糖尿病治療後の血糖改善に伴い、神経痛が悪化することがあります。これを治療後有痛性神経障害(RPN: Treatment-Induced Neuropathy of Diabetes)と呼びます。患者さん自身が驚き不安になる症状ですが、適切な対処で軽快していくケースも多いです。本記事では原因・機序・治療法を専門医が解説します。
治療後有痛性神経障害とは?
治療後有痛性神経障害(RPN)は、血糖コントロールが急速に改善された後に発症する、下肢の強い灼熱感や疼痛を伴う神経障害です。比較的若年層、女性、低体重の方に多いと報告されています※1。慢性的に高血糖が続いた後、急激に正常値近くまで血糖を下げることで、神経の代謝環境が急変し、炎症や虚血が生じると考えられています。
主な発症要因
- HbA1cが短期間に大幅に低下(例:3ヶ月で2%以上の低下)
- 治療開始・強化時に起こりやすい
- 急激な血糖改善が神経に代謝ストレスを与える
疫学データ
米国の研究によると、糖尿病患者の約10〜16%が何らかの神経障害を有しており、その中で治療後有痛性神経障害は稀ではないと報告されています※2。
実際の臨床像
もともと血糖がコントロールが悪かった糖尿病患者さんに対し、急速な血糖コントロールの改善を行った後(2~3ヶ月後くらいが多いです)に現れる痛みを伴う神経障害を治療後有痛性神経障害といいます。長期間糖尿病を放置した後に、血糖コントロールを行った時に出てくることが多いです。
昔は、インスリン治療を開始した後で出てくることが多かったので「インスリン神経炎」などと呼ばれていました。しかし、インスリン治療を開始したことが原因ではなく、長期間にわたる高血糖が急速に改善されたために起きるものです。インスリンを使った症例だけに起きるわけではなく、食事療法を開始した後であっても、急激に血糖が改善した結果、出現することもあります。
男性、中年、成人型糖尿病、やせ型及びアルコール性神経障害を合併している人に多いと言われます。
痛みはかなり強く、不眠に悩まされたり、ノイローゼになってしまう方もいらっしゃいます。
足がビリビリしたり、ジンジンと疼くように痛んだりします。時には、腰とか背中にまでこのような症状が出ることがあります。そのため、睡眠不足になり「うつ症状」が合併してくることもあります。こうなると食欲がなくなり、体重も減少してきます。
治療法は?
急性期の炎症や虚血が主因と考えられるため、次のような対症療法が中心になります:
- 血糖目標を若干緩和(過度に急速な改善を避ける)
- 疼痛治療薬の使用: プレガバリン(リリカ)、デュロキセチン(サインバルタ)、トラマドールなど
- ビタミンB群製剤(メコバラミンなど)
- 必要に応じて精神的サポート
上記薬剤が効果を示す場合もありますが、治療抵抗性の症例が少なくありません。重症例では神経内科医と連携して治療方針を検討します。比較的軽症であれば半年以内に自然軽快する例も多いです※3。
血糖が改善している場面での痛みなので、多くの患者さんは戸惑います。「永遠に治らないのではないか?」と不安を抱えてしまう患者さんも少なくありません。でも、絶望しないでください。多くは半年、長くても1年程度で改善します。もちろん、待っているだけではありません。痛みに対する治療を行ってさらに症状を軽減することができます。あきらめずに治療していきましょう。
まとめ
治療後有痛性神経障害は珍しい症状ではありませんが、適切な理解と対応が重要です。自己判断で治療を中断せず、主治医と相談しながら血糖管理を継続しましょう。
出典:
※1 Gibbons CH, et al. Diabetologia. 2010.
※2 Tesfaye S, et al. N Engl J Med. 2011.
※3 Smith AG, et al. Brain. 2006.
この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医
日本糖尿病学会 専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
糖尿病、甲状腺疾患、循環器疾患、老年期疾患などの診療に長年携わり、地域のかかりつけ医として多数の診療実績があります。
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