バセドウ病治療法の比較 (抗甲状腺薬、無機ヨード療法、131I内用療法、手術)
バセドウ病の治療には抗甲状腺薬、131I内用療法、手術療法があり、それぞれの長所、短所があります。治療の開始にあたっては、この点について患者さんに丁寧にご説明させていただきます。抗甲状腺薬を2年以上続けても休薬や寛解の目処がたたない場合は、131I内用療法や手術療法を検討することになります。この点についても、患者さんに丁寧にご説明させていただきます。
甲状腺薬での治療開始が第一選択
日本では、バセドウ病の治療の第一選択は抗甲状腺薬です。診断が確定した場合、通常は抗甲状腺薬(第一選択薬はチアマゾール(MMI):メルカゾール)で治療を開始します。
抗甲状腺薬
- 妊娠中以外では、MMIが第一選択薬です。
- 妊娠初期、とくに4〜7週ではプロピオチオウラシル(PTU、プロパジール)が勧められます。
- 2年以上治療を継続しても休薬、寛解の目処が立たない場合は、そのまま抗甲状腺薬を続けるか、131I内用療法や手術療法に切り替えるか、各治療法の利点と欠点を説明し、患者さんとご相談のうえ決定します。
抗甲状腺薬の利点は、外来で治療が開始できること、ほとんどの患者に適応となること、不可逆的な甲状腺機能低下症に陥ることはほとんどないことです。
欠点は、131I内用療法や手術療法と比べ寛解率が低く、寛解に至までの治療期間も長いこと、服薬中止後の予後を判断するたしかな指標がないこと、副作用の頻度が高いことです。
抗甲状腺薬には2種類ありますが、MMIは、初期効果ではPTUよりも早く甲状腺機能を正常化すること、重大な副作用が少ないこと、1日1回から2回の内服で済むことから、妊娠初期以外ではMMIを第一選択薬とします。初期投与量は、軽度および中等度(治療開始前のFT4値が7ng/dL未満)の場合はMMI 15mg/日(分1投与)から開始することが推奨されています。これは、中等度までの患者では30mg/日とほとんど同等の治療効果が期待でき、かつ副作用の危険性は30mg/日よりも明らかに低いからです。重度(治療開始前のFT4が7ng/dL以上)の場合はMMI 30mg/日(分2投与)が良いとされています。しかしながら、FT4の値は測定キットによってバラツキがあるため、この値はひとつの目安としてお考えください。MMIが副作用のため使えない場合や妊娠初期の場合は、PTU300mg/日(分3投与)で開始します。PTU300mg/日はMMI15mgとほぼ等しい抗甲状腺作用を示します。
抗甲状腺薬の副作用
- 抗体甲状腺薬を投与する場合は、副作用について患者さんに丁寧にご説明します。
- 副作用には軽度なものと重大なものがあります。
- ほとんどの副作用は、服用開始後3ヶ月以内に起こります。
- それぞれの副作用にたいして、万全の対応をします。
重大な副作用
無顆粒球症
治療開始前に、必ず白血球数と分画も測定しておきます。治療開始後少なくとも3ヶ月は原則として2〜3週間毎に診察し、副作用のチェックを行います。特に最初の2ヶ月間は2週間毎に診察することが望ましいとされています。毎回、甲状腺機能検査とともに白血球数、白血球分画も検査します。これは、発生頻度は低いのですが(0.1〜0.5%)特に重大な副作用である無顆粒球症(定義は好中球数500mm3未満)に注意するためです。定期受診日以外でも、もし38℃以上の発熱、咽頭痛などの症状があれば、抗甲状腺薬の内服を中止して直ちに来院していただき、至急白血球数と白血球分画を測定します、好中球数が1000/mm3未満の場合は無症状であっても直ちに抗甲状腺薬を中止します。すぐに入院とし、発熱など感染症状があれば感染症に対する強力な治療が必要となります。無顆粒球症の場合は、すぐに入院設備がある甲状腺専門医に紹介しましょう。無顆粒球症を発症した場合、交差反応があるためMMIからPTUへの変更は不可ですので、無機ヨードを使用して甲状腺機能が回復後、131I内用療法または手術を行います。
多発性関節炎
発生頻度は約1〜2%です。服用開始後2〜3ヶ月以内に起こりやすいのですが、1年以上経って起こることもあります。対処法としては、まず抗甲状腺薬を中止することで、4週間以内に症状が消失することが多いです。症状に対してはNSAIDsを使用します。
重症肝障害
発生頻度は約0.1〜0.2%で、服用開始後2〜3ヶ月以内に起こりやすいです。バセドウ病では、未治療時に軽度の肝機能異常がみられることが比較的多いので、必ず抗甲状腺薬投与前に肝機能検査をしておきましょう。PTUのほうが重症肝障害を起こしやすく、米国では重症肝障害が成人23名、小児11名に発症し、成人では13例が死亡、5名が肝移植を受けています。重症肝障害がPTUを第一選択薬にすべきではない理由です。重症肝障害が疑われた場合は直ちに抗甲状腺薬を中止し、無機ヨードに変更します。
ANCA関連血管炎
年間発生率は0.53〜0.73人/1万人ですが、服用開始1年以上経ってから起こりやすく、特にPTUで起こりやすい(PTUはMMIに比し39倍高いという報告があります。Yoshimura JN et al. J Clin Endocrinol Metab 94:2806-2811, 2009)ので、PTUを1年以上服用している患者さんでは常にこの副作用を念頭に置くべきです。MMIでも稀に認められるので、注意は必要です。発熱、関節痛、筋肉痛、風邪症状などに注意します。これらの症状があれば血清MPO-ANCA測定と同時に、CRP、腎機能、検尿をチェックします。この副作用が疑われた場合直ちに抗甲状腺薬を中止し、無機ヨードに変更します。
軽度の副作用
皮疹(蕁麻疹)
もっとも多い副作用で4〜6%にみられます。かゆみがある場合は抗ヒスタミン薬を使用します。軽症の場合は服用を続けていると、そのまま自然に消失する場合があります。症状が強い場合は、ステロイドを使用し、もう一方の抗甲状腺薬に変更します。
軽度肝障害
未治療のバセドウ病では、軽度の肝機能障害がみられる場合が比較的多いので、抗甲状腺薬使用前に必ず肝機能をチェックしておきましょう。投与開始後3ヶ月までは毎回肝機能検査も実施します。軽度の肝機能障害の場合はそのまま抗甲状腺薬を続けますが、肝機能が悪化するようでしたら、抗甲状腺薬を中止し無機ヨードに変更します。
抗体甲状腺薬の投与方法と中止の目安
- FT3、FT4 、TSHを測定し、FT4が正常化したら抗甲状腺薬を1錠ずつ減量していきます。(FT3は遅れる傾向があります)
- TSHが測定できるようになったら、TSHが正常範囲に入るように抗甲状腺薬を調節します。
- 1錠隔日投与で、TSHも含め甲状腺機能が6ヶ月間以上正常に保たれていれば、抗甲状腺薬の中止を検討してもよいでしょう。TSHレセプター抗体(TRAb)の陰性化を確認してから中止したほうが再発は少ないと言えます。
無機ヨード療法
大量の無機ヨードは、すみやかに甲状腺機能を抑制します。
無機ヨード療法の適応
甲状腺クリーゼの治療
副作用で抗甲状腺薬が使用できない場合に、131I内用療法
手術までの甲状腺機能コントロール
バセドウ病術前処置
131I内用療法後の甲状腺機能コントロール
無機ヨード療法を行う場合は、常にエスケープ現象(ヨードの甲状腺機能を抑える作用がなくなること)が起こりうることを念頭に置く必要があります。無機ヨードは漫然と投与すべきではなく、別の治療へのステップと認識することが重要です。ルゴール液またはヨウ化カリウムをヨード量として40〜80mg/day投与します。
131I内用療法
131I内用療法は安全な治療法であり、バセドウ病を確実に治すことができます。長期的には甲状腺機能低下症になる可能性が高いことが欠点ですが(11年後には76%が機能低下症になったという報告があります)、これは副作用ではなく、治療効果と捉える医師が多いようです。
適応
絶対的適応
抗甲状腺薬で重大な副作用が出た時
MMI、PTUともに副作用で使用できない時
相対的適応
抗甲状腺薬も手術も希望しない時
抗甲状腺薬で寛解に入らず、薬物療法を希望しない時
手術後の再発
バセドウ病を確実に治したい時
甲状腺腫を小さくしたい時
心臓病、肝臓病、糖尿病などがあり、薬物療法によるコントロールが困難な時
禁忌
絶対的禁忌
妊婦
妊娠している可能性のある女性
6ヶ月以内に妊娠する可能性のある女性
授乳婦
相対的禁忌
重症バセドウ眼症
慎重投与
18歳以下
手術療法
適応
甲状腺悪性腫瘍の合併
抗甲状腺薬の重大な副作用
常用量の抗甲状腺薬で甲状腺機能を正常化できない場合
手術は熟練した甲状腺外科専門医が行う必要があります。手術後、治療の必要がなくなる患者は60〜70%程度です。手術後、甲状腺ホルモン薬の補充が必要な場合や、抗体甲状腺薬の服用を続ける必要がある場合もしばしばあります。
バセドウ病の記事一覧