糖尿病の治療において、「朝の空腹時血糖が高い」という悩みは非常に多く寄せられます。その原因の一つが「糖新生(とうしんせい)」です。今回は、糖新生のメカニズムと、それを適切にコントロールする方法について解説します。
糖新生(グルコネオジェネシス)とは?〜空腹時の血糖維持システム〜
糖新生(Glucogenesis / Gluconeogenesis:グルコネオジェネシス)とは、糖以外の物質からブドウ糖(血糖)を作り出す代謝経路のことです。英語の「Gluco(糖)+ neo(新しい)+ genesis(生成)」が語源で、文字通り「新しく糖を作る」仕組みです。
私たちの体は、食事で摂取した糖(ブドウ糖)をエネルギー源として利用しています。しかし、食事から糖が供給されない空腹時や睡眠中には、どうやって血糖を維持しているのでしょうか?その秘密が「糖新生」にあります。
糖新生が起こる主な場所:肝臓と腎臓
糖新生は主に肝臓で行われ、少量は腎臓でも行われます。肝臓は「体内の化学工場」とも呼ばれ、糖だけでなくタンパク質や脂質の代謝も担っています。
- 肝臓:糖新生の90%以上を担当。空腹時の血糖維持の中心
- 腎臓:長時間の空腹時に糖新生を補助。飢餓状態で重要な役割
糖新生の仕組み〜どうやって糖以外からブドウ糖を作る?〜
糖新生では、乳酸・アミノ酸(主にアラニン)・グリセロル(脂肪の一部)を原料に、ブドウ糖を合成します。これらの物質は、糖質以外の栄養素なので、糖質を摂取していない空腹時でも血糖を維持できるのです。
糖新生の主な原料
| 原料 | 供給源 | 特徴 |
|---|---|---|
| 乳酸 | 骨格筋の運動 | コーリー回路(乳酸回路)で肝臓に運ばれる |
| アラニン(アミノ酸) | 骨格筋のタンパク質分解 | 最も重要な糖新生原料。長時間空腹で増加 |
| グリセロル | 脂肪組織の中性脂肪分解 | 飢餓時や脂肪分解亢進時に重要 |
| プロピオン酸 | 腸内細菌による食物繊維の分解 | 反芻動物では重要だが、人間では少量 |
糖新生のメカニズム
糖新生は、解糖系(糖を分解する反応)の逆方向に近い経路で行われます。ただし、解糖系には不可逆な反応(エネルギー障壁の高い反応)があるため、別の酵素を使って迂回します。
- アラニンなどのアミノ酸が、アミノ基を失ってピルビン酸になる
- ピルビン酸がオキサロ酢酸に変換される
- オキサロ酢酸がホスホエノールピルビン酸(PEP)になる
- PEPが順に反応を経て、最終的にブドウ糖-6-リン酸になる
- ブドウ糖-6-リン酸から遊離ブドウ糖が生成され、血中へ放出
この一連の反応には、ATP(エネルギー)が大量に消費されます。つまり、糖新生は「エネルギーを消費して糖を作る」高コストな代謝なのです。

糖新生と糖尿病〜なぜ糖尿病患者の朝の血糖が高い?〜
糖尿病の方にとって、糖新生は血糖コントロールの大きな敵になります。特に、インスリン分泌が不足している1型糖尿病や、インスリン抵抗性が強い2型糖尿病では、糖新生が亢進しやすくなります。
糖尿病患者で糖新生が亢進する理由
- インスリン不足:インスリンは糖新生を抑制するホルモン。インスリンが不足すると糖新生が止まらない
- グルカゴン相対的亢進:インスリンが少ないと、膵臓からグルカゴン(血糖上昇ホルモン)が相対的に優位になり、糖新生を促進
- 肝臓のインスリン感受性低下:2型糖尿病では、肝臓がインスリンの信号をうまく受け取れなくなり、糖新生が抑制されにくい
朝の高血糖(ドーン現象・ソモジー現象)
糖尿病の方が「朝起きたら血糖が高い」と感じるのは、夜間の糖新生亢進が大きな原因です。これには2つのパターンがあります。
| 現象 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| ドーン現象 (夜明け現象) |
未明にコルチゾール・グルカゴン・成長ホルモンなどの カウンターレギュレーションホルモンが分泌され、 糖新生が亢進する |
朝方(4〜8時)に血糖が自然に上昇。 誰にでも起こる生理現象だが、糖尿病患者では顕著 |
| ソモジー現象 (反跳性高血糖) |
夜間に低血糖になり、 カウンターレギュレーションホルモンが過剰に分泌され、 その反動で高血糖になる |
夜間または未明に低血糖症状(汗・動悸)がある。 インスリンやSU剤の量が多すぎることが原因 |
ドーン現象とソモジー現象の見分け方は、夜間(午前3時頃)の血糖値を測定することです。血糖が高ければドーン現象、低ければソモジー現象の可能性が高いです。
糖新生を抑える方法〜食事・運動・薬物療法〜
糖新生を抑制することは、糖尿病患者の血糖コントロールにおいて非常に重要です。以下の方法が有効です。
① 食事療法
- 就寝前に少量の糖質を摂取:夜間の低血糖を防ぎ、ソモギー現象を予防(ただし過剰は逆効果)
- 夕食の糖質量を適正に:極端な糖質制限は、夜間の糖新生亢進を招く可能性がある
- 就寝前のタンパク質摂取:ゆっくり消化されるタンパク質(カゼインなど)は、夜間のアミノ酸供給を安定化させ、過度な糖新生を抑制する可能性がある
② 運動療法
- 筋トレ( resistance training):骨格筋量増加により、血糖取り込み能力が向上。糖新生原料のアラニン供給も調整される
- 有酸素運動:インスリン感受性向上により、肝臓の糖新生を抑制しやすくなる
③ 薬物療法
| 薬剤の種類 | 糖新生への作用 | 代表薬 |
|---|---|---|
| メトホルミン | 肝臓の糖新生を直接抑制(最も強力) | メトグルコ、グリコラン等 |
| SGLT2阻害薬 | 尿から糖を排出させ、糖新生亢進を間接的に抑制 | フォシーガ、カナグル等 |
| チアゾリジン薬(TZD) | インスリン抵抗性改善により、糖新生抑制効果が強化 | アクトス、ゾーリア等 |
| GLP-1受容体作動薬 | グルカゴン分泌抑制により、糖新生を間接的に抑制 | オゼンピック、トルリシティ等 |
| インスリン | 直接糖新生を抑制(最も確実) | トレシーバ、グラルギン等 |
| 基礎インスリン(長効型) | 夜間のインスリン不足を補い、朝の高血糖を防止 | ランタス、レベミア等 |
④ 生活習慣
- 十分な睡眠:睡眠不足はコルチゾール上昇を招き、糖新生を亢進させる
- ストレス管理:ストレスホルモン(コルチゾール・アドレナリン)は糖新生を促進
- 飲酒の控えめ:アルコールは一時的に糖新生を抑制するが、数時間後に反跳性高血糖を招く
よくある質問(FAQ)
糖新生とは何ですか?
糖新生とは、糖以外の物質(乳酸、アミノ酸、グリセロールなど)からブドウ糖を作り出す仕組みです。夜間や空腹時に血糖を維持するために重要な役割を果たします。
糖新生が活発になると、なぜ朝の血糖が高くなるのですか?
夜間に低血糖になると、肝臓が糖新生を活発化させて血糖を上げようとします。この反応が過剰になると、朝の空腹時血糖が高くなります。
糖新生を抑えるにはどうしたら良いですか?
夜間の低血糖を防ぐことが重要です。夕食の炭水化物量の調整、就寝前の適切な間食、インスリン量の最適化などが有効です。自己判断で変更せず、医師に相談してください。
糖新生は糖尿病の患者さんだけに起こるのですか?
いいえ、健康な人でも夜間や空腹時には糖新生が起こっています。糖尿病の患者さんでは、この調整機能が乱れるため、血糖の変動が大きくなりやすいのです。
最終更新日:2026-07-05
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。