糖尿病の合併症とは?
糖尿病は、血糖値が高い状態がゆっくりと続くことで、体のあちこちの「細い血管」や「太い血管」に負担がかかり、さまざまな合併症を起こします。
初めはほとんど症状がなく、気づいたときには進行していることもあるため、「血糖値だけでなく、合併症をどれだけ防げているか」がとても大切になります。
このページでは、糖尿病の代表的な合併症の全体像を整理し、
- どんな症状に注意すべきか
- どんな検査が必要か
- どうすれば予防できるか
を分かりやすくまとめました。
糖尿病合併症の種類(全体像)
糖尿病の合併症は、大きく次のように分けられます。
1. 細い血管の障害(細小血管症)
- 網膜症(目の合併症:失明の原因に)
- 腎症(腎臓の合併症:透析の原因に)
- 神経障害(しびれ・痛み・足潰瘍など)
2. 太い血管の障害(大血管症)
- 心臓の病気(狭心症・心筋梗塞)
- 脳の血管の病気(脳梗塞・一過性脳虚血発作)
- 足の血管の病気(下肢動脈閉塞症・足潰瘍・壊疽)
3. その他の合併症
- 足のトラブル(タコ・潰瘍・感染・切断リスク)
- 感染症(肺炎・尿路感染症・皮膚感染など)
- 歯周病・認知症・睡眠時無呼吸などとの関連
当院では、これらの合併症について、定期的な検査と生活・薬物療法の両面から、予防と早期発見を行っています。
糖尿病「三大合併症」rpn(しめじ)について
糖尿病の細い血管の合併症は、頭文字をとって「rpn」と呼ばれることがあります。
- r:retinopathy(網膜症)
- p:proteinuria / nephropathy(蛋白尿・腎症)
- n:neuropathy(神経障害)
覚えやすくするために、「しめじ(神経・目・腎)」という言い方をされることもあります。いずれも、血糖コントロールが不十分な状態が5〜10年ほど続くと、少しずつ進行しやすい合併症です。
糖尿病性神経障害の詳細
糖尿病性神経障害は、糖尿病の合併症の中でも頻度が高く、早期発見と包括的管理が重要です。足のしびれ・異常感覚・感覚鈍麻・運動障害を放置すると、潰瘍や壊疽、最悪の場合は下肢切断に至ることもあります。
糖尿病性神経障害の種類
- 対称性多発神経障害:両足から始まるしびれ・疼痛(最も多いタイプ)
- 単神経障害:顔面神経麻痺・動眼神経麻痺などの急性発症
- 自律神経障害:胃腸症状・起立性低血圧・排尿障害など
主な症状
感覚神経障害
- 両足趾先のしびれ、ジンジン・ビリビリとした痛み
- 灼熱感、冷感、電撃様痛
- 振動覚低下、知覚過敏、深部感覚障害
- 夜間痛、睡眠障害、うつ傾向併発
自律神経障害
- 起立性低血圧・立ちくらみ
- 胃のもたれ・便秘・下痢(胃不全麻痺)
- 排尿障害・勃起障害
- 無自覚性低血糖
糖尿病性単神経障害(顔面神経麻痺など)
糖尿病性神経障害の発症率は血糖コントロールが不良であるほど高く、罹病期間が長いほど高くなりますが、それでも0.97%と稀です。糖尿病性神経障害には様々なタイプがありますが、顔面神経麻痺は急性単神経障害のうち動眼神経麻痺、外転神経麻痺につづいて頻度が高いです。顔面神経麻痺症例の3-11%に糖尿病が合併しているという報告もあります。
治療のポイント:糖尿病による顔面神経麻痺の治療の基本はステロイド治療ですが、インスリン抵抗性の増大による血糖コントロール悪化が問題となります。インスリン治療を行っている患者に対してはインスリン量の増量、そうでない患者に対しては基礎インスリン・追加インスリンを追加することが推奨されています。
神経障害の原因・メカニズム
- 高血糖によるポリオール経路活性化とソルビトール蓄積
- 酸化ストレス・活性酸素産生
- 微小血管の虚血・神経内血流障害
- 慢性炎症・サイトカインの関与
発症リスク因子
- 長期間の血糖コントロール不良(血糖変動含む)
- 高血圧・脂質異常症・肥満の併存
- 喫煙習慣
- 加齢・遺伝的素因
神経障害は治る?治療は?
「一度障害された神経は回復しない」と誤解されがちですが、血糖安定・早期治療により進行予防・症状改善も可能です。
1. 基本は安定した血糖コントロール
過度な急速降下は逆に治療後有痛性神経障害(RPN)を誘発しうるため、安定改善が望ましいです。
2. 薬物療法(疼痛対策中心)
- プレガバリン(リリカ®)
- デュロキセチン(サインバルタ®)
- トラマドール
- アミトリプチリン等の三環系抗うつ薬
- メキシレチン
- メコバラミン(ビタミンB12製剤)
3. 検査法
- モノフィラメント検査(足底圧覚評価)
- 振動覚検査(音叉・バイブロメーター)
- 神経伝導検査(末梢神経機能評価)
足病変リスク(足潰瘍予防が最重要)
感覚低下による傷の見逃しから感染→壊疽→下肢切断リスクへ進展する例もあります。定期的な足のチェックと早期治療が重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 糖尿病神経障害はどれくらいの人が発症しますか?
糖尿病患者の約10〜20%が何らかの神経障害を有すると報告されています。長期的な高血糖状態が続くほどリスクが高まります。
Q. どんな症状が出たら受診すべきですか?
足のしびれ・痛み・感覚異常、歩行時の違和感、夜間の疼痛、立ちくらみ、胃のもたれ、排尿障害などが現れた場合は早めの受診をおすすめします。
Q. 神経障害は進行すると足を切断する可能性もありますか?
足の感覚低下が進むと、傷や感染に気付きにくくなり重症化することがあります。定期的な足のチェックと早期治療が重要です。
Q. 治療すれば治りますか?
早期であれば進行抑制や症状改善が期待できます。完全に治らない場合も、疼痛緩和や生活の質改善を目指した治療が可能です。
Q. 痛み止めの薬は副作用はありませんか?
使用する薬剤によって眠気やふらつきなどの副作用があります。用量調整や薬剤変更で対応できることも多いので主治医と相談してください。
大血管症(心臓・脳・足の血管の病気)
糖尿病の方は、血糖値だけでなく、「動脈硬化」が進みやすくなります。その結果、
- 心筋梗塞や狭心症
- 脳梗塞
- 足の血管の詰まり(閉塞性動脈硬化症)
など、命にかかわる病気のリスクが高くなります。
特にリスクが高くなるのは、次のような場合です。
- 糖尿病に加えて、高血圧や脂質異常症がある
- 喫煙習慣がある
- 家族に心筋梗塞や脳梗塞になった方がいる
- すでに狭心症や脳梗塞を起こしたことがある
当院では、採血検査に加えて、心電図、頸動脈エコー、下肢血管の検査などを組み合わせながら、動脈硬化のリスク評価を行い、薬物療法・生活習慣の調整を行っています。
足の合併症(フットケアの重要性)
糖尿病神経障害や足の血管の病気が進むと、足の感覚が鈍くなり、傷ができても気づきにくくなります。そのまま放置すると、傷から感染が広がり、最悪の場合は足の切断につながることもあります。
早めに気づくために、次のような点に注意が必要です。
- 足のしびれや痛み、ほてり
- タコやマメ、靴ずれが治りにくい
- 足の色が悪い、冷たい
- 小さな傷や水虫がなかなか治らない
当院では、足の視診・触診、神経の簡易検査、必要に応じて専門医(皮膚科・形成外科・血管外科)との連携を行い、「足を守る」ためのフットケア指導を行っています。
どうして合併症が起こるのか?
血糖値が高い状態が続くと、血管の内側に「サビ」や「こびりついた汚れ」のようなものがたまり、血管のしなやかさが失われていきます。また、糖とたんぱく質が結びついてできる「糖化産物」などが、血管や神経をじわじわと傷つけていきます。
その結果、
- 細い血管が多い「目」「腎臓」「神経」がまず傷みやすい
- 太い血管では「心臓」「脳」「足の血管」が詰まりやすくなる
という流れで合併症が進んでいきます。
大切なのは、
- 症状がないうちから血糖値や血圧・コレステロールを整えること
- 定期的に検査をして、小さな変化の段階で気づくこと
です。
合併症を防ぐために大切なこと
糖尿病の合併症は、一度進行すると元に戻せない部分もありますが、早い段階であれば「進行をゆるやかにする」「重症化を防ぐ」ことが可能です。そのために、次のような点が重要になります。
1. 適切な血糖コントロール
- 目標HbA1cは年齢や持病によって個別に調整
- 内服薬・注射薬(インスリン・GLP-1受容体作動薬など)の最適化
2. 血圧・脂質・体重の管理
- 高血圧や脂質異常症があると、合併症リスクがさらに上がります
- 必要に応じて降圧薬・脂質低下薬の併用
3. 禁煙
- 喫煙は血管の老化を加速させ、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを大きく高めます
4. 定期的な検査
- 眼底検査(目)
- 尿検査・血液検査(腎臓)
- 神経検査・足のチェック(神経障害・足病変)
- 心電図・エコーなど(心血管)
当院では、患者さん一人ひとりの年齢・生活・他の病気に合わせて、
- どこまで血糖を下げるべきか
- どの検査をどの頻度で行うか
を一緒に相談しながら決めていきます。
当院でできることと、他医療機関との連携
しもやま内科では、糖尿病専門医による外来で、次のようなサポートを行っています。
- 糖尿病の診断・治療(内服薬・インスリン・GLP-1製剤など)
- 合併症のスクリーニング検査(眼底写真、尿検査、足の診察など)
- 生活習慣(食事・運動・フットケア)の具体的なアドバイス
- 必要に応じて、眼科・腎臓内科・循環器内科・皮膚科・形成外科などへの紹介
「まだ症状はないけれど、合併症が心配」「検診で血糖が高いと言われた」といった段階からの相談も歓迎しています。
糖尿病と上手につきあいながら、合併症をできるだけ防ぎ、長く元気に過ごせるよう、一緒に治療方針を考えていきましょう。