「お酒が好きでよく飲むんですけど、糖尿病になったらもう飲めないですか?」——クリニックで本当によく聞かれる質問です。結論から言うと、糖尿病でもアルコールは飲めます。ただし、飲み方を間違えると低血糖や血糖コントロールの悪化を招くため、正しい知識とルールを守ることが不可欠です。このページでは、アルコールと血糖値の関係、安全な飲み方、断酒による効果まで、医師が詳しく解説します。
⚠ お酒を飲んでいて次の症状が出たら、すぐに119番通報を!
意識がもうろうとする・呼びかけに反応しない・けいれん・冷や汗が止まらない——これらは急性アルコール中毒と低血糖の両方の可能性があります。自分で判断せず、救急車を呼んでください。「酔っているだけ」と思っても、低血糖は命に関わります。
アルコールと血糖値の関係——なぜ低血糖が起きるのか
アルコール(エタノール)が体内に入ると、肝臓はそれを最優先で分解し始めます。肝臓は本来、血糖値を維持するために「糖新生」という仕組みでブドウ糖を作り出していますが、アルコールの分解を優先するあまり、糖新生が抑制されてしまいます。
この仕組みが問題になるのは以下のような場面です。
- 空腹時に飲酒すると、食事からの糖の補充がないまま肝臓の糖新生が止まり、血糖値が急降下する
- インスリン注射やSU薬(グリメピリド、グリクラジドなど)を使用している場合、薬の効果とアルコールの作用が重なって低血糖リスクが数倍に跳ね上がる
- 飲酒直後は血糖値が上がっても(特に糖質の多い酒の場合)、数時間後にリバウンドで急降下することがある
特に注意すべきなのは「飲酒後数時間~翌朝にかけての低血糖」です。就寝前に飲酒すると、眠っている間に血糖値が下がり続け、朝方に重症低血糖を起こすケースが少なくありません。アルコールによる低血糖はアドレナリン反応(動悸・手の震え)がマスクされやすいため、自覚症状なく急激に進行する危険性があります。
飲酒後の低血糖はいつ起こる?
アルコールによる低血糖は、飲酒中~飲酒直後ではなく、飲酒後3~12時間、特に飲酒後6~8時間(深夜~早朝)に発生しやすいことが知られています。これを「晩発性低血糖(late-onset hypoglycemia)」と呼びます。
ビールや日本酒など糖質を含む酒を飲むと、最初は血糖値が上昇します。そのため「思ったより血糖値が高いな」と安心してインスリンを追加したり、就寝前に追加の間食をとらなかったりすると、その後訪れる急降下に対応できません。
低血糖の症状(アルコールの酔いと似ているので要注意)
- 冷や汗・動悸・手の震え
- 強い空腹感
- めまい・頭痛
- 意識がもうろうとする
- ろれつが回らない
- 異常な眠気
🔑 酔っているのか低血糖なのかの判断に迷ったら、まず血糖値を測定してください。測定できない状況なら、「低血糖かもしれない」という前提でブドウ糖や糖分を補給するのが安全です。
糖尿病の人がお酒を飲むときのルール——安全な飲み方7か条
- 空腹時の飲酒は絶対にしない:食事と一緒に、または食事中に飲みましょう。空腹時飲酒は低血糖の最大のリスク要因です。
- 糖質の少ないお酒を選ぶ:焼酎、ウイスキー、ブランデー、辛口ワインは糖質が少なめ。ビール、日本酒、甘いカクテル、リキュール類は糖質が多いため、血糖値の乱高下を招きやすいです。
- ゆっくり飲む:一気飲みは血糖値の急上昇→急降下を招きます。1杯あたり30分以上かけて飲みましょう。
- 1日の適量を守る:純アルコール量で20g程度(日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎0.6合、ウイスキーダブル1杯が目安)。女性や高齢者、肝機能が低下している方はさらに半量が推奨されます。
- 毎日飲まずに休肝日を設ける:週に2日以上の休肝日を作りましょう。
- 飲酒後は血糖値をいつもより多めに測る:就寝前・深夜(目が覚めた時)・起床時の3回測定を推奨します。シックデイ(体調不良時)の飲酒は禁止です。
- 飲酒前に炭水化物を補給する:飲酒前にご飯やパンなどの炭水化物を食べておくと、アルコールによる血糖降下を緩和できます。
お酒の種類別:糖質・カロリー比較表
| お酒の種類 | 1杯あたりの量 | 糖質(g) | カロリー(kcal) | 糖尿病患者へのおすすめ度 |
|---|---|---|---|---|
| ビール | 中瓶1本(500ml) | 約15g | 約200kcal | △ 注意(糖質多め) |
| 発泡酒・第3のビール | 500ml | 約10~15g | 約170~200kcal | △ 注意 |
| 糖質ゼロ・オフビール | 350ml | 0~数g | 約80~100kcal | ○ 比較的おすすめ |
| 日本酒 | 1合(180ml) | 約6~9g | 約190kcal | △ 注意 |
| 焼酎(乙類・甲類) | 0.6合(90ml) | 約0g | 約150kcal | ○ おすすめ |
| ウイスキー・ブランデー | ダブル1杯(60ml) | 約0g | 約140kcal | ○ おすすめ |
| ワイン(辛口) | グラス1杯(120ml) | 約0~2g | 約80kcal | ○ おすすめ |
| ワイン(甘口) | グラス1杯(120ml) | 約5~15g | 約100~140kcal | △ 注意 |
| チューハイ(甘いもの) | 350ml | 約10~25g | 約150~250kcal | ✗ 避けるべき |
| 梅酒・リキュール類 | 1杯(60ml) | 約15~30g | 約120~200kcal | ✗ 避けるべき |
| サワー(甘味あり) | 350ml | 約10~20g | 約120~200kcal | ✗ 避けるべき |
※糖質量は商品によって異なります。缶表示を必ず確認してください。※純アルコール量の計算:アルコール度数(%)× 量(ml)× 0.8 ÷ 100
糖尿病の人が絶対に飲んではいけないケース
以下の条件に一つでも該当する場合は、アルコールを完全に控えてください。
- 血糖コントロールが不良(HbA1c 8.0%以上、または治療中の重症低血糖の既往がある)
- 糖尿病性神経障害(ニューロパチー)が進行している——アルコールが末梢神経障害を悪化させる
- 高トリグリセリド血症(高中性脂肪)——アルコールは中性脂肪を著しく上昇させる
- 脂肪肝・肝硬変などの肝疾患がある——アルコール代謝が追いつかず、低血糖・肝不全リスク
- 膵炎の既往——アルコールは急性膵炎の最大の誘因
- 妊娠中・妊娠の可能性がある
- インスリンやSU薬を使用していて、過去に重症低血糖を起こしたことがある
- アルコール依存症と診断されている(または飲酒量をコントロールできない自覚がある)
アルコール依存症と糖尿病の関係
アルコール依存症と糖尿病は、互いに悪影響を及ぼし合う深刻な関係にあります。
大量飲酒が続くと、以下のメカニズムで糖尿病の重症化リスクが高まります。
- インスリン抵抗性の増加:慢性的な大量飲酒はインスリンの効きを悪くし、血糖値が上がりやすくなる
- 膵臓への直接障害:アルコールは膵臓のβ細胞(インスリンを作る細胞)にダメージを与える可能性がある
- 肝機能障害:アルコール性脂肪肝→肝炎→肝硬変と進行すると、糖代謝がさらに悪化する
- 栄養状態の悪化:アルコールでカロリーを摂る一方で、ビタミンB1・葉酸などの栄養素が不足し、糖尿病性神経障害が進行しやすくなる
- 自己管理の低下:飲酒量が多いと、血糖測定や服薬を忘れやすくなる
アルコール依存症の治療(断酒治療・カウンセリング)と糖尿病治療を並行して行うことで、両方の改善が期待できます。しもやま内科では、断酒支援と血糖管理を同時に行っています。一人で悩まずにご相談ください。
断酒すると血糖値は改善する?
はい、改善します。断酒によるメリットは血糖コントロールだけにとどまりません。
- HbA1cの低下:断酒開始から1~3か月でHbA1cが0.5~1.0%程度改善することが多い
- 肝機能の回復:AST・ALT(肝酵素)が数週間で正常化することがある
- 中性脂肪の低下:アルコール由来の高中性脂肪は断酒で速やかに改善する
- 体重減少:アルコールのカロリー摂取がなくなることで体重が減少し、インスリン抵抗性が改善する
- 血圧の低下:アルコールは血圧を上げるため、断酒で降圧効果が期待できる
- 睡眠の質向上:アルコールによる中途覚醒が減り、深い睡眠が取れるようになる
ただし、断酒による急激な血糖改善で低血糖リスクが高まる場合があります。特にインスリンやSU薬を使用している方は、断酒開始時に医師と相談の上、薬の用量調整が必要です。自己判断での減薬・中止は危険です。
肝臓病とアルコールの相互作用——糖尿病患者は特に注意
糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて脂肪肝(NAFLD・NASH)の合併率が高いことが知られています。そこに飲酒が加わると、肝障害が急速に進行するリスクがあります。
また、肝機能が低下すると、アルコールの代謝能力が落ちるだけでなく、糖新生やグリコーゲン貯蔵の機能も低下するため、少量の飲酒でも重症低血糖を起こす危険性が高まります。
糖尿病で肝機能障害がある方の飲酒は原則禁止です。年に1回以上の超音波検査や血液検査で肝臓の状態をチェックしましょう。
寝酒は糖尿病患者に危険?
「寝つきが悪いから寝酒を飲む」という習慣は、糖尿病患者にとって非常に危険です。
寝酒をすると以下のリスクが重なります。
- 夜間低血糖に気づけない:アルコールの鎮静作用で低血糖による覚醒反応が鈍る
- 重症低血糖の発見遅れ:就寝中の家族も気づきにくい
- 睡眠の質低下:アルコールは中途覚醒を増やし、熟睡感を損なう
- 起床時高血糖(ソモジー効果):夜間低血糖の反跳で朝高血糖になるケースもある
寝酒を習慣にしている方は、安全な睡眠導入方法(睡眠衛生指導、リラクゼーション法など)について医師に相談してください。
糖尿病の人がビールを飲むとどうなる?
ビール中瓶1本(500ml)には約15gの糖質が含まれており、これは角砂糖約4個分に相当します。飲酒後30分~1時間で血糖値が急上昇し、その後アルコールの作用で肝臓の糖新生が抑えられるため、数時間後に血糖値が急降下するという二相性の変化が起きます。
ビールを飲む場合は、以下の工夫をしましょう。
- 糖質ゼロ・糖質オフのビールテイスト飲料を選ぶ(通常のビールより糖質が大幅に少ない)
- 食事と一緒に飲み、単独で飲まない
- 飲んだ分の糖質を食事の炭水化物から差し引く(カーボカウントの考え方を応用)
- 缶に表示されている糖質量を必ず確認する
糖尿病の人が飲酒前にすべきこと——チェックリスト
✅ 飲酒前チェックリスト
- □ 今日の血糖値を測定した(食前・食後両方)
- □ 血糖値がコントロール範囲内(70~200mg/dL)であることを確認した
- □ 低血糖に備えてブドウ糖や飴を持っている
- □ 食事と一緒に飲む準備がある(空腹時ではない)
- □ 普段より多めに血糖測定するつもりでいる
- □ 家族や同居者に「もし意識がおかしかったら低血糖かも」と伝えている
- □ インスリンやSU薬を使用している場合、飲酒に合わせた用量調整について医師と相談済み
- □ 体調が良いことを確認した(シックデイではない)
- □ 運転しない(飲酒後の運転は絶対NG)
支援リソース——一人で悩まないで
「お酒の量が自分でコントロールできない」「糖尿病とわかっていても飲酒をやめられない」——そんな悩みを抱えていませんか?
以下の支援リソースを活用してください。
- しもやま内科(船橋市):断酒支援と糖尿病治療を同時に行っています。お気軽にご相談ください。☎ 047-467-5500
- 全国アルコール関連問題相談センター:https://www.ark-noken.jp/ 各都道府県の相談窓口を案内
- アルコール匿名協会(AA):https://www.aa-japan.com/ 全国でミーティングを開催
- 地域の保健所・精神保健福祉センター:無料相談が可能な地域もあります
この記事の執筆・監修
監修:下山立志(しもやま内科 院長)
日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医/日本循環器学会 循環器専門医
糖尿病患者さんのQOLを損なわない治療をモットーに、アルコールと上手に付き合いながら血糖コントロールを目指す患者さんを数多く診療しています。医学的根拠に基づいた情報を、わかりやすくお伝えします。
最終更新日:2026年8月23日
「糖尿病でもお酒は飲めますか?」——飲めます。でもルールを守ってくださいね。
わからないことや不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。
月・火・木・金 9:00〜12:00 / 14:45〜17:30 土 9:00〜12:00
最終更新日:2026-08-23
👨⚕️ この記事の監修医師
下山 立志(しもやま たつし)
しもやま内科 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本循環器学会 循環器専門医
日本老年医学会 老年科専門医・指導医
日本甲状腺学会 甲状腺専門医
糖尿病、甲状腺、副腎など内分泌疾患の診療に長年従事し、地域密着型の総合内科医として診療を行っています。