DPP-4阻害薬と水疱性類天疱瘡

10/04/2018

DPP-4阻害薬と水疱性類天疱瘡

DPP-4阻害薬を処方する場合には注意

水疱性類天疱瘡の発症誘因として、2型糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬が注目されている。

高齢者に好発する(Bullous pemphigoid: BP)は、表皮基底膜部抗体の出現により表皮下水疱を生じる自己免疫疾患である1)2)。本邦では自己免疫性水疱症のなかで最も頻度の高い疾患で、近年の高齢化社会を背景に患者数は年々増加傾向にある。欧州での患者の平均発症年齢は77-83歳と報告されている3)4)。1年間の発症率は10万人あたり0.2-3人とされ、高齢女性に多い傾向がある5)6)。治療に難渋し死に至る症例も稀でない。国によって異なるが、死亡率は6-41%とも言われている7)8)。その発症要因については明らかにされていないが、糖尿病や神経・脊髄疾患との関連も指摘されており、糖尿病の存在下でBPの発症リスクが増加したと報告されている9)。また、認知機能障害やベッド上レベルのADL低下状態、パーキンソン病の存在がBP発症の独立した危険因子であるとの報告もある10)。さらに近年では糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡が増えている。糖尿病内科において目にする機会は決して稀ではないと思われる。忙しい日常診療のなかで、皮膚掻痒について問診することは大変だが、重要なことである。

類天疱瘡とDPP-4阻害薬の警告は既にある

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2016年11月22日、一部のDPP-4阻害薬について、使用上の注意の改訂指示を出した。アログリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチンについては「重大な副作用」の項に「類天疱瘡」の追記を求めていた。

DPP-4阻害薬による非炎症型「水疱性類天疱瘡」の86%が特定のHLA遺伝子を保有 糖尿病治療薬によるリスク因子を調査

つづいて2017年12月にはDPP-4阻害薬の服用によって生じた「非炎症型水疱性類天疱瘡」患者の86%が、特定の白血球型「HLA-DQB1*03:01」をもつことが、北海道大学や理化学研究所統合生命医科学研究センターの研究で明らかになった。この遺伝子を、DPP-4阻害薬服用中の水疱性類天疱瘡の発症リスクを予測する疾患バイオマーカーとして期待される。長期的には発症予防法の確立へ活用されることが期待されている。

DPP-4阻害薬を服用中の患者の水疱性類天疱瘡を調査したもの

DPP-4阻害薬は2型糖尿病の治療薬として広く用いられているが、服用した患者の一部に「水疱性類天疱瘡」が生じている。水疱性類天疱瘡は、全身の皮膚や粘膜に水疱やびらん、紅斑(赤い発疹)が生じる自己免疫疾患。難治性のことが多く、中等症以上は厚生労働省の指定難病となっている。水疱性類天疱瘡は、皮膚にある「17型コラーゲン(BP180タンパク)」や「BP230タンパク」に対する自己抗体によって生じる。高齢者に生じることが多く、重症となることもあるので、発症予防が望まれるが、これまでDPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡が生じるリスク因子は解明されていなかった。水疱性類天疱瘡は、症状によって「非炎症型」と「炎症型」の2種類に分類される。これまでの研究でDPP-4阻害薬の服用による水疱性類天疱瘡は「非炎症型」が多いことが分かっている。今回の研究では、DPP-4阻害薬の服用者に生じた水疱性類天疱瘡30例の皮膚症状や自己抗体を調べ、それらを「非炎症型」と「炎症型」に分類し、「HLA」(ヒト白血球型抗原:Human Leukocyte Antigen)遺伝子を解析した。また、DPP-4阻害薬の服用とは関係のない通常の水疱性類天疱瘡72例と、DPP-4阻害薬服用中の糖尿病患者61例のHLAも解析し、一般的な日本人873例のHLAデータと比較した。その結果、DPP-4阻害薬の服用による水疱性類天疱瘡30例では、紅斑が少ない「非炎症型」が21例(70%)と大半を占めていることが判明した。「非炎症型」水疱性類天疱瘡の発症時に服用していたDPP-4阻害薬の内訳は、ビルダグリプチン7件、アログリプチン4件、テネリグリプチン4件、リナグリプチン4件、アナグリプチン1件、シタグリプチン1件だった。HLAを解析した結果、「非炎症型」のDPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡の患者の86%がHLA遺伝子「HLA-DQB1*03:01」を保有しており、一般的な日本人の保有率18%やDPP-4阻害薬を服用している2型糖尿病患者の保有率31%と比較して、統計的に高頻度であることが明らかになった(オッズ比はそれぞれ27.6、13.3)。一方、通常の水疱性類天疱瘡では、同じHLAの保有率は26%で、一般的な日本人と比較して統計的には差がなかった。今回の研究により、HLA-DQB1*03:01は通常の水疱性類天疱瘡や2型糖尿病とは関連せず、DPP-4阻害薬服用者の水疱性類天疱瘡の発症に密接に関連することが明らかになった。研究グループは、HLA-DQB1*03:01を保有する人がDPP-4阻害薬の服用中に水疱性類天疱瘡を発症する確率は明らかとなっていないため、今後多数例での研究が必要である。

French Pharmacovigilance Databeseの調査ではビルダグリプチンによる水疱性類天疱瘡が多いと報告されている。ビルダグリプチンが水疱性類天疱瘡を誘発する可能性が示唆されるが、その機序はいまだ明らかではない。ビルダグリプチンは現在使用されているDPP-4阻害薬のなかでDPP-4選択性が最も劣り、DPP-4のアイソザイムであるDPP-8,DPP-9の阻害作用が他のDPP-4阻害薬と比較して強いとされている。DPP-8,DPP-9の阻害と水疱性類天疱瘡の関係は明らかでないが、発症に関与している可能性もある。

海外報告ではDPP-4阻害薬とメトホルミンの併用によるBPの報告が多いが、大半はビルダグリプチンの使用によるものであることも注目に値する。ビルダグリプチンがBPを誘導する能力がより高いか、または合剤などの形で他剤よりもビルダグリプチンとメトホルミンの組み合わせがより頻繁に処方されている可能性がある。

メトホルミンにも細胞性免疫を増強させる作用がある。メトホルミンによるBP発症の報告もみられる。
我々の検討でもメトホルミン併用例が1例(7.7%)存在した。同薬剤による影響は明らかではない。ただし、今回の検討は対象が高齢者であり、腎障害を有する症例が多かったことから、メトホルミン併用例は少数にとどまっていた。そのため、メトホルミン併用、非併用群との差異は明らかにならなかった。DPP-4阻害薬とメトホルミン併用による水疱性類天疱瘡発症リスクについては、今後さらに検討する必要がある。

診断

水疱性類天疱瘡の診断は、皮膚科医がEuropean Dermatology Forumによるガイドラインに沿って行い、臨床症状として、全身の皮膚に掻痒を伴う浮腫性紅斑・緊満性水疱・びらんの出現を認めること、皮膚生検組織の病理組織学的検索で表皮下水疱、水疱内および真皮に好酸球を主体とした多数の炎症細胞浸潤を認めること、皮膚生検組織を用いた蛍光抗体直接法による病変部の表皮組織基底膜部へのIgG自己抗体および補体の沈着を認めること、または患者血中に蛍光抗体間接法により抗表皮基底膜部自己抗体を検出できることの全てを満たすものを水疱性類天疱瘡とした。ただし、皮膚生検実施が困難であった一部症例(認知症合併例等)では、臨床像と末梢血好酸球数により類推して評価した。

文献

1) Bernard P, Vaillant L, Labeille B, Bedane C, Arbeille B, Denoeux JP, Lorette G, Bonnetblanc JM, Prost C.
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2) Zillikens D, Wever S, Roth A, Weidenthaler-Barth B, Hashimoto T, Bröcker EB.
Incidence of autoimmune subepidermal blistering dermatoses in a region of central Germany.
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3) Joly P, Roujeau JC, Benichou J, Delaporte E, D'Incan M, Dreno B, Bedane C, Sparsa A, Gorin I, Picard C, Tancrede-Bohin E, Sassolas B, Lok C, Guillaume JC, Doutre MS, Richard MA, Caux F, Prost C, Plantin P, Chosidow O, Pauwels C, Maillard H, Saiag P, Descamps V, ChevranA comparison of two regimens of topical corticosteroids in the treatment of patients with bullous pemphigoid: a multicenter randomized study.t-Breton J, Dereure O, Hellot MF, Esteve E, Bernard P.
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