甲状腺機能亢進症になると骨密度は低下する

osteoporosis
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、骨密度の低下(骨粗鬆症のリスク増加)がしばしば観察されます。その理由について、生理学的なメカニズムと臨床的エビデンスの両面から説明します。
✅ 骨密度低下の理由(メカニズム)
1. 甲状腺ホルモンの骨代謝への直接作用
T3(トリヨードサイロニン)は骨に直接作用し、骨吸収(骨の破壊)を促進します。
T3は破骨細胞(osteoclast)の分化と活性化を促進し、骨のリモデリングサイクルが早まります。
一方で、骨形成も起きますが、吸収のスピードが圧倒的に速くバランスが崩れる。
🧪 エビデンス:
Bassett JHD et al., Endocrine Reviews (2007):
“Thyroid hormones regulate bone turnover, leading to net bone loss when present in excess.”
2. 骨リモデリングの加速
骨のリモデリングサイクルが短縮(正常では約3〜4ヶ月 → 甲状腺機能亢進症では数週間に短縮)。
この短縮により、未成熟な骨が多くなり、骨の強度が低下します。
🧪 エビデンス:
Mosekilde L et al., Bone (1990):
Accelerated bone turnover is observed in patients with hyperthyroidism, resulting in decreased bone mass.
3. 性ホルモンや副甲状腺ホルモン(PTH)との相互作用
甲状腺機能亢進症では、性ホルモン(特にエストロゲン)作用が相対的に弱まり、骨吸収が助長される。
また、血中カルシウム濃度の上昇によりPTHが抑制され、骨形成の調整が乱れる。
✅ 臨床的エビデンス・研究
1. 骨密度(BMD)の低下を示す研究
Vestergaard P., Thyroid (2000): メタアナリシス
“Patients with hyperthyroidism had significantly lower BMD compared to euthyroid controls.”
2. 骨折リスクの増加
Flynn RW et al., J Clin Endocrinol Metab (2010):
“Hyperthyroidism is associated with increased risk of hip and vertebral fractures.”
✅ まとめ
原因 内容
骨吸収の亢進 T3の作用で破骨細胞活性が増す
骨形成の不均衡 骨形成より骨吸収が上回る
リモデリングの短縮 骨質の低下・未成熟な骨の増加
ホルモンの相互作用 エストロゲン・PTHなどとの関係が骨に影響
📌 臨床的インプリケーション
骨密度測定(DEXA)は甲状腺機能亢進症患者で定期的に行うべき。
治療によって骨密度は改善可能(ただし完全には回復しないことも)。
骨粗鬆症予防の観点からも、甲状腺機能の管理は重要です。