顔面に走る痛みには、顔面神経痛と三叉神経痛の二つが存在する。両者は名前が似ているが、痛みの性質も原因も治療方針も異なる。当院を受診される患者さまで、最初に歯科を受診し、「虫歯ではない」と言われて紹介される方が少なくない。顔の痛みがあっても、どの科を受診すればよいか戸惑われる方が多いのは当然だ。
顔面神経痛とは?〜顔面の「痛み」の正体〜
顔面神経痛は、顔面を支配する神経(三叉神経・舌咽神経など)に異常が生じて起こる痛みの総称です。「触ると痛い」「顔がチクチクする」といった症状が特徴で、顔の片側に突然激しい痛みが走ることがあります。
顔面神経痛にはいくつかのタイプがありますが、最も一般的なのは三叉神経痛です。ただし、「顔面神経痛」と「三叉神経痛」は別の病気ではなく、三叉神経痛は顔面神経痛の一種と考えてください。
顔面神経痛の主な症状
- 顔の片側に電撃のような激痛が走る
- 触る・話す・食事・歯磨きなどで痛みが誘発される
- 痛みは数秒〜数分で自然に収まることが多い
- 痛みの間隔は不規則(数日おきや、1日に何度も)
- 顔面にしびれや筋肉の動きの異常がない(三叉神経痛の場合)
三叉神経痛とは?〜「痛みの王様」と呼ばれる理由〜
三叉神経痛(さんさしんけいつう)は、顔面を支配する三叉神経が圧迫・刺激されることで起こる、世界で最も激痛とされる病気の一つです。「自殺痛」とも呼ばれ、生活の質を著しく低下させます。
三叉神経は、顔を3つの領域(V1:目の周り、V2:頬・鼻、V3:あご・唇)に分けて感覚を伝えています。三叉神経痛は、このうちの1つまたは複数の領域に痛みが現れます。
三叉神経痛の特徴的な症状
| 症状 | 詳細 |
|---|---|
| 電撃痛 | 顔面に雷が落ちたような、鋭い激痛が走る |
| 誘発痛 | 軽い刺激(触る・風・食事・話す)で痛みが起こる |
| 短時間発作 | 痛みは数秒〜2分程度で自然に収まる |
| 不感帯なし | 痛みがない時は全く普通。痛みと平穏の繰り返し |
| 片側性 | 原則として顔の片側のみ。両側はまれ |
| 夜間痛なし | 睡眠中に痛みが起こることは少ない(他の頭痛と異なるポイント) |
顔面神経痛と三叉神経痛の違い〜比較表で分かりやすく〜
「顔面神経痛」と「三叉神経痛」は似ていますが、いくつかの点で異なります。以下の比較表を参考にしてください。
| 項目 | 顔面神経痛(一般的な意味) | 三叉神経痛 |
|---|---|---|
| 定義 | 顔面の神経痛の総称 | 三叉神経が原因の特定の神経痛 |
| 痛みの性質 | 鈍痛・チクチク痛・違和感など多様 | 電撃のような激痛が特徴 |
| 誘発 | 触れると痛むことがある | 軽い刺激で激痛が誘発される(誘発痛) |
| 持続時間 | 数時間〜数日続くことが多い | 数秒〜数分の発作が繰り返される |
| 原因 | 炎症・感染・外傷・圧迫など多様 | 血管による三叉神経の圧迫が主(90%以上) |
| 治療 | 原因に応じた治療 | 抗てんかん薬・神経ブロック・手術 |
見分け方のポイント〜どちらの可能性が高いか〜
三叉神経痛の可能性が高い場合
- ⚡ 電撃のような激痛が突然走る
- 👆 触る・風・食事などの軽い刺激で痛みが起こる
- ⏱️ 痛みは数秒〜数分で収まる
- 😴 夜中に痛むことはない
- 📍 顔の特定の点(触发点)を押すと痛みが誘発される
他の病気の可能性が高い場合
- 🔥 灼熱感や違和感が続く → 帯状疱疹後神経痛の可能性
- 😶 顔の筋肉が動かない・しびれがある → 顔面神経麻痺(ベル麻痺)の可能性
- 🦷 歯が痛む → 歯源性感染の可能性
- 🤕 頭全体が痛む・吐き気がある → 片頭痛・群発頭痛の可能性
- 🩺 痛みが持続的で激しくない → 非定型顔面痛の可能性
治療法の違い〜薬物療法から手術まで〜
顔面神経痛・三叉神経痛の治療は、原因と症状の重症度によって選択されます。まずは薬物療法から始まり、効果が不十分な場合は手術的治療を検討します。
薬物療法(第一選択)
| 薬剤名 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| カルバマゼピン(テグレトール) | 三叉神経痛の第一選択薬。70〜80%の方に効果あり | 肝機能・血液検査が必要。眠気・めまいの副作用 |
| オキスカルバゼピン(トリレプタール) | カルバマゼピンと同様の効果。副作用が少ない | 低ナトリウム血症に注意 |
| プレガバリン(リリカ) | 神経痛全般に効果。帯状疱疹後神経痛にも使用 | 眠気・浮腫み・体重増加の可能性 |
| ガバペンチン | 慢性神経痛に効果。プレガバリンの類似薬 | 用量をゆっくり増やす必要あり |
| ボツリヌス毒素注射 | 薬物治療で効かない三叉神経痛に有効 | 数か月ごとの繰り返し注射が必要 |
手術的治療(薬物治療で効果が不十分な場合)
- 微血管減圧術(MVD):血管が三叉神経を圧迫している場合、血管を神経から離す手術。根治的な治療法で、長期的な効果が高い
- ガンマナイフ:放射線で三叉神経の一部分を遮断する治療。高齢者や手術が困難な方に適している
- 経皮的三叉神経温熱凝固術:針を顔面に刺入し、三叉神経を熱で破壊する方法。比較的侵襲が少ない
顔面神経麻痺(ベル麻痺)との鑑別が重要
顔面神経痛と名前が似ている「顔面神経麻痺(ベル麻痺)」は、全く別の病気です。顔面神経麻痺は、顔面の筋肉が動かなくなる病気で、痛みではなく「しびれ・動きの低下・口角の垂れ下がり」が主な症状です。
「顔が痛い」と「顔が動かない」は症状が異なるため、まずはどちらかを正しく判断することが重要です。しびれや筋力低下が伴う場合は、神経内科または耳鼻咽喉科での受診が必要です。
受診の目安〜どんなときに病院へ行くべきか〜
顔の痛みは、多くの場合自然に治ることもありますが、以下のような症状がある場合は早めに専門医を受診してください。
| 症状 | 考えられる病気 | 受診科目 |
|---|---|---|
| 顔に電撃のような激痛が走る | 三叉神経痛 | 神経内科・脳神経外科 |
| 顔の筋肉が動かない・しびれがある | 顔面神経麻痺(ベル麻痺) | 神経内科・耳鼻咽喉科 |
| 皮膚に水ぶくれができて痛い | 帯状疱疹 | 皮膚科・神経内科 |
| 歯が痛む・腫れがある | 歯源性感染 | 歯科口腔外科 |
| 片側の頭が激しく痛む・吐き気がある | 片頭痛・群発頭痛 | 神経内科・頭痛外来 |
| 顔の痛みが1週間以上続く | 非定型顔面痛・慢性痛 | 神経内科・疼痛クリニック |
この記事では、顔面神経痛と三叉神経痛の違いを、症状・原因・治療法の三軸で解説する。最終的には専門医の診察が必要になるが、自宅で確認できる見分け方のポイントもお伝えする。

顔面神経痛とは
顔面神経痛は、第七脳神経(顔面神経)の障害による疼痛である。耳の奥や側頭部から顔面にかけて、電気が走るような痛みや違和感が特徴だ。痛みだけでなく、顔の動きに異常が出ることもある。
当院で顔面神経痛と診断される方の多くは、帯状疱疹の発疹が出た後に痛みが残るケースである。帯状疱疹ウイルスが顔面神経を冒し、神経炎を起こすためだ。発疹が出る前に痛みが始まることもあり、この場合は診断が遅れがちになる。
主な症状は以下の通りだ。
- 耳の奥や耳の周囲の痛み
- 顔面のしびれ感や違和感
- 味覚の変化(舌の前3分の2)
- 涙や唾液の分泌異常
- 顔の片側だけが動きにくくなる(顔面神経麻痺)
治療は、帯状疱疹によるものでは抗ウイルス薬と抗炎症薬(ステロイド)を組み合わせる。早期に治療を開始することで、後遺症(帯状疱疹後神経痛)のリスクを下げられる。当院では発症から72時間以内の方には即座に投薬を開始し、必要に応じて神経ブロックも実施する。
三叉神経痛とは
三叉神経痛は、第五脳神経(三叉神経)の異常による激痛である。顔の片側に、雷が落ちたような、針で刺すような鋭い痛みが何秒から数分間続くのが特徴だ。
三叉神経は眼窩上神経・上顎神経・下顎神経の三枝に分かれており、それぞれ額・頬・顎に分布している。どの枝が障害されているかで、痛みの部位が異なる。当院で三叉神経痛と診断される方の多くは、頬や顎の痛みを訴える。
痛みの特徴を具体例でお伝えすると、頬を触るだけで激痛が走るため、洗顔や剃髪が困難になる。食事をする際に顎が痛み出す。歯磨き中に電気ショックのような痛みが起きる。話している途中で突然痛みが襲ってくる。
原因として最も多いのは、血管が三叉神経を圧迫している場合(血管圧迫)である。脳腫瘍や多発性硬化症などが原因となることもあるため、MRI検査で確実に除外する必要がある。当院ではMRI検査を依頼し、血管や脳の状態を確認して原因を特定する。
治療は、抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)による薬物療法が第一選択となる。薬物療法で効果が不十分な場合、脳神経外科での微血管減圧術(MVD)やガンマナイフ治療が検討される。当院では薬物療法を開始し、効き目や副作用を見ながら調整する。難治例は脳神経外科と連携して治療方針を決定する。
顔面神経痛と三叉神経痛の違い
二つの病気を比較すると以下の通りだ。
| 項目 | 顔面神経痛 | 三叉神経痛 |
|---|---|---|
| 障害する神経 | 第七脳神経(顔面神経) | 第五脳神経(三叉神経) |
| 痛みの部位 | 耳周囲・側頭部・顔全体 | 顔の片側(額・頬・顎のいずれか) |
| 痛みの性質 | 鈍痛・違和感・電気走る感じ | 激しい痛み・針で刺すような鋭痛 |
| 誘発因子 | 特定なし・常時痛むことが多い | 触れる・食事・表情筋の動き |
| 代表的な原因 | 帯状疱疹・中耳炎 | 血管圧迫・腫瘍 |
| 治療の核心 | 抗ウイルス治療・神経ブロック | 薬物療法・微血管減圧術 |
重要な違いは、三叉神経痛は触れるだけで痛みが誘発される点だ。一方、顔面神経痛は帯状疱疹などの感染症に続発することが多く、耳の症状を伴うことが特徴である。
見分け方のポイント
診察室で患者さんにお聞きする決め手となる質問は二つある。
一つ目は「触れると痛みますか」という質問だ。三叉神経痛の場合、頬に軽く触れただけで激痛が走る。顔面神経痛では、このような触覚による誘発はほとんどない。
二つ目は「耳に違和感はありますか」という質問だ。顔面神経痛は耳の周囲の痛みを伴い、帯状疱疹の場合は耳の中や耳の後ろに水疱ができることがある。三叉神経痛では耳の症状は基本的に出ない。
また、痛みの持続時間も参考になる。三叉神経痛は数秒から数分の発作的な痛みだが、顔面神経痛は持続性の痛みや違和感が多い。
セルフチェック:あなたの顔の痛みはどっち?
以下の項目でチェックしてみましょう。該当する数が多い方が、その病気の可能性が高い目安になります。※確定診断ではありません。受診の参考にしてください。
【チェックA】三叉神経痛の可能性
- □ 顔の片側だけに、電気が走るような激痛が突然起こる
- □ 痛みは数秒〜数分で治まるが、繰り返す
- □ 頬を触る・洗顔・ひげ剃り・歯磨き・食事で痛みが出る
- □ 歯科で「虫歯ではなさそう」と言われた
- □ 痛くないときはまったく普通に過ごせる
【チェックB】顔面神経痛の可能性
- □ 耳の奥や耳の周囲がずっと痛い・違和感がある
- □ 痛みは持続的で、電気が走る感じが続くこともある
- □ 帯状疱疹(みずぼうそう)にかかった後に痛みが出た
- □ 耳の中や耳の後ろに水ぶくれ(発疹)ができたことがある
- □ 顔の動きが悪い(片方のまぶたが閉じにくい、口がゆがむ)
チェック結果の目安
- チェックAが3つ以上該当 → 三叉神経痛の可能性が高いです。神経内科を受診しましょう。
- チェックBが3つ以上該当 → 顔面神経痛の可能性が高いです。発症から72時間以内が特に重要です。早めに受診してください。
- 両方とも該当する項目が少ない → 他の原因(歯性疾患・副鼻腔炎・顎関節症など)も考えられます。一般内科・歯科で相談を。
治療法の違い
顔面神経痛の治療は、原因に応じて抗ウイルス薬や抗炎症薬・ステロイド薬を使用する。帯状疱疹によるものは72時間以内の治療開始が重要で、当院ではその場合即座に投薬を開始する。神経ブロック療法も有効で、早期に行うことで後遺症リスクを下げられる。
三叉神経痛の治療は、まず抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)による薬物療法が第一選択だ。薬物療法で効果が不十分な場合、脳神経外科での微血管減圧術(MVD)やガンマナイフ治療が検討される。当院では薬物療法を開始し、効き目や副作用を見ながら調整し、難治例は脳神経外科と連携して治療方針を決定する。
受診の目安
顔の痛みが続く場合、以下の症状があれば早めの受診をおすすめする。
- 顔の片側だけに激痛が走る
- 洗顔や食事で痛みが誘発される
- 耳の周囲の痛みとともに顔の動きが鈍くなってきた
- 歯科治療を受けても痛みが取れない
特に三叉神経痛は自然に治ることが少なく、放置すると痛みが強くなったり薬が効きにくくなったりする。早期に適切な治療を開始することで、日常生活の質を大きく改善できる。
❓ よくある質問
顔面神経痛と三叉神経痛はどう違うのですか?
どちらの病気かはどう判断しますか?
自然に治りますか?
しもやま内科ではどう対応しますか?
受診時に持参すべきものはありますか?
最終更新日:2026-06-19
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。