内分泌内科

妊娠期の抗甲状腺薬の選び方|メルカゾール(MMI)とチウラジール(PTU)

妊娠期のメルカゾール(MMI)とプロパジール(PTU)の使い分け|しもやま内科
妊娠期の抗甲状腺薬(MMI/PTU)の使い分け|しもやま内科

🔊 このページの要点

妊娠初期はPTUを第一選択、妊娠中期以降はMMIへ戻すのが基本。最小有効量でFT4を上限〜やや高めに保ち、2〜4週ごとに採血で調整します。

要点まとめ

  • 妊娠初期(概ね〜16週):PTU優先(MMI胚形成期の奇形リスク配慮)
  • 中期以降:MMIへ切替可(PTU肝障害リスクを回避)
  • 目標:FT4を妊婦基準の上限〜やや高め、TSHは0付近でも可
  • 採血:2–4週ごとにFT4/TSH、必要に応じTRAb(20–28週)
  • 授乳期:少量MMI(〜20–30mg/日)は概ね許容。最小有効量で
  • GTT(妊娠悪阻関連亢進症)は原則ATD不要のことが多い

妊娠期の抗甲状腺薬の選び方|メルカゾール(MMI)とチウラジール(PTU)の使い分け

本ページは、妊娠中のバセドウ病(甲状腺機能亢進症)における抗甲状腺薬の使い分けを、実臨床での運用を軸に整理したものです。個々の状況により最適解は異なりますので、最終判断は担当医とご相談ください。
※PTUは一般名。国内ではチウラジールプロパジールなどの製品名が用いられます。

アルゴリズム(実務フロー)

  1. 妊娠判明〜妊娠初期(〜16週):原則PTUを選択(MMI胚形成期の催奇形性リスクを回避)。既にMMI内服中なら可及的速やかにPTUへ切替。
  2. 妊娠中期〜後期:PTUの肝障害リスクを考慮し、コントロールが安定していればMMIへ戻すことを検討。
  3. 用量:最小有効量。FT4を妊婦基準の上限〜やや高めを目安に抑制し過ぎない。
  4. フォロー:2–4週ごとにFT4/TSHで調整。既往・活動性によりTRAb(20–28週)も評価。
  5. 分娩・授乳:母体コントロールを優先。授乳は少量MMI/少量PTUで概ね可(最小有効量/授乳後に内服など工夫)。

薬剤ごとのポイント

メルカゾール(MMI:チアマゾール)

  • 利点:服薬回数が少なく、肝毒性はPTUより少ない
  • 注意:胚形成期(6–10週頃)の催奇形性報告 → 初期は回避

チウラジール(PTU:プロピルチオウラシル)

  • 利点:初期の催奇形性リスクが低いため初期に適する
  • 注意:まれだが重篤な肝障害 → 中期以降はMMIへ切替検討

モニタリングと目標

  • 採血頻度:導入〜調整期は2–4週ごと。安定後は4–6週ごと目安。
  • 目標:FT4を妊婦基準の上限〜わずかに高め。TSHが抑制的でも可。
  • TRAb:既往/活動性に応じて20–28週頃に測定し、高値(上限の3倍超)なら胎児フォローを強化。

特殊状況

  • GTT(妊娠悪阻関連機能亢進):多くは抗甲状腺薬不要、支持療法中心。
  • 無顆粒球症が疑われる症状(発熱・咽頭痛):即中止し受診。
  • 肝障害が疑われる症状(倦怠、黄疸、尿濃染):即中止し受診。

授乳期の扱い

少量のMMI(目安20–30mg/日まで)やPTU(目安300mg/日まで)は一般に授乳と両立可能とされます。いずれも最小有効量授乳直後の内服などで乳汁中移行を抑制し、必要に応じて小児科で新生児の甲状腺機能を評価します。


👨‍⚕️ この記事の監修医師

下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長|日本内科学会 総合内科専門医|日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医|日本循環器学会 循環器専門医|日本老年医学会 老年病専門医・指導医|日本甲状腺学会 甲状腺専門医

妊娠中の甲状腺治療は専門医へご相談ください

船橋市のしもやま内科では、妊娠期のバセドウ病管理(MMI/PTUの選択・切替、用量調整、周産期フォロー)に対応しています。

お電話(047-467-5500)

よくあるご質問(FAQ)

妊娠初期はどの薬を使いますか?
一般に妊娠初期はPTUを優先します。MMIの胚形成期(6–10週頃)における催奇形性リスクへの配慮です。
中期以降に薬を切り替える理由は?
PTUは稀に重篤な肝障害があるため、中期以降はMMIへ切替を検討します。母体安全性に配慮した運用です。
どのくらいの頻度で採血が必要ですか?
2–4週ごとにFT4/TSHで調整します。コントロールが安定したら4–6週へ延長することもあります。
授乳中でも服用できますか?
少量のMMI(〜20–30mg/日)やPTU(〜300mg/日)は授乳と両立可能とされます。最小有効量・授乳直後の内服などで対応します。

-内分泌内科