従来の慢性心不全治療薬に関しては、慢性心不全に対する薬物療法をご参照ください。そのうえで、この記事をご覧ください。
心不全に対する新規治療薬
近年、新規作用機序をもつ心不全治療薬として、angiotensin receptor/ neprilysin inhibitor (ARNI)、SGLT2阻害薬、hyperpolarization-activated and cyclic nucleotide-gated channel (HCN)チャネル阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬が相次いで開発され、慢性心不全患者に対する予後改善策が示されました。これらの薬剤は各国の心不全治療ガイドラインでもその使用が推奨されるようになってきています。
ARNI
従来から心不全治療として用いられていたARBと心不全に有効であるネプリライシン阻害薬の配合剤です。
2020年よりサクビトリルバルサルタン(商品名:エンレスト)が保険適応となりました。心不全治療において、標準治療としてのACE阻害薬もしくはARBからの切り替えで、明らかな予後改善効果があります。
SGLT2阻害薬
糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬ですが、ダパグリフロジン(フォシーガ)とエンパグリフロジン(ジャディアンス)には
① 心不全再入院を減らす効果 ② 心血管死亡(心筋梗塞などによる死亡)を減らす効果が大規模研究によって認められています。糖尿病の有無にかかわらず、心不全治療薬として使用されるようになってきています。
sGC刺激薬
ベルイシグアトはGTPからcGMPを産生する可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を刺激する薬剤です。cGMPはPKGを介してさまざまな血管・心筋保護効果をもたらすと考えられています。ベルイシグアトの有効性を見た大規模臨床研究は、腎機能など他の薬剤の大規模臨床研究より重症の症例がエントリーされていたことより、重症心不全での予後改善効果が期待されています。一方、血圧低下に注意する必要があり、血圧にて容量設定がなされています。
HCNチャネル阻害薬
イバブラジンはHCNチャネル(主にHCN4チャネル)を阻害することでIf:過分極活性化陽イオン電流を抑制し、拡張期脱分極相における活動電位の立ち上がりを遅らせることで、心拍数を減少させ、心臓の負担を軽減する効果を現します。心不全患者の心拍数を抑制することで予後が改善する。これが、イバブラジンの誕生の契機です。イバブラジンは、β遮断薬の導入や増量が困難な低心機能症例に対して、心拍数を減少させる目的で導入されます。イバブラジンは、特に心拍数75/分以上の洞調律患者に対して、有用と思われます。イバブラジンは1回2.5mg、1日2回から導入を開始し、徐々に増量させていきます。