📘 まず結論
亜急性甲状腺炎は、ウイルス感染がきっかけで甲状腺に炎症が起こる病気です。首の痛み・発熱・甲状腺の腫れが特徴で、自然に治ることが多いですが、痛みにはカロナールなどの消炎鎮痛薬が有効です。
亜急性甲状腺炎とは
亜急性甲状腺炎(Subacute Thyroiditis、別名:de Quervain甲状腺炎、巨細胞性甲状腺炎)は、甲状腺に突然の炎症が起こる病気です。1920年代にスイスの外科医de Quervain(デ・ケルバン)によって初めて報告され、現在ではウイルス感染後の免疫反応が原因と考えられています。
風邪(上気道炎)の1〜3週間後に「首の前がズキズキ痛む」「熱がぶり返した」という特徴的な経過で発症することが多く、30〜50代の女性に特に多く見られます(男女比は約1:3〜1:5)。甲状腺全体の炎症性疾患のうち約5〜10%を占めるとされ、比較的まれな病気ですが、甲状腺専門医の診療現場では日常的に遭遇する疾患です。
原因—ウイルス感染がきっかけに
亜急性甲状腺炎の直接的な原因はウイルス感染です。甲状腺組織そのものにウイルスが感染するのではなく、ウイルスに対する免疫反応が甲状腺に及ぶことで炎症が起こると考えられています(分子相同性仮説)。
関連が報告されている主なウイルス:
- コクサッキーウイルス(最も頻度が高い)—手足口病・ヘルパンギーナの原因ウイルス
- ムンプスウイルス—おたふくかぜの原因ウイルス
- アデノウイルス—咽頭結膜熱(プール熱)の原因
- EBウイルス(EBV)—伝染性単核球症の原因
- インフルエンザウイルス—季節性インフルエンザ
- COVID-19(SARS-CoV-2)—近年の報告で関連が示唆されています
これらのウイルスに感染したすべての人が亜急性甲状腺炎を発症するわけではなく、個人の免疫応答の違いが発症に関与すると考えられています。季節性があり、春から初夏にかけて多いとされています。
よくある症状
- 首の前の痛み—ズキズキ・鈍痛・押すと痛い(圧痛)。飲み込み時や首を動かすと増強。耳やあごに放散することもある
- 発熱—37〜38℃台の中等度の発熱。無治療では2〜4週間持続することも
- 全身倦怠感—強いだるさ・疲労感
- 甲状腺の腫れ—触ると硬く腫れている、喉の圧迫感
- 動悸・手の震え・発汗・イライラ—炎症で甲状腺濾胞が破壊され、中に蓄積されていた甲状腺ホルモンが血中に漏れ出ることで一過性に甲状腺中毒症の症状が出現
痛みの特徴は片側から始まり、徐々に反対側へ広がることが多いです。左右対称に発症することは稀で、多くの場合はどちらか片方の痛みが先行します。
症状の出方と時期による変化
| 時期 | 主な症状 | ホルモン状態 |
|---|---|---|
| 急性期(発症後1〜4週間) | 強い首の痛み・発熱・倦怠感 | FT4高値・TSH低値(甲状腺中毒状態) |
| 回復期(1〜3ヶ月) | 痛みが徐々に軽減 | 一時的に低下傾向 |
| 回復期後半 | 症状ほぼ消失 | 正常化する |
| 稀な経過 | だるさ・むくみ・寒気が続く | 一時的な甲状腺機能低下 |
経過—4つのステージをたどる
亜急性甲状腺炎の自然経過は大きく4つのステージに分けられます。
- 炎症期(1〜4週間):ウイルス感染後、突然の甲状腺の痛みと発熱で発症。甲状腺濾胞が破壊されるため、貯蔵されていたT4・T3が血中に漏出し、一過性の甲状腺中毒症(FT4高値・TSH低値)を示します。
- 甲状腺機能亢進症期(数週間〜1ヶ月):炎症がピークに達し、動悸・発汗・体重減少などの甲状腺中毒症状が最も強く出る時期。ただし、バセドウ病と異なり甲状腺への血流増加はなく、甲状腺自己抗体(TRAb・TSAb)は陰性です。
- 甲状腺機能低下症期(数週間〜数ヶ月):破壊された濾胞で甲状腺ホルモンの貯蔵が枯渇し、一時的に甲状腺ホルモンが不足します。FT4低値・TSH高値となり、倦怠感・むくみ・寒がり・体重増加などの症状が出ることがあります。約5〜10%の患者さんでこの時期に甲状腺ホルモン補充(チラーヂンS®)が必要となります。
- 回復期(数ヶ月〜半年):甲状腺濾胞の修復が進み、甲状腺機能は正常化します。多くの患者さんが後遺症なく回復します。完全に回復した後は、甲状腺ホルモン補充も不要となります。
ただし、すべての患者さんがこの4ステージを明瞭に経過するわけではなく、軽症の場合は亢進症期や低下症期をほとんど自覚しないまま回復することもあります。
診断—血液検査・エコー・RI uptake
血液検査
- 炎症反応:CRP(C反応性蛋白)…著明上昇(3〜10mg/dL以上)、赤沈(ESR)…高度亢進(50〜100mm/h以上)
- 甲状腺機能:FT4高値、TSH低値(一過性の甲状腺中毒症パターン)
- 甲状腺自己抗体:TRAb・TSAb・TPO抗体・Tg抗体は通常陰性。これによりバセドウ病や橋本病との鑑別が可能
甲状腺エコー(超音波検査)
痛みのある部位に一致した境界不明瞭な低エコー域が特徴的です。炎症が強い領域では血流シグナルが減少し、甲状腺内の炎症の広がりをリアルタイムに評価できます。当院では初診当日にエコー検査を実施可能です。
RI uptake(放射性ヨウ素摂取率)
甲状腺へのヨウ素取り込みが著明に低下〜正常下限を示します。これは破壊性甲状腺炎に特徴的な所見で、バセドウ病(高値)との確実な鑑別手段です。ただし、妊娠中は実施できません。
診断基準(日本甲状腺学会ガイドライン2024準拠)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 有痛性の破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症 |
| 臨床所見 | 有痛性甲状腺腫・圧痛 |
| 検査所見 | 赤沈・CRP高値、FT4高値、TSH低値 |
| エコー所見 | 内部低エコー域 |
(出典:日本甲状腺学会『甲状腺疾患診療ガイドライン2024』)
鑑別診断—似ている病気との見分け方
急性化膿性甲状腺炎
細菌感染による甲状腺の化膿性炎症。発熱・痛みは強いが、エコーで膿瘍形成を認め、血液培養で起因菌が検出される。抗菌薬・ドレナージが必要で、治療法が全く異なるため、亜急性甲状腺炎との鑑別は極めて重要です。
無痛性甲状腺炎
首の痛み・発熱はなく、炎症反応(CRP・赤沈)も正常〜軽度上昇。産後発症が多い(産後甲状腺炎)。経過観察で自然軽快するが、甲状腺機能低下症が遷延する例もある。
バセドウ病
慢性の自己免疫疾患。TSH受容体抗体(TRAb)陽性、エコーで血流増加、RI uptake高値。抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール)による長期治療が必要。
| 項目 | 亜急性甲状腺炎 | 無痛性甲状腺炎 | バセドウ病 |
|---|---|---|---|
| 首の痛み | 強い(圧痛あり) | なし | 稀 |
| 発熱 | あり(37〜38℃台) | 稀 | 稀 |
| CRP・赤沈 | 著明に上昇 | 正常〜軽度上昇 | 正常 |
| エコー所見 | 痛み部位に一致した低エコー域 | びまん性または軽度異常 | 血流増加・びまん性腫大 |
| 主な治療 | 消炎鎮痛薬±短期ステロイド | 経過観察(β遮断薬) | 抗甲状腺薬 |
| 経過 | 数週間〜数ヶ月で自然軽快 | 1〜3ヶ月程度 | 慢性(治療継続必要) |
※同じ「甲状腺ホルモンが高い」状態でも、治療が全く異なります。正確な鑑別が不可欠です。
治療法
軽症例:消炎鎮痛薬(NSAIDs)で経過観察。ロキソプロフェン(ロキソニン®)60mg1日3回や、カロナール(アセトアミノフェン)が第一選択です。カロナールは胃への負担が少なく、胃薬の併用が不要なため高齢者や胃の弱い方にも使いやすい薬です。
中等症〜重症例:痛みが強い場合や消炎鎮痛薬で効果不十分な場合は、ステロイド(プレドニゾロン)を短期間使用します。開始量は15〜40mg/日で、痛みは数日〜1週間で大きく軽減します。症状改善後は2〜4週間かけて漸減・中止します。ステロイドは短期使用であれば重大な副作用のリスクは低く抑えられます。
動悸・不安感が強い場合:β遮断薬(プロプラノロール塩酸塩〈インデラル®〉30mg/日など)を併用して症状を和らげます。バセドウ病と異なり、抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール)は無効ですので、使用しません。
甲状腺機能低下症が遷延する場合:甲状腺ホルモン補充薬(チラーヂンS®)を一時的に使用します。甲状腺機能が回復すれば中止できます。
治療期間は通常2週間〜数ヶ月。症状や血液データを見ながら段階的に減量・終了します。
予後—自然に治ることがほとんど
亜急性甲状腺炎は予後良好な疾患です。適切な治療により、多くの患者さんは数週間〜数ヶ月で症状が改善します。
- 約90%以上の患者さんが完全回復
- 約5〜10%で一時的な甲状腺機能低下症を認めるが、多くは自然回復(一部はチラーヂンS®補充が必要)
- 永続的な甲状腺機能低下症に至るのは約1〜2%と稀
- 再発は稀(5%以下)で、多くは一度の発症で終息する
- 甲状腺機能が正常化した後は、特別な経過観察や薬の継続は不要
「うつるの?」→ 答えはいいえ
亜急性甲状腺炎そのものは感染症ではないため、うつりません。ただし、発症のきっかけとなった風邪ウイルス(上気道炎ウイルス)は家族や周囲にうつる可能性があります。
発熱・のどの痛みがあった後に「首の前が痛くなった」という特徴的な経過がポイントです。周囲の方に「甲状腺の炎症がうつるのでは?」と心配されることがありますが、その点はご安心ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 亜急性甲状腺炎とはどんな病気ですか?
A. ウイルス感染がきっかけで甲状腺に炎症が起こる病気です。風邪の1〜3週間後に突然、首の前の強い痛みと発熱が現れるのが特徴です。30〜50代の女性に多く、適切な治療で数週間〜数ヶ月で改善します。
Q. 首の痛みがあるのはなぜですか?
A. 甲状腺にウイルス感染後の免疫反応による炎症が起こるためです。炎症が甲状腺の被膜(包んでいる膜)を刺激することで、ズキズキとした強い痛みや圧痛が生じます。痛みは耳やあごに放散することもあります。
Q. 亜急性甲状腺炎はうつりますか?
A. 亜急性甲状腺炎そのものは感染症ではないため、人から人へうつることはありません。ただし、発症のきっかけになった風邪ウイルス自体は周囲にうつる可能性があります。甲状腺の炎症そのものは感染性ではないのでご安心ください。
Q. 治療法は何ですか?
A. 軽症では消炎鎮痛薬(ロキソプロフェン・カロナールなど)で経過をみます。痛みが強い場合や炎症反応が著明な場合は、短期間のステロイド(プレドニゾロン)を使用します。動悸が強い場合はβ遮断薬を併用します。抗甲状腺薬は不要です。治療は症状や血液検査の結果を見ながら数週間〜数ヶ月かけて調整します。
Q. カロナールは効きますか?
A. はい、軽症〜中等症の痛みに対してカロナール(アセトアミノフェン)は有効です。胃への負担が少なく、胃薬の併用が不要なため、胃の弱い方や高齢者にも使いやすい薬です。ただし、痛みが強い場合はロキソプロフェンなどのNSAIDsやステロイドが必要になることがあります。
Q. ステロイド治療は必要ですか?
A. すべての患者さんに必要というわけではありません。消炎鎮痛薬で痛みが改善する軽症例ではステロイドは不要です。しかし、痛みが強い、高熱が続く、炎症反応が著明に高い場合などは、短期間のステロイドが速やかな症状改善に有効です。必要最小限の期間・用量で使用し、副作用のリスクは低く抑えられます。
Q. どのくらいで治りますか?
A. 痛みの軽減には治療開始後2〜4週間程度かかることが多いです。完全に症状が落ち着き、甲状腺機能が正常化するまでは数週間〜数ヶ月かかります。ただし、多くの患者さんは経過中に大きな支障なく日常生活を送ることができます。
Q. 再発することはありますか?
A. 再発は稀(5%以下)で、多くは一度の発症で終息します。ただし、まれに再発する例も報告されています。症状が再燃した場合は早めにご相談ください。再発時も同じ治療を行います。
Q. バセドウ病との違いは?
A. バセドウ病は慢性的な自己免疫疾患で、抗甲状腺薬での長期治療が必要です。一方、亜急性甲状腺炎は風邪後に突然起こる一過性の炎症で、多くは数週間で改善します。首の強い痛み・発熱・CRP高値が亜急性甲状腺炎の特徴で、バセドウ病ではこれらの症状は稀です。また、バセドウ病ではTRAb(TSH受容体抗体)が陽性ですが、亜急性甲状腺炎では陰性です。
Q. 食事の制限はありますか?
A. 亜急性甲状腺炎に特化した食事制限は原則として必要ありません。バセドウ病とは異なり、ヨウ素制限(昆布・わかめ・ひじきなどを控える)は不要です。ただし、炎症期に動悸やイライラがある場合は、カフェイン(コーヒー・紅茶・エナジードリンク)を控えると症状が和らぐことがあります。また、痛みが強い期間は刺激物や熱い飲食物が喉にしみることがあるため、食べやすいものを選んでください。
当院の診療体制
しもやま内科では甲状腺専門医が、採血・エコー検査を当日実施可能です。ガイドラインに沿った診断と、症状に合わせた治療・経過管理を行います。亜急性甲状腺炎の鑑別診断や治療開始をスムーズに行える体制を整えています。
院長からのメッセージ
「風邪が治ったはずなのに熱がまた出た」「首の前が痛い」という症状が出たら、亜急性甲状腺炎を疑ってください。適切な診断と治療で、多くの患者さんは数週間で楽になります。どうぞお気軽にご相談ください。
症状の程度に応じた受診の目安
🚨 強い痛み・高熱・息苦しさ → 119(救急)
🔔 痛みが続く・発熱が続く → 047-467-5500(当日予約)
📅 軽い痛み・経過観察中 → 通常診療時間内にご来院
亜急性甲状腺炎のご相談
TEL: 047-467-5500
最終更新:2026-08-26 監修:下山立志(総合内科専門医・甲状腺専門医・糖尿病専門医・循環器専門医)
年間甲状腺診療実績:約480件
参考文献
- 日本甲状腺学会編『甲状腺疾患診療ガイドライン2024』
- 日本内分泌・甲状腺外科学会『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』
- De Quervain F. Über eine subakute, chronisch entzündliche Thyreoiditis. Mitt Grenzgeb Med Chir. 1904
- Stasiak M, Lewiński A. New aspects in the pathogenesis and management of subacute thyroiditis. Rev Endocr Metab Disord. 2022
最終更新日:2026-08-26
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。