🔊 このページの要点(糖尿病教室③)
- 血糖値は、食事・グリコーゲン分解・糖新生の3つの経路で上昇する。
- 血糖を下げる中心はインスリン。細胞へ糖を取り込み、グリコーゲンを合成する。
- 2型糖尿病の核心はインスリン抵抗性。内臓脂肪の蓄積が最大の原因。

上がる・下がるメカニズムを、やさしく図解します。
先生、血糖値って何で上がったり下がったりするんですか?——先日、2型糖尿病と診断された50代の患者さんが、真剣な表情で尋ねられました。「食べたものが全部血糖になるわけじゃないんですよね?」その通りです。血糖値の動きは、私たちの体の中で驚くほど精巧なシステムによってコントロールされています。この記事では、専門医が血糖値の「上がる仕組み」「下がる仕組み」を図解で分かりやすく解説します。
血糖値とは?正常値と測定の基本
血糖値とは、血液中にあるブドウ糖(グルコース)の濃度のことです。私たちの体の細胞は、エネルギー源としてブドウ糖を使っています。特に脳や神経細胞は、ブドウ糖をほぼ唯一のエネルギー源としているため、血糖値は命に関わる重要な指標となります。
正常値の目安
| 測定タイミング | 正常値 | 糖尿病の基準 |
|---|---|---|
| 空腹時血糖 | 70〜109 mg/dL | 126 mg/dL以上 |
| 食後2時間血糖 | 140 mg/dL未満 | 200 mg/dL以上 |
| HbA1c(糖化ヘモグロビン) | 5.6%未満 | 6.5%以上 |
※これは一般的な基準であり、年齢や合併症の有無により適正値は異なります。詳しくは担当医にご相談ください。
血糖値を測定する理由
血糖値を測定することで、以下のことが分かります:
- 即座の血糖コントロール状況:今、血糖が高い・低いか
- 食事の影響:どの食事が血糖を急上昇させるか
- 治療効果の確認:薬やインスリンが効いているか
- 合併症リスクの予測:長期的な管理の指標に
血糖が上がる3つの経路
血糖値は、主に3つの経路で上昇します。それぞれを詳しく見ていきましょう。
① 食事からの吸収(最も大きな要因)
私たちが食事を摂ると、炭水化物(糖質)は消化されてブドウ糖になり、小腸から血液中へ吸収されます。これが血糖上昇の最も大きな要因で、食後30分〜1時間でピークを迎えます。
血糖上昇の速度に影響する要素:
- GI値(血糖生成指数):白米やパンなど精製された炭水化物はGI値が高く、血糖を急上昇させます
- 食物繊維の量:野菜や豆類に含まれる食物繊維は、糖の吸収を緩やかにします
- 食事の順番:先に野菜を食べると、その後の糖質吸収が緩やかになります
- 脂肪やタンパク質の同時摂取:胃の排空を遅らせ、糖吸収を穏やかにします
② グリコーゲン分解(肝臓からの放出)
食事をしていない時間帯(空腹時や睡眠中)でも、血糖値はある程度保たれています。これは肝臓に蓄えられたグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵形態)が分解され、血液中に放出されるためです。
この仕組みは主に以下のホルモンによって調節されています:
- グルカゴン:膵臓から分泌され、肝臓にグリコーゲン分解を促す
- コルチゾール:副腎から分泌され、糖新生を促進する
- アドレナリン:ストレス時に分泌され、即座に血糖を上げる
③ 糖新生(グルコネオジェネシス)
長時間空腹が続くと、肝臓はタンパク質や脂肪からブドウ糖を新しく作り出す能力を持っています。これを糖新生(グルコネオジェネシス)と呼びます。
朝起きた時の血糖値が高い「黎明現象(ドーン現象)」も、夜間の糖新生によって引き起こされることがあります。2型糖尿病患者さんでは、この糖新生が過剰に活発化して空腹時血糖が高くなることがよくあります。
血糖が下がる仕組み〜インスリンの働き〜
血糖値が上がる一方で、体には血糖を下げる仕組みも備わっています。その中心となるのが、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンです。
インスリンの3つの主な働き
① 細胞へのブドウ糖取り込み促進
インスリンは、筋肉細胞や脂肪細胞の表面にある「グルコーストランスポーター(GLUT4)」を活性化させ、血液中のブドウ糖を細胞の中に引き込みます。これにより、細胞はエネルギーとしてブドウ糖を利用でき、血液中の血糖値は低下します。
② 肝臓でのグリコーゲン合成
インスリンは、余ったブドウ糖を肝臓や筋肉にグリコーゲンとして貯蔵するよう促します。これが「食後の血糖値を下げる」第2のメカニズムです。
③ 脂肪合成の促進・脂肪分解の抑制
インスリンは余ったエネルギーを脂肪として貯蔵するよう促すと同時に、脂肪分解を抑制します。これにより、エネルギーが効率的に蓄えられます。
インスリン分泌の仕組み
膵臓のβ細胞は、血糖値が上がると自動的にインスリンを分泌します。この仕組みは非常に精巧で:
- 第一段階分泌:食後すぐに予め貯蔵されていたインスリンを放出(即座の対応)
- 第二段階分泌:その後、新しく作られたインスリンを継続的に分泌(持続的対応)
2型糖尿病の初期では、この第一段階分泌が失われることが多く、食後血糖の急上昇が目立ちやすくなります。
インスリン以外の血糖降下メカニズム
インスリン以外にも、血糖を下げる仕組みがあります:
- 運動:筋肉収縮により、インスリンを介さずにブドウ糖が取り込まれる
- 尿糖排泄:SGLT2阻害薬などにより、余分なブドウ糖を尿から排出
- 基礎代謝:安静時にも細胞はブドウ糖を消費し続ける
インスリン抵抗性とは?〜2型糖尿病の核心〜
インスリン抵抗性とは、インスリンが正常に働かなくなった状態のことです。本来なら少量のインスリンで血糖を下げられるはずなのに、同じ量のインスリンでも血糖が下がりにくくなる現象です。
インスリン抵抗性が起こる原因
インスリン抵抗性の主な原因は以下の通りです:
① 内臓脂肪の蓄積(最も重要)
お腹周りの内臓脂肪が増えると、脂肪細胞から炎症性物質(サイトカイン)が放出され、これがインスリンの働きを妨げます。特に肝臓に脂肪が蓄積すると(脂肪肝)、肝臓自身がインスリンに反応しなくなり、血糖コントロールが悪化します。
② 運動不足
運動すると、筋肉細胞はインスリンを介さずにブドウ糖を取り込む能力が高まります。運動不足が続くと、この能力が低下し、インスリン抵抗性が進みます。
③ 遺伝的要因
インスリン抵抗性には遺伝的な要因もあります。家族に糖尿病患者がいる方は、より注意が必要です。
④ 年齢
年齢とともに筋肉量が減少し、インスリン感受性が低下する傾向があります。
インスリン抵抗性の悪循環
インスリン抵抗性が進むと、以下のような悪循環が起こります:
- インスリン抵抗性が進む
- 血糖が下がりにくくなる
- 膵臓がより多くのインスリンを分泌しようとする
- 高インスリン血症(血中インスリン濃度が高い状態)になる
- 内臓脂肪がさらに蓄積する
- インスリン抵抗性がさらに悪化する
この悪循環を断ち切るには、食事の見直しと運動習慣の確立が最も効果的です。
インスリン抵抗性の改善方法
インスリン抵抗性は、生活習慣の改善によって改善可能です:
- 体重の5〜10%減量:内臓脂肪が減るとインスリン感受性が回復します
- 有酸素運動:週150分以上の歩行や自転車など
- 筋トレ:筋肉量を増やすと、インスリン非依存的な糖取り込みが促進されます
- 食事の質を改善:精製糖質を減らし、食物繊維を多く含む食事に
- 睡眠の確保:睡眠不足はインスリン抵抗性を悪化させます
なぜ糖尿病で血糖が下がらないのか
糖尿病では、血糖が下がりにくくなるメカニズムが、タイプによって異なります。
1型糖尿病の場合
膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されない状態です。インスリンがないと、細胞はブドウ糖を取り込めず、血糖値は高いままになります。
1型糖尿病患者さんは、生涯にわたってインスリン注射が必要になります。これは「欠乏」による糖尿病なので、インスリンを補充することで血糖コントロールが可能です。
2型糖尿病の場合
2型糖尿病では、主に以下の2つの問題が重なります:
① インスリン抵抗性(前述)
インスリンが十分に働かないため、大量のインスリンを分泌しても血糖が下がりにくい状態です。
② 膵β細胞の疲弊
長期間、インスリン抵抗性に対抗するために過剰にインスリンを分泌し続けた結果、膵臓のβ細胞が疲弊してしまいます。これを「β細胞疲弊」と呼びます。
初期の2型糖尿病では、インスリン抵抗性が主な問題ですが、長期化するとβ細胞の機能も低下し、最終的にはインスリン分泌不全に至ることもあります。
「血糖スパイク」とは?
食後に血糖値が急上昇し、その後急降下することを血糖スパイクと呼びます。血糖スパイクは、血管内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を促進するリスクがあります。
血糖スパイクを防ぐためには:
- 先に野菜から食べる
- 炭水化物は後から食べる
- 食事の量を適度にする
- 食後に軽い運動(散歩など)をする
血糖コントロールのポイント
血糖値を適切に管理するためには、以下の3つの柱が重要です。
① 食事療法
糖尿病の治療において、食事療法は最も基本となります。薬を飲んでいても、食生活が乱れていれば血糖コントロールは困難です。
基本的な食事のポイント:
- 糖質の量を意識する:1食あたり糖質量を一定に保つ
- 食物繊維を多く摂る:野菜や豆類を積極的に
- 質の良いタンパク質:魚、肉、卵、大豆製品
- 良質な脂質:オリーブオイル、魚の油(EPA/DHA)
- 間食は計画的に:必要なら低糖質の間食を
② 運動療法
運動は、血糖コントロールに最も効果的な非薬物療法です。
運動の効果:
- インスリン感受性の向上:運動後24〜48時間は血糖が下がりやすい状態が続きます
- 内臓脂肪の減少:特に有酸素運動が効果的
- 筋肉量の維持・増加:筋肉はブドウ糖の貯蔵庫です
推奨される運動:
- 有酸素運動:週5日以上、1日30分以上の歩行
- 筋トレ:週2〜3回、大きな筋肉(脚・背中・胸)を鍛える
- 日常生活での活動:階段を使う、駅から歩くなど
③ 薬物療法
食事療法と運動療法だけで血糖コントロールが不十分な場合は、薬物療法が追加されます。
主な糖尿病治療薬の作用メカニズム:
| 薬剤の種類 | 作用の仕組み |
|---|---|
| メトホルミン | 肝臓の糖新生を抑制し、インスリン抵抗性を改善 |
| SGLT2阻害薬 | 尿から余分なブドウ糖を排出 |
| DPP-4阻害薬 | GLP-1(血糖降下ホルモン)の働きを長持ちさせる |
| GLP-1受容体作動薬 | インスリン分泌を促進し、食欲を抑制 |
| インスリン製剤 | 直接インスリンを補充 |
薬の選択は、患者さんの年齢、合併症、生活習慣などを考慮して、担当医が最適なものを選びます。
このページの要点(糖尿病教室③)
- 血糖値は、食事・グリコーゲン分解・糖新生の3つの経路で上昇する
- 血糖を下げる中心は、膵臓から分泌されるインスリン
- インスリンは「細胞へ糖を取り込む」「グリコーゲン合成」「脂肪合成」の3つを担う
- 2型糖尿病の核心はインスリン抵抗性
- インスリン抵抗性は、内臓脂肪の蓄積が最大の原因
- 血糖コントロールの3本柱は「食事」「運動」「薬物療法」
よくある質問(糖尿病教室③)
血糖値が上がるとどんな症状が出ますか?
血糖値が高い状態が続くと、喉の渇き、多飲(水をたくさん飲む)、多尿(トイレが近い)、疲労感、体重減少などの症状が現れます。しかし、2型糖尿病の多くは自覚症状がなく、健康診断などで偶然発見されることが多いです。
空腹時血糖とHbA1c、どちらが重要ですか?
両方とも重要ですが、HbA1cの方が長期的な血糖コントロールの指標として信頼性が高いです。HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖値を反映するため、日々の変動の影響を受けにくいです。
インスリン抵抗性は治りますか?
早期であれば、生活習慣の改善によって十分に改善可能です。特に体重の5〜10%減量と運動習慣の確立が効果的です。ただし、長期化してβ細胞の機能が低下すると、薬物療法が必要になることがあります。
食後の血糖スパイクを防ぐには?
最も効果的なのは「食事の順番」です。先に野菜やタンパク質を食べ、その後に炭水化物を食べると、糖の吸収が緩やかになります。また、食後30分以内に軽い散歩をすると、血糖上昇を抑える効果があります。
運動はいつするのが効果的ですか?
食後30分〜1時間後に運動をすると、血糖上昇を抑制する効果が最も高いです。ただし、インスリンや血糖降下薬を使用している方は、低血糖のリスクがあるため、担当医に相談してください。
糖尿病の食事療法(実践編):1日献立例、糖質コントロール、外食対策を詳しく解説。
最終更新日:2026-06-17
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。
最終更新日:2026-06-17
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。