・腎疾患など)を併せ持つ患者が多いこと、発見が遅れやすいこと、治療中の合併症リスクが高いことが理由です。早期発見・早期治療で死亡率を下げることができます。
Q4. HHSは必ず入院が必要ですか?
はい、HHSと診断された場合は原則として入院治療が必要です。重症の脱水に対する持続的な輸液、インスリンの静脈投与、電解質の補正、意識レベルのモニタリングが必要なため、ICU(集中治療室)または救命救急病棟での管理が推奨されます。
Q5. HHSの治療期間はどのくらいですか?
入院期間の目安は5〜10日間です。高血糖と脱水の改善には通常24〜48時間を要し、その後は経口摂取と皮下注インスリンへの切り替え、原因疾患の治療を行います。退院後も1週間〜1ヶ月程度の頻回フォローアップが必要です。
Q6. HHSを予防するために自宅でできることは?
最も重要なのは脱水予防です。1日1.5〜2 Lの水分をこまめに摂取しましょう(目安は起床時・10時・15時・就寝前などにコップ1杯)。また、体調不良時(シックデイ)には自己判断で薬をやめず、こまめに血糖値を測り、水分を摂るようにしてください。定期的な血糖コントロールとHbA1cの管理も予防に有効です。
Q7. 危険な血糖値の目安は?
一般的に、血糖値が300 mg/dLを超えると注意が必要です。特に500 mg/dL以上はHHSの可能性が高く、医療機関の受診が必要です。600 mg/dLを超える場合は意識障害のリスクが高まり、緊急対応が必要です。自宅での血糖測定が可能な方は、異常値を感じたらすぐに医療機関に相談してください。
Q8. HHSが疑われる場合、家族はどう対応すればいいですか?
まず意識状態を確認してください。意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が悪い、痙攣がある場合はためらわずに119番へのご連絡をおすすめします。意識がはっきりしている場合は、①水分を摂らせる(少量ずつ)、②血糖値を測る(可能なら)、③かかりつけ医に電話で相談する、の順で対応してください。自己判断でインスリンを追加しないでください。
Q9. HHSは再発しますか?
はい、再発のリスクがあります。特に、糖尿病のコントロールが不良なままである場合、感染症を繰り返す場合、高齢でフレイル状態にある場合に再発リスクが高まります。再発予防には、適切な血糖管理(HbA1c 7.0%未満目標)、定期的な医療機関受診、感染症予防(手洗い・ワクチン接種)、適切な水分摂取の継続が重要です。
Q10. 高齢者の水分補給で気をつけることは?
高齢者は喉の渇きを感じにくいため、のどが渇く前に水分を摂る習慣が大切です。食事のときに一緒に水分を摂る、目につく場所に水筒を置く、タイマーで水分摂取を促すなどの工夫が有効です。ただし、心不全や腎不全で水分制限が必要な方は、主治医の指示に従ってください。一度に大量に飲むと誤嚥のリスクがあるため、少量ずつ(コップ半分程度)こまめに飲むようにしましょう。
参考文献
- 日本糖尿病学会編「糖尿病治療ガイド2024-2025」文光堂
- American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026
- Kitabchi AE, et al. Hyperglycemic crises in adult patients with diabetes. Diabetes Care. 2009;32(7):1335-1343
- Karslioglu French E, et al. Hyperosmolar Hyperglycemic State: A Historic Review of the Clinical Presentation, Diagnosis, and Treatment. Diabetes Care. 2022;45(8):e1-e10
- Pasquel FJ, Umpierrez GE. Hyperosmolar hyperglycemic state: a historic review of the clinical presentation, diagnosis, and treatment. Diabetes Care. 2014;37(11):3124-3131
監修:しもやま内科(千葉県船橋市本町1-6-23 プライムメディカルビル3F)
糖尿病専門医(日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医)
最終更新日:2026年8月26日
電話:047-467-5500(予約制)
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最終更新日:2026-08-28
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。