糖尿病と血圧管理|合併症を防ぐ降圧薬治療(ARB・ACE・Ca拮抗薬・利尿薬)を専門医が解説

糖尿病がある方では、血糖だけでなく「血圧管理」も合併症予防の大きな柱です。
このページでは、目標となる血圧のめやすや、ARB・ACE阻害薬・カルシウム拮抗薬などの降圧薬の役割、生活習慣のポイントを、糖尿病専門医がわかりやすく解説します。

「血糖値は気にしているけれど、血圧までは意識していなかった」「病院で血圧がやや高いと言われたが、そのままにしている」という方は少なくありません。
しかし糖尿病がある場合、高めの血圧を放置すると、腎臓病(糖尿病性腎症)や網膜症、脳卒中・心筋梗塞などの合併症が進みやすくなります。
しもやま内科では、血糖と血圧をセットで管理し、将来の合併症リスクをできるだけ減らすことを目標にしています。

糖尿病と高血圧管理のために降圧薬を内服する日本人中年男性の写真|しもやま内科

なぜ糖尿病では血圧管理がとても大切なのか

糖尿病があると、長い時間をかけて血管が傷みやすくなります。そこに血圧の高さが加わると、血管への負担がさらに大きくなり、合併症のスタートラインが早まってしまいます。

腎臓(糖尿病性腎症)を守るため

腎臓は、細かい血管のかたまり(糸球体)が集まってできている臓器です。血圧が高い状態が続くと、糸球体にかかる圧力が上がり、蛋白尿が出やすくなり、腎機能の低下が進みます。
糖尿病性腎症は、進行すると透析が必要になることもあるため、血圧管理はとても重要です。

網膜症・神経障害など細小血管合併症の進行抑制

目の網膜や神経も、非常に細かい血管に支えられています。血糖と血圧の両方が高いと、網膜症や神経障害が進みやすくなります。
血糖コントロールに加えて血圧を適正に保つことで、視力障害やしびれなどのリスクを下げることができます。

脳卒中・心筋梗塞など大血管疾患の予防

糖尿病の方は、そうでない方と比べて、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いことが知られています。
高血圧・脂質異常症・喫煙などが重なると、動脈硬化が一気に進みます。血圧管理は、大きな血管のトラブルを防ぐためにも欠かせません。

糖尿病の方の血圧目標のめやす

詳細な目標はガイドラインや年齢・腎機能などによって異なりますが、一般的には
診察室血圧で 130/80 mmHg 未満 が目標の一つの目安とされています。

家庭血圧でのチェックが大切です

診察室だけで測る血圧では、緊張の影響を受けることがあります。
ご自宅で朝・晩に血圧を測っていただくと、普段の血圧の状態がよくわかります。
しもやま内科では、家庭血圧の記録をもとに、お一人おひとりに合った目標設定や薬の調整を行っています。

高齢の方・腎機能が低下している方の注意点

ご高齢の方や、腎機能が低下している方では、「血圧を下げすぎる」とふらつき・転倒・腎血流の低下などを起こす可能性があります。
目標血圧は一律ではなく、年齢・体力・合併症を踏まえて「その方にとって安全な範囲」を一緒に考えていきます。

糖尿病でよく使われる降圧薬とその特徴

血圧を下げる薬(降圧薬)にはいくつかの種類があり、組み合わせて使うことも多いです。
ここでは、糖尿病の方でよく処方される代表的な薬のタイプをご紹介します。

① ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)

ARB は、血管を収縮させるホルモン(アンジオテンシンⅡ)の働きをブロックし、血管を広げることで血圧を下げる薬です。
腎臓の糸球体にかかる圧力をやわらげる作用があり、蛋白尿のある糖尿病の方の腎臓保護に用いられることが多い薬です。

また、大規模研究で、ARB が糖尿病性網膜症の進展を抑える可能性を示した結果も報告されています。
ただし、「飲めば必ず網膜症が良くなる」というものではなく、血糖・血圧・脂質の総合的な管理の一部として位置づけられます。

ACE阻害薬と比べて、空咳などの副作用が少ないことが多く、咳が出やすい方で ARB に変更されるケースもあります。

② ACE阻害薬

ACE阻害薬も、アンジオテンシンⅡの産生を抑えることで血圧を下げる薬です。
腎臓保護作用があり、特にアルブミン尿がある糖尿病の方では、ARB と同様に使われることがあります。
一部の方で、空咳や血管浮腫といった副作用が出ることがあるため、その場合は継続の可否を慎重に判断します。

③ カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋に働きかけて血管を広げる薬で、日本人の高血圧治療で非常によく使われるタイプです。
糖尿病がある方でも、多くの方が服用している薬です。

顔のほてりや動悸、足のむくみなどが出ることがありますが、用量調整や別の薬への切り替えで対応できることも多いです。

④ 利尿薬

利尿薬は、余分な塩分と水分を尿として出すことで血圧を下げる薬です。
単独よりも、ARB やカルシウム拮抗薬などとの併用で、血圧を目標まで下げる目的で用いられることが多くなっています。

尿酸値の上昇や、低ナトリウム血症などに注意が必要な場合があり、血液検査で状態を確認しながら使います。

⑤ β遮断薬 など

心筋梗塞の既往や心不全、頻脈性不整脈などがある場合には、β遮断薬が選択されることがあります。
一方で、血糖値の変化に気づきにくくなることがあるため、糖尿病のコントロール状況を見ながら慎重に使用します。

薬の選択は「個別化」が基本です

どの降圧薬を使うかは、

  • 年齢・体格
  • 腎機能や蛋白尿の有無
  • 心臓病・脳卒中・不整脈などの既往
  • 現在使っている糖尿病薬・脂質異常症の薬
  • むくみ・咳・ふらつきなどの副作用の出やすさ

といった要素を総合的に考えて決めていきます。
ガイドライン上の「第一選択薬」はあっても、実際の診療では、お一人おひとりの背景に合わせた調整が不可欠です。

生活習慣も血圧コントロールの大きな柱です

薬だけに頼らず、生活習慣を整えることで、血圧が下がりやすくなる方も少なくありません。

減塩(1日6g未満を目標に)

  • 汁物は「味噌汁1日1杯まで」を目標にする
  • 麺類のスープは飲み干さない
  • 加工食品(ハム・ソーセージ・漬物・インスタント食品)を控える

体重管理と運動

体重が減ると、それだけで血圧や血糖が下がりやすくなります。
無理なダイエットではなく、ウォーキングなどの有酸素運動を中心に、続けられる範囲で少しずつ取り組みましょう。

睡眠・ストレス・喫煙

睡眠不足や強いストレスは、血圧や血糖の乱れにつながります。
また喫煙は、少量でも動脈硬化を強く進めますので、禁煙を強くおすすめします。

しもやま内科で行っている「血糖+血圧」のトータル管理

しもやま内科では、糖尿病と高血圧を切り離して考えるのではなく、「血糖・血圧・脂質・体重・生活習慣」をまとめて評価し、将来の合併症リスクをできるだけ下げることを目標に治療方針を立てています。

家庭血圧と検査結果を組み合わせた評価

ご自宅での血圧手帳や、血圧計のメモリを拝見しながら、

  • 診察室血圧とのギャップ
  • 朝と夜の血圧差
  • 薬を飲み忘れた日の変化

などを確認し、降圧薬の種類や量を調整します。
腎機能・電解質・尿蛋白なども定期的にチェックし、「腎臓を守る」視点からもフォローします。

必要に応じて循環器専門医と連携

心電図や心エコーなど、より詳しい循環器評価が必要な場合には、循環器専門医と連携して診療を行います。
胸の痛み・息切れ・動悸などがある方は、我慢せず早めにご相談ください。

よくある質問(Q&A)

Q. 糖尿病がある場合、血圧はどのくらいを目標にすればよいですか?

一般的には診察室血圧で 130/80 mmHg 未満が一つの目安とされています。
ただし年齢や腎機能、ふらつきの有無などによって目標は調整しますので、診察時に個別にご相談ください。

Q. ARB を飲めば網膜症は進行しませんか?

ARB には網膜症の進行を抑える可能性が報告されていますが、万能薬ではありません。
血糖・血圧・脂質・禁煙などを総合的に整えることが、合併症予防の基本になります。

Q. 降圧薬を飲み始めると、一生やめられませんか?

多くの方では、長期の服用が必要になりますが、体重減少や生活習慣の改善により、薬を減らせる方もいます。
むやみに自己中止せず、減量のタイミングは医師と相談して決めましょう。

Q. カルシウム拮抗薬で足がむくみます。薬を変えた方がいいですか?

薬によるむくみのこともあれば、心臓や腎臓の病気が隠れている場合もあります。
むくみが気になるときは、自己判断で中止せずに受診し、原因を一緒に確認しましょう。

Q. 利尿薬は腎臓に悪くないですか?

適切な量で使用すれば、むしろ心不全や高血圧のコントロールに役立ちます。
腎機能や電解質を定期的にチェックしながら、安全な範囲で使うことが大切です。

Q. 家庭血圧は、いつ・何回くらい測ればよいですか?

一般的には、起床後と就寝前にそれぞれ1〜2回ずつ測定し、1〜2週間程度の平均をみると状態がわかりやすくなります。
測定方法や記録の仕方は診察時にご説明します。

Q. 高齢の家族は「血圧を下げすぎるのが心配」です。

ご高齢の方では、ふらつきや転倒を防ぐために、若い方とは少し違う目標を立てることがあります。
年齢や生活状況に合わせて、無理のない範囲で血圧を整えていきましょう。

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👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医

糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。

16/01/2009