📘 まず結論
- 甲状腺がんには4つの種類があります
- 乳頭癌は最も多く(95%以上)、予後が良好です
- 濾胞癌は血行性転移(肺・骨)に注意が必要です
- 髄様癌は遺伝性のことがあり、カルシトニン・CEAで評価します
- 未分化癌は最も悪性度が高く、進行が速いです
- 治療は手術が基本で、必要に応じて放射性ヨウ素治療・TSH抑制療法を追加します
- 乳頭癌・濾胞癌の10年生存率は90%以上です
「甲状腺がんです」と言われたら、誰でも大きな不安を抱くと思います。しかし、甲状腺がんは他のがんに比べて予後が良好で、適切に治療すれば普通の生活を送ることができます。
このページでは、甲状腺がんの4つの種類、各がんの特徴、治療法、予後について、甲状腺専門医がわかりやすく解説します。
甲状腺がんの種類
甲状腺がんは、細胞の種類によって4つに分類されます。それぞれ特徴が異なり、治療法や予後も違います。
| 種類 | 頻度 | 特徴 | 予後 |
|---|---|---|---|
| 乳頭癌 | 約95% | 最も多い、リンパ節転移しやすい | 良好(10年生存率90%以上) |
| 濾胞癌 | 約3-5% | 血行性転移(肺・骨)に注意 | 良好(10年生存率85%以上) |
| 髄様癌 | 約1-2% | 遺伝性のことがある、カルシトニン上昇 | 中等度(10年生存率75%以上) |
| 未分化癌 | 約1%未満 | 最も悪性度が高い、進行が速い | 不良(1年生存率20%以下) |
1. 乳頭癌(Papillary Thyroid Carcinoma; PTC)
最も多い甲状腺がんで、全体の約95%を占めます。女性に多く、30-50代で発症しやすいです。
特徴
- 頻度:甲状腺がんの約95%
- 年齢:30-50代に多い
- 性別:女性に多い(男女比1:3-4)
- 転移:リンパ節転移しやすいが、遠隔転移は少ない
- 予後:非常に良好(10年生存率90%以上)
症状
- 首のしこり(無痛性)
- 頸部リンパ節の腫れ
- 声のかすれ(喉頭返神経麻痺)
- 飲み込みにくい(気管・食道圧迫)
診断
- エコー検査:低エコー・微細石灰化・不整縁・taller-than-wide
- 穿刺細胞診(FNA):乳頭癌の特徴的な細胞所見
- 血液検査:甲状腺機能は通常正常
治療
- 手術:葉切除または全摘出(腫瘍径・転移により決定)
- 放射性ヨウ素治療(RAI):高リスク例に追加
- TSH抑制療法:レボチロキシンでTSHを低く保つ
予後
- 10年生存率:90%以上
- 再発率:10-30%(リンパ節転移あり)
- 予後不良因子:高齢(55歳以上)、腫瘍径4cm以上、被膜外浸潤、遠隔転移
2. 濾胞癌(Follicular Thyroid Carcinoma; FTC)
甲状腺がんの約3-5%を占めます。乳頭癌に比べて血行性転移(肺・骨)が多いのが特徴です。
特徴
- 頻度:甲状腺がんの約3-5%
- 年齢:40-60代に多い
- 性別:女性に多い
- 転移:血行性転移(肺・骨)に注意
- 予後:良好(10年生存率85%以上)
症状
- 首のしこり(無痛性)
- 骨痛(骨転移の場合)
- 咳・呼吸困難(肺転移の場合)
診断
- エコー検査:低エコー・辺縁石灰化
- 穿刺細胞診(FNA):濾胞性腫瘍と診断され、手術で確定
- 血液検査:サイログロブリン(Tg)が腫瘍マーカー
治療
- 手術:全摘出が基本
- 放射性ヨウ素治療(RAI):転移あり・高リスク例に追加
- TSH抑制療法:レボチロキシンでTSHを低く保つ
予後
- 10年生存率:85%以上
- 再発率:10-20%
- 予後不良因子:広範な血管侵襲、遠隔転移、高齢
3. 髄様癌(Medullary Thyroid Carcinoma; MTC)
甲状腺がんの約1-2%を占めます。傍濾胞細胞(C細胞)から発生し、カルシトニンを産生します。遺伝性のことがあります。
特徴
- 頻度:甲状腺がんの約1-2%
- 年齢:40-60代に多い
- 性別:男女差なし
- 遺伝:約25%が遺伝性(MEN2症候群)
- 予後:中等度(10年生存率75%以上)
症状
- 首のしこり(無痛性)
- 下痢(カルシトニンによる)
- ほてり(カルシトニンによる)
- 頸部リンパ節の腫れ
診断
- 血液検査:カルシトニン・CEA上昇
- エコー検査:低エコー・微細石灰化
- 穿刺細胞診(FNA):髄様癌の特徴的な細胞所見
- 遺伝子検査:RET変異(MEN2の場合)
治療
- 手術:全摘出+頸部リンパ節郭清
- 放射性ヨウ素治療(RAI):無効(C細胞はヨウ素を取り込まない)
- 分子標的薬:進行例にバンデタニブ・カボザンチニブ
予後
- 10年生存率:75%以上
- 再発率:20-40%
- 予後不良因子:高齢、腫瘍径4cm以上、遠隔転移、RET変異
4. 未分化癌(Anaplastic Thyroid Carcinoma; ATC)
甲状腺がんの約1%未満を占めます。最も悪性度が高く、進行が速いです。高齢者に多いです。
特徴
- 頻度:甲状腺がんの約1%未満
- 年齢:60-80代に多い
- 性別:女性にやや多い
- 進行:非常に速い
- 予後:不良(1年生存率20%以下)
症状
- 首のしこり(急速に増大)
- 声のかすれ
- 飲み込みにくい
- 呼吸困難
- 頸部リンパ節の腫れ
診断
- エコー検査:低エコー・不整縁・広範な浸潤
- 穿刺細胞診(FNA):未分化癌の特徴的な細胞所見
- CT・MRI:広範な浸潤・転移の評価
治療
- 手術:切除可能な場合のみ
- 放射線治療:局所制御
- 化学療法:パクリタキセル・ドキソルビシン
- 分子標的薬:レンバチニブ・ソラフェニブ
予後
- 1年生存率:20%以下
- 中央生存期間:3-6ヶ月
- 予後不良因子:高齢、腫瘍径4cm以上、遠隔転移、気管浸潤
甲状腺がんのステージ分類
甲状腺がんのステージは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)で決定します。
乳頭癌・濾胞癌のステージ(55歳未満)
| ステージ | 腫瘍 | リンパ節 | 遠隔転移 |
|---|---|---|---|
| I期 | T1〜T4(すべての腫瘍サイズ) | N0〜N1(すべてのリンパ節転移) | M0(なし) |
| II期 | T1〜T4(すべての腫瘍サイズ) | N0〜N1(すべてのリンパ節転移) | M1(あり) |
55歳未満では、遠隔転移がなければI期、あればII期です。予後は非常に良好です。
乳頭癌・濾胞癌のステージ(55歳以上)
| ステージ | 腫瘍 | リンパ節 | 遠隔転移 |
|---|---|---|---|
| I期 | T1-T2 | N0-N1 | M0 |
| II期 | T3-T4 | N0〜N1(すべてのリンパ節転移) | M0 |
| III期 | T1〜T4(すべての腫瘍サイズ) | N1 | M0 |
| IV期 | T1〜T4(すべての腫瘍サイズ) | N0〜N1(すべてのリンパ節転移) | M1 |
甲状腺がんの治療法
1. 手術
甲状腺がんの治療の基本です。腫瘍の大きさ・転移の有無により、手術範囲を決定します。
- 葉切除:片側の甲状腺のみ切除(低リスク例)
- 全摘出:両側の甲状腺を切除(高リスク例・転移あり)
- 頸部リンパ節郭清:リンパ節転移がある場合
2. 放射性ヨウ素治療(RAI)
手術後に残存甲状腺組織や転移を治療します。乳頭癌・濾胞癌に有効です。
- 適応:高リスク例・転移あり
- 効果:再発リスク低下
- 副作用:唾液腺障害・味覚障害・不妊(一過性)
3. TSH抑制療法
レボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)を服用し、TSHを低く保つことで再発リスクを低下させます。
- 目標TSH:リスク層別により異なる(0.1-2.0 mIU/L)
- 副作用:動悸・不眠・骨粗鬆症(過度の抑制)
4. 分子標的薬
進行例・再発例に使用します。
- レンバチニブ:乳頭癌・濾胞癌
- ソラフェニブ:乳頭癌・濾胞癌
- バンデタニブ:髄様癌
- カボザンチニブ:髄様癌
甲状腺がんの予後と生存率
種類別10年生存率
| 種類 | 10年生存率 |
|---|---|
| 乳頭癌 | 90%以上 |
| 濾胞癌 | 85%以上 |
| 髄様癌 | 75%以上 |
| 未分化癌 | 1年生存率20%以下 |
ステージ別10年生存率(乳頭癌・濾胞癌)
| ステージ | 10年生存率 |
|---|---|
| I期 | 95%以上 |
| II期 | 85%以上 |
| III期 | 75%以上 |
| IV期 | 50%以上 |
甲状腺がんのよくある質問
Q. 甲状腺がんは治りますか?
はい、乳頭癌・濾胞癌は治るがんです。10年生存率は90%以上で、適切に治療すれば普通の生活を送ることができます。髄様癌も早期発見・早期治療で治癒可能です。未分化癌は進行が速く、治療が難しいです。
Q. 甲状腺がんは遺伝しますか?
ほとんどの甲状腺がんは遺伝しませんが、髄様癌の約25%は遺伝性です(MEN2症候群)。家族に髄様癌の方がいる場合は、遺伝子検査を受けることをおすすめします。
Q. 甲状腺がんの手術は痛いですか?
手術は全身麻酔で行うため、術中は痛みはありません。術後は首の切開部に痛みがありますが、鎮痛薬でコントロールできます。通常1-2週間で退院できます。
Q. 甲状腺がんの手術後、声は変わりますか?
手術で喉頭返神経を損傷すると、声がかすれることがあります。一過性のことが多いですが、永続的な場合もあります。術前に医師とよく相談してください。
Q. 放射性ヨウ素治療は痛いですか?
放射性ヨウ素治療はカプセルを飲むだけで、痛みはありません。ただし、治療後は数日間隔離が必要です。副作用として唾液腺障害・味覚障害・不妊(一過性)があります。
Q. 甲状腺がんの手術後、薬は一生飲む必要がありますか?
甲状腺を全摘出した場合は、レボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)を一生服用する必要があります。葉切除の場合は、必要ないこともあります。
Q. 甲状腺がんは再発しますか?
乳頭癌・濾胞癌の再発率は10-30%です。再発しても、手術・放射性ヨウ素治療・分子標的薬で治療可能です。定期的にフォローアップを受けることが重要です。
Q. 甲状腺がんと診断されたら、どうすればいい?
まず甲状腺専門医のいる病院を受診してください。エコー検査・穿刺細胞診で確定診断し、手術・治療方針を相談します。
Q. 甲状腺がんの食事制限は?
特別な食事制限はありません。バランスの良い食事を心がけましょう。放射性ヨウ素治療前は、ヨウ素制限(昆布・わかめ・海苔を控える)が必要です。
Q. 甲状腺がんで運動してもいい?
治療後、体調が安定すれば運動は可能です。ただし、手術後・放射性ヨウ素治療後は医師と相談してください。過度の運動は避けてください。
Q. 甲状腺がんの濾胞癌と乳頭癌の違いは?
乳頭癌はリンパ節転移しやすいですが、予後が非常に良好です。濾胞癌は血行性転移(肺・骨)に注意が必要ですが、予後は良好です。治療法は似ていますが、濾胞癌は全摘出が基本です。
Q. 甲状腺がんの髄様癌とは?
髄様癌は傍濾胞細胞(C細胞)から発生するがんで、全体の約1-2%です。カルシトニンを産生し、約25%が遺伝性(MEN2症候群)です。治療は手術が基本で、放射性ヨウ素治療は無効です。
Q. 髄様癌とはどんながん?
髄様癌は甲状腺のC細胞(カルシトニンを産生する細胞)から発生するがんで、全体の1-2%です。約25%が遺伝性(MEN2症候群)で、RET遺伝子変異が原因です。カルシトニン値が腫瘍マーカーとして有用です。
Q. 未分化癌の予後は?
未分化癌は最も悪性度が高く、進行が非常に速いです。診断から数ヶ月で命に関わることも少なくありません。手術・放射線・化学療法を組み合わせますが、予後は不良です。早期発見が重要です。
Q. 甲状腺がんの生存率は?
乳頭癌の10年生存率は95%以上と非常に良好です。濾胞癌も85-90%と良好です。髄様癌は70-80%、未分化癌は10-20%と予後が不良です。早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。
Q. 甲状腺がんは転移しやすい?
乳頭癌はリンパ節転移が多いですが、予後にはあまり影響しません。濾胞癌は血行性転移(肺・骨)を起こしやすいです。髄様癌・未分化癌も転移リスクが高いです。転移の有無で治療方針が変わります。
院長の実績と専門性
下山立志は、日本甲状腺学会 甲状腺専門医・日本糖尿病学会 糖尿病専門医・日本循環器学会 循環器専門医の三冠専門医です。
当院では年間480件以上の甲状腺疾患を診療しており、甲状腺がんの診断・治療にも豊富な経験があります。当日エコー検査も可能です。
「甲状腺がんと言われた」「手術が必要?」「予後は?」という方は、ぜひご相談ください。
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- 甲状腺内科|橋本病・バセドウ病・結節の専門外来
参考文献
- 日本甲状腺学会 編集「甲状腺疾患診療ガイドライン 2022」
- American Thyroid Association (ATA). “Management Guidelines for Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer.” Thyroid, 2016;26(1):1-133
- Haugen BR, et al. “2015 American Thyroid Association Management Guidelines for Adult Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer.” Thyroid, 2016;26(1):1-133
- Wells SA, et al. “Revised American Thyroid Association Guidelines for the Management of Medullary Thyroid Carcinoma.” Thyroid, 2015;25(6):567-610
医療者向け補足:甲状腺がんの診断・治療アルゴリズム
診断フロー
- エコー検査で結節を発見
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- TR4-5で穿刺細胞診(FNA)
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治療アルゴリズム
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フォローアップ
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最終更新日:2026-08-23
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。