🔊 このページの要点
無痛性甲状腺炎は痛みのない一時的な甲状腺機能異常で、出産後に多い「産後甲状腺炎」も同じグループです。多くは自然に回復しますが、再発や甲状腺機能低下に移行することがあるため、経過観察が大切です。
🔎 要点まとめ
- 無痛性甲状腺炎は自己免疫反応による破壊型甲状腺炎
- 痛みなく発症し、特に出産後(産後甲状腺炎)に多い
- 一時的に甲状腺ホルモンが高くなり、その後低下し自然に回復する
- 診断は血液検査と甲状腺エコーが中心
- 治療は経過観察が基本、例外的にステロイドを使用することがある
のどの腫れに気づいたけれど痛みはない…。健診や授乳中の採血でホルモン異常を指摘された…。
こうした症状は「無痛性甲状腺炎」または「産後甲状腺炎」が疑われます。
多くの場合は自然に改善しますが、再発や機能低下が残ることもあるため注意が必要です。
このページでは、甲状腺専門医がわかりやすく解説します。

無痛性甲状腺炎とは
無痛性甲状腺炎は自己免疫異常により甲状腺が一時的に破壊され、貯蔵ホルモンが血液中に流出して起こる疾患です。
痛みがないことがポイントで、バセドウ病・亜急性甲状腺炎との鑑別に役立ちます。
特に出産後の女性(産後甲状腺炎)に多く、ホルモン変化や免疫バランスの揺らぎが背景にあります。
原因と背景
- 自己免疫反応(抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体陽性)
- 妊娠・出産後の免疫変化
- ウイルス感染の関与
- 家族歴(遺伝的要素)
- 薬剤性(インターフェロンなど)
典型的な経過と症状
- 亢進期: 動悸・発汗・体重減少・不安・イライラ
- 低下期: 倦怠感・むくみ・寒がり・体重増加
- 回復期: 数ヶ月以内に自然回復することが多い
診断の流れ
- 血液検査(TSH、FT4、FT3、抗TPO抗体など)
- 甲状腺エコー(低エコー域、低血流)
- 必要時:シンチグラム(ヨウ素摂取率の低下を確認)
詳しい検査内容は こちら(甲状腺検査のページ) をご覧ください。
バセドウ病・亜急性甲状腺炎との鑑別
無痛性甲状腺炎は、バセドウ病 や
亜急性甲状腺炎 と初期症状が似ています。
鑑別には以下を総合して判断します:
- 甲状腺抗体(TRAb、抗TPO、抗サイログロブリン)
- 甲状腺摂取率(破壊型では低下)
- 炎症反応(亜急性ではCRP上昇)
- エコー所見(血流の増減)
治療方針
無痛性甲状腺炎は自然に改善することが多く、抗甲状腺薬は必要ありません。
症状がつらい場合:
- 動悸 → β遮断薬(例:ビソプロロール)
- 不安・手の震え → 同上
ステロイド治療の位置づけ
原則として不要ですが、以下のような場合は短期投与を検討します:
- 症状が非常に強い場合
- 炎症反応が強い場合
(参考:日本甲状腺学会 甲状腺疾患診療ガイドライン2022、MSDマニュアル、Biondi B. Thyroid 2014 など)
再発と注意点
- 出産後に再発することがある
- 一部は橋本病に移行する場合がある
- 数ヶ月ごとの血液検査・エコーによるフォローが大切
📝 よくある質問(FAQ)
無痛性甲状腺炎は自然に治りますか?
多くは数ヶ月で自然改善しますが、一部で機能低下が残る場合があります。
ステロイドを使うことはありますか?
原則不要ですが、症状が特に強い場合に限定して検討します。
再発することはありますか?
妊娠後や数年おきに再発するケースがあります。
妊娠への影響はありますか?
大きな問題は少ないですが、妊娠中はホルモン管理を含めた定期フォローが望ましいです。
👨⚕️ この記事の監修医師
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年病専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医甲状腺・内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。