ACCORD study
Effect of intensive glucose lowering in type2 diabetes The ACCORD study group
N Engl J Med 2008;358:2545-59
2型糖尿病患者10,251例。平均62歳,糖尿病罹病期間の中央値10年,HbAc1≧7.5%(中央値8.1%)。
2型糖尿病で心血管病のハイリスクの患者10251名を対象とし、 HbAlc < 6%(日本の基準なら5.6%)を目指す強化療法群と7.0% 〜7.9% (6.6〜7.5%)を目指す従来療法群に分け,非致死性心筋梗塞・脳卒中・心血管死の発症率を比較した大規模試験であった。
試験開始時のHbAlcの中央値は8.1(7.7)%であったが、 1 年後には強化療でHbAlc6.4(6.1)%,従来療法群で7.4(7)%となった。平均観察期間は5 年の予定あったが、亡率が1000人・年あたり従来療法群11に対して強化療法群14 と有意に増加していることが判明したために3 年半の時点で中止となった。その結果は、厳格な血糖コントロールは大血管障害を抑制できず、重症低血糖が増加し、体重は増加し、総死亡率はかえって増加してしまうというものであった。しかし、対象とした糖尿病は,罹病歴が長い、すでに合併症を有する症例やハイリスク症例であったことから、既に合併症が出現している罹病期間の長い糖尿病をHbA1cを指標として急速な血糖低下を図ることは危険であるということが言えるだろう。ただ、闇雲に血糖を下げれば良いという時代は終わった。重症低血糖なくゆっくり下げることの重要性が示された。
ADVANCE
Intensive blood glucose control and vascular outcomes in patients with type2 diabetes
The ADVANCE Collaborative group. N Engl J Med 2008; 358:2560-72
11,140人の2型糖尿病患者を、標準治療とgliclazide と他の治療で、A1C6.5%以下を目指す強化療法に振り分けたスタディである。
Primary endpoint は,主要な大血管症(非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管系の原因による死亡)と主要微小血管障害(腎症、網膜症の新規発症が悪化)とした。5年のフォローアップで、複合エンドポイント(大血管症+微小血管症)、微小血管症は強化療法群で有意に減少した。腎症の改善による。網膜症、大血管症は、有意差がみられなかった。
VADT study
Glucose Control and Vascular Complications in Veterans with Type 2 Diabetes
N Engl J Med 360:129, January 8, 2009 The Veterans Affairs Diabetes Trial (VADT)
1791人の退役軍人(平均年齢 60.4歳)
罹病期間11.5年、40%に心血管イベントあり。標準療法に比べ強化療法でA1C 1.5% 低くすることを目標とした。5.6年のフォローアップで、A1C 8.4 vs. 6.9%とした。プライマリーアウトカム 心血管イベント、心筋梗塞、脳卒中、心血管死、心不全、血管手術となっている。
プライマリーアウトカムは標準療法で、264人、強化療法で235人に起こった。プライマリーアウカムトそれぞれの要素で、有意差はなかった。
有害事象は主に低血糖で、標準療法で17.6%、強化療法で24.1%に起こった。
罹病期間の長いコントロール不良の2型糖尿病患者において,厳格な検討コントロール治療の主要心血管イベント,全死亡,細小血管障害に対する有効性は認められなかった。
ADVANCE試験のフォローアップ
ADVANCE 試験後、6年のフォローアップで、血糖強化療法群と標準治療の間で、死亡率、大血管イベントに差はないことが示された。Second endpoint の腎症については、発症例(イベント数)が少ないが、end-stage renal disease (ESRD) 発症率が強化療法群で有意に低下している。ESRDが少ないという結果は死亡率に反映されていない。平行して行われた血圧治療群(perindoril+indapamide ) とプラセボの比較では、全死亡、心血管死亡のリスク低下が示された。
ADVANCEのフォローアップで血糖コントロールのlegacy effect は認められず。
・参加者の背景が異なる。
若い1型糖尿病 (DCCT、EDIC)、診断されたばかりの2型糖尿病 (UKPDS)では、血統コントロールの有用性が示されている。ACCORD 試験の参加者は年齢が高く罹病歴が長い。(登録時データで平均年齢66才、罹病歴約8年)
・血糖コントロールの差が少ないこと。
ADVANCE 試験では、強化療法群と従来療法群のA1Cの差は5年間で 0.67%
DCCTでは6.5年間で2%、UKPDSでは10年間で0.9%の差がついている。
・ベースラインのA1Cが低いこと。
ADVANCED 試験のベースラインA1Cは7.5%、DCCT、UKPDSではより高い。
まとめ
2型糖尿病に早期から血糖コントロールすることで大血管障害予防することはUKPDSによって既に証明されている。
試験終了から約10年後の調査においても、試験終了後には強化療法群と従来療法群との間に血糖コントロールレベルの差がなかったにもかかわらず、試験期間中に強化療法群に割り付けられた患者では、細小血管障害のみならず大血管障害も少なく、この現象は“lgacy effect(レガシー効果)”と呼ばれている。
一方、ACCORD、ADVANCE、VADT研究では厳格な血糖コントロールの大血管障害に対する効果は認められなかった。
これらの研究の参加者の罹病期間は10年前後と長かったいっぽうで、UKPDSでは新規発症糖尿病を対象にしている。こうした差異が大血管障害予防に異なった効果をもたらしたと推測されている。 65歳以上の高齢者では重症低血糖の頻度が高く,高齢者における血糖コントロール目標については慎重さが求められる。