バセドウ病の治療について
抗甲状腺薬にはメルカゾールとチウラジール(プロパジール)がある
抗甲状腺薬にはメルカゾールとチウラジール(プロパジール)がある。1錠同士ではメルカゾールの方が効き目がやや強いという違いはあるものの、一般的にはどちらを選択しても差し支えありません。しかし、授乳中や近い将来に妊娠を希望する場合はチウラジール(プロパジール)のほうがよく用いられます。また、チウラジール(プロパジール)を飲んだ後に苦みを気にする方がいますが、これは薬の特徴であって副作用ではありません。
抗甲状腺薬の開始量は甲状腺機能亢進症の程度などにより異なる
抗甲状腺薬の開始量は甲状腺機能亢進症の程度などにより異なる。甲状腺の専門家の間で最初に内服する量を決める話し合いがされていますが現状では決まっていません。一口に甲状腺機能亢進症といってもその程度には差があり、患者さんの年齢や体力を含めたその背景もまちまちなわけですから、考えてみればこれは当たり前のことです。現状では亢進症の程度によって、メルカゾールなら3~6錠、チウラジール(プロパジール)なら4~6錠から内服というのが一般的です。
内服しながら甲状腺機能が正常化するまでには平均して6週間かかる
内服しながら甲状腺機能が正常化するまでには平均して6週間かかります。内服を開始してしばらくすると甲状腺機能は改善し始め、平均して6週間で正常化します。正常化すると体調がよくなりますのですぐに内服を中止してしまう方を見受けますが、これは間違いです。この時点では甲状腺機能亢進症を引き起こす抗体がまだ正常化していないので、中止するとすぐに機能亢進症に戻ってしまいます。もちろん、6週間で正常化させればよいというわけではなく、甲状腺機能は少しでも早く正常化させるにこしたことはありません。そのためには無理をせずに安静を心がけることが必要です。
副作用の対処法
副作用の対処法。抗甲状腺薬の副作用で最も多いのは蕁麻疹などの痒みを伴った皮疹です。非常に軽い場合は痒み止めやアレルギー止めの併用で対処しますが、多くは大量のヨードを含んだ薬に約2週間切り替え、副作用が消えたのを確かめてからもう一方の抗甲状腺薬に変更します。しかし、無顆粒球症や肝機能障害のような重篤な副作用では対処法が異なり多くは入院治療が必要となります。その他にもメルカゾールだけの稀な副作用としての低血糖やチウラジール(プロパジール)に特徴的な血管炎もありますが、この場合はもう一方の抗甲状腺薬に変更することで改善します。
重篤な副作用発現の注意期間は内服して2週間~3ヵ月間
重篤な副作用発現の注意期間は内服して2週間~3ヵ月間。無顆粒球症(顆粒球=白血球の一つ)は500~1000人に1人、重篤な肝障害はそれより頻度は低く共に内服して2週間目から3ヵ月間までが特に起こりやすい期間とされています。無顆粒球症は典型的には扁桃腺炎を中心としたのどの痛みと38℃以上の高熱の症状がでますが、副作用発現の初期は無症状のことがあることも知られています。また、肝機能障害も黄疸は稀で多くは無症状のうちに肝機能の数値が異常なまでに上昇してきます。そのため、症状の有無にかかわらず内服開始から3ヵ月目までは定期的な副作用チェックが必要となります。
内服中止までには一般的には2年以上かかる
内服中止までには一般的には2年以上かかります。内服治療中止後に甲状腺機機能正常を期待するには中止する際に幾つかの条件が必要です。中止時の内服量は一日おき1錠、その期間もできれば約一年間、もちろんその間の甲状腺機能も正常を維持していなければいけません。さらには、甲状腺機能亢進症を引き起こす抗体の正常化も中止時には必要な条件ですが、抗体の正常化には時間がかかることがままあります。このように考えると、当初からメルカゾールまたはチウラジール(プロパジール)を6錠から開始し、機能状態に合わせて内服量を調節しながら中止の条件を満たそうとすると、多くの方が中止までに2年以上かかるのも致し方ないと思います。
内服中止後に甲状腺機能亢進症に戻る例も少なくない
内服中止後に甲状腺機能亢進症に戻る例も少なくない。条件をそろえて薬を中止しても再び甲状腺機能亢進症に戻る方と戻らない方がありますが、これもその区別はつきません。戻る方が少なければいいのですが、6ヵ月~1年以内に機能亢進症に戻る割合は30%とも40%ともいわれています。このような状況でも少し前までは中止できそうな条件さえそろえば医師は内服をやめるよう勧めることが一番と考えていました。しかし、中止のたびに機能亢進症に戻ることを経験している方の中に内服薬を続けることを希望する方が増え始めたこともあり、最近では内服量が少なく副作用もでていない状態であれば止めないという選択肢も説明する傾向にあります。
内服治療で5年以内に寛解する(≒治る)のは治療者の約40%
内服治療で5年以内に寛解する(≒治る)のは治療者の約40%。内服治療を受けている患者さんのすべてが寛解【内服中止後に機能正常が一年以上維持できている状態】するわけではありません。寛解率は報告者により異なりますが、まとめてみますとおおよそ5年以内で約40%というところです。治療する前から内服治療で寛解する方としない方の区別がつけばいいのですが残念ながら見分ける有効な指標はありません。ただ、当たり前のことですが治療前から甲状腺腫が大きい方や甲状腺機能亢進症を引き起こす抗体の高い方は寛解しにくいとされています。また、寛解は一生続くという保証はないので、寛解後も定期的なチェックは欠かせません。
甲状腺の腫れが小さくなることあまり期待できない
もともとこの治療の目的は甲状腺機能亢進症を引き起こす抗体の正常化であり甲状腺腫の縮小化ではありません。事実、当初から甲状腺腫が非常に小さく柔らかめの場合は内服治療中に縮小し消失することありますがこのような方は少なく、多くの方は甲状腺腫の縮小化は望めません。ですから、甲状腺腫の縮小が第一という方は当初から手術や放射性ヨード治療を念頭に置いた方がよいと思います。
内服中止後に持続的な甲状腺機能低下症になることはまずない
手術や放射性ヨード治療を選択した場合、その後に持続的な甲状腺機能低下症になることを100%回避して欲しいと望むことには無理があります。もちろん機能低下症になっても副作用を心配する必要のない甲状腺ホルモン薬を決められた量服用することで甲状腺機能を正常に保つことができますので心配はありません。しかし、治療後に持続的な機能低下症になることを限りなく避けたいということでしたら内服治療がベストです。もちろん例外的に内服中止後に持続的な機能低下症になる方はいますが、手術や放射性ヨード治療に比べると無視できる程度といえます。
ヨード制限に関して
「医師により説明が異なる」と患者さんからよく言われることの一つです。この点に関しては甲状腺専門医の私的なアンケートの結果で殆どの医師が内服治療の際にはヨード制限は必要はないと回答しています。にもかかわらず必要と説明されるているのは、ヨード摂取の少ない外国で和食ブーム(=ヨードの摂取量が増加)になってから内服治療による寛解率が低下したという報告があるからです。しかし、この結果を世界一のヨード過剰地域の日本でそのままあてはめることはできません。また、日本でヨード制限をして検討した報告はありますが、検討期間が短いため寛解率に関しては明確な答えはでていません。いずれにしても日本でヨード制限を長期間続けることは社会生活上かなり無理があります。ヨードの摂取は一般の方と同じとしておいて問題ありません。
バセドウ病の治療法の詳細
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