妊娠前〜不妊治療期のTSH管理のポイント
妊娠成立前〜初期はTSH<2.5を目標。TSH≧4.0はLT4導入、2.5–3.9は抗体陽性やART予定で導入検討し、4〜6週ごとに再評価します。
生殖医療や婦人科外来では、潜在性甲状腺機能低下症を背景とした着床・妊娠初期のTSH変動に配慮する場面が少なくありません。
船橋市のしもやま内科(甲状腺・内分泌)では、妊娠希望例/不妊治療中/ART予定の患者さんに対して、TSH最適化・抗体評価・LT4導入/増量を、産婦人科の先生方と連携して行っています。
初回採血(TSH/FT4/抗TPO抗体/抗Tg抗体)の結果に基づき、導入基準・再評価間隔(4〜6週)・妊娠反応後の増量を共有し、治療計画(ARTの時期を含む)に合わせた短期調整を行います。

適正TSHの目安(妊娠前〜初期)
- TSH<2.5 mIU/Lを目標に管理(ART〔体外受精・顕微授精〕前は特に推奨)
- TSH≧4.0:LT4導入を基本(チラーヂンS®など)。約4週後にTSH/FT4を再評価
- TSH 2.5–3.9:抗TPO抗体陽性またはART予定なら導入検討(導入しない場合も4〜6週で再評価)
甲状腺抗体(抗TPO/抗Tg)の扱い
抗体陽性では妊娠転帰(流産・早産等)に配慮し、境界域TSHでもLT4導入を広めに検討します。
また、栄養・ヨウ素摂取、鉄欠乏、サプリメント(マルチビタミン)等の影響も確認します。
参考:ガイドライン上の推奨(専門寄せ)
- TSH<2.5 mIU/Lを妊娠前〜初期の管理目標とするのは、抗TPO抗体陽性例・ART予定例における妊娠転帰(流産・早産)への配慮による。(ATA 2017)
- TSH≧4.0 mIU/Lではサブクリニカル低下症であってもLT4導入を推奨。(ATA 2017/日本甲状腺学会 2024)
- TSH 2.5–3.9:抗TPO抗体陽性・ART予定では、着床不全・流産予防の観点からLT4導入を広めに検討。(日本甲状腺学会 2024)
- 抗TPO抗体陽性のみ(TSH軽度高値)でも、TSH上昇傾向や妊娠成立時の増量を見越し、導入または4〜6週で再評価が妥当。(ATA 2017)
- 妊娠反応陽性後のLT4増量は20–30%(週7錠→週9錠目安)が推奨。(ATA 2017/日本甲状腺学会 2024)
・American Thyroid Association Guidelines for the Diagnosis and Management of Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum, 2017.
・日本甲状腺学会 妊娠と甲状腺疾患の管理ガイドライン 2024(第2版).
抗TPO抗体陽性の頻度と臨床的含意
不妊治療中の女性では、5〜15%に抗TPO抗体陽性を認め、加齢・原疾患に依存しない一定の頻度が報告されています。
これはサブクリニカル甲状腺機能低下症を伴わないことがあるため、TSH値だけでは拾い切れない潜在例が生じます。
- 妊娠成立後のTSH上昇(初期の需要増)により、一気にコントロール不良へ進む可能性
- ART周期の前倒し調整により、移植延期・採卵スケジュール変更を回避しやすい
- TSHが正常範囲でも抗体陽性→再評価周期短縮(4〜6週、妊娠反応後は早期増量を前提)
・抗TPO抗体陽性率:不妊症女性の約5〜15%(国内報告・施設差あり)
・正常TSH帯でも潜在性変動が生じやすく、ART周期中の短期モニタリングが合理的。
ART・妊娠希望例では、TSHだけでなく抗TPO抗体の評価を行い、導入・増量の判断を前倒しにします。TSHは正常でも、抗体陽性例は4〜6週周期の再評価/妊娠反応後は早期増量前提が合理的です。
LT4導入・増量の目安(実務)
- 導入:TSH≧4.0、またはTSH 2.5–3.9で抗体陽性/ART予定。開始量は体重・年齢・既往で個別化
- 妊娠判明:LT4内服中は20–30%増量(例:週7錠→週9錠)→約4週後にTSH/FT4を再採血
- 相互作用:鉄剤・カルシウム・制酸薬は吸収低下。空腹時内服と服薬間隔の指導を徹底
採血間隔・再評価
- 原則4〜6週ごとにTSH/FT4を再評価(妊娠成立後は間隔短縮・用量微調整)
- 必要に応じてFT3、Hb/フェリチン/鉄、肝腎機能もチェック
当院への紹介基準(産婦人科→しもやま内科)
- TSHコントロール不良(4〜6週で目標未達)や増量を要する例
- 抗体陽性+ART予定で短期調整が必要
- 合併症(橋本病、甲状腺結節、心血管リスク、糖代謝異常 等)
- 再発・特殊背景で厳密なフォローが必要
甲状腺調整のご相談:
047-467-5500(船橋市・しもやま内科/初診はお電話にて)
アクセス:駐車場7台/京成バス「千葉セントラル・大慶山」バス停 徒歩1分
FAQ
妊娠前にTSHはいくつを目安に?
TSH<2.5 mIU/Lを推奨目標とします(特にART前)。TSH≧4.0はLT4導入、TSH 2.5–3.9は抗体陽性やART予定で導入を検討します。
甲状腺抗体陽性のみ(TSH軽度高値)の対応は?
抗TPO抗体陽性では、TSH 2.5–3.9でもLT4導入を広めに検討し、導入しない場合も4〜6週で再評価します。
LT4内服中に妊娠反応が出たときの増量は?
20–30%増量(例:週7錠→週9錠)を目安に、約4週後にTSH/FT4を再採血。以後、妊娠前半は4〜6週ごとに微調整します。
関連ページ:橋本病と妊娠・出産 / 妊娠希望・不妊治療中のQ&A
セクション索引:産婦人科の先生方へ / 上位:内分泌内科
【産婦人科・婦人科外来の先生方へ】
妊娠希望・不妊治療中の患者様について、TSHコントロールや抗体評価、LT4導入・増量の短期調整を承ります。
治療計画(ART時期を含む)を尊重し、周期変更を避ける前倒し調整を基本としています。
初回採血(TSH・FT4・抗TPO抗体)や既往情報を共有いただけると、即日調整がしやすくなります。採血内容が不明な場合はこちらで実施いたします。
ご連絡・ご紹介:
電話:047-467-5500 / 紹介状FAX:047-467-7500(しもやま内科・甲状腺/内分泌)
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長|船橋市(内分泌・甲状腺内科)
日本内科学会 総合内科専門医/認定内科医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
産婦人科(婦人科外来・生殖医療)と連携し、妊娠前〜不妊治療期の
TSH最適化(抗体評価・LT4導入/増量・短期調整)を担当。
ART(体外受精・顕微授精)のスケジュールに即した管理経験も多数。