拡張期血圧が高いと良くないのか?
「下の血圧だけが高いんです。」
そんなご相談を多く受けます。いわゆる「下の血圧」、医学的には拡張期血圧といいます。ちなみに「上の血圧」は収縮期血圧といいます。脈圧(血圧の上と下の差のこと)が大きいのは良くないサインです(リンク先の記事をご参照ください)。
拡張期血圧(DBP: Diastolic Blood Pressure)が高いことが健康リスクを高めるというエビデンスは、主に心血管疾患(CVD)リスクの上昇に関する大規模疫学研究から得られています。以下に代表的な研究をいくつかご紹介します。
🧪 主なエビデンス
1. Framingham Heart Study(フラミンガム研究)
- 対象:米国で行われた長期疫学調査(開始:1948年)
- 結果:
- 拡張期血圧が高い(例:90 mmHg以上)中年者では、将来的な心筋梗塞や脳卒中のリスクが有意に上昇。
- 拡張期血圧の上昇と冠動脈疾患発症率に独立した相関がある。
📚 参考文献:Kannel WB et al. The Framingham Study: an epidemiological investigation of cardiovascular disease. U.S. Government Printing Office; 1970.
2. Multiple Risk Factor Intervention Trial (MRFIT)
- 対象:30万例以上の男性
- 結果:
- 拡張期血圧が高いほど、冠動脈疾患による死亡率が上昇。
- 収縮期よりも拡張期の影響が大きかった年代(特に40〜50代)もある。
📚 参考文献:Stamler J, et al. JAMA, 1986.
3. The Prospective Studies Collaboration (Lancet, 2002)
- 対象:約100万人、61研究をメタ解析
- 結果:
- 血圧の全体的なリスクは収縮期と拡張期の両方に独立して存在。
- 拡張期血圧が10 mmHg上がるごとに心血管疾患による死亡リスクが約30~40%上昇。
📚 参考文献:Lewington S et al. Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies. Lancet. 2002.
4. JNC 7 および JNC 8(米国高血圧治療ガイドライン)
- 若年〜中年(<50歳)では、拡張期血圧がより重要な予後指標とされる。
- 高齢者では収縮期血圧のほうが主要リスクとなるが、拡張期が90 mmHgを超える場合は依然として介入対象。
💡 まとめ
- 若年〜中年では拡張期血圧の高さが特に重要。
- DBP ≥ 90 mmHg は心血管疾患、脳卒中、腎疾患のリスクを有意に増加させることが複数の研究で示されている。
- 治療や予防の観点からも、収縮期と同様に無視できない指標です。
拡張期血圧を下げる治療法
下の血圧を低下させる治療法には、生活習慣の改善と薬物療法の両面があります。
🔄 生活習慣の改善
- 減塩
- 目安:1日6g未満の食塩摂取
- 加工食品や外食を控え、天然の味付けを活用(だし、香辛料など)
- 体重管理
- BMIが25以上の人は減量を目指すと血圧が下がる傾向があります。
- 運動習慣の確立
- 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を週に150分程度。
- 毎日30分を目安にすると良いです。
- 禁煙と節酒
- 喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させます。
- アルコールは少量であれば良いこともありますが、過剰摂取は逆効果。
- ストレス管理と十分な睡眠
- ストレスは交感神経を刺激して血圧を上げるため、リラクゼーションや趣味の時間も大切です。
💊 薬物療法
以下のような降圧薬が使用されます。
- ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- 例:エナラプリル、リシノプリル
- 血管を広げて血圧を下げます。
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
- 例:ロサルタン、バルサルタン
- ACE阻害薬と同様の効果で、咳の副作用が少ない。
- Ca拮抗薬(カルシウム拮抗薬)
- 例:アムロジピン、ニフェジピン
- 血管平滑筋の収縮を抑制し、拡張期にも効果があります。
- 利尿薬
- 例:ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド
- 体内の余分な水分を排出し、血圧を下げます。
- β遮断薬
- 心拍数や心収縮力を下げて、間接的に血圧を下げます。
🔍 注意点
- 拡張期血圧が過度に低くなる(例:60 mmHg未満)と、脳や心臓への血流が不足する可能性があり注意が必要です。
- 治療方針は年齢、合併症(糖尿病・腎疾患・心疾患など)、全身状態に応じて調整されます。
- 特に若年者や運動選手の場合、「拡張期のみ高い」タイプの高血圧(拡張期高血圧)は、動脈硬化の前兆のこともあるので、軽視は禁物です。