甲状腺機能異常と妊娠

28/05/2016

不妊と甲状腺機能異常

不妊治療を受けている女性の患者さんに意外に多いのが、「甲状腺機能異常」です。

甲状腺機能の異常には、2通りある。

甲状腺機能異常は大きく分けて2通りあります。ひとつめは、甲状腺機能が亢進してホルモンの分泌が増加する甲状腺機能亢進症です。代表的なものに「バセドウ病」があります。もうひとつは、甲状腺機能が低下して必要なホルモンの分泌が減少する甲状腺機能低下症です。代表的なものに「橋本病」があります。いずれも無排卵症や流産の原因となります。甲状腺機能異常を引き起こす原因としては、ストレスなどが考えられます。甲状腺機能低下の場合は、やせすぎが原因となることもあります。

不妊と潜在性甲状腺機能低下症

上記のように、症状を伴う甲状腺機能異常は女性の数%に見られますが、軽度の異常の場合には自覚症状もなく、気づかずに過ごしている場合がほとんどです。このような病態を潜在性甲状腺機能低下症といいます。「潜在性甲状腺機能低下症」とは甲状腺ホルモン(FT4)は正常なのにTSHが高値であるものをいいます。本来はTSH 10μU/ml以下は治療の対象としません。しかし、「潜在性甲状腺機能低下症」が不妊治療中や妊娠中はTSH10μU/ml以下でも治療の対象になります。不妊や妊娠・出産に際しての注意が必要なのは、この「潜在性甲状腺機能低下症」です。

潜在性甲状腺機能低下症では流産・早産が増える

妊婦での甲状腺機能低下症の有病率は約1%、潜在性甲状腺機能低下症の頻度は2-3%とされています。潜在性甲状腺機能低下症であっても排卵障害により不妊率は上昇します。不育症(習慣性流産)も増えます。潜在性甲状腺機能低下症は妊娠中や不妊治療中に十分治療していく必要があるのです。不妊治療中の患者さんはスクリーニング検査(不妊治療を始める前にやる検査)で甲状腺機能について検査を受けているケースが多いのですが、妊娠中はこれをモニターして甲状腺ホルモンを補充していく必要があります。なぜなら、甲状腺ホルモンには児の成長を促す働きがあります。胎児が成長するために甲状腺ホルモンが必要なのです。胎児が自分で甲状腺ホルモンを作れるようになるのは大体17週目くらいからで、それまでは母体の甲状腺ホルモンを使って成長します。その頃までは特に甲状腺ホルモンが十分にある状況の方が望ましいと考えられています。具体的には、妊娠初期にTSHが2.5μU/mlを下回るように、妊娠中期・後期はTSHが3μU/mlを下回るようにコントロールしていきます*。

*小澤安則,阿部好文,綱野信行,他.日本甲状腺学会 Subclinical hypothyroidism 潜在性甲状腺機能低下症の診断の手引き 2008年案.ホルモンと臨床,2008; 56: 706-24.