SU剤と心筋の虚血プレコンディショニング

01/07/2019

SU剤と虚血プレコンディショニング

心臓の筋肉(心筋)に血液を送る冠状動脈に血液が十分行かず、心筋が酸欠状態になることを心筋虚血と言います。病気でいえば、狭心症や心筋梗塞です。

虚血性心疾患

出典:www.ncvc.go.jp

心臓には自己防衛のための仕組みがあり、心臓が2度目の虚血を起こしたときに、心筋の収縮力を抑えて心筋虚血を小規模に留めようとします。こうして心筋が広範囲に壊死するのを防ぎます。これを虚血プレコンディショニングと呼んでいます。
SU剤、特にグリベンクラミド(ダオニール/オイグルコン)はこれを抑制してしまうことが知られています。
心室の筋筋肉に存在する KATPチャネル(Kir6.2/SUR2A)は、通常はほとんど閉鎖されていますが心筋虚血時には心筋内 ATP濃度低下により開口し、虚血プレコンディショニングに関与し、心筋梗塞時の梗塞巣拡大を抑制する防御機構(虚血耐性)を担うと考えられています1)
ベンザミド構造を持つグリベンクラミドはSUR1 だけでなく心室筋KATPチャネルを構成する SUR2A にも親和性があり、チャネル活性を阻害するため、心筋 KATPチャネルを介した虚血プレコンディショニングを阻害する可能性が指摘されています。ヒトにおける冠動脈形成術時の冠動脈内バルーンカテーテルを用いた擬似心筋虚血状態での検討でも、グリベンクラミド内服により心筋虚血耐性が減弱することが報告されています2)
高齢者では,この心筋 KATPチャネル開口を介した虚血プレコンディショニングが顕著に減弱するとの報告もあります3)。また、SU 薬による心筋虚血時 KATPチャネル開口阻害は、本来の心筋エネルギー消費抑制を阻害し、心筋細胞死を促進する可能性も考察されています。

1)Seino S, Miki T:Physiological and pathophysiologicalroles of ATP-sensitive K+ channels.
Prog Biophys MolBiol 2003;81:133-176
2) Tomai F, Crea F, Gaspardone A, et al:Ischemic preconditioning during coronary angioplasty is prevented by glibenclamide, a selective ATP-sensitive K+channel blocker.
Circulation 1994;90:700-705
3) Lee TM, Su SF, Chou TF, et al:Loss of preconditioningby attenuated activation of myocardial ATP-sensitivepotassium channels in elderly patients undergoingcoronary angioplasty.
Circulation 2002;105:334-340