インスリン分泌能の低下が起こるしくみ
脂肪毒性(lipotoxicity)
長期間にわたる多量の脂肪酸の存在下では、膵B細胞においてブドウ糖によるインスリン分泌が障害されることが知られています。ラットの実験データですが、高脂肪食にて飼育した場合、血中脂肪酸の上昇に伴い、膵ランゲルハンス島内の中性脂肪含有量が上昇し、インスリン基礎分泌量は上昇することがわかっています。これはブドウ糖に対する感受性の亢進を意味しています。一方、ブドウ糖に対するインスリン分泌は障害されることが観察されています。
糖毒性(glucose toxicity)
高血糖がインスリン分泌障害を引きおこすとする仮説が唱えられています。
高血糖→膵β細胞におけるブドウ糖感受性の増加→インスリンの過剰分泌→β細胞におけるインスリン含有量の低下→グルコースポテンシエーションの障害→インスリン分泌の低下
※グルコースポンテシエーション:グルコース存在下で、アルギニンなどグルコース以外のインスリン分泌刺激物質のインスリン分泌刺激が増強する効果のことを指します。
臨床的には空腹時血糖が140mg/dl程度になる状態では糖毒性が存在し、インスリン分泌が障害が惹起され、さらなる高血糖につながる悪循環が始まると考えられています。
インスリン分泌能が落ちているかどうかをみる指標
インスリンが分泌されているのか、されていないのか。それを指し示す有効な指標となるものがあればよいのですが。
まず、インスリンがどのように分泌されるかみてみましょう。血糖コントロールに重要なホルモンであるインスリンはその前駆体(プロインスリン)が膵臓のβ細胞でつくられ、分泌直前に酵素によって分解されてインスリンとCペプチド (= C-peptide, C-protein, 略してCPR)それぞれ1分子ずつ生成されます。つまり、血中にCPRが1モルあればかならずインスリンが1モル分泌されたということなのです。CPRを測定することによって、インスリン分泌能を推測することができます。
糖尿病でインスリン治療を行っている患者では、自分の体でつくられたインスリン(内因性)だけでなく、注射したインスリン(外因性)も含めて測定されてしまいます。IRIといって、免疫法で測るインスリンの問題点でした。もっとも、最近の試薬ではインリンアナログ製剤はちゃんと除外できるのですが。IRIにはもうひとつ問題があります。インスリン抗体陽性の患者ではインスリンが正しく測定できないのです。そんなわけで最近ではCPRが主流です。これを測定すれば、内因性インスリンのみを推定することができるのです。インスリン、CPRは食事により増加し、日内変動があるため、24時間尿中CPRを測定するとその日に作られたインスリンの総量がわかります。糖尿病患者ではインスリン分泌能の指標となり、24時間尿中CPRが20μg/日以下、または空腹時血中CPRが0.5ng/mL以下であれば、インスリン分泌が高度に低下した状態(インスリン依存状態)と考えられ、インスリン治療が必要であるとされます。24時間尿中CPR排泄量では正確な蓄尿と、日差間のバラツキがあるため連続3日間の測定が重要です。蓄尿は煩雑であること、保険診療上認められにくいことがネックで、だんだん行われなくなっています。DPC病院が増えていることも実施しにくくなっている背景にあります。評価する際の注意点として、腎障害例にはご注意ください。Cペプチドは大半が腎排泄であるため、腎機能障害では血中CPRが高値に、尿中CPRが低値に傾くので注意が必要です。
より使いやすい指標として、早朝空腹時のCPR indexインデックス(CPI)が有用な指標として提唱されています。
CPI=血中CPR÷血糖値×100 (いずれの早朝空腹時に測定)
CPIが1.2以上の場合は内因性インスリン分泌が十分であるため食事・経口薬治療で十分治療できると考えられます。0.8未満の場合は内因性インスリン分泌が低下していることを示唆しています(=インスリン依存状態)。インスリン治療が望ましいと報告されています。