甲状腺眼症

甲状腺眼症とは、甲状腺に関係した抗体が眼球の周りにある脂肪や目を動かす筋肉の中に存在し、それが標的となって炎症が起こるものです。バセドウ病の患者の約20~50%に甲状腺眼症が発症するとされていますが、明らかな眼球突出を認めるのは10%程度です。橋本病でも発症することがあり、橋本病の患者の約2%に甲状腺眼症が見られるとされています。甲状腺機能亢進症が見られるのは症例の80%に過ぎず、甲状腺機能が正常であっても甲状腺眼症は起こります。

甲状腺眼症は免疫系が誤って自分の体を攻撃すること(自己免疫機序)によって引き起こされます。特に、甲状腺に関連する抗体が眼窩(眼の奥)の組織に炎症を引き起こします。TSH受容体やIGF-1(Insulin-like Growth Factor 1)受容体に対する自己免疫機序が想定されています。

甲状腺眼症の治療は、まず禁煙です。喫煙によって甲状腺眼症が悪くなることが知られています。
つづいて、甲状腺機能を正常にコントロールすることが大切です。
バセドウ病、橋本病の治療をしっかり行いましょう。131-I 内用療法を行う場合は15%に眼症の発症や増悪をみるので、喫煙、治療前のT3高値、TSH受容体抗体高値などのハイリスク症例では3か月間のステロイド薬の予防投与を考慮します。

重症度に合わせて、ステロイド治療、放射線治療、眼窩減圧術、斜視がみられれれば斜視の手術などを行います。

甲状腺眼症に対する抗体医薬のテプロツムマブ(テッペーザ)はIGF-1受容体阻害薬です。活動性の甲状腺眼症で苦しむ患者さんが適応となり、約1時間の点滴を3週毎に8回行うことで、目の周りの炎症が落ち着き、眼球突出が平均で2mm以上減少します。眼の周りだけでなくまぶたや顔全体の腫れも改善することが報告されており、IGF-1受容体が存在する部位全体に効果があると考えられています。

IGF-1は通常、主に肝臓で産生されます。肝細胞が、成長ホルモンの刺激を受けると、IGF-1を合成および分泌します。IGF-1は成長ホルモンによって刺激され、体全体の成長を促進し、細胞の増殖や分化、代謝調節などに重要な役割を果たしています。

肝臓以外でも、IGF-1は他の組織や細胞でも産生されることがありますが、肝臓が主要なIGF-1生産器官であり、血液中での大部分のIGF-1は肝臓から放出されます。IGF-1はその後、血液を通じて体内のさまざまな組織や細胞に配布され、さまざまな生理学的機能を調節しています。

バセドウ病の記事一覧