糖尿病内科

糖尿病性腎症:進行と対策をステージ別に理解する

03/05/2024

糖尿病性腎症は、糖尿病の長期的な高血糖が原因で腎臓の機能が徐々に低下していく合併症です。進行すると、最終的には腎不全となり、人工透析が必要となるケースも少なくありません。現在、日本で人工透析を受けている方の約2人に1人が糖尿病を原因としているという現実があります。

糖尿病性腎症の進行を抑えるためには、早期発見と適切な管理が不可欠です。ここでは、糖尿病性腎症の進行を1期から5期のステージに分け、それぞれの段階でどのような変化が起こり、何をすべきかを分かりやすく解説します。

糖尿病性腎症のステージ別解説

糖尿病性腎症の進行度は、主に尿中のアルブミン(タンパク質の一種)の量と、腎臓の働きを示すeGFR(推算糸球体ろ過量)によって分類されます。

ステージ 特徴(何が起きるか) 対策(何をすべきか)
1期:腎機能亢進・早期腎症期
(eGFR ≥ 90 mL/min/1.73m²)
  • 腎臓の働きが通常よりも活発になる(代償性)。
  • 尿中にアルブミンがほとんど検出されない、またはごく微量。
  • 自覚症状はほとんどない。
  • 血糖コントロールの徹底(HbA1c 7%未満を目指す):食事療法、運動療法、薬物療法を適切に行い、高血糖を改善します。
  • 血圧コントロール(130/80 mmHg以下を厳守):必要に応じて降圧薬を使用します。
  • 定期的な尿検査・血液検査:早期発見のために重要です。
2期:早期腎症期
(eGFR ≥ 90 mL/min/1.73m²)
  • 尿中に微量アルブミンが検出され始める(微量アルブミン尿)。
  • 腎機能はまだ正常範囲内だが、徐々に低下の兆候が見られる。
  • 自覚症状はほとんどない。
  • 1期と同様の対策をより厳格に継続します。
  • 減塩(食塩摂取量6g未満):加工食品や外食に注意し、薄味を心がけます。
  • レニン・アンギオテンシン系阻害薬の導入:腎臓を保護する目的でACE阻害薬やARBが処方されることがあります。
  • 運動療法の継続:医師の指示のもと、適度な運動を続けます。
3期:顕性腎症期
(eGFR 60~89 mL/min/1.73m²)
  • 尿中のアルブミン量がさらに増加し、肉眼的にもタンパク尿が確認されることがある(顕性アルブミン尿)。
  • eGFRが低下し始め、腎機能の明らかな低下が見られる。
  • むくみ、倦怠感、貧血などの症状が出始めることがある。
  • 血糖コントロールの徹底と厳格な血圧コントロール(125/75 mmHg以下を目指す)
  • 厳格な減塩(食塩摂取量6g未満)
  • タンパク質摂取量の調整:腎臓への負担を軽減するため、医師や管理栄養士と相談し、適切なタンパク質摂取量を設定します(過度な制限は避ける)。
  • 薬物療法:レニン・アンギオテンシン系阻害薬に加えて、SGLT2阻害薬などの新しい腎保護薬が考慮されることがあります。
  • カリウム、リンの摂取にも注意が必要になることがあります。
4期:腎不全前期
(eGFR 15~59 mL/min/1.73m²)
  • eGFRが著しく低下し、重度の腎機能障害が見られる。
  • むくみ、貧血、倦怠感、食欲不振、吐き気などの症状が顕著になる。
  • 尿毒症の症状が出始めることもある。
  • 上記ステージでの対策をさらに厳格に実施します。
  • タンパク質摂取量のさらなる制限:個別の状態に合わせて、医師や管理栄養士が詳細な食事指導を行います。
  • 透析導入の準備:今後の治療方針について医師と十分に話し合い、人工透析や腎移植などの選択肢について検討を始めます。
  • 運動療法は医師の指示のもと慎重に行う:場合によっては制限されることもあります。
5期:末期腎不全期
(eGFR < 15 mL/min/1.73m²)
  • 腎臓の機能がほぼ失われ、eGFRが15mL/min/1.73m²未満となる。
  • 尿毒症症状が重篤化し、命にかかわる状態。
  • 人工透析や腎移植なしでは生命維持が困難になる。
  • 人工透析(血液透析または腹膜透析)の開始
  • 腎移植の検討
  • 症状緩和のための対症療法

糖尿病性腎症の食事療法・生活習慣のポイント

どのステージにおいても、以下の食事療法と生活習慣のポイントは重要です。

  • 塩分の摂取を制限:腎臓への負担を軽減し、血圧の上昇を防ぎます。加工食品や外食での塩分にも注意が必要です。
  • 血糖値コントロール:HbA1c 7%未満を維持できるよう、継続的な努力が重要です。
  • 血圧コントロール:血圧は目標値(130/80 mmHg以下、進行期では125/75 mmHg以下)を厳守するよう努めます。
  • タンパク質の摂取量を調整:腎臓の負担を軽減するため、進行度に応じて適切なタンパク質摂取量について医師や管理栄養士と相談しましょう。
  • 適切な運動療法:医師の指示を受けてから行いましょう。特に進行した糖尿病性腎症の場合、運動が逆効果になることもあります。
  • 禁煙:喫煙は腎機能の悪化を促進するため、禁煙は必須です。

糖尿病性腎症の薬物療法

糖尿病性腎症の薬物療法は、レニン・アンギオテンシン系の薬剤(ACE阻害薬やARB)が基本となります。これらの薬剤は、血圧を下げるだけでなく、腎臓の保護作用も期待できます。近年では、SGLT2阻害薬など、腎保護作用を持つ新しい薬剤も登場しており、病状に応じて選択します。

詳細については、以下の記事もご参照ください。
糖尿病性腎症の薬物療法

糖尿病性腎症は、自覚症状が出にくい病気ですが、早期に発見し適切な治療を行うことで、進行を遅らせることが可能です。定期的な検査と医師の指導のもと、病気と向き合っていくことが大切です。

👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医

糖尿病、内科一般、脂質異常症、亜鉛欠乏症などの栄養管理にも幅広く対応。
地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

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